Thursday, December 27, 2012

「ファーギー・タイム」は実在するのか?

マンチェスター・ユナイテッドの劇的な展開に一役買っているとも言われるのは、「ファーギー・タイム」と呼ばれるロスタイム。ユナイテッドに有利になるように、アレックス・ファーガソンがレフェリーたちに圧力をかける結果、時間が変化するとまで揶揄される時間帯なのだが、それを統計的に分析したのが今回のBBCの記事。BBCの「フットボール」のコーナーでなく、一般のコーナーで取り上げられてる、ってのも興味深い(実際は「BBCマガジン」という雑誌の記事)。



++(以下、要約)++

フットボール・ファンであれば、「ファーギー・タイム」 -サー・アレックス・ファーガソンのチーム、マンチェスター・ユナイテッドがリードされている時に追加されるロスタイム- なるアイディアがあることはご存じだろう。
しかし、それは実在するのだろうか?

フットボールの試合の終盤というのは、非常に緊迫するものだ。試合が同点であれば、両チームとも勝利を求めて必死だし、一方が1点リードされているなら、何とか引き分けに持ち込もうとしているだろう。とにかく必死になる時間なのだ。

中には(大半がマン・ユナイテッドのファンではないと考えるのがフェアだろう)、サー・アレックスファーガソンのチーム他よりも長いロスタイムを得ていて、それが重要な終盤のゴールにつながっていると責める者もいて、それがいつしか「ファーギー・タイム」と呼ばれるようになった。

仮にそれが存在するなら、それはレフェリーが自分の仕事を適切にしていない、ということになる。標準の90分が終わった後にどれだけの時間を追加すべきかの判断は、彼らの責任だからだ。

一般的には、レフェリーたちはゴールと選手交代ごとに30秒、そして選手の負傷時に一定時間を足していくと言われている。


(左がリード時、右がビハインド時の試合時間)

しかし実際は、世界のフットボールを管轄するFIFAでも時間をどのように足していくべきかについて明確に規定してはいない。レフェリーたちが自分自身で解決することになっているのだ。

かつてプレミアリーグでレフェリーを務めていたグラハム・ポール氏は、実際に試合を裁いている時は、ファーギー・タイムのことなど考えないという。

「そんなものは、マンチェスター・ユナイテッドの成功を羨ましく考えるチームたちの迷信だとしか思わない」

しかし、一歩引いて考えてみると、そこに何かがあるかもしれないと思う、とも彼は言う。

「くだらない話と一蹴してしまうのは簡単だ。しかし、心理的にどんなことが起こり得るかを考えてみれば、オールド・トラフォードやエミレーツ、スタンフォード・ブリッジに自分がいれば、無意識のうちであれ、かかってくる重圧が何らかの形で影響するはずだ」

ファーギー・タイムのコンセプトの始まりは、プレミアリーグ初年度の1992-93シーズンにさかのぼる、とオプタ(Opta)・スポーツでデータ収集を行うダンカン・アレクサンダー氏は言う。

それはマン・ユナイテッドとシェフィールド・ウェンズデイの試合で、90分を過ぎてスコアは依然1-1だった。7分のロスタイムが与えられ、スティーブ・ブルースが得点、26年ぶりのリーグタイトルへと突き進んでいくこととなった。

「その時以来、ユナイテッドの試合で少々長いロスタイムが与えられると人々の頭には 『またユナイテッドにファーギー・タイムだ』という考えが浮かぶようになっていった」

何らかの因果があるかを検証するために、彼は毎試合の後半のロスタイムの平均値(勝っている時と負けている時のロスタイムの差)を計測してみることにした。結局のところ、問題にされるのは後半のロスタイムだからだ。

「今シーズンで言えば、ユナイテッドが一番長いね」彼は言う。

したがって。ファーギー・タイムは実在するのだ。しかし、それは今季に限ったことだ。昨季はマン・ユナイテッドは後半のロスタイムが最も短かった。

「プレミアリーグ20年の歴史で見てみれば、そこに一貫性は無い。ユナイテッドが毎シーズン一番長い、というわけではないんだ」


(全ゴール数に占めるロスタイムのゴールの比率)

しかし、最も重要な数値は、マン・ユナイテッドが同点、もしくはリードされている時にどれだけのロスタイムをもらっているかということだ。Optaが過去3シーズンのデータを参照し、他の上位5チーム(マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、トッテナム・ホットスパー、リバプール)との比較を行った。

マン・ユナイテッドがリードを許している時には、彼らは平均して4分37秒のロスタイムを得ており、これがリードしている展開だと3分18秒になる、とアレクサンダー氏は語る。

「したがって、リードされているとより長いロスタイムをもらっている言えるね。ただ、他のチームについても、チェルシーを除くといわゆる上位クラブは皆リードされている時には、平均してより長いロスタイムをもらっている。守っている側のチームが上位相手の大きな勝利のために時間の浪費をしているのであれ、レフェリーがマン・ユナイテッドが負けているという事実に影響されているのであれ、その理由はデータからは分からないがね」

もうひとつのデータ分析企業であるディシジョン・テクノロジーのガブリエラ・レブレヒト氏は、過去3シーズンについて、ロスタイムが加算された理由についてより深い分析を行った。

選手交代やイエローカード、レッドカードの提示、ゴール等によってロスタイムが加算された後にも、「レフェリーのよって影響された時間」がいくらかまだある、と彼女は言う。

彼女の計算によると、ホームのチームが勝っているとその時間は46秒。そして、「より強いチームがホームでリードされていると、そのチームがアウェーでリードされている時よりも多くの時間を得る」と言うのだ。

レブレヒト氏は、チームが「強い」かどうかをチームの攻撃および守備のパフォーマンスから算出している。今シーズンで言えば、マン・シティが最も強く、僅差でマン・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー、そしてエヴァートンが追っている。

つまりファーギー・タイムは、特にこうした「強い」チームのひとつがホームでプレーしている時には確かに存在する、ということになり、これはチェルシーにも当てはまる。

「そうしたチームもアウェーでプレーしている時にはあまりそうした傾向はみられない。フットボール統計学の世界では、これをホームアドバンテージという考えがある。誰もその原因がどこにあるのかは理解してはいない。我々は統計上それが重要だとは認識しているが、理由については明確ではないのだ。ホームアドバンテージの要素のひとつかもしれない、ということだ」

一点彼女が言及したのは、選手交代がロスタイム中に行われると、通常の時間内に比べて多くのロスタイムが加算されている、ということだ。「レフェリーたちは、十分な時間を加算しなければ、(ホームの)ファンの怒りを買うと感じるのだろう」と語る。

グラハム・ホールは、それは自分の経験からも裏付けできるという。

「プレッシャーを感じるときには、それが反撃しようとしているチームなのであれば明確に分かる。レフェリーとしてピッチに立っていればね。そこで試合を見ていて、『選手交代がいくつかあったな。ゴールも決まったし、時間つぶしもあった。ケガもあった・・・、3分か4分くらいかな』と考えて、『5分』と言っている自分に気が付くのさ」

「そのことには、こうしてじっくり分析してみた時に、『あれ、この余分な時間はどっから来たんだ?』と考えるわけだが、それこそさっき言った無意識が働いている場面だ。しっかりとしたレフェリーであればそれを実際に認識できて、自分でその罠に陥らないようにすることができる」

ファーギー・タイムがマン・ユナイテッドにだけ適用されている、とする統計的な裏付けは無い。しかし、同時に統計はよりビッグなクラブたちへのバイアスがあることも示している。

もしかすると、我々はこれを「マンチーニ・タイム」だとか「ヴェンゲル・タイム」呼ぶべきなのかもしれない。それとも「ベニテス・タイム」(もしくは、あなたがこれを読んでいる時のチェルシーの監督の名前)?

++++

・・・といういかにもイギリスらしい記事。もっと細かいデータが知りたい方は、こちらからどうぞ。このBBCの記事にはExcelシートまであったり。

この記事にある「ホームかどうか」の条件には当てはまらないけど、ユナイテッドがバイエルンに勝ったCL決勝は、ビハインドで突入したロスタイムに2点入れて(シェリンガムとソルシャール)逆転しちゃったよね。

Saturday, December 8, 2012

マンチェスター・ダービーの戦術プレビュー

共にいまひとつ不安定さの抜けない中で迎える、今季最初のマンチェスター・ダービー。日曜のこの頂上決戦を戦術的な切り口からプレビューしているのがマイケル・コックス氏。今回は「ガーディアン」紙への寄稿記事だけど、普段は「Zonal Marking("ゾーンマーク"の意味)」という戦術分析サイトをやっていて、数多くの試合を分析している。彼が今回指摘するキープレーヤーは、シティのヤヤ・トゥーレ。ユナイテッド側で彼を止めに行くのは誰なのか?


++(以下、要訳)++

2011年のFAカップ準決勝で彼がゴールを決めてからというもの、サー・アレックス・ファーガソンは、屈強なヤヤ・トゥーレに手を焼いてきている。

マンチェスター・シティはここのところのダービーでは素晴らしい結果を残してきている。昨季のオールド・トラフォードでの6-1での勝利には誰もが驚いたし、エティハドの1-0の勝利は、その後のシーズン残り2節を有利に進めさせることになった。それでも、2011年のFAカップ準決勝でのシティの勝利がロベルト・マンチーニにとってはサー・アレックス・ファーガソン相手の最初の重要な勝利だと言え、この試合こそが、後の成功のきっかけとなったのだ。

昔ながらの太陽の眩しい午後のウェンブリー、シティでカギを握っていた選手は中盤前目の位置からエネルギッシュに前に飛び出していたヤヤ・トゥーレだった。彼の決勝ゴールは、両チームの対照的なアプローチを浮き彫りにした。ヤヤ・トゥーレは、マイケル・キャリックからポール・スコールズへの横パスをインターセプトすると、一気にボールを持ち上がってユナイテッドの守備を破ってゴールを決めた。ユナイテッドは落ち着いた、我慢強い中盤の組み立てについては集中力を保っていたが、ヤヤ・トゥーレが見せたのは、ユナイテッドが抗するのに苦しむ、生々しいまでのフィジカルの強さだった。

昨季のヤヤ・トゥーレは中盤深目の位置でプレーしており、6-1の試合でも目立ってはいなかったが、それでもエティハドでの試合の時にはパク・チソンを中盤真ん中で3か月ぶりに先発させて彼を消しに行っていた。 パク・チソンは2010年のACミラン戦でアンドレア・ピルロを完璧に抑えてみせたが、ピルロは眩いばかりのクリエイティブさは持ちつつも、脆さもある選手だ。その点、ヤヤ・トゥーレには相手を圧倒するパワーがあり、実際パク・チソンは何度となく倒されていた。ヴァンサン・コンパニが決勝ゴールを決める頃には、ヤヤ・トゥーレはシティの他のどの選手よりもパスを成功させていた。これは、彼のコンスタントな影響力を示すものであるし、彼が前へ前へと出ていくことでパク・チソンは深く下がることを余儀なくされ、結果的にウェイン・ルーニーは前線で孤立していた。この試合がパク・チソンのマンチェスター・ユナイテッドでの最後の試合となった。

日曜のダービーでもヤヤ・トゥーレは深めの位置を取るだろう。他のギャレス・バリーにジャック・ロドウェル、ハヴィ・ガルシアというオプションが、まだそこまで確信を持てるものではないからだ。おそらくファーガソンもヤヤ・トゥーレを止めに来るだろうし、その役割はルーニーしかいない。ここのところ中盤での役割を担うことが多いし、積極的なタックルも模範となる規律も持ち合わせている。

それでも、ルーニーは過去に大舞台で守備的な役割を求められた時には、頼りない側面も見せてきている。2011年のチャンピオンズリーグ決勝のバルセロナ戦を例に挙げると、彼は素晴らしい同点弾を決めはしたが、長い時間続いた「チキ・タカ」の中で、セルヒオ・ブスケツを抑えることはできなかった。今年の夏のユーロ2012準々決勝でも、イングランド陣内に効果的なボールを送り続けるピルロを全く止めに行けず、ロイ・ホジソンやチームメイトが「もっとキツく寄せろ」と絶叫していた。

これらのシーンは、守備の仕事を完璧にこなした先週のレディング戦の彼のプレーと比べると驚きですらある。 大舞台になると、2年前のダービーでの輝かしいオーバーヘッドのように攻撃面で試合にインパクトを与えようという気持ちが強くなるのだろう。しかし、この日曜日、ファーガソンはルーニーに確固たる規律を求めるはずだ。

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ちなみに、その2011年4月のFAカップ準決勝の時の戦術レポートに興味のある方はこちらからどうぞ。毎週末2、3試合分をこのボリュームで出してるんだから大したもの。

Saturday, December 1, 2012

ヨルとの再会でクレイヴン・コテージで輝くベルバトフ

フィオレンティーナやユヴェントスの名前も挙がりながら、最後の土壇場で急転フラムに移籍が決まったディミタール・ベルバトフ。家族の生活環境のこともあったというが、フラム選択の背景にはスパーズ時代に師事したマルティン・ヨルの存在も影響したと思われる。この写真からも伝わってくる、そんな師弟関係の温かさも感じる、「テレグラフ」紙のジェイソン・バート記者による記事。


++(以下、要約)++

金曜の朝のフラムの練習場、モッツパー・パークではディミタール・ベルバトフが、監督のマルティン・ヨルにその前の週、3-3のドローに終わったアーセナル戦でのPKを再現して見せていた。またペナルティ・スポットに駆け出すと、ちょっとした躊躇いを挟んで、ボールはゴールネットに吸い込まれて行った。

ヨルは「アイツは俺にあのPKがまぐれじゃなかったことを見せたかったんだ。俺は、『頼むよ。次はキーパーが動くのを待ってないで普通に蹴ってくれ』って言ったよ」と説明してくれた。

「でもアイツがあれをやったのは、俺が『イングランドにはキーパーが飛ぶまで待って蹴れる奴はいねーな』って言ったからなんだ。で、それをやったんだよ。でも、アイツはそれを6万人の前でやったんだからな。全然違うレベルの話だし、アイツは本当に『違う』んだよ」

そうしてエミレーツ・スタジアムで平然とゴールを決めると、ベルバトフはフラムのベンチへと駆けて行った。


「タッチラインの俺の所までわざわざ来たのは、俺に『できただろ』っていうためだったんだ。エンターテイナーになるのが好きなタイプじゃないと思うが、アイツらしいスタイルでそうしてくれたし、ああいう一面は是非残しておいて欲しいんだよな」

ベルバトフは31歳になっても神秘的な存在で、彼への意見も分かれがちだ。マンチェスター・ユナイテッドへは、現在でもクラブ記録の3,075万ポンドで2008年にトッテナム・ホットスパーから加入した。もちろん、トッテナムで彼を獲得したのはヨルだ。 ベルバトフはユナイテッドでも無頓着な雰囲気と一匹狼的な本能、一心不乱で偏向した考え方から、一部には"Berbagod"(神)であり、他には"Berbaflop"(ハズレ) だった。

しかし、この点でヨルは明確だった。「ピッチでのアイツが不機嫌で100%を発揮していないと言う輩もいるが、気持ちの中ではすべてをチームに捧げていて、それを周りも受け入れるべきなんだ。俺はそうしてるし、アイツは素晴らしいフットボーラーだ」

8月31日の移籍市場締切日に僅か500万ポンドでベルバトフがユナイテッドからやってきたことは、ヨルにクラブの歴史の中でも最も重大と讃えられ、「俺がいたからこそクレイヴン・コテージにやってきたんだ」というヨルの話のネタにもなっている。

ヨルはまた、彼が昨年の12月以来どれだけ熱心にベルバトフを口説き、どのようにしてユヴェントスやフィオレンティーナとの競争に勝ったのかを語った。

「最初は無理だろうと思ってたんだが、話してみてからは『イケるかも』って思ったよ。アイツが空港にいる時に代理人(エミル・ダンチェフ)が電話してきてね。『彼に電話をしてくれ。イタリアに行く飛行機を待ってるところだから』って。それで電話してみたら、すぐに気持ちを変えて戻ってきたんだよ」

一体何が彼を説得したのか?

「多くを語る必要はなかったが、『まぁ、俺もいるしな』って言ったのは覚えてるよ。俺はフラムにいて、『ディアラ、シュウォーツァー、ペトリッチ、ダフ・・・、良い選手も揃ってる。俺もいるしな』って言って、『オマエもここに来りゃいいじゃねぇか』って続けたよ」

ベルバトフ口説き落としの過程は、フラムがオールド・トラフォードを訪れ、ベンチから登場したベルバトフがユナイテッドの5点目を決めた、昨年の12月に始まっていた。

「5-0になった試合にはガッカリしただろうし、もし俺がアイツの立場でもそれは同じだ。ウチが大したチームじゃないのは見ただろうし、『今は来ないだろうな』って思ったよ。で、数か月後、8月にまたウチはマン・ユナイテッドと試合をしたんだが、その時は3-2でウチも違うチームに見えたし、それで気持ちを変えたんだろう。唯一の問題は、同じ日にデンベレの移籍が決まっていたことだった」

ヨルによるフラムの印象的な再建と新たなモデルの導入は、過小評価されている。最もクリエイティブな選手だったデンベレとデンプシーを失いながら、ブライアン・ルイスとベルバトフを軸に、更にクリエイティブなチームを築き上げているのだ。

ヨルはこう語る。「いかに良いフットボーラーか、って話さ。ベルバトフやルイスみたいな選手を見れば、必ずしも最高の組み合わせじゃないと考えるかもしれないが、それが見た通りなことなんてまず無いんだよ」

それはおそらくベルバトフのことも的確に言い当てている描写だ。見た通りのままであることは、まずない。最初の6試合で5ゴールを決めてみせ、それらの試合ではフラムは無敗、ベルバトフは移籍市場での激変でヨルも懸念していたフラムのシーズンを見事に変えている。

「本当にマズいなと思ってたが、移籍市場の残り数日でウチは非常に上手くやった。アイツが来てくれて、みんな『素晴らしい補強だ』って言ってたし、俺も『そうだな。そりゃ本当だ』って思ったもんだよ。アイツもまずは自分の力を証明する必要があったけど、それはやってのけたし、今はウチもおそらく今まででも一番良いプレーをしている」

「アイツもハッピーで、笑ってるよ。奥さんも妊娠してて、もう子供も生まれるしね。また戻ってきたら、まだまだプレーも良くなるだろうしな」

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ベルバトフは大好きな選手で、ユナイテッド時代の末期にも記事をピックアップしていた(「品格と共にオールド・トラフォードを去るディミタール・ベルバトフ」)。

12月1日は、クレイヴン・コテージでスパーズ戦。スパーズ・ファンなもので、個人的にはこの対戦は楽しみ。ユナイテッドで不遇な頃も、ベルバトフには良いチームを見つけてまだまだ試合に出てほしいと思ってから嬉しいもんだし、それがヨルの下でなら尚更。

Thursday, November 29, 2012

AFCウィンブルドン・ファンには受け入れ難きMKドンズ戦

今から10年ほど前、ウィンブルドンFCがミルトン・キーンズへの移転によってMKドンズとなる際に騒動になっていたのは、ウェブを通じてではあるが、リアルタイムで知っていた。サポートしてしていたクラブが財政難から他のオーナーの手に渡り、名前を変えて他の街へ移転してしまう、という状況の当事者であったら、その喪失感というか、当て場のない怒りや悲しみは計り知れないだろう、とも思った。(日本にも、クラブ自体がなくなったフリューゲルスのような事例もあるけど)

そんな命運を分けた2クラブの対戦が、日曜のFAカップで「実現してしまう」ことになった。1つは、ウィンブルドンFCがミルトン・キーンズに移転してできたMKドンズ。もう一方はその移転に反発したサポーターたちが創設したAFCウィンブルドンだ。

この巡り合わせを当事者たちの 言葉とともに、「ガーディアン」紙のデイビッド・コン記者がエッセイにしている。


++(以下、要約)++

南ロンドンには、今でもミルトン・キーンへのクラブの移転に対する怒りは残っており、多くのファンは彼らが「フランチャイズFC」と呼び捨てるチームとの対戦のために駆け付けたいとは考えていない。

そして、遂に、運命的に、自分たちのクラブの移転に拒絶したサポーターたちが2002年に設立したAFCウィンブルドンが、かつてのウィンブルドンが論争とともに姿を変えた、リーグワンのミルトン・キーンズ・ドンズと対戦することとなった。

12月最初の週末の、ミルトン・キーンズでのこのFAカップの2回戦を指して、人々は「怨念の試合」、だとか単に「ドンズ・ダービー」呼ぶ人々は、早々にAFCウィンブルドンのファンに考えを正されていた。多くはすでにこの「フランチャイズ」と呼ぶクラブとの試合には行かないことを明言していて、もちろん中にはチームをサポートしに行く面々もいるが、彼らもこの試合が実現してほしくはなかった。

AFCウィンブルドンのCEOであるエリック・サミュエルソンは、こう語る。「我々の多くがこれを楽しめないことは分かっているが、やらねばならないことでもあるし、プロフェッショナルに我々の評判を傷つけないようにやるまでだ」

南ロンドンでは、フットボールの歴史の中でも並外れて苦々しいエピソードは人々の傷跡として今でも残っており、それはFAカップのドローが決まった時には生々しくかきむしられた。AFCウィンブルドンのサポーターたちには、今でも自分たちのクラブが奪われたことに対する激しい抗議の念が生きている。そして、現在はフットボール・リーグに所属する彼らのクラブが、ゼロからスタートして10年でここまで到達しているというプライドもある。

彼らが言うには、「怨念の試合」というのは短絡的過ぎて、AFCウィンブルドンの感情の深さを誤解している。これはライバル関係や共有できる歴史を持つ同等レベルのクラブ同士のダービーとは異なるのだ。かつてのウィンブルドンは、破綻してホームレスとなり、FAが開催した3人の評議員からなる独立委員会によってミルトン・キーンズへの移転を認められた。しかしAFCウィンブルドンのファンは、今でも自分たちのクラブは盗まれた、と話している。

サポーターたちは、その独立委員会で2-1で決まった決定を今でも覚えている。期待がかなわず、ピーター・ウィンケルマンのミルトン・キーンズ・プロジェクトにウィンブルドンとフットボール・リーグの地位が与えられるのであれば、ファンがそこから離れて、自分たちのクラブを作るまでだった。

賛成に票を投じた2人の評議員は、FAの商業弁護士を務めていたラジ・パーカーと当時アストン・ヴィラでオペレーションを仕切っていたスティーブ・ストライドだった。2人は当時の動きについて、「クラブを墓場から再生するのは、クラブが113年前に設立された場所に戻したいと考えるそのクラブのサポーターの問題で、広くフットボールの利益のためではない」と語っていた。

これに反発したAFCウィンブルドンのファンは、やがて決意と楽しみを以って新たなファンの手によるクラブでフットボールのピラミッドの最下層のコンバインド・カウンティ・リーグから参入する頃には、「広くフットボールの利益のためでなく」とのフレーズが入ったTシャツを着用するようになった。

このFAカップでの対戦は「怨念の試合」というより、むしろ、モダン・フットボールの2つの相反する化身の衝突と考えた方が分かりやすいだろうミルトン・キーンズの疲れを知らないセールスマンでもあるウィンケルマンは、ノンリーグのチームであったミルトン・キーンズ・シティを買収してフットボールリーグまで我慢強く上げていくことはできないと主張していた。フットボールリーグやFAは移転に反対であったが、ひとたび委員会が移転を認めると、スーパーマーケットのアスダ(ASDA)が店舗とともにスタジアムの建設をすることになった。当初クラブはウィンブルドンとしてミルトン・キーンズでプレーしたが、2004年に「ドンズ」というウィンブルドンの愛称だけを残して名前を改めた。この点については、サミュエルソンやAFCウィンブルドンのファンは、今でもその名前を正式に返して欲しいと願っている。

2006年の降格でMKドンズがフットボールリーグのチームとなり、2年後に再度リーグ・ワンに復帰している間に、AFCウィンブルドンのファンは、クラブを新たな形にし、ファンが民主的に運営し、依然中立の基金によって維持されるようになった。彼らは自分達を1889年に設立され、1988年には「クレイジー・ギャング」と呼ばれたチームでFAカップを制した古きウィンブルドンと定義し、新たなチームはノンリーグの階段を昇格を重ねて一気に駆け上がっていった。その中には、独立委員会で移転に反対したメンバーだったアラン・タービーがトップを務めるライマンリーグも含まれていた。

昨年、ルートン・タウンとのカンファレンスでのプレーオフを制してフットボールリーグの地位を勝ち取ったが、これはファン所有のもたらす価値を追求するサポーター基金と当時の会長であるデイブ・ボイルにとって、自分達の忠実さ、屈強な決意と大勝利を正当に証明するものだった。

この歴史こそ、多くのAFCウィンブルドンのファンにとって何故MKドンズとの対戦が実現してほしくなかったのか、そして何故多くのファンがそれを観に行きたいとは思わないのかを説明するだろう。

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フリューゲルス解散とフリエ設立の流れも裏事情を完全に理解してるわけじゃなかったけど、「F」が残るのとかは微妙だったもんな。アメリカのプロスポーツだとよくあるけど、イギリスはこんなの初めてだったらしく、大きな論争になって、今回の対戦も「実現してしまった」っていうニュアンスになっているわけだね。そりゃ、自分達のクラブを「盗んで」フットボールリーグへと近道したクラブと、一番下から上がって正当性を示す自分達との対戦なら、もうただのフットボールじゃないよね。

Monday, November 26, 2012

アブラモビッチへの批判を肩代わりするベニテス

ファンをも驚かせたロベルト・ディ・マテオの解任。それ以上に驚いたのが、ラファエル・ベニテスが後任の「暫定」監督だということ。お気づきの方も多いだろうが、ベニテスに集中している批判は、結果的にそれがオーナーのロマン・アブラモビッチに向くことをいくらかでも避けさせることにもなっている。そんな視点からBBCのフィル・マクナルティ主幹が描く、チェルシーとベニテスの現在。


 ++(以下、要訳)++

チェルシー・ファンがオーナーのロマン・アブラモビッチと交わした沈黙と従属の約束は、ラファエル・ベニテスを憎悪に包まれたスタンフォード・ブリッジへと直行させることとなった。

チャンピオンズリーグを制した6ヶ月後にロベルト・ディ・マテオを解任するというアブラモビッチの決断は、多くのチェルシー・ファンを傷つけた。しかし、それはその後任にベニテスを選ぶという判断に比べれば、ごく普通のことのように思えた。

ベニテスのリバプール時代は、チェルシーのファンにとっては嘲笑と憎しみの対象だった。それはジョゼ・モウリーニョとの辛辣なライバル関係の産物でもあり、ベニテスがチェルシー・ファンにとっての「スペシャル・ワン」を2005年、2007年のチャンピオンズリーグ準決勝、そして2006年のFAカップ準決勝で出し抜き続け、サポーターたちが忘れないベニテスの手厳しい言葉をよく覚えているからでもある。

これらの歴史は、暫定監督してのベニテスの就任と、日曜のマンチェスター・シティ戦のスタンフォード・ブリッジで彼がファンと初めて出会う場が、どれだけ場違いなものになることを意味していた。

いかにベニテスがその罵声には耳を傾けなかったと主張しようが、キックオフ前にトンネルを抜けてテクニカル・エリアに向かう彼を襲う大音量の怒りに対処する方法など無かったはずだ。チェルシーの面々にもう驚く力など残っていなかっただろうが、せいぜい冷たい歓迎だろうと予想していた彼らにも、これだけの敵意はショッキングだっただろう。

ベニテスはマンチェスター・シティの面々からはチェルシー・ファンからに比べれば温かい挨拶を受けたが、その一方でアブラモビッチに向けては何の声も上がってはいなかった。このロシア人富豪が歓迎されないという横断幕やチャントには遭遇しなかった。一切無かったのだ。

したがって、スコアレスドローに終わったマンチェスター・シティ戦を通じて、スタンフォード・ブリッジにはこれまでにない程の憎悪が充満しながら、アブラモビッチへの怒りは聞かれずじまいだった。全ての罵りは、痛々しいまでにベニテスにのしかかったのだ。

厳然たる事実は、多くのチェルシー・サポーターたちは、アブラモビッチの金がもたらすものを、チャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、FAカップを通じてエンジョイし過ぎてきており、単純に彼のアプローチが受け入れられてしまっているのだ。そして、多くの他クラブのサポーターたちがそこに非難と軽蔑をぶつけることも同様であることにあなたも気付いているだろう。

状況によってはベニテスも面の皮の厚い所を見せる。しかし、彼がテクニカルエリアで浴びせられていたものの内容は理解していなかったという、単純な反対から辛辣な嘲りに至る様々なチャントは、彼がこの先歩む、居心地の悪いことこの上ない仕事を体現しているものだろう。 これだけの個人攻撃を受けるとなると、石からでも生まれていない限り、何のインパクトも受けないというのは無理だ。

スタンフォード・ブリッジの雑音があまりに大き過ぎて、場内アナウンスが亡き元監督のデイブ・セクストンに1分間の拍手を捧げる案内を伝えるのにも一苦労していた。実際、セクストンに対する敬意は、場内の注意がひと時でもこの歓迎されない新監督から偉大な古きスタンフォード・ブリッジの奉仕者へと移ったことで、ベニテスを救いもした。

アブラモビッチは微動もせずにその様子を眺めていた。仮に彼が目撃した場面を気にしようが、彼の取り巻き以外は誰も気付きはしないし、いずれにしてもベニテスが彼の盾となっているのだ。

ベニテスは嬉々としてクリーンシートのポジティブさや王者相手の1ポイントなどを強調したが、今やマイナスになっている評判を挽回するために必要なことを説明したのは、相手のロベルト・マンチーニだった。「勝利、勝利、勝利、勝利、勝利・・・毎試合だ」

別にベニテスへの中傷を確かなものにするために多くの金を使う者などいないだろう。監督が就任当初から時間を与えられず、これだけの大音量と悪意に満ちた形で自分のチームのサポーターからの不支持を知らされれば、アブラモビッチに「暫定」の肩書を外すよう説得する前にファンの支持を得ようにもやれることが見当たらなくなってしまう。

シェッド・スタンドの横断幕には「ラファは出て行け - 動かぬ事実」と掲げられ、「俺たちが信じて愛したロベルト、決して信じないラファ。動かぬ事実」というポスター、他にも沢山の横断幕があった。

もうひとつの事実は、アブラモビッチがこの監督を選んだのであり、いかに反対の声が大きかろうが、そして好むと好まざると、この監督とやっていくしかないのだ。彼が他の決断をするまで。これがスタンフォード・ブリッジの掟なのだ。

若干マンチェスター・シティが優勢ではあったが、この凡戦の中で、ベニテスが施した戦術的な修正で組織的になったチームに喜びは見出せるのかもしれないが、他にこの楽しみに欠ける1日を救うものは見当たらなかった。

そして、ベニテスならかつてのリバプールの狙撃手であるフェルナンド・トーレスを即座に再生できると考えた者たちは失望することになるだろう。おそらく最初の疑問はこうだろう。「フェルナンド、どうしてそんなに悲しそうなんだ?」

トーレスは意気消沈して惨めな存在に映り、それは何故彼から活力も脅威も無くなってしまったのかを考えるまでもなく明らかだ。ベニテスのチェルシーでは、より長いボールでより素早くトーレスにボールを渡す、という指示が出ているのはすぐに分かる。しかし、それはこのストライカーよりもマンチェスター・シティのキャプテンであるヴァンサン・コンパニに喜ばれる策略となった。

ベニテスは最初のうちはチームの中での約束事の浸透に時間を費やすだろう。チームに信頼性と我慢強さを植え付けるためには、ディ・マテオ時代の艶やかさの一部は喜んで切り捨てるだろう。

そして、1月に1つか2つの修正を施した後は、マンチーニが主張する「勝利、勝利、勝利、勝利、勝利・・・毎試合だ」という言葉を追いかけていることだろう。

これがベニテスがアブラモビッチと交わした取引だ。そして、チェルシーのファンが成功のためにアブラモビッチと交わした取引なのだ。

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※シティ戦後の「スカイ」でのインタビュー。聞き手のジェフ・シュリーヴスも厳しい・・・。
「アンタは聞こえてなかっただろうけど、酷いブーイングでしたぜ。この先どうする?」


アブラモビッチの資金力に飼いならされるのも、チェルシーをアブラモビッチの乗り物、金満クラブと揶揄するのも同じこと、という一節にハッとさせられてしまった。その通りだよな。

それでも、このコラムを書いたマクナルティ氏も思う所があるんだろうな。興奮してたんだろうか、似たことを何度も繰り返してる感もあったけど、ひとまずそのまま訳出。昨日、一昨日あたりはこんな記事ばっか。ホント、メディアもアブラモビッチを必要としているね。

Sunday, November 25, 2012

スターリングに続く若き才能たち

ここでは初めて取り上げるが、「Life's a Pitch」は、今季からプレミアの放映権を得ている通信企業であるBTが運営するポータルサイトで、よくメディア各紙の記者を集めた座談会を収録して公開したりしている。その司会者を務めるマイク・カルヴィン氏は、業界ではベテランの部類に入るが、このポータルのコラムニストのひとりでもあり、今回取り上げるのは彼が選んだ、ラヒム・スターリング(リバプール)に続くプレミアの新星たちに関する記事。



++(以下、要訳)++

ラヒム・スターリングは夢の世界を生きている。彼はリバプールの未来の象徴で、若手のポテンシャルに賭けるクラブの信念を体現している。彼の年齢の多くの少年たちが最低限のサラリーの奴隷か半ば休暇のような状態でアイドリングをする中、彼はプレミアのフットボールの世界でレギュラーを張っている。今日はアンフィールド、明日には世界だ。

最初にスターリングを見た時は公園で冷やかし半分だった。しかし、それは予期もせず忘れられぬ、 発見の瞬間だった。しかし、彼だけが最高レベルで輝く準備ができている才能なわけではなく、我々が選ぶ「フェイマス・ファイブ」 -最高のキャリアのスタート地点にいる若き選手たち- の1人もリバプールにいる。

ジェローム・シンクレア(リバプール)

リバプールのアカデミーから出てくる次世代のスターについて訊ねられれば、 2人の名前が出てくるだろう。MKドンズからやってきた15歳のミッドフィルダー、セイ・オジョと、ウェストブロムから引き抜かれたスピード豊かでテクニックにも長けたジェローム・シンクレア(写真)だろう。

シンクレアは既に大きな飛躍を遂げている。彼は16歳の誕生日から6日後の9月26日にホーソンズでのリーグカップに交代出場し、リバプール史上最も若い選手となった。彼は常時トップチームでトレーニングを重ねており、同年代レベルでは抜きん出た存在であり続けている。

ジェームス・ワード=プロウス(サウサンプトン)

君は17歳。君は新たなプレミア王者であるマンチェスター・シティとのアウェーの試合でデビューの機会を得た。何のプレッシャーもない。君が成功に彩られたサウサンプトンのアカデミーの最新作であるジェームス・ワード=プロウスだろうが、何の問題もない。彼はトップチームに最低5人は地元出身の選手を含めるというクラブの戦略的な決意を体現する存在なのだ。

ポール・スコールズとの比較は大げさだろうが、理解できるものだし、つい比較してしまうだろう。彼のパスのレンジや動きの賢さ、スペースの嗅覚は不気味なほど似ているのだ。彼をよく見てみるといい。彼の頭が止まっていることはない。彼は常に2つ先のプレーを考えているのだ。

ニック・パウエル(マンチェスター・ユナイテッド)

素晴らしい点があることは、クルー・アレクサンドラのアカデミーでは当然のことだ。しかし、スターダムの駆け上がり方を理解する組織にあっても、ニック・パウエルは特別な存在だと認められていた。彼をオールド・トラフォードに連れてくるために要した400万ポンドは、ユナイテッドに最高のバーゲンのひとつに数えられることになるだろう。

パウエルのボール捌きの軽やかさ、プレッシャーのある場面でのプレー、そしてシュートの正確さは、クルーの育成コーチたちが重ねてきた素晴らしい習慣を物語るものだろう。しかし、彼らに規律を教え込むことはできない。今の彼は自分が世界で最もビッグなクラブに属していることを理解している。我々にもやがて分かるだろう。


ロス・バークリー(エヴァートン)

デイビッド・モイーズは、監督して滅多にはクオリティを持ち、その我慢強さは特筆ものだ。そのパワーと早熟さですぐに認知されたウェイン・ルーニーという例外を除いて、彼は若手に息継ぎをする時間を与え、この世界の雰囲気を学ばせている。

ロス・バークリーは彼の足で考える。 彼の視点の鋭さとフィジカル面での強さは、彼をモダンな中盤の選手のあるべき姿にしている。モイーズは彼をシェフィールド・ウェンズデイにローンに出すことでプレッシャーを和らげさせたが、シーズン後半はエヴァートンの一員としての彼の活躍を期待できそうだ。

カリム・フレイ(フラム)

カーディフは、フラムをコスモポリタンなチームにする典型とも言うべき彼を双方にとってメリットとなる短期ローンで獲得した。彼はモロッコ人の母を持つオーストリア生まれで、スイスで育った。U-21代表はスイス代表としてプレーしたが、フル代表では父の出身地であるトルコ代表を選択した。

彼は古いタイプのウィンガーで、そのスピードとダイレクトなプレーは、昨季マン・オブ・ザ・マッチに輝いたチェルシー戦で見事に体現されていた。ここまで見せている以上のものが約束されていたとしても、彼はフラムの次の大事な収入源でもあるのだ。

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という5人を紹介しているが、正直マトモにプレーを見たのはフレイくらいで、しかも自分が見た時はパッとしない感じだったから何とも言えないけど、こうやってまとめて取り上げてくれると、注目するポイントも増えるしありがたいのは確かよね。ただ、スパーズ・ファンとしては、ここにトム・キャロルを入れて欲しかった、というのが本音。

Friday, October 19, 2012

古巣チェルシーとの対戦で試練に直面するアンドレ・ヴィラス・ボアスとスパーズ

この週末の土曜日に昨年解任された古巣チェルシーとの対戦を控えるアンドレ・ヴィラス・ボアスは、どのような気持ちでスパーズの監督としてこの試合に臨むだろうか。「テレグラフ」紙のジェイソン・バート記者によるコラム。



ちなみに、前回AVBの記事を取り上げた時も「テレグラフ」だったのだけど、結局メディアの予想を遥かに上回るタイミングでクビが飛んでいたのだな・・・。

++(以下、要訳)++

怒りも苛立ちも遥かに超えていた。3月にチェルシーに解任を通告された時、アンドレ・ヴィラス・ボアスに覆いかぶさった感情は、当惑だった。

彼はまるでプレミアリーグでの容赦の無い8カ月が、彼の名声を傷つけたと感じただろう。そもそもチェルシーなどに行ったのが誤りで、彼は過ちを犯しただけでなく、失望もさせられた、と。

彼にとっての最大の過ちは、人心掌握ではなく、単に結果が出なかったことでも、強大な力が渦巻くロッカールームをまとめられなかったことでもない。それは、彼がロマン・アブラモビッチ -より規律があり、内容の濃いフットボールを望んでいた- から得ていた信頼を信じきれなかったことだ。

ヴィラス・ボアスは、 トッテナム・ホットスパーの監督就任時には、チェルシー監督の座を解任されて反撃する初めての監督になることを我慢できはしなかった。彼が言うには、アブラモビッチの方が彼に愛想を尽かしたのだ。

重圧は非常に大きなものになっていて、彼の解任は避けられないものだったし、その解任でチェルシーが解放されたことは、チャンピオンズリーグ制覇という並外れた栄光によって証明されてしまった。チェルシーは判断の正しさを証明した気分だっただろう。

ヴィラス・ボアスがイングランドのフットボールから距離を置きたいと感じていた後にも、多くのオファーがやってきたが、ヴァレンシアやサンパウロの話を断ってトッテナムに加わることに合意したことには、何かが暗示されている。

リベンジというわけではないだろうが、今週で35歳ながら、長くとも10年以上も監督生活を続ける気がない男には、名声の回復という側面はいくらかは含まれているだろう。ひとたび就任が決まり、ひとたび日程が決まって公開されれば、スパーズとヨーロッパ・チャンピオンであるチェルシーとの最初に試合にはまず目が行ったはずだ。そして、それはこの土曜のランチタイムにホワイト・ハート・レーンで実現するのだ。

今週ヴィラス・ボラスがチェルシー、彼の元アシスタントにして後継者のロベルト・ディ・マテオ、そして選手たちについて発する一語一句が注目され、分析され、見出しとなるだろう。そして、全ての質問に率直に答える男には、それはあまり心地の良い経験ではないだろう。彼は落ち着いている必要がある。

エゴについての批判はあるにせよ、ヴィラス・ボアスは原理原則の男であり、チームと組織力、そして手柄を得るだけでなく、注目の的となることにも耐えうる選手たちを信じる監督だ。例えば、チェルシー時代に彼が持っていた考えには、監督ばかりが会見するのでなく、選手がメディアに話をする「ミックスゾーン」を試合前の金曜日にやる、ということも含まれていた。注目が監督ばかりに集まることを嫌い、ピッチでクラブを代表している選手たちにより多くの責任を担って欲しいと考えていたのだ。もっとも、これが実現することは無かった。

ヴィラス・ボアスは目的を持ってスパーズにやってきた。そしてその目的は、願わくばスパーズを安定させるということだけでなく、トップ4入りを実現してチャンピオンズリーグの舞台に再び立つことだ。彼はトロフィーを勝ち取りたいと思っている。そして、それを今実現したいのだ。競争力を高めて帳尻を合わせるだけでは彼には不十分で、必要なのはタイトルであり、勝利なのだ。

スパーズの選手たちもそれをトレーニングの初日から告げられ、ヴィラス・ボラスは念押した。 単に効果を狙って言っているわけではない。2シーズン前のポルト時代に制したヨーロッパリーグにあれだけ強力なメンバーで臨んでいるのも偶然ではない。選手たちもヴィラス・ボアスのフットボール哲学の何たるかを伝えられている。

彼は恐れずに常に攻撃を仕掛け、常にボールを支配するチームで成功したいと考えている。ポゼッションを高めるということは、攻撃のカギであると同時に、守備の負担も軽減できるのだ。アウェーで3-2でマンチェスター・ユナイテッド相手に挙げた勝利でのペース、目的意識、意図は、このシーズンの青写真となった。そして、チェルシー時代に初黒星をオールド・トラフォーで喫した監督にとっては、素晴らしい挽回劇だった。

ヴィラス・ボアス本人も、その攻撃なスタイルをこのイングランドで適用するのは難しいと理解しているのは明白だ。他の多くの国と違って、ここは勝利第一の文化だけでなく、勝つにも内容のあるフットボールを求められるのだ。

大胆?勇敢?ナイーブ?時折この前2つがヴィラス・ボアスに当てはまるのは確かだろうが、特に敗れる時には3つ目そのものであり、それを評論家にも指摘されている。しかし、スパーズは開幕戦以降は敗れておらず、リーグ戦は4連勝中だ。

チェルシー戦は大きな試練となるし、ヴィラス・ボアスも我を忘れてはいないだろう。結局、昨季の現時点でチェルシーは16ポイント -今のスパーズが14ポイント- で、フランク・ランパードは「CHELSEA TV」で新監督のアプローチと戦術、オープンさを褒め称えていた。しかし、それは今のスパーズでは異なった印象で、それは誰にとってもの心地良さになっているかもしれない。ヴィラス・ボアスはチームを安定させ、彼への賞賛で上向きの風が吹くようになったのも最近になってからだ。

試合の流れを変えるルカ・モドリッチとラファエル・ファン・デル・ファールトは売却され、レドリー・キングは引退、スコット・パーカーとユネス・カブール、そしてベノワ・アス・エコトはケガで欠場し、エマニュエル・アデバヨルもまだフィットしてはいない。 昨季であれば大半の試合に先発していた7人だ。

5,000万ポンドの豪華な投資 -そして6,000万ポンドを回収した-が行われたが、6人の補強のうち4人はシーズンも始まった後の移籍締切日近くに獲得が決まっている。そして、中でもヴィラス・ボアスが最も獲得を望んだポルトのプレーメーカー、ジョアン・モウチーニョは、スパーズは11時までの締切に話をまとめることができず、獲得に至らなかったことは言うまでもない。

その不満はいったん棚上げされ、スパーズの選手たちはヴィラス・ボアスの綿密で実力を重視するスタイル、彼の詳細にこだわる目、そして彼の先進的なトレーニングに適応して行っている。どの監督も「ドアは開いている」と主張するが、ヴィラス・ボアスの場合は、いかに選手のモチベーションを上げるか、いかに自分たちが重要だと感じさせるか、と考える際にそれが発揮されている。

スパーズに来て以来、チームの強化について語るのに四苦八苦してきているが、数人の選手には明瞭な成長の兆しが見えている。サンドロはレベルを一段上げたし、カイル・ウォーカーはディフェンス面で向上している。アーロン・レノンは中への切り込みで成長を見せ、サイドをえぐるだけの選手ではなくなっている。スティーブン・コールカーもいよいよ台頭し始め、ジェイク・リバモアも改善してきている。

ヴィラス・ボアスにその価値を認めさせ、新たな契約も手にしたジャメイン・デフォーは、まるで息を吹き返したかのようだ。ギャレス・ベイルは過去最高の破壊力を見せつけている。マイケル・ドーソンの処遇には多くの疑問符も付いたが、QPRからの900万ポンドのオファーは、ウィリアム・ギャラス、カブール、ヤン・フェルトンゲン、さらにはコールカーも揃う中では良いビジネスだ。

ヴィラス・ボアスがスパーズでの生活をエンジョイしていることに疑いは無い。新練習場や会長のダニエル・リヴィによる新スタジアム計画、そして彼が熱心に進めるフットボール・ディレクターの採用  -元イングランド代表のGM、フランコ・バルディーニが依然第一候補-等に感銘を受けて来ているのだ。

まだまだ始まったばかりではある。尊大なフットボールを目指す欲望の裏には、この青年監督への注意も常に付いて回る。この土曜日は試練だ。彼が率いるスパーズだけでなく、彼自身にとっても。

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AVBの自己実現の場にスパーズが重なっていることを強く言いたそうな主旨ではあるけど、どんな監督もそれは同じだと思う。むしろ、この年齢で昨季チェルシーを率い、8カ月で解任の憂き目にあったAVB本人が、この先の自分のキャリアをどう判断して同じロンドンのスパーズに来たのか、という方が個人的には興味があるけど。

でも、去年のユナイテッド戦でのスタンスについて、アラン・ハンセンにBBCで「あんなオープンに撃ち合いに持ち込むなんてナイーブ過ぎる」って言われてたことを考えれば、スパーズ監督として乗り込んだこの間のオールド・トラフォードは既に成長の一端を見せたってことにはなると思う。古巣のチェルシー戦はホントに楽しみ。

Sunday, October 14, 2012

さらばアンブロ:イングランド代表との一時代の終焉

イングランド代表と言えばアンブロ、という印象を持っている人も多いだろう。それも当然で、実際の所、過去60年間に渡って代表のユニフォームのサプライヤーはアンブロだった。それでも、それももうあと数カ月の話。今回の契約が切れると、イングランド代表はナイキのユニフォームを身にまとうことになる。この歴史と背景について、「インディペンデント」紙のサム・ウォレス氏がコラムにしている。


++(以下、要訳)++

アンブロは過去60年間に渡って、イングランド代表の大半の象徴的なシーンにそのシャツを提供してきた - しかし、それももう終わりだ。ナイキはどのようにこの斜陽の国産ブランドを追い込んで行ったのだろうか。

新たにオープンしたセント・ジョージ・パークのフットボール・センターの照明に満たされたアトリウムには、150体のマネキンがあり、皆アンブロがデザインしたジャージを身にまとって来年に迫ったFAの創設150周年を祝う準備をしている。いくつかはクラシックなアンブロで、他もイングランド代表の歴史から、良く知られたシーンや選手を描き出している。

ものの数週間のうちに、これらは皆はがされてしまうだろう。まるで企業の一揆かのようにナイキが代表チームのキット・サプライヤーになることが決まり、88年前にチェシャーのウィルムスロウにあるパブの奥の小部屋で産声を上げた古き英国ブランドは、今は実権を握るアメリカの親会社に道をあけるために、横に下がるよう礼儀正しく求められている。

英国のスポーツ用品ブランドのアンブロは、生き残りのために戦っている。ナイキは5月にアンブロを売却する方針を発表しており、一番あり得る未来は、ライセンスモデルでブランドとしてのみ生き残る形だ。英国本社の経験やノウハウがあるにも関わらず、そのクリエイティブな頭脳は活かされずに、製造業者がアンブロに費用を払って製品を販売する。ここまで多くの資産を失ってきた企業の最後の価値を絞り出す、というわけだ。

ハロルドとウォレスのハンフリーズ兄弟によって1924年に設立されたアンブロには輝かしい歴史がある。これまでにも1962年のブラジルのワールドカップ制覇、1967年のセルティック、1977年のリバプール、1999年のマンチェスター・ユナイテッド、そして何より1966年のイングランドの栄冠と共にあった。ブランドが最も近い関係にあったのが1954年に着用を始めたイングランド代表であり、1974年から84年を除いて(訳注:アドミラルがサプライヤー)、それは続いてきた。

ダンカン・エドワーズはアンブロのシャツで代表デビューをした。ボビー・ムーアがジュールス・リメ杯(訳注:ワールドカップの初代のトロフィー)を掲げ、テリー・ブッチャーが血まみれになり(上写真)、ポール・ガスコインが涙したのもアンブロのシャツだ。デイビッド・ベッカムもこれで退場して行った。それが、これからはそこで愛情を注がれるのは、ナイキのスウーシュのロゴであり、ナイキの最初のメッセージはおそらく火曜日にウィリアム王子がセント・ジョージ・パークのオープン時に大胆に宣言した「イングランドのフットボール、未来」だろう。

しかし、その過去というのはどんなものだっただろうか?アンブロの衰退には、複雑な要素が絡み合っている。2008年の3.77億ポンドでのナイキによる買収は上手く行かなかった。社内事情に近い関係者によると、ナイキはこの小さくニッチな会社に、自社の製造・販売網を押しつけようとしたようだ。伝統的に、アンブロは小さな単位でのオーダーの工場との交渉も販売店との親密な関係の構築ももっと戦術的に行ってきた。

販売店にどの程度その商品が必要なのか、などと聞くことのないナイキのような巨大企業には、アンブロは違った種類の生き物に思えた。ナイキによるより小さなブランドの買収の結果はまちまちだ。アイスホッケー関連ブランドのバウアーは買収したものの、やがて売却された。逆にコンバースとはここまで上手く行っているようだ。しかし、アンブロに影響を及ぼしたのはナイキによる買収だけではない。

2004年から06年の間、アンブロはホーム、アウェー合わせて約300万着のイングランド代表のレプリカを販売した。 2009年にFAと9年契約の交渉に臨んだが、その頃には2008年のユーロ予選敗退による本大会吹出場もあり、イングランド代表のシャツの人気は急落していた。販売店のスポーツ・ダイレクトとJJBスポーツとの間の競争も、レプリカ・シャツの値下げを容易なものへとしていった。状況悪化の一途をたどる経済状況も一部は影響しているだろう。

年間2,000万ポンドと言われるFAとの契約は元が取れるとは考えられず、アンブロには重荷になっていった。ナイキが引き継いだのはこの契約であり、FA側からも何の抵抗もないまま、来年からイングランド代表のシャツのナイキへの移行は始まる。

ナイキやアディダスのようなグローバルなメガブランドは、代表のシャツでの赤字などマーケティング費用として処理できてしまう。ナイキは元々「パフォーマンス」と呼ばれる商品ラインに注力しており、アンブロの買収は「フットボール・ライフスタイル」や「ファンのファッション」といった市場に切り込むためだった。これらのビジネスは必ずしも交わるわけではないが、やがてナイキはアンブロの偉大な資産を切り裂いていった。

アンブロの抱えるもう一つの宝石は、マンチェスター・シティとのシャツの契約だが、これも来季にはナイキに引き継がれることになるだろう。こうした要素に敏感な者であれば、エティハド・スタジアムのピッチ脇の看板は、もうナイキに入れ替わっている、と言うだろう。現在もアンブロのスパイクを着用する数少ないスター選手のジョー・ハートも、ほどなくナイキになっているだろう。ダレン・ベント、アンディ・キャロル、マイケル・オーウェンも依然アンブロと契約している。ジョン・テリーの契約は6月に 切れたが、彼も依然としてアンブロのスパイクを着用している。

数々のビッグクラブや代表チームのユニフォームを提供してきたブランド、そして言うまでも無く最初の子供用レプリカシャツを出したブランドは、来年にはイングランドではノッティンガム・フォレスト、ハダースフィールド・タウン、そしてブラックバーン・ローヴァーズにしか契約が無い状態になる。

ハンフリーズ兄弟の実家から数マイル、南マンチェスターのチードルにあるアンブロの本社では、約200人の社員が働き、ナイキによる買収時にはオフィスの拡大もしたが、最近ではアンブロの社員がブランドの将来について知らされるのを待っている様子は、廃墟の街のようだ、と語られていた。

グローバル化した世界にあって、イングランド代表が少なくともイングランドにルーツがある会社のシャツを着なくなったとして問題だろうか?フランスだってル・コックでなく、結局はナイキを着用している。スペイン、ブラジル、アルゼンチン、オランダといった代表の強豪は、いずれもアディダスかナイキと契約している。それでも、ドイツ代表がドイツのブランドであるアディダスかプーマ以外のシャツを着用しているのは想像しがたい。

1994年のワールドカップ優勝時のブラジルのユニフォームや、1997年のフランス戦で見せたロベルト・カルロスの有名なフリーキックの時のスパイクなど、アンブロにはフットボールの遺産の中に一定の存在感があることは誰にも否定できない。文化の中にも浸透していったのも確かだ。リアム・ギャラガーは1995年の「トップ・オブ・ザ・ポップス」出演時には、シティ色のアンブロのコートを身にまとっていた。

1966年ワールドカップの決勝トーナメントでは、 16チーム中15チームがアンブロ製のシャツを着ていた。近年では、それはナイキとアディダスによる世界の覇権を戦いの場となってしまった。アンブロは今後もフットボールの市場での居場所があると望んでいるが、イングランド代表という大きな勲章を失ってしまい、歴史はそれを2度と取り戻すことはできないと示唆している。


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何年か前のナイキによる買収の話の時は驚きつつも時の流れと感じてたけど(実際、その前にアディダス傘下にリーボックが入ったりって流れもあったし)、イングランド代表のユニフォームがアンブロからナイキになってしまう違和感はかなりのもの。

個人的に、現行のアウェー・モデルは結構好きだから、買っとこうかな、と。
(↓は、そのアウェー・モデルがデビューした去年のブルガリア戦)



日本代表の今のサプライヤーはアディダスになって長いけど、昔は結構ローテーションしてたよね。

Thursday, October 11, 2012

冷静なレイトン・ベインズの謙虚な振舞いと好調エヴァートン

エヴァートンの左サイドバック、レイトン・ベインズは、この夏のマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が噂されるなど、イングランドでの評価は非常に高い。それでも、代表のこのポジションには、間もなく代表100キャップのアシュリー・コールがおり、必然的にその「影」を歩むことがこれまでも長かった。テリーの裁判沙汰に関するツイッター上でのFA批判(既にコールは謝罪し、代表に合流)で今回のワールドカップ予選でのコールの出場が微妙な中、BBCのフットボール主幹であるフィル・マクナルティ記者がベインズにスポットライトを当てたコラムをアップ。


++(以下、要訳)++

アシュリー・コールがFAからの処罰を待つ中、エヴァートンのレイトン・ベインズは自分がその代役をこなせるのだと証明するのに忙しかった。

マージーサイド出身の27歳は、イングランド代表98キャップが示す通りの衰えぬクオリティを持つ、誰もが認めるワールドクラスであるチェルシーのコールの陰で、彼のサブとして代表のキャリアを送ってきた。

そして、代表がサンマリノとポーランドとのワールドカップ予選に臨む 準備期間の間にも、コールは、チームメイトのジョン・テリーがQPRのアントン・ファーディナンドに発した人種差別発言で有罪とされた審問で自分の証言に疑問符を付けられたことでFAに軽はずみに罵言をツイッターで飛ばしたことで、再度見出しを飾ることになるだろう。

ベインズがツイッターで発言をするとは到底考えられないし、FAを批判するための道具にするとなれば尚更だ。彼は思慮深い性格で、ピッチを去れば注目を浴びるよりも人混みに消えて行くことを好み、意図的に控え目でいるタイプなのだ。

彼はむしろロイ・ホジソンと1950年代の音楽について話している可能性の方が高く -実際彼らはその話題で議論をしていたのだが- 、ツイッターでの暴言について説明を求められる電話を受けたりはしていないはずだ。

それはホジソン、そしておそらくFAにとっても好ましいことで、彼が最高レベルのディフェンダーとして成熟して行っていることは、2-2のドローで終わったウィガン戦を見ていた者であれば、より確信を持てただろう。

仮にホジソンがイングランド代表の左サイドバックのポジションがアシュリー・コールの後も安泰だと分かっていなかったとしても、DWスタジアムに送り込んだスパイがホジソンにしっかりと報告するはずだ。私の考えでは、コールには依然としてより優れた左サイドバックだと言える点が残っているが、その差はこれまでにないほど縮まってきているし、ベインズには土曜日のプレー以上にまだ成長するための時間もある。

ピッチを離れれば、ベインズを知る者はその地味ながらも知性溢れるキャラクター -国を代表する欲望と情熱には事欠かない- を褒め称える。自信の欠如が彼をクラブでもで意表でも表舞台から遠ざけたことはあっただろうが、今の彼は才能が花開き、デイビッド・モイーズも何度となく賞賛している。

エヴァートンが終盤のPK、彼の3度目となる古巣相手のゴールで1ポイントをもぎ取ったウィガン戦の後、モイーズはベインズがチームにもたらした影響を賞賛することを躊躇わなかった。かつて彼を賞賛していたウィガンのファンも温かい声援を送ったが、ロベルト・マルティネスにとってはより大きな傷となったことは間違いない。

「レイトン・ベインズはファンタスティックだった。彼のプレーもPKもね」とモイーズは語った。「彼のパフォーマンスは見ての通り、ピカイチだった。彼がウチを波に乗せたんだ。圧倒的なプレーだった」

アリ・アル・ハブシに向かって強く高く蹴り上げたPKが決まったのは、ウィガンのアルナ・コネとフランコ・ディ・サントのゴール、その間のニキツァ・イェラビッチゴールで環境を夢中にさせた試合の中で彼とエヴァートンには相応しい報いであった。

守備をこなし、前半にはポストを叩くシュートを放ち、貴重なPKを決める前にはエヴァートンの後半の猛攻を引き出すなど、ベインズはこの試合では圧倒的な存在感だった。

要するにそれはほぼノーミスのプレーであり、可能性の低かったエヴァートンの勝利を引き寄せるために、気まぐれだったパスを活かそうと、無駄だと分かっていても96分間走り続けたことが彼のキャラクターを示している。試合後に彼について訊かれたモイーズは直ちに賞賛の言葉を並べた。

今季素晴らしい開幕ダッシュを見せるエヴァートンのチャンスメイカーとしても得点者としてもベインズはチームに欠かせない存在で、彼がスパーズから復帰したスティーブン・ピーナールと再び見せる左サイドでの連携はプレミア屈指だ。

この日は、マージーサイドの面々にはタフな午後で、エンジン全開のウィガンが精彩を欠いたエヴァートンに付け込んで攻め込み、自分たちの持つと信じる力の証明に躍起になっていた。

エヴァートンのように大きな変化を見せないチームでは珍しいことだったが、モイーズは必要と思われた調整をハーフタイムに行った。コネに対峙してスピード不足を露呈していたジョン・ハイティンガは、哀れなことにそのままロッカールームに残ることになり、活躍を嘱望される若きベルギー人のケヴィン・ミララスは、右サイドからイェラヴィッチのパートナーへとポジションを上げた。

これが最終的にはエヴァートンに勢いをもたらし、アウェーに駆け付けた彼らの5,000人のファンの目の前へと押し込んで行った。モイーズが後半開始後のプレーで主審のケヴィン・フレンドがPKを認めなかったことは不満だったろうし、疑問の余地のあるコネの先制ゴールにも一言あるだろう。

しかしながら、この試合、ウィガンは勝ち点1には値したし、それは開幕以来の好調で信念が吹き込まれたシステムで、次第にウィガンにプレッシャーをかけて行ったエヴァートンも同様だ。エヴァートンが現在の順位を維持できるかどうかはまだ分からないし、現在ケガで欠場するダロン・ギブソンを欠くと、中盤は安定感を欠いてしまう。

それでも、今季のエヴァートンが昨季と違うことに疑いは無い。イェラヴィッチは脅威であり続け、ベインズとピーナールの最高のコンビは、ほぼテレパシーだ。そのスタイルはより拡張性に富み、守備の綻びが若干広がったとしても、相手にとっての脅威も明らかだ。

チームの各ピースは、エヴァートンが敗戦によってモラルを失うことのないよう再びひとつになり、土曜にその中で最も重要なピースだったのはベインズだ。

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コールの後塵を拝する期間が長いままもう27歳になってしまったのは惜しいけど、今回の代表ウィークは彼に追い風になっているのは間違いなく、本人もまだ限られている出番で結果を出したいところなんじゃないかな、と。

Sunday, September 23, 2012

ヒルズボロの悲劇:その真実

先日明らかになった、ヒルズボロの悲劇についての「新たな真実」についてのニュースは日本でも断片的に「キャメロン首相が謝罪」といった形で報道されていたが、やはり本国での報道量は非常に多く、「これから正義が下される」というニュアンスも含めて、各メディアのトーンにも力が入っていた。

こういう時はBBCかな、という気もしたけど、フットボール系の記者の間でも評価が高かった、「ガーディアン」紙のデイビッド・コン記者による取材記事をピックアップ。個人的にも彼のコラムは好きで、前にもチケット代の高騰に関するネタをここで紹介している。


 ++(以下、要訳)++

23年の時を経て、何が起きたのかの真実 - そしてそれに続く警察による隠蔽 - が遂に明らかになった。

 

リバプールのアングリカン聖堂での重大な一日を通じて、シェフィールド・ウェンズデーのヒルズボロ・フットボール・グラウンドで落とす必要のない命を無くしてしまった96人の人々の家族には、何よりも「真実(the truth)」という言葉が大事だった。

今では我々も非常にショッキングなほどに詳細を知るに至ったが、この言葉は、「サン」紙の見出しで、南ヨークシャー警察が自分たちがこの悲劇で無実の被害者を出してしまったことへの過失を曲げようと提供された話の記事で恥ずかしくも掲げられたものだ。

18歳だった息子のジェームスを亡くしたマーガレット・アスピノール(訳注:上掲のビデオの中盤でスピーチし、終盤でもコメントしている女性)は、家族は23年間に渡ってその「真実」だけのために戦わざるを得なかった、と語る。息子は、リバプールとノッティンガム・フォレストのFAカップ準決勝を春の日射しの中で観に行き、楽しい一日を過ごすはずだった。ヒルズボロ家族支援会(HFSG)の会長を務めるアスピノールは、遺族の中の喪失は決してなくならないものの、デイビッド・キャメロンによる明確で深遠な謝罪の言葉があったことは「嬉しく思う」と語った。

リバプール主教であるジェームズ・ジョーンズが率いるヒルズボロ独立委員会は、警察、シェフィールド・ウェンズデイ、その他責任のあったと思われる機関の45万枚もの文書を調査し、特筆に値する395ページのレポートで、警察の失策を指摘し、被害者、そしてフットボール・サポーターたちの無実の罪を晴らした。

悲劇が起きた原因、そして警察による責任の転嫁が、この長年を経て明らかになったのだ。しかし、遺族が「隠蔽」と語るものの深さ、特に南ヨークシャー警察による、責任を回避してサポーターたちに無実の罪を着せるための周到で無慈悲な活動への調べはまだ始まったばかりだ。

まだ遺体がヒルズボロ内に設けられた仮の安置所に横たわっていた頃に行われた、申し合わされた調査では、南ヨークシャー警察の本部長であったピーター・ライトが酔ったサポーターかチケットを持たないサポーターが悲劇の原因だった、という話にさせていたことが判った。多くはティンエイジャーで、最年少で10歳、大半が30歳以下だった被害者たちはアルコールのレベルについての血液検査をされた。委員会は、これは「合理的な理由が無く、極めて例外的な判断」と指摘した。全ての関連機関が内部文書を提出した今回の調査で新たに明らかになったことのひとつは、血液からアルコール値が検出されたら、警察は過去の犯罪歴が無いかを確認していた、というものだった。

かなりの部分がベルファストのクイーンズ大学のフィル・スクラトン教授によってまとめられたこのレポートは、8人の専門家によっても満場一致で承認されているが、「際立ったレベルの泥酔やチケット非保持、暴力がリバプール・ファンの中にあったという疑いを正当化する証拠は一切ない」としている。

レポートは、ライトが警察幹部とシェフィールドのレストランで会食し、「弁護」と「確固たるストーリー」を準備していたことを明かしている。南ヨークシャー警察連盟支所の秘書であるポール・ミダップ巡査がライトが現れる前に話をまとめ、「本部長は真実を語ることはできず、秘書に自由にさせつつそれを支援した」。他の幹部と同様だった。

ミーティングは、シェフィールドのピクウィック・レストランで1989年の4月19日、悲劇の僅か4日後に行われた。それは、ケルヴィン・マッケンジーの「サン」紙が、「真実」の見出しを付けた虚実の記事を出した日だった。記事はホワイト・プレス経由で、委員会の調査によれば、皆ヨークシャー警察の4人の警察官が作り上げたものだった。ミダップはリバプールのファンを泥酔と不祥事の疑いで中傷する警察のキャンペーンを継続し、「一体感あるメッセージを部隊全体に伝える」よう支援を受けていた。

委員会のレポートは、議会で行われた不正についても記述を残している。マージーサイド議会の労働党の議員マリア・イーグルが、若い警察官たちからのコメントを、「暗黒のプロパカンダ集団」とまで呼ばれていた南ヨークシャー警察幹部にもみ消させていた。

警察官たちのコメントは、テイラー主席判事(訳注:事故調査を行い、後の90年1月にフットボール界の問題を指摘する「テイラー・レポート」を出すピーター・テイラー氏)からの継続的な取り調べに対して公式な見解として提出されたが、警察自身への批判をかわし、サポーターによる不祥事を強調するために内容が書き替えられていた。委員会は、この取り組みは非常に深く大規模なもので、164のコメントのうち、116までもが「南ヨークシャー警察に好ましくない内容」として、変更、もしくは削除されていたことを突き止めた。

警察は、これを「推測」や「意見」を取り払うだけのために行った、と主張したが、委員会は、この取り組みが、警察の公式見解を出すことよりも、事件を捏造するためにエスカレートして行った、と信じて疑っていない。

スクラトンは、「警察への批判をかわすために行われたものだ」と語っている。

このプロパガンダは、テイラーを納得させはしなかった。彼は1989年8月の時点で、警察の言うファンの酔いや不祥事が誤りであると断じていた。テイラーは、重大な要素でシェフィールド・ウェンズデーのフットボール場は危険な状態で、FAが名誉ある大会の舞台に、ヒルズボロが安全の基準を満たしているかを確かめもせずに選んでいたことを明らかにした。

こうした配慮の欠如に加えて、そこには経験の浅い管理者だったデイビッド・ダッケンフィールドに率いられた南ヨークシャー警察による観衆の誘導ミスが重なり、これが悲劇の「第一の要因」となった。警察はグラウンドの外でのコントロールを失っており、24,000人のリバプール・ファンが、たった23の回転ドアに押し寄せていた。そこで、ダッケンフィールドは、より大きな出口用のドアを開けることを命じ、多くの人数を中に入れさせた。テイラーによれば、この彼の「最大級の大失策("blunder of the first magnitude")」は、既に満席だったレッピングス・レーン・テラス中央のへのトンネルを閉じなかったことだ。

この点については既にテイラー・レポートで述べられているが、それでも簡単には屈しない警察は彼らの主張を 以降の取り調べでも繰り返した。悲劇の日の3時15分以降の起きたことの証拠を集めなくとも、その日の流れは検視官の判断から分かっており、結果的に救急の対応はカオス状態だったと委員会は見ている。96名の死者のうち41名は、警察と救急が適切な対応をしていれば救われていた、という事実が判明し、死者、そして遺族には受け入れることが難しい、とアスピノールは語る。


法務長官のドミニク・グレイブは委員会によるレポートが提出されたことを受け、事故での死因について新たな審問を行うために高等裁判所への訴訟を行うかどうかを検討することになる。

この長年の時を経て、 シェフィールド・ウェンズデー、南ヨークシャー警察、そしてフットボール場の安全管理責任を果たしていなかったシェフィールド市議会への訴訟もありうる話だろう。HFSGの代表を務めるトレヴァー・ヒックスはティーンエイジャーだったサラとヴィクトリアという2人の娘をこのレッピングス・レーンの崩壊で失っているが、彼は全ての法的補償を求めにいくと語っている。「真実は今日明らかになった。明日からは正義のためにある」

アスピノールは、特に権威からの真相が明らかになるのにこれだけ時間がかかり、彼女や他の遺族が長年戦わざるを得なかったことに深い怒りと不正義を感じていると語る。

彼女は「遺族がこの23年間を耐え抜いてこなければならずこれだけの痛みに晒されてきたのは不名誉なこと」と続け、自分たち遺族がこの法的な争いのために資金を工面しなければならなかった一方で、南ヨークシャー警察や、他の公的機関の面々は自分たちの税金から給与を受け取っていることに不平を述べた。

「それでも、彼らが嘘つきであり、我々が誠実だったわけよね」

主教のジョーンズは、自身のリバプール教区での仕事をする聖堂に落ち着いて座り、自身は牧師として「正当な世界にコミットしていて、それこそが委員会としての自分たちの仕事の中心だった。我々は真実、そして正義を追い求めているのだ」と語った。

そして、ここでまたこの言葉だ。これだけの年月と痛み、愛する家族のために決して諦めない遺族による長く辛い戦いを経て、それは遂に取り戻された。「真実」だ。

++++

このコン記者は、ヒルズボロの悲劇について深く取材をしていて、先週はこれだけでなく多くの記事を出していた。(↓こんな感じの人)


全席指定のスタンド設置義務化等、安全に配慮した流れを生んだことは確かだけど、こうした苦しみがその裏にはあり、消してなくらないことは、もう少しきちんと伝えられても良いと思うし、象徴的な事件や出来事ほど、つながっている点や線の理解が大事なんだな、と痛感した一連の報道。

【ITVによる約1時間のドキュメンタリー】

Tuesday, September 11, 2012

ワールドカップに向けてイングランド代表に必要なもの

夏のユーロを失望のPK負けで終えたイングランド代表には、カペッロ辞任からホジソン就任に至る流れで準備期間も少なく元々期待も低かったが、トーナメントを勝ち上がって行くには限界があることも指摘されていた。

ユーロを終えて、ブラジルW杯に向けての準備こそがホジソン政権での本番と見る向きも多く、ユーロ後の初戦、かつ予選の初戦となったアウェーのモルドバ戦には注目が集まったが、これを5-0で快勝。相手のレベルもあっての結果とはいえ、現地のメディアには一気にポジティブな論調が出回った。特に、10番を背負ったトム・クレバリのプレーや、代表32キャップ目にして初ゴールを挙げたジェームス・ミルナーのプレーを称える記者が多かった印象で、次いでスティーブン・ジェラードとフランク・ランパードの共存を議論する内容が目立っていた。

そんな雰囲気の中で、BBCの「Match of the Day」でお馴染みのアラン・ハンセンが、戦術よりも選手たち自身に目を向けるべきとのトーンでコラムを書いている。


++(以下、要訳)++

イングランドでは代表チームに対して、主要な国際大会でこれ以上の失望を味わわないために、よりフレキシブルで戦術的な取り組みを切望する声がある。そして、モルドバ戦での快勝は、トム・クレバリが中盤とストライカーのリンクマンとして機能する、より進化したシステムでのプレーの最初の兆候だと考える者もいる。

アウェーで5-0で勝ったことの重要性を否定するわけではないが、イングランドのプレーが今後先進的な変化を遂げる時期が来た、と語るにはまだ早い。

私が金曜に見て、この先の予選でも予期できることは、イングランド代表のここ16年間かそこらの間の予選の戦いで見てきたものと同じだ。予選では素晴らしい戦いをしても、本番では無防備さを露呈してしまうのだ。実際、今まで主要大会に向けた予選で大きく崩れることは少なかったし、それはスヴェン・ゴラン・エリクソンの時もファビオ・カペッロの時も同様だった。そして、それがロイ・ホジソンの下であてはまらない理由は見出せない。

監督の戦術的な知性、もしくは選手たちの質の面でのチャレンジは、難しさもあったであろうモルドバでのアウェー戦で訪れることは無かった。しかし、国際大会の場で技術的に最も恵まれているチームに対しては、3ヶ月前のイタリア戦で見たようにそうならないのだ。

最大限の敬意をモルドバに払ったとして、金曜の夜にイングランドが4-4-2、4-3-3、5-3-2のどの形でプレーしても問題にはならなかっただろう。彼らが勝ったのは、より優れた選手たちを揃えていたからだ。

戦術について、向こう2年間好き放題語り続けることもできるが、仮にリオでの準々決勝で技術的に優れたチームと対戦すれば、 何の違いも生み出さないだろう。厳格でないシステムについて語るとき、それは私にとっては、選手たちが試合の進め方について責任を持ち、ピッチでの問題を自分で解決することを究極的には意味している。

ホジソンには彼のシステムを変える必要がある、と考えるのはいささか安易過ぎる。システムを機能させるのは選手たちであり、コーチたちではない。しかしながら、監督は試合が特定の流れにある時に、選手たちがどう対応すべきかについて、指示をすることができる。

ユーロ2012の準々決勝を例にとってみよう。

あの日のピッチではアンドレア・ピルロがベスト・プレーヤーだったことは周知の事実だ。多くの人々、そして私自身も、ピルロには試合をコントロールするためのスペースが与えられ過ぎていた、と考えていた。

イングランド代表のスタッフにもそう考えた者がいると感じるのは、ピルロにいくらボールを持たせようが、実際にイングランド守備を脅かすことはなかった、という別の見方で、それが実際の決着がPKでついた理由だ、とするものだ。

イングランドがウクライナ戦で4-4-2であったか4-5-1であったか以上に私を憂えさせたのは。後者の考え方だ。

あの晩になされるべきだったことは、ウェイン・ルーニーがピルロに時間とスペースがあり過ぎることに気付き、開始15分でもうひとりの中盤の人材となってピルロの前に立ちはだかり、彼がボールに触れるのを防ぐことだった。

ルーニー自身も自分でその判断をする権限があると考えるべきだったし、もしくはチームの誰かがひとりでも彼にそうしろと言えるべきだった。ベンチからそうした指示があっても良かったと思う者もいるだろうが、監督は選手たちがそうした問題点に自ら気付いて対処すべきと考えるものだろう。

したがって、イングランドがよりフレキシブルなアプローチを取るようになる、という点において最も重要なことは、ゲームの流れに応じて選手たちがそうした決断をする自由があると感じられることなのだ。知性ある選手たちには、何が起きているかを判断してほしいだろうし、決まったパターンにとらわれて持ち味を発揮できないような状況は望まないだろう。

イングランド内であれヨーロッパ内であれ、優れたチームには厳格な枠組みなどない。すべてのチームには適応能力のある選手がいて、選手たちに責任あるプレーを望む監督がいる。

4-4-2でプレーしていて中盤の人数で圧倒されていると感じたならば、前線から下がってくるか、サイドがフォローする。スペースが空きすぎていると感じたならば、自分たちの位置取りを確認し、スペースを消すために距離を詰めるべきなのだ。

これらはフットボールの基本だ。監督が予めイメージしておくプレーのイメージとは何の関係もなく、むしろ試合の中で進化していくために状況ごとにどう対応していくかという話だ。イングランドが強敵と対戦する際の問題点を解決するには4-4-2を捨てて4-5-1でプレーすべき、などと提案するのは危険なまでに短絡的だ。

仮にブラジルでのワールドカップが明日開幕するとして、金曜に先発した面々で大会に優勝できるだろうか?答えはもちろんノーだ。

ポジティブな前進は勿論認識すべきではあるが、どんな励みの兆しも、こうしたリアリズムでバランスを取る必要があるだろう。

トム・クレバリを見れば、イングランドには国際的に良いレベルに達するポテンシャルのある選手がいると考えることができる。ジャック・ウィルシャーの早期の復帰は望めないが、彼には海外のスターと同様のテクニックが備わっている。そしてアレックス・オックスレイド=チェンバレンが、将来に希望をもたらす、この際立った若き才能のトリオを完成させる。

しかし、イングランドもこの3人だけで成り立つわけではない。スペインやイタリア、南米の強豪と真剣勝負の場で対等に戦うには、2014年までに同様に高いクオリティを持つ10人のフィールド・プレーヤーが必要なのだ。

私はこの2年でイングランドがその域に達することができると信じて疑わないし、モルドバのような相手に完勝することは、モラルと自信の確立につながる。

しかしながら、より手強い相手と渡り合っていくには、新たな戦術に頼るだけでなく、選手自身を育てていく必要があるのだ。

++++


たしかにこのモルドバ戦後の楽観ムードは過剰な印象で、ユーロでのイタリア戦の明確な技術面での差はボールの保持率にもシュート数にも表れていたはずだった。ただ、チェルシーが気合と根性の堅守でチャンピオンズリーグを勝ち取った余韻とホジソンに与えられた準備期間の短さもあり、それらを深刻に反芻する流れも起きてはいなかった。

このハンセンの見解は極めて当たり前というか、基本的なことではあるのだけど、そのくらいユーロに望んだイングランドは「堅かった」。時間を与えられたホジソンの下で、この先代表がどう変わっていくは確かに楽しみではあるが、今回のグループHはイングランドの他は、モンテネグロ、ポーランド、サンマリノ、ウクライナ、モルドバ。指摘通りに予選はスムーズに行ってしまう気もするし、イタリア戦のような「学習」の機会が少ないと、応用の利かないチームのままブラジル大会に臨んでしまう可能性も無くもない。

Thursday, August 30, 2012

移籍市場最終日のプレミア各クラブに必要なもの

毎年恒例、8月末の移籍市場締め切りは、スカイをはじめとする各メディアの煽りもあって、常にドタバタ感と緊迫感の溢れる夜となる。締め切りは現地時間で金曜の23時。ドラマがどう動くか、現在の舞台設定を、BBCのフットボール主幹であるフィル・マクナルティ氏がまとめている。
 ※記事は29日の17時(日本時間の30日1時)にアップされたもの


++(以下、要訳)++

移籍市場のウィンドウが閉じるのは金曜の夜、ここまで出ている兆候は、各クラブの1月までの戦力を整える8月の大仕事が、全て狂乱の結末へと向かうものとなっている。

戦力補強には夏じゅう時間があったはずだが、プレミアリーグでの違いをもたらす戦力補強のために、いつもの駆け込みの買い物が行われることになるだろう。

あなたのチームの補強ポイントはどこだろうか?あなたなら誰を補強するだろうか?


アーセナル

アーセン・ヴェンゲルはロビン・ファン・ペルシとアレックス・ソングの退団、ルーカス・ポドルスキとオリヴィエ・ジルー、そして既に際立っているサンティ・カソルラの補強でひとまず変革のドアは閉じている。しかし、テオ・ウォルコットに退団の可能性が出てきたことで、仕事がまだ残ってしまった。

アストン・ヴィラ

新監督のポール・ランバートはアレックス・マクリーシュを引き継いだ後も限られた予算でやり繰りしているが、開幕の2試合を経て明らかになったのは、カギとなるポジションに補強が必要だということだ。プライオリティは、ダレン・ベントのゴールをアシストできる選手であり、それゆえゲンクのストライカー、クリスティアン・ベンテケの獲得に動いている。もうひとつは左サイドバックであり、ミドルスブラからジョー・ベネットを獲得したところだ。

チェルシー

エディン・アザール、オスカル、ヴィクター・モーゼスを獲得して、チェルシーの夏の豪勢な買い物はもう終わっている。ロベルト・ディ・マテオは金曜の夜にまだ攻撃の駒を揃えたいと思うだろうか?

エヴァートン

エヴァートンは、スティーブン・ピーナール、スティーブン・ネイスミス、そしてケヴィン・ミララスを獲得したが、上場のスタートを切って、デイビッド・モイーズはもう少し補強を進めたいと考えているようだ。中盤と攻撃の補強をしたいと考えていることから、リバプールのチャーリー・アダムやダンディー・ユナイテッドのストライカーであるジョニー・ラッセルの名前が挙がっている。マイケル・オーウェンはエヴァートンからの電話を待っていると言われるが、その兆候は今のところない。

フラム

フラムがトッテナムへと向かったムサ・デンベレの代役を見つけねばならないのは明らかで、サンダーランドのマーティン・オニールは、キーラン・リチャードソンへのオファーを受け入れたことを明らかにした。また、リヨンのバフェティンビ・ゴミスを650万ポンドで獲得するという話も出ているようだ。

リバプール

ブレンダン・ロジャースは戦力を追加するチャンスを得られるなら、非常に忙しくなるだろう。チェルシーのダニエル・スタルリッジとアーセナルのテオ・ウォルコットの名前は既に挙がっているし、ファンとしても補強をして欲しいと思っているエリアだ。前線にゴールの脅威がもっと欲しいのだ。

マンチェスター・シティ

シティのメイン・ターゲットは、エディン・アザール、ロビン・ファン・ペルシ、ハヴィ・マルティネス、そしてダニエレ・デ・ロッシだったが、誰一人やってこなかった。アブ・ダビのオーナーたちとロベルト・マンチーニには十分な資金があるが、移籍金やサラリーでもうひと押ししなかったことの現われだ。

センターバック、中盤中央、そしてアダム・ジョンソンが出て行ったウィングが、マンチーニが埋めたいと考えている穴だろう。ティーンエイジャーのセルビア人、マティヤ・ナスタシッチは守備に固さをもたらすだろうし、テオ・ウォルコットのアーセナルとの契約延長交渉が上手くいっていないことは関心をひくかもしれない。スコット・シンクレアをスウォンジーから連れてくる交渉は依然生きている。

マンチェスター・ユナイテッド

サー・アレックス・ファーガソンは、アーセナルからロビン・ファン・ペルシを補強して前線に大きな買い物をしたが、香川真司も既に中盤で存在感を出している。それでも、ファンは依然として中盤の発電所が欠けていると感じているだろう。多くのサポーターが、土曜のオールド・トラフォードでも印象に残るプレーをしていたフラムのムサ・デンベレの獲得でスパーズに競り勝てていれば、と望んでいた。しかしながら、ファーガソンは今の戦力で満足なのだろう。

ニューカッスル・ユナイテッド

今のところリバプールの元ニューカッスルのストライカー、アンディ・キャロルと、リールのディフェンダーであるマテュー・デビュッシへの関心に進展はなく、アラン・パーデューは昨季5位に導いた現有の戦力で満足しているのだろう。

ノリッジ・シティ

何とかQPRに勝って今季最初のポイントを得たノリッジだが、クリス・ヒュートンの大きな動きはもう終わっていると思われる。

クイーンズ・パーク・レンジャーズ

監督のマーク・ヒューズはプライオリティがどこにあるかを隠しはしなかった。開幕のスウォンジー戦で0-5で敗れると、トッテナムのマイケル・ドーソン、レアル・マドリッドのリカルド・カルヴァーリョの獲得に動いた。今のところそれは実を結んでいないが、驚きのインター・ミランのジュリオ・セザル獲得の動きは、ロバート・グリーンにプレッシャーをかけることになるだろう。資金は使うためにあり、すべきは補強。移籍市場の終盤に多忙に動くであろうQPRにご注目を。

サウサンプトン

数多くのセインツのファンが同じことを求めている。明らかに守備の強化が急務だと感じているのだ。

ストーク・シティ

監督のトニー・ピューリスは、スウィンドン・タウンとのリーグカップの試合に向けたマッチデー・プログラムで、自身の興奮を伝えている。「他にも選手たちを連れてこようと動いているところで、その方向で行けるなら忙しくなる」。

トッテナムのトム・ハドルストンは明瞭なターゲットで、彼のチームメイトであるマイケル・ドーソンにも注目している。また、ブラックバーンのスティーブ・ゾンジもレーダーにかかっているようだ。ピューリスは、公にマイケル・オーウェンを賞賛しているが、ストークが彼にプレミアで最後の輝きを見せる機会を与えられるだろうか?

サンダーランド

ウォルヴズのスティーブン・フレッチャー獲得とイングランド代表ウィンガーのアダム・ジョンソン獲得で大きな仕事は終わっているが、忙しい夏の終わりのスタジアム・オブ・ライトに他に新戦力到来の可能性はないだろうか?マーティン・オニールは、トッテナムのマイケル・ドーソンとフラムのクリント・デンプシーに大きな興味を持っている。それらの話をまとめられれば、チーム変革のための完璧なカルテットの補強となるだろう。

スウォンジー・シティ

新監督ミカエル・ラウドルップの下開幕2試合を無失点で乗り切ったが、マンチェスター・シティから620万ポンドを提示されたスコット・シンクレアの移籍が再び動き出すか、流動的な状況だ。クルーのキャプテンであるアシュリー・ウェストウッドの獲得に動いてもいるようだが、クラブが幸福感に包まれる今は、シンクレアの未来が明確になって欲しいところだろう。

トッテナム

ここからが本番だ。前任のハリー・レドナップ時代、トッテナムは伝統的に締切日に多忙を極めていた。しかし、ルカ・モドリッチをレアル・マドリッドに売却した今、会長のダニエル・リヴィが本気を出す狂乱の終盤には要注目だ。

ムサ・デンベレを獲得し、フランス代表GKのウーゴ・ロリスもターゲットだが、スパーズは筆頭ターゲットのホアン・モウチーニョをまだあきらめてはいない。マルセイユのロイク・レミーの名も挙がっており、CSKAモスクワのアラン・ザゴエフとシャフタール・ドネツクのウィリアンも視野に入っている。放出の方も要注目で、スパーズ・ファンは心の準備をすべきだろう。

ウェスト・ブロミッジ・アルビオン

新監督のスティーブ・クラークの下、開幕2試合で4ポイントを獲得し、ホーソンズではすべてが穏やかに見えるが、クラークはディフェンダーの層を厚くしたいと考えている。ブラックバーンのマーティン・オルソンを狙っていると言われ、エヴァートンも狙うFCコペンハーゲンの左サイドバック、ブライアン・オヴィエドも追っている。

ウェストハム・ユナイテッド

サム・アラーダイスは多くの案件をまとめているが、リバプールのアンディ・キャロルについては行き詰ってしまった。もう1人のアンフィールドのスターで、元ハマーズのジョー・コールについては可能性がある。アラーダイスは可能な案件は積極的に動くだけに、終盤の動きからは目が離せない。

ウィガン・アスレティック

チェルシーにヴィクター・モーゼスを引き抜かれたのは痛手だが、監督のロベルト・マルティネスの手元には900万ポンドの資金が残っている。とはいえ、ファンは新戦力の補強については楽観的な様子だ。

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ということで、普段は賞味期限の長い記事を選ぶように心がけてるつもりながら、今回は極めて短いものをピックアップしてしまった。それでも、これがアップされてからも状況は動いていて、夜が明ければすべて決まっているのは分かっていても、ついつい追ってしまう。今年の夏はヘリコプターで飛ぶ選手は出てくるだろうか?

Wednesday, August 29, 2012

ミカエル・ラウドルップが魅せるエレガントなスウォンジー劇場

昇格組ながらバルセロナを彷彿させるパスサッカーで昨季のプレミアで躍進したものの、その結果、礎を築いた監督のブレンダン・ロジャースをリバプールに引き抜かれたスウォンジー・シティ。その監督の座を継いだのは、かつてユヴェントスやバルセロナ、レアル・マドリッドで活躍し、後にはヴィッセル神戸でもプレーしたミカエル・ラウドルップ。

監督としても、ブレンビー、ヘタフェ、スパルタク・モスクワ、マジョルカとキャリアを積み上げてきていたが、次に選択したのがこのスウォンジー・シティだった。就任時のインタビューでも「クラブのことは良く知らなかったから事前に調べた」と言っていた一方で、「フィロソフィーに触れて、是非やりたいと思った」との判断もしていた。

主力だったギルフィ・シグルズソンやジョー・アレンの退団もあって、残留に向けて苦戦が予想されたものの、フタを開けてみればいきなりの開幕2連勝。この舞台裏を開幕2戦目のウェストハム戦を取材した「テレグラフ」紙のヘンリー・ウィンター記者が探った。



++(以下、要訳)++

歓喜に満ちた土曜日のリバティー・スタジアムの前半、ルーズボールがスウォンジーのベンチへとラインを割って向かって行くと、我々にはハッとさせられる瞬間が訪れた。

ボールを簡単にコントロールして少々弄ぶと、巧みにスローインのためにボールを取りに来たケヴィン・ノーランに蹴り返した。試合をテンポ良く続けさせたこの見慣れた顔はミカエル・ラウドルップで、その華やかな現役生活で彼をアイドルたらしめた、かつてのエレガントなタッチを見せつけた。

偉大なフットボーラーは、しばしば監督としては失敗しがちだ。自分では簡単にプレーできてしまうために、自分よりも才能に恵まれない選手たちとの仕事への我慢を欠いてしまうからだ。それでも、ラウドルップには落ち着きと穏やかさ、知性がある。彼の父親にも監督経験があることは、彼がこれだけスムーズにスウォンジーに馴染んだことの説明になるだろう。

彼の小さな存在感は、プレミアリーグにより多くの星屑をバラ撒くことになるだろう。彼は自身の持つ尊厳も垣間見せた。ノーランがスローインを急ぐ姿を目にすれば、ボールをそのまま流れさせてプレーを遅らせることもできたが、それはこのデンマーク人のスタイルではないのだ。

いずれにしても、非常に統率が取れたスウォンジーに対してウェストハムはとにかく出来が悪く、スウォンジーがポゼッションを取り戻して、現在のプレミアリーグの順位表の頂点を周囲にアピールするのは時間の問題だった。これを10年前に想像するのは、よほどの妄想だったろう。

ラウドルップの就任前にも、スウォンジーではロベルト・マルティネス、パウロ・ソウザ、そしてブレンダン・ロジャースによって良い仕事が成されてきていた。ポジティブな原理原則が植え付けられてきていたのだ。後半のプレーのひとつは、そのままロジャースのスクラップブックにあるはずだ。44本のパスが2分間に渡ってつながれ、ウェイン・ルートリッジがゴールに向かって走るところを、ジョージ・マッカートニーがようやくスライディング・タックルで止めたのだ。

これを証明するのが開幕の5-0で圧勝したQPR戦で、ラウドルップはロジャースの戦術を微調整していた。中盤で喜んでパスを回すのは同様だったが、スウォンジーはより早いタイミングでギアを入れ、鋭さを増していたのだ。

彼らはジョー・アレンをリバプールに引き抜かれ、スティーブン・コールカーをスパーズに返し、スコット・シンクレアもマンチェスター・シティに狙われているが、ラウドルップは勢いが失われてはいないことを確信させた。監督は、ゲームプランの有効性や、移籍市場での成否、人身掌握術で評価されるが、ここには全ての要素が凝縮されていた。

まずは戦術。ロジャース時代のウィングのネイサン・ダイアーとシンクレアがライン沿いを突き進むケースが多かったのに対し、ラウドルップ下でのダイアーとルートリッジは中に切り込んでも来て、ミチュやダニー・グラハムの近くでプレーする。これが両サイドバックのアンヘル・ランヘルとニール・テイラーに上がってくるスペースをもたらすのだ。実際、2人は輝いた:ランヘルは先制ゴールを決め、テイラーもヤースケライネンに弾きだされたものの、良いシュートを放った。

ラウドルップの賢く選手を買う能力は、ミチュの影響力あるプレーからも見てとれた。200万ポンドでやってきた彼は、リオン・ブリットンとダニー・グラハム、中盤と攻撃のリンクマンとして機能し、スウォンジーに一層の流動性をもたらした。何度も自陣に引いてボールを受け、前を向いてダイアーにスルーパスを出すと、これがランヘルの先制ゴールにつながった。また、ジェームス・コリンズの無茶なバックパスをかっさらうと2試合で3つ目となるゴールを決め、得点力があるところも見せている。

ラウドルップはプランBの必要性も説いていたが、時折アシュリー・ウィリアムズがグラハムへとロングボールを繰り出していた。昨季であれば、スウォンジーのセンターバックは左右にボールを回してダイアーにボールをつないでいただろうが、こうしたプレーはよりダイレクトだ。スウォンジーはラウドルップの下で様々なスタイルを有効に取り入れていっている。

選手たちはすぐにラウドルップを監督として認め、支えている。ピッチを華麗に舞った最も有能なフットボーラーとしての名声も理由のひとつだろう。ウェストハムの選手同士が衝突したとき、その時間を活かしてラウドルップはテイラーを呼んで静かに指示を与えていた。監督に惹きつけられているテイラーの表情が、いかにこの新監督がドレッシングルームで尊敬を集めているかを物語っている。彼が練習で5対5に加わる時などは、特別な瞬間なのだろう。

柔らかな口調は、些細なことで騒ぎ立てるスタイルとは一線を画するが、それでもハーフタイムにはこう指示をしていた。「ウチは2-0でリードしている。向こう(ウェストハム)が攻めてきたのはどこだ?セットプレーだ。だからエリアの近くやサイドでファウルはするな」。ハーフタイム後のスウォンジーの守備はより堅実になっていた。決して高さがある方でもフィジカルで勝負するタイプでもないが、スウォンジーは明らかにセットプレー時の守備について、ラウドルップのアシスタントであるエリック・ラーセンの特訓を受けていた。

選手時代同様、ラウドルップはほとんど手立てを誤ることはない。

抜け目ない会長のヒュー・ジェンキンスの勧めもあって、クラブのレジェンドであるアラン・カーティスのクラブでの役割を維持するだけでなく拡大した。こうして新たにやってきた自分がクラブの理解を早々と深めると同時に、スウォンジーのサポーターたちを喜ばせた。グラハムが3点目を決めると、ファンは完全にパーティーの雰囲気になった。

ラウドルップは「特にファンにとっては、フットボールとは夢であり感情そのものだ。しかし、ピッチを含めてこちら側にいる人間にとっては、そこに感情はあるにせよ、夢を見ているわけにはいかない。現実を生きなきゃいけないんだ。月曜になれば、次の相手、バーンズリーのことを考えるんだよ」と語った。ラウドルップがこうして監督としての能力に磨きをかけ続けるならば、その先にはバルセロナがあるかもしれない。彼は見るからにスウォンジーでの生活を楽しんでいるが、その卓越した腕前を見せ続ければ、活躍の場は自ずとより緑の生い茂った場へと移っていくだろう。ラウドルップは穏やかな男で過去の栄光で威張るようなことはしないが、それらを避けることはできない。

ウェストハム戦のマッチデー・プログラムでQPR戦の勝利を振り返り、ラウドルップは「5-0はスペインでの自分を象徴するスコアラインで、俺には皮肉だ」と記した。バルセロナではレアル・マドリッドを5-0で下した試合の中心選手だった。そして、そのクラシコの反対側へと移った後、ラウドルップはレアルがバルセロナを5-0で粉砕するのを助けた。

「ヴァレンシアで小さな息子を連れた父親に出会った時のことをいつも思い出すんだ。その父親が、俺が誰か知っているか息子に聞いたんだ。息子は父親を見て嫌な顔をすると、俺の名を言うこともなく『5-0、5-0』って答えたんだ」。今のリバティー・スタジアムでは、確実に誰もが彼の名前を口にしているはずだ。

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自分が海外フットボール的に物心がついた頃には、ラウドルップはレアルでイヴァン・サモラーノとプレーしてた(NHK-BSで放送があった時代)けど、そのラウドルップが日本に来たときには随分驚いた。そんな勢いで、次にビッグクラブを率いるであろう前には、日本でも監督やってみて欲しいよな。

それにしても監督のロジャースだけでなく、主力も次々と抜かれてもこうして前評判をひっくり返すんだから面白い。前半戦で勢いがある昇格組というと、終盤に失速するケースが多くて(ハル・シティ、ブラックプール然り)、実際昨シーズンのスウォンジーも終盤は失点が増えて不安定ではあった。一巡目を乗り切ったとして、後半戦どうなるか、そこで記事でウィンター記者も触れている「多様性」が効いてくれば良いのだけど。

オマケ:開幕戦で大勝した後の記者座談会。


ここでは、この先スウォンジーには「雨」の時期がやってくるとの見解も。(他にもスコット・シンクレアがシティに行く意味が分からんとか色々・・・。)

Saturday, August 18, 2012

プレミアリーグ新シーズン、各クラブの展望

いよいよ開幕するプレミアリーグの2012-13シーズン。今年はユーロと五輪もあってオフシーズンが少々長めだったこともあって、随分待ち遠しい気分だった。

この時期には、各チームごとの夏の補強の動きやプレシーズンでの動向を含めた詳細なプレビューがクラブごとに出るものの、それをひとつずつ紹介するのは大変。コンパクトにまとまったもの、かつ移籍関係ばかりに特化しないものがあまり出て来ず、ここで選択したのは「BBC」によるもの。

BBCの各クラブの番記者やラジオ番組担当者が、オフの動きとシーズンの展望を順々に語っている。


++(以下、要訳)++


新たな9ヶ月間の興奮、ドラマ、論争、歓喜と失望への準備はいいか?プレミアリーグが帰ってきた。

王者マンチェスター・シティは、ライバルのユナイテッドの挑戦を抑えることができるだろうか? チェルシー、トッテナム、リバプールは皆監督を変え、昨季からの向上を図っている。アーセン・ヴェンゲルはアーセナルでのタイトル挑戦にどう取り組むのか?

昇格してきたサウサンプトン、レディング、ウェストハムの目標は残留だが、同様に苦しむことも予想されるノリッジ、スウォンジー、ウェストブロムはいずれも新監督を迎えている。

開幕を前にBBCスポーツでは、各クラブの準備状況を分析し、新シーズンに向けた各クラブのガイドとしてここにまとめた(アルファベット順)。

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アーセナル(イアン・ヒューズ氏)

アーセナルには厳しい教訓から学んだ様子が伺えた。

昨シーズンはセスク・ファブレガスとサミ・ナスリの代役を見つけられなかったことが、シーズンがロクに始まらないうちに崩壊してしまう原因となった。プレーヤー・オブ・ザ・イヤーをダブル受賞したロビン・ファン・ペルシがマンチェスター・ユナイテッドへと移籍し、再び最高のタレントを失ったかもしれないが、今回は既に3人の代表選手 -ルーカス・ポドルスキ、オリヴィエ・ジルー、そして中盤のサンティ・カソルラ- を補強していた。

そして守備の脆さが昨季のリーグ49失点となって現れたが、元ガナーズのセンターバックであるスティーブ・ボウルドがその立て直しを担当し、ここにも手が打たれつつある。

加えて昨季をケガで棒に振ったジャック・ウィルシャーの復帰も見込まれ、昨季3位のフィニッシュよりも上に行ける、そして7年間の無冠時代に終止符が打てるという楽観できな見方も正当化できるのではないか。


アストン・ヴィラ(フィル・メイデン氏)

クラブ史上ワーストとなるホームの戦績となったアレックス・マクリーシュとの1年を経て、ファンはポール・ランバートの就任が、ヴィラ・パークに明らかに欠けていた興奮を再びもたらしてくれるのではないかと期待している。

ヴィラはマーティン・オニールの辞任以降、順位表の上位争いに加われずにおり、出費を削ってきているオーナーのランディ・ラーナーも、ランバートにクラブの威信回復を期待しているはずだ。

プレシーズンでも好調だったカリム・エル・アーマディは中盤のキーマンとなりそうで、マクリーシュ時代にボスマン・ルールで加入したブレット・ホルマンも得点力不足に泣いたヴィラの有効な攻撃のオプションだと証明するかもしれない。

チームの移り変わりにはもう1年かかるかもしれないが、ヴィラ・ファンは予算に限りはあれど、今回は将来の成功に導いてくれる監督が来たはず、と望んでいることだろう。


チェルシー(オーウェン・フィリップス氏)

今季は遂にフェルナンド・トーレスが真価を発揮する時になるのか?ディディエ・ドログバの退団とロメウ・ルカクのローン移籍は、ロベルト・ディ・マテオがそう考えていると思わせるものだ。このイタリア人監督はチャンピオンズリーグ制覇によってフルタイムのポジションを与えられたが、リーグ戦での不振は、今季のプレミアリーグで結果を出す重圧となっている。

プレシーズンの成績はお世辞にも良かったとは言えず、才能ある中盤の3人がいたとしても、実証済みの「ドログバ・モデル」からの転換には時間を要するだろう。新加入のオスカルやエディン・アザールがフアン・マタにどうフィットするかは分からないが、トーレスのワントップであれば、上手くハマるのではないか。

明確な右サイドバックがいないものの、チェルシーの守備は安定しているように見え、フランク・ランパードの安定した影響力と疲れ知らずのラミレスのエネルギーは、中盤の良い基盤になっている。トーレスにボールを供給するシステムの確立と、そのスタイルで早期に自信を深めることが、チェルシーの今季のチャンスのカギとなるだろう。


エヴァートン(イアン・ケネディ氏)

エヴァートンを順位表のあれだけ上に届かせたデイビッド・モイーズは、今回も高く評価されて然るべきだし、リバプールより上だったことは、誰もが忘れないだろう。

昨季もシーズンを良い形で終えたことを考えれば、目標は今シーズンをポジティブな形で始め、1月以降の基盤とすることだろう。 それが可能であれば、ヨーロッパの舞台での存在感も維持できるようになるはずだ。

ニキツァ・イェラビッチの獲得で、彼らは直感的な才能を持ち、ドローを勝利に変えることができる男を得た。彼にレンジャース時代のパートナーであるスティーブン・ネイスミスが加わるのは心強い限りだ。

また、スティーブン。ピーナールを完全移籍で再獲得したことも非常に重要で、今季もカップで手強いエヴァートンがソリッドなシーズンを送るだろう。


フラム(ジョン・スタントン氏)

影響力の大きかったキャプテンのダニー・マーフィーがブラックバーンへと去ったのは中盤のクリエイティブな面での穴となっているが、多くのサポーターの懸念は、攻撃の2人、クリント・デンプシーとムサ・デンベレの動向だ。

両選手ともクレイヴン・コテージを去ることが継続的に噂されていて、今シーズンも彼らが残るかどうかがフラムの野心にも大きく影響してくる。

監督のマルティン・ヨルは、励みになるフラムでの1年目を過ごし、 プレシーズンからも若手の登用を積極的に行っている。ケリム・フレイやアレックス・カカニクリッチ、メサといったウィングたちの成長が活力をもたらし、新加入のムラデン・ペトリッチはプレシーズンでもゴールを量産して、長らく変わり映えの無かったチームでも際立っている。


リバプール(イアン・ケネディ氏)

リバプールの今季の目標は、リーグでの戦いぶりを大きく改善することで、恐らくトップ4への復帰を狙っているはずだ。カップ戦での勝ち上がりには勇気づけられたが、プライオリティは常にリーグであるはずだ。

ブレンダン・ロジャースの下でリバプールのスタイルがどう発展して行くかの判断はまだ待たねばならないが、何人かのトップ選手たちの去就は不透明なままだ。ファビオ・ボリーニとルイス・スアレスのコンビがどう機能するかも興味深い。

ロジャースはスウォンジーに華麗なフットボールをもたらしたが、それをチャンスでの決定力と共に持ち込めれば(そしてポストに当てないこと)、 多くのチームがヨーロッパを目指して戦うとは言え、そこでリバプールが競い合えない理由は無い。


マンチェスター・シティ(イアン・チーズマン氏)

夢のシーズンをどう超えるか?

それがシティがやらねばならないことだが、ブルーズがヨーロッパの巨人へと進化して行くのならば、その偉業を繰り返しつつ、チャンピオンズリーグでも終盤まで勝ち残る必要があるだろう。

選手層がいかに強固なものかは既に証明したし、カルロス・テヴィスも非常に集中した態度で戻ってきた。ワールドクラスの選手が新たに加入したようなものだ。移籍市場の締切前に守備と中盤に何人か補強できれば、彼らが去年よりも甘く考えたりしなければ、今シーズンを彼らに賭けないのは難しいだろう。

今のシティのスタッフからは一体感が感じられるし、タイトルの非常に有力な候補だと思う。


マンチェスター・ユナイテッド(ビル・ライス氏)

マンチェスター・ユナイテッドは2006年以来初めての無冠に終わったが、プレミアリーグはライバルのマンチェスター・シティに得失点差で届かずに逃した。

ネマニャ・ヴィディッチもケガから復帰し、彼らは良いシーズンを送って20度目のリーグタイトルを獲得したいと願っているだろう。

新たにボルシア・ドルトムントから1,700万ポンドで獲得した香川真司は中盤から狡猾さと創造性、そしてゴールの脅威をもたらし、トム・クレバリとアンデルソンは彼らのキャリアを妨げてきたケガを今季こそは避けたいと考えるだろう。

その重役を背中で語る役割はいつも通りウェイン・ルーニーであり、 彼のゴールがプレミアリーグの制覇とチャンピオンズリーグの決勝トーナメント進出をもたらすことが期待されている。


ニューカッスル(ラフル・シュリバスタバ氏)

ニューカッスルは昨季のニューカッスルのサプライズであり、セネガル人ストライカーのパピス・シセが1月にドイツのフライブルクから移籍して14試合で13ゴールを決めた昨季の破壊力を維持できるならば、マグパイズは再びヨーロッパの舞台を争うインパクトを残せるだろう。

監督のアラン・パーデューは、主力が引き抜きやケガも無く開幕を迎えることができて胸を撫で下ろしているだろう。そして、昨季の大半を負傷で棒に振ったディフェンダーのスティーブン・テイラーやウィングのシルヴァン・マルヴォーを使うこともできる。

しかしながら、新たに加わったのは将来を嘱望される若手が中心で、選手層の厚さは 懸念材料だ。ヨアン・カバイェやファブリシオ・コロッチーニ、チェイク・ティオテのような主力がケガで長期離脱することが起きれば、昨季の輝かしい進歩も中位争いへと姿を変えてしまうだろう。


ノリッジ・シティ(ロブ・バトラー氏)

ポール・ランバートのアストン・ヴィラへの流出がどれだけのノリッジに影響するかは予測が難しい。監督の座を引き継いだのはクリス・ヒュートンだが、彼はクラブの幹部の第一候補として信念をもって支えられている。彼の最初の任務は、12位で終えた素晴らしい昨季の中で唯一の難点だった守備の穴を塞ぐことだ。

この夏、もうひとつの特筆すべきニュースは、クラブの守護神ともいうべきキャプテンでチーム得点王のグラント・ホルトをキープできたことだ。イングランドの希望でもあるホルトはシーズンの終わりに移籍志願書を出し、昇格してくるウェストハムが興味を示したとも言われている。それでもホルトは心を変え、新たに3年契約を締結した。

カナリーズの主たる目標は今季も残留だろうが、ファンはヒュートンと共にウェンブリーを目指すことを歓迎するだろう。


クイーンズ・パーク・レンジャース(アンドリュー・ラウリー氏)

5月にやっとの思いで残留を果たすと、QPRは同じ状況に巻き込まれないように機敏に動いた。マーク・ヒューズは昨季の後半にもボビー・ザモラ、ジブリル・シセ、ネダム・オヌオハと補強したが、さらにロバート・グリーン、ライアン・ネルセン、パク・チソン、アンドリュー・ジョンソンを加えてチームに経験をもたらしている。

グリーンは退団したパディ・ケニーの位置にそのまま入るだろうし、パクがチームにもたらすものも興味深い。そして昨季欠いていた切れ味をもたらすために、ジュニオール・ホイレットの獲得競争にも競り勝った。昨季66失点の守備の強化には、マンチェスター・ユナイテッドからローンで 獲得したブラジル人サイドバック、ファビオ・ダ・シルバが貢献する。

昨季終盤の15試合で6枚のレッドカードを受けた規律面での改善も今季は見込めるだろう。


レディング(エイドリアン・ウィリアムス氏:ロイヤルズの元キャプテン)

チャンピオンシップで王者に輝き、レディングに復活の時が来た。監督のブライアン・マクダーモットの下で、マデイスキ・スタジアムには6人の新戦力が加わってきたが、そのひとり、ニック・ショーリーは既にロイヤルズのレジェンドとなりつつある。

左サイドバックのポジションは、イアン・ハートにポジションを明け渡す雰囲気は無く懸念する必要が無いだろうし、 ゴールでホームの観客を喜ばせたいと考えているパヴェル・ポグレブニャクには期待をかけて良いだろう。しかし、注目すべきはその相方のジェイソン・ロバーツだ。1月に加入して以来の昨季の勢いを維持したいと考えているだろう。

サー・ジョン・ マデイスキ氏はクラブの51%をアントン・ジンガレヴィッチ氏に売却したが、マデイスキはレディングのファンにクラブは安泰だと伝えている。マッド・スタッド(マデイスキ・スタジアム)の安泰といえば、最初に浮かぶのはアダム・フェデリチの名前だ。今季の多くはこのオーストラリア人ゴールキーパーにかかっているし、公平に見れば皆彼には忙しいシーズンになると考えるだろう。


サウサンプトン(アダム・ブラックモア氏)

セインツは7年の不在を経て、勢いと共にプレミアリーグに帰ってきた。ナイジェル・アトキンスに率いられて2シーズンで2度の昇格は、素晴らしいチーム・スピリットと会長のニコラ・コルテセからの支援の賜物だ。

サポートは今オフも続いていて、ジェイ・ロドリゲスやスティーブン・デイヴィスの補強からもそれはうかがえ、さらにピッチ外でもクラブの長期的な基礎を築いて行っている。

彼らの今季の野望は残留に超えた所にあり、評論家の一部がすぐに降格すると予想しているものの、そうなるとは思えない。


ストーク・シティ(マット・サンドス氏)

ヨーロッパ探検後のストークのシーズン後半は失速に終わり、ポッターズは2008年のプレミア昇格以来最低のポイント数と最低の順位でフィニッシュした。加えて、このオフにはほとんど動きが無かったことから、ファンは降格争いに巻き込まれるのではないかと懸念している。

最初の7試合でトニー・ピューリスがある程度のポイントを確保できなければ、その恐怖心はますます増して行くだろう。最初の難所は、昇格してきたレディングとのアウェー戦、その後の6試合にアーセナル、マンチェスター・シティ、チェルシー、リバプール、マンチェスター・ユナイテッドとの対戦が含まれているのだ。

ストークのこのプレシーズンの過ごし方は、彼らがそのダイレクトなプレー・スタイルを変える可能性は無いということであり、今季もホームでの戦績が残留に大きく影響するだろう。


サンダーランド(ニック・バーンズ氏)

これだけ開幕が近付いても移籍市場で動きが少ないことが、サンダーランドのファンを心配させていることは間違いない。しかし、マーティン・オニールは、自分がどれだけソリッドな選手層を引き継いでいるのかを理解している。

昨季から続いている弱みはストライカーのポジションだが、プレシーズンは再び前線の駒不足に焦点が当たった。コナー・ウィッカム、ジ・ドンウォン、フレイザー・キャンベルというのは答になっておらず、ステファン・セセニョンはストライカーのパートナーを強く求めている。

昨季の終盤13試合で僅かに2勝だったことは懸念材料であり、データの専門家はその流れは今季も続くと考えるだろう。スティーブ・ブルースは、昨季最初の13試合で2勝しかできずに解任された。補強が叶わないのなら、スタートダッシュが肝要だ。それでもオニールは既に実績を証明済みの監督であり、サンダーランドは今季も中位で終えられると見ている。


スウォンジー(サイモン・デイヴィス氏)

スウォンジー・シティは新監督と共にシーズンを迎えるが、それがかつての世界でも偉大な選手の1人であるという点が、クラブの進歩を表している。

それでも、ミカエル・ラウドルップにはタフな任務が待っている。前任者のブレンダン・ロジャースはリバプールに引き抜かれる立派な仕事をした上に、ジョー・アレンをそのままリバプールへと連れて行ってしまった。ローンで加入していたアイスランド人のギルフィ・シグルズソンは新シーズンはトッテナムでプレーすることを選択した。18試合で7ゴールを決めた彼の不在は大きいだろう。

中盤のミチュやジョナサン・デ・グズマンはプレミアリーグは初めてだが、リーガの経験があるし、それはディフェンダーのチコ・フローレスも同じだ。

ブレンダン・ロジャースがスウォンジーの精神的な支柱でもあったことを考えれば、昨季11位を再現するのは非常に難しい。しかし、変化が悪いことだと誰か言っただろうか?


トッテナム(ジェイミー・リリーホワイト氏)

この夏のレーンは全てが変わる。新体制に新ユニフォーム・サプライヤー。アンドレ・ヴィラス・ボアスがトラウマとも言えるチェルシー時代から何を学んだのか、そして過去3シーズンで2度4位に入ったハリー・レドナップよりもチームを改善できるのか、大きな関心が集まるだろう。

チームの質に不足は無いが、ルカ・モドリッチの将来は未解決で、エマニュエル・アデバヨルとは完全移籍で合意できていない。レドリー・キングの引退は痛手だが、ファンの人気が高かった彼に悪い結果をもたらしたのはケガだった。ファンは、ベルギー人のヤン・フェルトンゲンが再びフィットしたマイケル・ドーソンと強力な守備のパートナーシップを築くことを期待しており、ギルフィ・シグルズソンの獲得も抜け目ない補強だったと証明されるだろう。

1月の補強は、スパーズのファンには刺激に欠けるものだったが(30代のライアン・ネルセンやルイ・サハは彼らが望んだ選手ではなかった)、会長のダニエル・リヴィは8月31日の締切前にビッグネームを連れてくることができるはずだ。


ウェストブロム(デイビッド・グリーン氏)

2011-12シーズンは、アルビオンのサポーターには素晴らしい1年だった。ライバルであるウォルヴズとの5-1を含む、数多くのアウェーでの勝利は、ロイ・ホジソンの拙いホームでの戦績を隠すには十分だったし、2シーズン続けて中位で終えることにもつながった。

 ミッドランドで最高位につけるクラブとして脚光を浴びつつも、プレミアでの最高位を記録できるかということになると、依然疑念が残る。元々選手層が十分に厚いのか、代表監督へと去って行ったホジソンの知性が自分のウェイト以上の相手にもパンチを繰り出すことを可能にしていたのかはまだ分からない。

ベン・フォスターというワールドクラスのゴールキーパーがいるし、アルゼンチン人のクラウディオ・ヤコブとチェルシーのロメウ・ルカクの獲得は素晴らしい補強。 今季の行方の多くは、監督としての初仕事となるスティーブ・クラークのハンドルさばきにかかっている。

ファンはカップ戦での勝ち上がりとトップ10フィニッシュを望んでいるだろうが、スタートで失敗すればクラークはその期待に応える難しさを痛感するだろう。


ウェストハム(フランク・キーオ氏)

クラブはプレミアリーグへの残留とオリンピック・スタジアムへの移転という、ピッチ内外でクラブとして重要な局面に入っている。

アップトン・パークのコアな層は、サム・アラーダイスのフットボールのスタイルに疑問を持って「俺達は地面でプレーするんだ」とチャントを送っていたが、プレーオフを経て昇格を達成することで寛容になって行った。

アラーダイスには好スタートを切るチャンスがある。最初の6試合は、昨季のプレミアでトップ8に入れなかったチームとの対戦だからだ。この10年間でハマーズは2度降格を味わっており、ファンはウィガンから獲得したボール奪取能力に長けるモハメド・ディアメのような補強がチームに安定感をももたらしてくれることを期待している。

攻撃面では、アンディ・キャロルの獲得に失敗したことから、マリ人フォワードのモディボ・マイガにかかる期待は大きい。一方で、ゴールキーパーのロバート・グリーンがQPRへと移籍してしまったのは痛手となるだろう。



ウィガン(ポール・ラウリー氏)

ウィガン・アスレティックの、唯一トップリーグから一度も降格したことのないクラブとしてのおとぎ話は、プレミアリーグ8年目の今季も続く。これは15年前には4部相当にいたクラブとしては驚くべき偉業なのだ。

ラティックスは、昨季の終盤9試合で7勝して降格を免れた勢いそのままに今季開幕を迎えたいと考えているだろう。マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、アーセナルを撃破した歴史的勝利快進撃や4-0で圧勝したニューカッスル戦は良い目安になるだろう。

ウーゴ・ロダジェガとモハメド・ディアメはフラム、ウェストハムへと移籍し、ヴィクター・モーゼスもチェルシーへの移籍が繰り返し取り沙汰されている。

リバプールやアストン・ヴィラからのアプローチがありながら、ロベルト・マルティネスは任期4年目に入り 、レアル・マジョルカから同じスペイン人のイヴァン・ラミスを補強し、未開のスコットランドの市場からはアバディーンの19歳、フレイザー・ファイヴィーを連れてきている。


++++

という形で、20クラブ分のBBC担当者のコメントを紹介したけど、順位めいたものが無いと、開幕前の予想としては若干淋しいので、それは「ガーディアン」紙の先週末(なのでRVP移籍決定前)の記事から拝借。順位については特定の記者ではなく、スタッフの平均値で算出しているとのこと。

※カッコ内は(優勝オッズ/降格オッズ)

1. マンチェスター・シティ(2.4倍/3,001倍)
2. マンチェスター・ユナイテッド(3.8倍/3,001倍)
3. チェルシー(6.5倍/1,501倍)
4. アーセナル(15倍/751倍)
5. リバプール(34倍/251倍)
6. ニューカッスル・ユナイテッド(201倍/51倍)
7. エヴァートン(251倍/34倍)
8. トッテナム・ホットスパー(41倍/251倍)
9. QPR(3,001倍/6.5倍)
10. サンダーランド(1,251倍/13倍)
11. ストーク・シティ(3,501倍)
12. アストン・ヴィラ(2,501倍/9倍)
13. ウェスト・ブロミッジ・アルビオン(3,501倍/5倍)
14. フラム(2,501倍/12倍)
15. ウェストハム・ユナイテッド(5,501倍/3.3倍)
16. スウォンジー(4,501倍/3.3倍)
17. ウィガン・アスレティック(6,001倍/2.8倍)
18. ノリッジ・シティ(5,501倍/2.6倍)
19. レディング(10,001倍/2.2倍)
20. サウサンプトン(7,501倍/2.4倍)


なんと我らがスパーズは8位の予想、優勝オッズで見ても6番目。まぁ、期待が低い方が結果は良いかもしれないけど・・・。

Thursday, August 16, 2012

ファン・ペルシ移籍がユナイテッドとアーセナルに意味するもの


プレミアリーグの開幕を週末に控える中で、クラブ間で合意に達したロビン・ファン・ペルシの移籍。マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルの両クラブにどのようなインパクトをもたらすのか。「テレグラフ」紙のマーク・オグデン、ジェレミー・ウィルソンの両記者がそれぞれの側面から描写している。



++(以下、要訳)++

マンチェスター・ユナイテッド

ロビン・ファン・ペルシの加入で、マンチェスター・ユナイテッドには2つのシナリオが想定される - ひとつはポジティブ、もうひとつはネガティブなものだ。

一見すれば、ウェイン・ルーニーが昨シーズンのプレミアリーグの得点王でフットボーラー・オブ・ザ・イヤーと並んでプレーするというのは、ヨダレが出るシーンだろう。

ルーニーとファン・ペルシは1999年のトレブル達成に欠かせなかったドワイト・ヨークとアンディ・コールのような相手を脅かせるコンビとなるだろう。同様に、ルーニーとファン・ペルシは2008年にチャンピオンズリーグをモノにした2トップに比肩するポテンシャルも持っている。しかし、サー・アレックス・ファーガソンのプランの裏側には、パートナーとなるストライカーと必ずしも気分良くプレーできていたわけではないルーニーにファン・ペルシが適応できない可能性もある。

ロナウドと組んでいた時には、ルーニーは自分の攻撃本能を犠牲にする形でこのポルトガル人フォワードを輝かせた。しかし、2009年にロナウドがレアル・マドリッドへと去って以降はユナイテッドの攻撃の中心として君臨しており、26歳のルーニーが脇役としてのプレーを再び受け入れるとは考えにくい。

ルーニーはルート・ファン・ニステルロイの横では滅多にハッピーにプレーできなかったし、ディミタール・ベルバトフやハヴィエル・エルナンデスとは相互理解を確立したものの、彼のベストフォームは攻撃の中心としてプレーしている時だ。

今季は誰がその役割を担うことになるのか?ルーニーとファン・ペルシが並んで2トップを組み、その後ろに1人入る、と考えるのが簡単だろうが、序盤戦は将来を占う意味でも興味深いものになるだろう。

そして、ファン・ペルシの到来は、ダニー・ウェルベックにとって何を意味するだろうか?彼はエルナンデスと3番目のフォワードの座を巡って争うことになるだろうが、この2人は1999年でいう所のオーレ・グンナー・ソルシャールやテディ・シェリンガムのような貴重な戦力になるだろう。

2010年の10月にルーニーがクラブの野心に疑問を投げかけた時、ファン・ペルシと組むことなど 想像できなかっただろう。今のルーニーにとってのチャレンジは、それを機能させることだ。


アーセナル

それは2010年だった。それまでも何度もアーセナルの基本的な戦略について弁護させられてきたアーセン・ヴェンゲルの我慢が少々崩れた。「我々はただ売るためにこれだけの時間をかけて選手たちを育てていると思っているのか?」というその表情からは、他のクラブが彼の最高の選手たちを引き抜くなどとは考えてもいない様子だった。

やがて、ヴェンゲルは彼の、若い選手たちが共に育ち、共に指導を受け、共に輝きを放つ、というヴィジョンは、彼らが将来のアーセナルについて同じ展望を持っているかどうかに依存する、ということを渋々認めるようになった。しかしながら、セスク・ファブレガスやサミ・ナスリ、そしてロビン・ファン・ペルシのような選手たちは、同様にクラブの将来にコミットしてくれると信じて疑わなかった。そして2年が経ち、我々は若干ことなる答を目にしている。

選手たちの忠誠心はアーセナルに対してではなく彼ら自身に対してであり、それは残念なことでもあるが、この先もヴェンゲルに「そうではない」と考えるのはナイーブ過ぎると伝えに来る者が出てくるだろう。

アーセナルはケガがちな29歳で2,400万ポンドの移籍金が得られるのは見事なビジネス、と確信を持って主張することもできるだろうが、それでもファン・ペルシを失うことは過去の退団劇よりもダメージが大きい。ティエリ・アンリ、パトリック・ヴィエラ、ソル・キャンべル、あるいはニコラ・アネルカの場合でさえも、彼らの最高の時期はもう超えた、という感覚があった。ナスリの場合には、金の問題だと勘繰らないのは難しかった。ファブレガスの場合も、彼の過去のバルセロナへの愛情が理由だった。

ファン・ペルシの場合、これらのいずれも当てはまらないのだ。彼はいまキャリアのピークにあり、ヴェンゲルは彼に残って欲しいと考えていて、彼は億万長者が資金を注入しているクラブに行ったわけでもない。

アーセナルが重視する育成を軸にしたモデルを固持するという意味で、ユナイテッドは直接のライバルにあたる。ファン・ペルシが去ったのは、多くのサポーターと同様にアーセナルの選手層は、主要タイトルを勝ち取るにはもはや十分ではない、と考えたからだ。

ヴェンゲルが彼の監督キャリアを守る上で重要で決定的な挑戦は、ファン・ペルシが間違っていると証明することだ。

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日本で話題となってる香川のポジションの話は全く出てこなかったが、むしろルーニーの「現在の」キャラクターがファン・ペルシとどうフィットするか、というところがポイントとなってくるんだろうな。個人的には完全に居場所のなくなるベルバトフの処遇。あとはアーセナルがこの資金で補強をするのかどうか。これまでの流れだと、いったんこれで様子を見るんじゃないか、って気もするけど。

Friday, July 20, 2012

トッテナム・サポーターの心に残り続けるレドリー・キング

引退を表明したスパーズのレドリー・キング。スパーズのファンにとっては、いつか来てしまう、しかも最近のケガの状況を考えれば近いもしれない、とここ数年感じていたことではあったが、今季は欠場もしつつ、一定のサイクルでコンスタントに出場していつも通りの素晴らしい守備を見せていただけに、少し先に延びるのではないかと、個人的に期待したりもしていた。

潮目が変わってしまったのを感じたのはアウェーのシティ戦。バロテッリに決勝点となるPKを献上した試合だったけど、これ以降、出場できた試合でもパフォーマンスが落ちて行って、ホームで敗れたQPR戦を最後に姿を見ることはできなくなってしまった。

今回ピックアップしたのは、キングの引退に寄せた「インディペンデント」紙のジェームス・マリナー記者のエッセイ。普段はデータに強いマリナー記者は、ホワイト・ハート・レーンのシーズンチケット・ホルダーでもある。



++(以下、要訳)++

"Ledley's gone"(もうレドリーは戻ってこない)。我々が決して聞きたくはなかった言葉だ。ホワイト・ハート・レーンの外側の人間の多くはレドリー・ブレントン・キングの終焉を予感してはいたが、その3語をサウス・スタンドの下フロア(訳注:ホワイト・ハート・レーンで一番「熱い」エリア)で肩を並べ、自分たちがキングを最も良く知っていると感じている仲間内から聞くと、トッテナム・ホットスパーで最も偉大な選手の1人の終わりがすぐそこまで来てしまったことが、痛いほど明らかになった。我々は、いつかは受け入れねばならないとしても、決して起きて欲しくはないと願っていた現実に直面させられた。いつか遠くのある日が、突然やってきてしまったのだ。

イースターの月曜日、トッテナムのチャンピオンズリーグへの野心がポール・ランバートのカナリーズに手痛い一撃を食らった試合で、キングがアンソニー・ピルキントンやグラント・ホルトに走りまわらされている姿は、我々のリリーホワイトの信念を打ち砕くには十分だった。その後、31歳のキングは、ともに敗れたチェルシー戦、QPR戦に出場したが、そこまでだった。我々は終わりにしなければならない、と目を見開かされた。元はと言えばデビューから5ヶ月後の退屈なダービー戦まで遡ることになる膝の負傷が、遂に偉大な男に幕を下ろさせることになった。

ホワイト・ハート ・レーンでの13年間を通じて、キングは単なるトッテナムの「キープレーヤー」の域を超える存在となるに至った。レドリーは落ち着きを呼んだ。レドリーは安心をもたらした。レドリーは栄光を勝ち取る機会を高めた。レドリーはディフェンス・ラインを仲間と共に率いて、マイケル・ドーソンに代表される若い選手が自信をつけるのを助けた。彼は323試合に出場した - もっと出られたはず、片手で数えられてしまう。アンフィールドでリバプールに2-3で敗れた1999年5月の試合でデビューしたが、その真価を見せつけたのは、ジョージ・グラハムに中盤で起用された翌シーズンのリバプール戦だ。当時20歳の彼が11月の昼下がりに見せた落ち着きとバランス感覚は多くの人々の注目を集め、誰もが彼は偉大な選手になるとすぐに考えた。数週間後、彼はブラッドフォード戦で開始10秒でゴールを決めた。これは現在も破られていないプレミアリーグ記録だ。すぐにイングランド代表にもデビューし、3試合目、ヨーロッパ選手権でホスト国のポルトガルと1-1で引き分けた試合ではゴールも決めた。リオ・ファーディナンドがメンバーから外れざるを得なかったことが、キングにこの大会で輝く機会をもたらした。グループリーグ初戦のフランス戦では、シネディーヌ・ジダンに決められるまでは、イングランド好スタートの立役者となるようなプレーぶりだった。結局キングは代表では僅かに21試合の出場にとどまった。しかし、ファビオ・カペッロは、多くのスパーズ・ファンの希望に反して彼のメンバー入りに熱心で、2010年のワールドカップのチームにもキングを加えた - 開幕戦の45分しかもたなかった。

そのプレーぶりと疑いのない才能は、ファンにとって苦痛だった2001年7月のソル・キャンベルの退団劇を受け入れるのも容易にした。キングはキャプテンに任命され、相手にも一目置かれるようになった - ティエリ・アンリは、キングを「ファウルをしなくて、それでいて僕の足下から簡単にボールを奪える唯一の選手」評していた。彼がクラブ勝ち獲った唯一のトロフィーは2008年のリーグカップだ。彼がチェルシーを倒すのを率い、新しいウェンブリーの階段を上って行く姿は、彼の全ての貢献に報いるものだ。また、2010年にクラブが半世紀ぶりにチャンピオンズリーグの舞台に返り咲くのにも大きく貢献した。フラム戦でハムストリングを痛めてからは3試合しか出場することができなかった - 日常的にトレーニングができない結果だ。酔った時の行動で逮捕されても、ファンは「楽しんでんだな」と笑って受け入れた。スパーズは長期的な代役を探し始めていて、ユネス・カブールの堂々たるプレーぶりやヤン・フェルトンゲンの獲得は、我々がこうしてキング引退の報を耳にする根拠でもあった。今シーズンの終わりには彼の引退記念試合も開催されるし、サポーターの記憶から簡単に消え去ることはないだろう。この男を、このレジェンドを、キングを。



++++

昨シーズン序盤のプレーぶりには励まされたし、実際キングが出ると失点しないし、負けない、っていう結果も出てたけど、良いことばかりは続かないんだな、やっぱ。ウッディに続いてキングも去るとなると、ひと時代に区切りがつく気がするな、やっぱ。

Saturday, July 7, 2012

マンチェスター・ユナイテッド、ニューヨーク上場の狙い

留学中のファイナンスのクラスで、「トピックは好きに選んで良い」言われたレポートがあって、その時は大マジメにイングランドのフットボールにおけるおカネの流れについて勉強した。元々関心はあったのだけど、あらためて色んな指標をクラブごとに比べてみたり、日本のクラブと比較すると結構面白い。負債の定義の仕方や種類にもよるけど、アーセナルとかはキャッシュの流れとか見ても基本的にクラブは健全経営、ただし、スタジアム建設に関わる負債は身動きを取りづらくしてるし、マンチェスター・ユナイテッドは利率の高い負債が大きく、その利子の返済が財政を圧迫、シティやチェルシーは人件費総額が入場料収入を遥かに上回っていて、そもそも経営のモデルとしては成り立っていない。

そんな中、最初は香港やシンガポール等、アジアでの上場を目指すと言われていたマンチェスター・ユナイテッドが、ここに来て上場先はニューヨークになりそう、という記事が出始めている。上場の目的自体は、負債に利子の無い株式を当てこむことでのバランスシートの改善と考えられるが、自分の勉強も兼ねて、ロイターの記事を選択。




++(以下、要訳)++

マンチェスター・シティに頂点を奪われた昨シーズンを受け、マンチェスター・ユナイテッドがニューヨーク市場への上場によって負債を軽減させ、トップクラスの選手への投資資金を得る計画を立てている。

NFLのタンパベイ・バッカニアーズのオーナーでもあるアメリカ人のグレイザー一家は、議決権付き株式を活用した米国への上場によって、19度のチャンピオンに輝いているこのグラブを掌握し続ける。

クラブは今回の上場で1億ドルを調達し、4.23億ポンド(6.63億ドル)に及ぶ負債を軽減するための申請書を提出した。これは現時点での見通しであり、株式の発行数は増える可能性も残されている。

ユナイテッドは6.59億人に上る世界のファンのうちの多くがいるアジアの市場で上場して10億ドルを調達する計画だったが、これを取り下げてイングランドのフットボール・ファンの少ない北アメリカへと上場場所を移したニュースは驚きをもって受け止められた。

しかしながら、最近のアジア市場の不安定さは、フォーミュラ・ワンを含む、他の多くの上場を遅らせている。また、アメリカの投資家たちは、今回ユナイテッドが計画している議決権を分けた形の上場にも慣れている。今回発行されるクラスAの株式は、2005年に7.9億ドルでクラブを買収したグレイザー一家の10分の1の議決権しか持たないことになっている。

ユナイテッドは火曜日にアメリカ証券取引委員会(SEC)に提出した申請書の中で、「プレミアリーグでは、潤沢な資金を持つオーナーからの投資を受けたチームが、トップクラスの選手やコーチング・スタッフを揃え、国内、そしてヨーロッパでより良いパフォーマンスを見せている」と述べている。

1878年に設立され、ジョージ・ベストやボビー・チャールトン、デイビッド・ベッカムを輩出しているマンチェスター・ユナイテッドは、 重厚な目論見書を提出してはいるが、実際の上場のタイミングや株式発行数の規模については明らかにしていない。

クラブの昨年3.31億ポンドの収入を上げているが、グレイザー一家が背負った負債の影響で、5,100万ポンドの財務コストがかかっている。


テレビ放映権の影響

ユナイテッドは最近「Forbes」誌に世界で最も価値のあるスポーツ・チームにランクされた。イングランドのタイトル獲得数がトップであるだけでなく、ヨーロッパ王者にも3度輝いている。

この成功は、クラブに世界中でそのブランドを売り込むことを可能にした。商業パートナーを世界72カ国に持ち、アメリカのスポーツウェア・メーカーのナイキ、ユニフォーム・スポンサーとなったエーオン、トルコ航空、シンハービール等と提携している。

申請書の中では株主への配当は計画していない、と記しており、それを期待する人々は株式の購入に二の足を踏むだろう。

ルイス・シルキン社の弁護士で、スポーツ産業に詳しいカリシュ・アンドリュース氏は 「一部の投資家は単にマンチェスター・ユナイテッドの一部を保有したくて株式を買うだろうが、多くの投資家はクラブの価値が上がって行くかどうかを推測するだろう。最近のプレミアリーグの放映権入札や、それに関連する追い風を見れば、グレイザー一家が投資家たちに株価が上がっていくと思わせるには良いタイミングだったのだろう」と語った。

20チームからなるプレミアリーグは、テレビ放映権料の更改交渉で70%の増額を勝ち取り、3年間で30億ポンド以上を得ることになる。

ユナイテッドは5月に国内のタイトル争いで、アブ・ダビを率いるシェイク・マンスーとう資金を得たシティに敗れた。ヨーロッパのチャンピオンズリーグでも早期に敗退し、2005年以来の無冠で収入は大きく減少した。

ファンは、今回の上場でクラブがかつての支配力を取り戻すことを期待している。ロビーイング・グループであるマンチェスター・ユナイテッド・サポーターズ・トラスト(MUST)のトップであるダンカン・ドラスド氏は「仮に調達額の多くが負債の解消に充てられるのであれば、我々としても歓迎であるし、負債がクラブにダメージを与えているという我々の考えの正しさを証明することになる」と語っている。


ファーガソン・ファクター

ユナイテッドは1990年代にロンドン株式市場(LSE)に上場していた数多くのクラブのひとつだった。しかし、結果に左右されがちな産業に、投資家たちの関心はすぐに薄れて行った。

クラブの直近の成功は、1986年からチームを率い、現在70歳になるタフなスコットランド人、アレックス・ファーガソンによってもたらされたものだ。

申請書にも「現在の監督のいかなる後継者も、現在の監督よりも成功することはないだろう」と書かれており、やがて来るファーガソンの引退が抱える困難を警告している。フォーミュラ・ワンにおいても後継問題は深刻で、商業面での成功をもたらした81歳になるバーニー・エクレストンを引き継ぐのは困難と見られている。

上場後もクラブのメインの株主は84歳のマルコム・グレイザーと6人の子供たちだ。新たに設立された持株会社がケイマン諸島に登記されており、敵対的買収も困難になっている。申請書にも、「あらゆる合併、買収もしくは融合は、役員会の積極的な同意が必要となる」と書かれている。

マルコムの息子であるジョエルとアヴラムがクラブの共同会長で、イギリス人のデイビッド・ギルが2003年以来CEOだが、ギルがかつてはユナイテッドの財務部長だった。

申請書からは、4月に返済されているものの、グレイザー一家が2008年の12月にクラブから1,000万ポンドを借り出したことも明らかになった。

「融資の条件は、我々が第3者から融資を受けていた場合に適用されたであろう条件よりも、我々にとって好ましいものであったと考えている」

++++

という感じで、詳細が明らかにならない中での現状のまとめ記事、という印象。それでも、単に上場の話だけ出されるよりは、放映権料や監督後継問題のリスクとつなげてくれた方が理解はしやすいってもの。通信社らしく味気ないのが通例のロイターにしては珍しくそれなりに編集された記事。

オマケ:アメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」 もしっかりこの辺は取り上げてる。

Saturday, June 30, 2012

柔軟性を欠いたイングランドの「遅れ」

ユーロ2012でのイングランド代表は、直前でのファビオ・カペッロ辞任もあり、今までにない期待値の低さで大会入りした。決勝ラウンドには勝ち上がったものの、イタリア相手に防戦一方でPK戦となり、ベスト8で散って行った。

まとめ記事も大量に出回っていて、イングランドにもピルロがいれば上に行ける、というようなものから、4-4-2の限界、さらには根本的な技術の不足を指摘して育成段階からの改革を唱えるものまで、議論好きのイギリス人はとことん語っている。

ここで選んだのは、プレミア最終節でのスタジオでの絶叫も記憶に新しい、元アーセナルのポール・マーソンによるもの。普段のリーグ戦の勝敗予想とか、このオッサン、テキトーだな、と思わせるものも多いんだけど、このコラムは割と納得のいくもの。

 
++(以下、要訳)++

人生の中のどんな仕事であれ、柔軟でなければならない

あなたが装飾をするペンキ屋で、家のペイントを違う方法でやってくれ、と言われればそうしなきゃいけない。あなたが建築家の場合も同様で、違うタイプの家が良い、と言われれば、そうすべきだ。

ロイ・ホジソンは優秀な監督で人間的にも素晴らしいが、イタリア戦ではただ柔軟性に欠けていた。彼は厳格な4-4-2に臨み、イタリアが襲いかかってきても、それを変えることはなかった。

試合を動かしているのがアンドレア・ピルロだ、ということは試合が始まってすぐに明らかになった。世界を旅した経験ある監督として、そのシステムが誤りであると気付いて、変えねばならないことにも気付いたはずだろう。

誰かをピルロにつけねばならない。彼がどこにいても自由に動き回ってパスを出せるような状況は好ましくない。私は44歳だが、それでも誰も寄せて来ないなら、今でもトップレベルでフットボールをすることができるし、この試合のピルロほどのスペースを与えられれば、どこにでもボールを出すことができる。

我々は何かを変えねばならないのだ。中盤には3枚必要で、ジェームス・ミルナー を真ん中に置いてピルロに付けるべきだった。ミルナーのキャリアを振り返ってみれば、彼が一番良かった時期はアストン・ヴィラ時代であり、その頃の彼は中盤の真ん中でプレーしていた。右ウィングではない。

ミルナーはハードワークができるが、国際レベルのウィンガーではない。それでも、彼に「ピルロにつけ」と指示するのは難しいことではなかった。ピルロは33歳、もう走れないんだ! 実際、去年ACミランからはタダで放出されてる選手だ。

イタリアが決勝でスペインとやることになれば、ピルロは10回とボールに触れることはできないだろうし、試合終了前に交代させられるはずだ。 しかし、彼は我々に彼のショーを見せつけ、PKは彼がいかに自信を持っているかを証明しただけだった。

私がプレーした監督の中で、一番の戦術家はジョージ・グラハムとハリー・レドナップだった。彼らはアーセン・ヴェンゲルのような監督たちよりも頭一つ抜きんでていた。

ハリーだったら、このことにはすぐに気付いていただろう。彼だったらピルロを自由にさせ続けるようなことはなかった。心配なのは、ホジソンがそれに気付いているようには見えなかったことだ。


後方遥か彼方

ただそこに座って「イングランドは不運だった」などということはできない。私は、我々は100万マイル遅れをとっていると感じている。

私はあのイタリア戦からポジティブな気持ちにはなれなかった。相手は、今年に入ってからアイルランドに勝つまで勝てなかったチームだったが、グループリーグの3試合で見せた良いプレーは姿を消してしまっていた。

フェアに言っても、私やこのコラムを読んでいる皆さんも、グループリーグの試合からはそれを感じ取っていたはずだ。フランスは悪くないチームだったが、スウェーデン(ズラタン・イブラヒモビッチ以外に、イングランド代表に割って入れるメンバーがいただろうか?)やウクライナは、ワールドクラスには程遠い。

イタリア代表の面々のうち、半数はイングランド代表にも入れるだろう。 多くてもだ。それでも彼らは31本のシュートを我々に浴びせた。来週バーネット(訳注:4部相当のロンドンのクラブ)がオールド・トラフォードを訪れても、それだけのシュートは打たれないだろう。

いずれにしても、我々にはワールドクラスのセンター・フォワードがおらず、どうやったって大会を勝ち抜くことはできない。(私はルーニーをセンター・フォワードだとは思っていない。彼は10番の選手だ)

最前線にワールドクラスが必要なのであり、それはアンディ・キャロルでもダニー・ウェルベックでもない。ジャメイン・デフォーは今でも我々の最高のセンター・フォワードであり、彼がなぜ出番を得られないのかは、私の理解を超えている。

それともうひとつ。彼であれば、確実にPKキッカーに名乗りを上げていただろう。

キャロルがそうしていなかったとしたら、デフォーは困惑しただろう。3,500万ポンドの男がPKを蹴りに行かないなんてことがあり得るだろうか?10歳でニューカッスルの日曜早朝フットボールでプレーしている頃から、彼の仕事はゴールを決めることだったはずだ。それでも彼はPKキッカーにならなかった。

ミスをしたのは残念に思うが、アシュリー・コールが蹴ったことに異論はない。しかし、問題はそこではなく、彼は世界最高の左サイドバックではあるが 、彼の仕事は相手を止めることであって、ゴールを決めることは彼の自然の所作ではないということだ。

キャロルは3,500万ポンドでゴールを決めるために連れて来られた選手であり、PKの1番手には最高の選手を持ってくるものだ(リオネル・メッシを順番が回ってくるかも分からない5番手にはしないだろう)。

そして、この点で誰に自信があったのか、という議論を私に吹っ掛けることはできないはずだ。キッカーとなったアシュリー・ヤングは悪夢のような3試合を送っていたからだ。


才能

我々がこの先どこに向かうのかは分からない。

アカデミーについて語る者も多い。ここには何百万ポンドもの資金がつぎ込まれているが、そうしたアカデミーに目を向けてみれば、経験のない18歳が子供たちを指導している、という場面に度々遭遇する。

そして、才能は教えられる類のものでもない。私は、ウェストハムにいた若きジョー・コールと対戦した時のことを今でも覚えているが、息をつく暇も無かった。彼は私に色々仕掛けてきたが笑うしかないくらい素晴らしかった。

今の彼を見てみろ。彼がボールを持てば、 ホールは完全に彼のものだ。FAのコーチング・マニュアルを見てみれば、我々が次のジョー・コールを作れはしないことはすぐに分かるだろう。若い選手が出てきているのか、私には良く分からないが、いたとしても、それは決して指導の賜物ではないだろう。

そろそろ自分たちの強みを発揮することを考えるべきだろう。毎週土曜日、プレミアリーグでは早いテンポでプレーし、シュートやクロスがそこかしこから飛んでくる。しかし、代表レベルになると、途端にパスを40本つながねばならないと考えてしまう。イタリア戦、我々はパスを3本つないではボールを失っていたじゃないか!

自分たちの強みを使ってプレーすべきだ。私はテレビの解説者であり、誰も私に脳の手術ができるとは思わないだろう。フットボールだって同じことだ。

今の我々は落第だ。ワールドカップに出られるとすれば、進歩はしているだろう。シンプルなことだ。しかし、ワールドカップで優勝できるとはとても思えない。ブラジルで大会を制することがあれば、それは過去最大の奇跡だ。


マーソンの意見

泣きごとを言うような状況ではないが、それでも今の我々が十分だとはとても言えない。それは明白なことだ。そして、ワールドカップの予選を控え、我々はもっと柔軟になる必要があるのだ。


++++

確かに時間は無かったのだけど、大会が始まる前からチャンピオンズリーグでのチェルシーにあやかるかのように、「気持ちのこもった鉄壁守備」がメディアでも前面に出てきて、その期待値の低さも相まって、試合を支配できないことが前提のようになってはいた。

守備の約束事をまず決めて、そこから先は前線任せ、ってのが今回の基本だったと思うし、4人の2ラインはホジソンがウェストブロムでも散々見せていた形だった。それを高く保てなかったのは勿論習熟度の違いも影響したと思う。アシュリー・ヤングを重用しながら、フォワード扱いで起用したのも、ウォルコットが先発しないのも、2ラインでのブロック作りを優先したからだろう。

確かにフレキシブルには程遠かったけど、選択肢も無かったのだろうな、ホジソンには。

Tuesday, June 19, 2012

トッテナム会長ダニエル・リヴィがハリー・レドナップ解任で広げた「大胆不敵さ」

個人的には起きて欲しくは無かった、トッテナムのハリー・レドナップ解任劇。会長のダニエル・リヴィとの関係がギクシャクするのは今に始まったことではなく、一度はイングランド代表監督就任が既定路線になり、契約が残り1年という状況も相まって、「いま投資をしないのは次期監督のために資金を留保してるんだな」と理解し、ギクシャク感が露わになることも無いだろうと思っていた。
※この辺のギクシャク感は、昨年8月の「ダニエル・リヴィ会長の瀬戸際戦略がスパーズにもたらすリスク」を参照。

ところが後半戦の失速に加え、ロイ・ホジソンが代表監督に就任、リヴィが「この監督を残すか考えものだな」と熟慮を始めたのも分からなくもない。それでも大ナタを振ったな、というのが今回の印象なんだけど、そのリヴィの人物像的な所に焦点を当てた「テレグラフ」紙のマシュー・ノーマン記者のコラムが今回のネタ。ちなみにこの記者、普段は食品関係が専門で、今回この記事を書いているのはスパーズのファンだから。




++(以下、要訳)++

スポーツの世界では恐れを知らないことは、他の公の分野と同様にさしたる武器とはならない。それが必要な時に発揮されれば、その称賛は、義務であり権利でもある。

 ということで、トッテナム・ホットスパーの虜になっている皆さんに代わって言うならば、ハリー・レドナップを解任した会長のダニエル・リヴィを祝福しよう、といったところだろうか。

この信じ難いほどに勇敢な決断を下す要因が何だったのか、正確な所は不明のままだ。ハリーの脱税疑惑が無罪放免となって代表監督の筆頭候補となった後の失速 -チェルシーのチャンピオンズリーグの優勝で、スパーズが来季その場に立てなくなったことも- が理由ではないか、と推測することはできよう。

もしくは、個人的な敵意について考える者もいるだろう。リヴィは見せるうわべの無表情の下には、コックニーの魔術師が称賛されることに対する彼のエゴの傷があるのかもしれない。

私は、モー・モウラムが労働党集会でスタンディング・オベーションを受けた時に、ブラックプール・ホールにいた。その時のトニー・ブレアの冷淡にひきつった口からは、彼女の内閣での日々はそう長くないであろうことが明らかだった。

この例えは、皆の中でも、リヴィのスパーズ内部での強力な仕事ぶりを好まない方々には困惑すタイプのものだろう。なので、ここで複雑怪奇な彼の思考プロセスを理解するためにスペースを無駄に使うよりも、彼の象徴とも言うべきその大胆さを象徴することで筆を進めたいと思う。

例えば、これだけ失敗が明らかになっても、「フットボール・ディレクター」に監督を括りつける実験をやめようともしない。

あまり勇猛とも言える性格でもなく、まずはグレン・ホドルとデイビッド・プリート、そしてジャック。サンティニとフランク・アネルセン、さらにマルティン・ヨルとダミアン・コモッリで重ねてきた悲劇に怖気づいてもおかしくはない。そして、それはファンデ・ラモスとコモッリでも繰り返された。

そして、ディミタール・ベルバトフの移籍騒動でマンチェスター・ユナイテッドから最大限の移籍金をむしり取る努力をして、気がつけば代わりのストライカーの補強には遅過ぎ、スパーズをリーグの順位表の底に落とした時に、遂に彼はその戦術を諦めた。そしてハリーを雇い、彼に誰にも邪魔をさせずに仕事をさせた。



結果はすぐに出て、レドナップがギャレス・ベイルやルカ・モドリッチの眠っていた才能を呼び起こして開花させたのは特筆に値するものだった。

クラブ唯一のチャンピオンズリーグ出場では準々決勝進出の輝かしい歴史を作り、今季もシーズンの3分の2は好印象の結果を残し、そのクリエイティブなフットボールはマンチェスターの2強による支配よりも印象に残った。

この夏にベイルとモドリッチの退団も予期される中、ハリーがチームの基礎を作ったと言えるのかどうかは分からない。スパーズはスパーズであり、脆さと自滅はDNAとして埋め込まれているようだ。

それでもひと月前にはマンチェスター・シティにも同じことが言えていた可能性もあるし、戦術的な限界はあったとはいえ、ハリーは60年代とは言わないまでも、80年代以降では比較にならないほど独創的なフットボールを作り上げた。そんな監督をかくも曖昧な根拠で解任してしまうには、よほどの先見性が必要で、冷淡、無知、そして明らかな不愉快さや不注意な愚かさと取られてもおかしくはない。

前兆はあまり前向きなものではない(特に、ヨルで同じことをした時は、ラモスは混乱しながら辛うじて1年しかもたなかった)が、今回は違うのだろう。リヴィ氏が誰を選ぶのであれ、後任はハリーが残したトップ4という実績とファンが求める優美で華麗なスタイルに応えるのに苦しむだろう。中位に彷徨うクラブへの逆戻りは、ハリーを対岸の王子に仕立て、リヴィへの恨み節になる、というのは決して言い過ぎではないだろう。

しかし、憂鬱なトーンで終えるのはやめておこう。数多くの監督人事での失敗を経て、これだけ際立った成功さえ追いやってしまうのは予想以上の大胆さだ。我々は、ダニエル・リヴィの勇気が、それに値する結果をもって報われることを祈るのみだ。

++++

オーナー、会長といえば、チェルシーのロマン・アブラモビッチも記事にはなるけど、ダニエル・リヴィもそのキャラクターが記事になるという意味ではかなりのもので、ハリー・レドナップを解任した今回はなおさら。

確かに後任は、トップ4でも解任された監督の後任、ってことでどうしても比較はされてしまうね。良い時代がやってきますように!

Saturday, June 9, 2012

リネカーが見る、ユーロのイングランド代表

普段はBBCの『Match of the Day』で土曜の司会を務めているギャリー・リネカー。このユーロに際してもBBCでスタジオの進行を務めているが、今週「テレグラフ」紙にコラムも書いてた。いよいよ開幕のユーロに臨むイングランド代表について、「代表に深みは無いかもしれないが、希望はある」と題して。



++(以下、要訳)++

ユーロ2012に臨むイングランド代表への期待が低調な中、負け犬のメンタリティがロイ・ホジソンの率いる代表メンバーを、ヨーロッパの舞台での彼らには珍しい平均以上のパフォーマンスを発揮させることになるかもしれない。

新聞の論調であれピッチでの姿であれ、これはメジャー大会に臨む史上最弱のイングランド代表だ、ということはできるだろう。ポーランド、ウクライナでの選手たちには、我々が最悪だった92年のスウェーデンでのユーロ以来、最も希望が無いのではないか。

それでも、ホーム・アドバンテージのあった96年以外、我々はこの大会で躍動したためしがない。過去数年に見せてきたポテンシャルは抜きにしても、我々は、我々自身の期待を上回れるのだ、ということに気付くことができるかもしれない。

国中見渡しても、期待の低さは否めないところだ。ムードは非常に現実的で、ユーロ2012に希望を見出しているのは、筋金入りのコアなサポーターたちだ、といった見立てだ。仮に負け犬として持つべき態度に適応できるなら、そうした考え自体、我々にはプラスに働くかもしれない。 仮に我々がガッチリと守りを固めるようなスタンスで堅い戦いを挑む - オープンに戦って1-4でドイツに敗れたワールドカップとは異なる - なら、チャンスはあるだろう。2004年のギリシャ、20年前のデンマークが証明したように、職人揃いでもなく、数多くのワールドクラスの選手に恵まれなかったとしても、こうした舞台で「うまくやる」ことはできるのだ。

この大会は素早く勢いに乗って、グループリーグの試合に優先順位を付けて行かねばならない。ワールドカップと違って、ウォームアップの時間は少なく、徐々に調子を上げて行く、というわけには行かないのだ。 早速フランスとのタフな試合が控えているし、月曜のその試合で何かを得ることが非常に重要だ。引き分けに持ち込むことができるのならば、それは我々が比較的良い調子なのだと私は信じることができよう。

期待値が低いということは、多くの予想を上回るプレーを見せられるという意味でも追い風になるだろう。 その上で、依然としてスペインのような才能あるチームを倒すのを想像するのは、ウェンブリーでそうできたとしても難しいだろう。その試合のデータに少しでも目をやれば、我々があの日いかに幸運だったかを思い出すはずだ。

いまの状況で考えれば、イングランドが決勝ラウンドに到達できたとしたら、それには敬意が払われるべきだろう。最高の選手たちのうちの何人かは30歳を超え、若手選手の多くはまだこのレベルの舞台に臨む準備が整っているとは言い難い。そのちょうど真ん中にウェイン・ルーニーがいるのだが、グループリーグの最初の2試合には出場できない。少なくともジョー・ハートを見るに、我々にはワールド・クラスのゴールキーパー - ここのところお目にかかることも無かった - がいると考えることができる。

しかし、私はこのチームにもっと深みが欲しい。モダン・フットボールではなかなか2トップでのプレーは難しく、それはホジソンがノルウェー戦で試みたことからも分かる。

予測がしやす過ぎるのだ。オスロでの試合では、アシュリー・ヤングには十分な自由が与えられず、中盤はアンディ・キャロルに向けたロングボールを強いられ続けた。我々はボールキープも十分にできたとは言えず、しばしば相手にボールを奪われた。それでも、ホジソンはここまで第2の手段を試し続けており、先発の11人がもっと良くならないかと、皆も願っているだろう。

私のもう一つの懸念は、4ラインでなく3ラインでのプレーを選択した場合、相手にその間のスペース、特にディフェンスと中盤の間を使われやすいのではないか、という点だ。我々が極めて深く引いてプレー - それはそれで明白な問題を生むが - すれば、大きなギャップができ、前線をサポートすることは極めて困難になる。チャンピオンズリーグでのチェルシーはこのアプローチで成功できたが、バルセロナ相手にもバイエルン・ミュンヘン相手にも信じ難いほどの運に恵まれたのも事実だ。つまり、完全にそれをアテにすることなどできないということだ。ホジソンが彼自身の戦術を広めていくと、ストライカーたちの一人には、中盤深くに下がって必要に応じて中盤を助けることを求めるようになるだろう。

もちろん、イングランドがワールドクラスのフォワードの選択には恵まれていないというのも事実だ。我々が持つ、たった1人のワールドクラスであるルーニーは、大事な最初の2試合を欠場する。とても理想的なシナリオとは言えないのだ。監督はバックアップとしてキャロルやダニー・ウェルベックを呼ぶことはできた。しかし、彼らに大きなポテンシャルがある一方で、どんなに想像を働かせても彼らが完成品だとは言えないだろう。ホジソンは身動きが取れない状態だとも言える。ジャメイン・デフォーは良いストライカーだが、彼はトッテナムでレギュラーを勝ちとってはいないし、キャリア全体を見れば、3試合に1ゴールのペースが良いところだ。それではワールドクラスのゴールスコアラーとは言えないだろう。私はデフォーが好きで彼のクオリティ、特にそのシャープさには敬意を持っているが、ゴールを量産するとも思えないのだ。

この流れで考えれば、我々にはとにかくルーニーが必要だ。彼がベストの状態ならば、違いを見せるだろう。特に後半戦はマンチェスター・ユナイテッドで素晴らしいシーズンを送ってきたし、彼がフランス戦もスウェーデン戦も出られないというのは非常に残念だ。 キレたりせずに落ち着いている、という意味では彼はより成熟するということを学んだ。彼が今季受けたイエローカードは、最終節のサンダーランド戦の1枚だけ、ということは忘れるべきではないだろう。モンテネグロでの愚行でレッドカードを受けたのが同じシーズンだということも。彼の父親は同じ週にサッカー賭博に関わる裁判を受けており、それが彼に影響したのは確かだろう。

ギャレス・バリーの代わりにフィル・ジャギエルカを招集したことだけでなく、ホジソンはいくつか繊細な微調整を行っている。ジャギエルカが中盤の底でもプレーできることを彼は評価していて、だからこそバリーの代わりにそのまま中盤の選手を選ばずにディフェンダーを入れたのだ。加えて、中盤はイングランドの中でもワールドクラスが揃う場所でもある。フランク・ランパードを失いはしたが、スティーブン・ジェラード、スコット・パーカーは非常に効いていて、右ではジェームス・ミルナーが貢献している。中盤でのプレー経験のあるジャギエルカは、エヴァートンではセンターバックとしてプレーすることが多かったとは言え、このメンバーに何の問題も無く入って行くことができるだろう。

そして、期待の低さ以上にイングランドにプラスに働くであろうものは、そのグループ分けだ。 イングランドが入ったグループDは、4つのグループの中では2番目に楽なグループだ。Bにはドイツ、オランダがいて、Cにはスペインとイタリアだ。我々のグループを見てみれば、ウクライナは開催国でなければ出場は叶わなかっただろうし、スウェーデンは - これまでに我々を苦しめてきた歴史を考えたとしても -「それなり」のチームでしかない。昨年のウェンブリーでの親善試合でも印象には残らなかった。フランスにしても、2010年の南アフリカでの崩壊から立ち直ってきている最中だ。

確かにイングランドはクラクフにおいたベースキャンプから、ドネツクへの2試合は長旅になるが、それが大きく不利に働くことは無いだろう。

そして、確かに高齢化が進み始めているという懸念はあるだろう。それでもチェルシーの例を考えてみたらいい。チェルシーには30歳を超えた選手が数多くいたが、蓄積された知性でチャンピオンズリーグを勝ち獲った。最終的には、経験の良さというものは驚くほどプラスに働くこともあるのだ。

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リネカーが話しているのを見るのは、大抵『Match of the Day』の進行役だから、彼自身の考えを聞くことはあまり多くないのだけど、こうして見てみると、割とオーソドックスな考えなのだな、と。でもそこはイングランド人、「どうせダメだよ」っていう心の準備をしつつも、期待をかけてるところも垣間見えて面白い。

Tuesday, June 5, 2012

ブレンダン・ロジャース、リバプールでの挑戦に準備万端

先週はリバプールの新監督が、スウォンジーを率いていたブレンダン・ロジャースに決まったニュースが一番の盛り上がりを見せたが、その中で、彼のこれまでの歩みを記したBBCの記事に着目。記事自体は就任発表直前のものだけど、彼の指導者としての歩みが垣間見える良記事。

個人的には、「最初の仕事はスティーブ・クラークの解雇」と伝えられる中、かつてチェルシーにロジャースを推薦したのは、当時ジョゼ・モウリーニョのアシスタントしていたクラークというくだりには、不思議で皮肉な縁を感じた。(クラーク本人は、元々他クラブで監督としてのキャリアを積むために辞任の意向だったが、次期監督が決まるまで待て、とクラブが引き留めていた)



++(以下、要訳)++

ブレンダン・ロジャースはかつて、自分でも他のイギリス人の監督と比べると、自分が別の出自を持っているかのように感じる、と語っていた。

39歳の彼は、2004年に彼のメンターでもあるジョゼ・モウリーニョがしたように、自分を「スペシャル・ワン」 と呼ぶには至っていないだろうが、この柔らかな口調のアントリム出身の男が、ちょっと違うという印象は既にある。

ロジャースはこの2年間で 4人目のリバプールの監督となる。この北アイルランド人にとっては、キャリアの非常に大きな前進となる打診だが、彼も自分の手の届かない話だとは考えていないだろう。

過去2シーズンにわたって、彼はリバティー・スタジアムの落ち着いたオフィスを拠点にしていた。自動販売機が何台か置かれた角を曲がると、机ひとつに椅子ふたつ、それにコンピューターと書棚があるだけの部屋だった。

しかし、部屋が小さかろうが、そこを根城にしていたこの監督のポテンシャルだけはそうでなかった。

彼がアンフィールドで直面する任務は非常に重要だ。 しかし、彼が20歳で選手としてのキャリアを終えて以来持ってきた大胆な自信は、これまでになく確固たるものになっている。

北アイルランドで育ったロジャースは、亡き父マラキーが好んだ1970年代のオランダやブラジルのフットボールに魅了された。

彼は早々に印象の強い、コンパクトなディフェンダーとして成長した。1980年代半ばに受けたマンチェスター・ユナイテッドのトライアルでは結果を残せなかったが、16歳にしてロジャースはレディングに加わった。それは、彼が自分にはトップレベルに到達する才能が無いと自覚した時期でもあったが、彼のキャリアはケガによってレディングで1試合も出場しないまま終わってしまった。彼は20歳だったが、既に結婚し、子供も1人生まれるところだった。それでも、彼に危機感は全く無かった。

彼はすぐに指導者のライセンスを取得し、22歳にしてレディングのユース・アカデミーのコーチを任された。夕方は地元の学校で子供たちに教えつつ、あらゆる機会を活用してスペインの事実調査団として知識の拡大に努めていた。

彼はスペインに行くと、バルセロナ、セヴィージャ、ヴァレンシアで、そしてオランダでも過ごし、戦術的、組織的な手法に磨きをかけて行った。彼が自分の戦術のモデルをカタルーニャに求めた、という意味では、バルセロナで監督を務めていたペップ・グァルディオラも彼にインスピレーションを与えた1人だ。

やがてその野心と才能は、チェルシーでスタッフを務めていたスティーブ・クラークに見出された。クラークは彼をモウリーニョに推薦し、ロジャースはチェルシーのユースチームでの指導に招かれると、やがて彼はリザーブ・チームの監督となった。チェルシー時代を振り返り、「モウリーニョには大きな影響を受けた」とロジャースは語っている。

「彼は私に共通点を見出してくれていたこともあって、我々には感情的な親密さがあった。誕生日は同じ1月26日、コミュニケーションとハードワークを重視するところも同じだ。哲学も同じで、フットボールへの情熱と組織力を信じていた。そして、彼は監督になる前にビッグクラブでの経験があった」

モウリーニョも、同様に彼への称賛を隠さない。「彼の全てを気に入っているよ。彼は野心に溢れているし、フットボールの見方も俺と大きくは違わない。オープンだし、学ぶこと、コミュニケートすることが好きなんだ」

何よりもポゼッションに価値を見出すのは、ロジャースとリバプール、双方の基本に共通する点だ。スウォンジーでは、ロジャースは格上のはずの相手でもポゼッションで圧倒して見せた。「相手よりボールを支配することができれば、79%の確率で試合に勝つことができるんだ」、とロジャーズはかつて分析していた。

「私にとっての基本は組織力だ。ボールを持つのならば、動きのパターン、ローテーションの仕組み、チームの流動性やポジショニングについてよく知る必要がある。ボールを持っている時は、全員がプレーヤーだ」

昨シーズンのスウォンジーのパスの数字は、マンチェスター・シティに次ぐ2番目だった。「我々の考えは、相手が動けなくなるまでパスをするということ。そうすれば相手は追いかけて来なくなる」とロジャースは説明した。「最終的に相手は根負けするんだよ」

ロジャースにとって、ことが順調に進んできたわけではなかった。チェルシーでの成功は、ワトフォードへと道を拓き、2009年の夏にはレディングが連絡してきた。

 しかし、1年も経たないうちに彼はクビになり、20年間で初めての無職となった。「そうした不利な状況が、自分のキャラクターを作り上げるのだと思うし、自分にこうした人生を歩む資質があるのかを考える機会になる。厳しい時期だったが、レディングで起きたことが、私に失格の烙印を押すことだけは絶対に避ける決意だった」

スウォンジーで次の職を得られたのは、2010年の7月になってからだった。彼は過去を振り返ることなくこのウェールズのクラブをウェンブリーでのチャンピオンシップのプレーオフへと導き、レディングを4-2で下してプレミアリーグに引き上げた。「ウェンブリーで試合終了の笛が鳴った直後から、ウチはブックメーカーで降格の最有力候補、10ポイントも獲得できないとまで言われた」とロジャースは振り返る。

しかし、スワンズは上昇して行った。ロジャースは、他のどのクラブにも受け入れられなかった選手たちと共に、チームを11位に引き上げた。

リバプールで寄せられる期待は遥かに高いものになるだろう。昨季はカーリングカップを勝ち獲ったとは言え、チャンピオンズリーグ圏内からは17ポイントも離されてシーズンを終えた。

低迷し続けたプレミアリーグでの結果が、前監督でアンフィールドのレジェンドでもあるケニー・ダルグリッシュをその職から追いやった。オーナーのフェンウェイ・スポーツ・グループのチャンピオンズリーグ出場に向けた欲望は、これまで以上に強くなっている。

ロジャースは、しばしば個々の能力の集合未満のパフォーマンスしか発揮できずにいるチームを団結させなければならない。ロジャースもそうするしかないことは分かっている。

「私の大きな夢は、若手・ベテランのフットボーラーたちや指導者たちにイノベーションをもたらすような監督として成功することだ。指導者の道を選んだ理由はひとつだけで、それはフットボーラーとしてだけでなく、人間としても人々に違いを見せるためだ。私は常に教訓を得続けているんだよ」

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この記事が出た後、クラブから就任が正式に発表されて会見が行われたが、そこにはリバプールの伝統や特別さをわきまえた言葉が並んだ。


スウォンジーで起こした奇跡とリバプールの復興はまったく異質な仕事とはいえ、こうしてここまでの経歴を見ると、どこか上手く行って欲しいとも思ってしまうもの。まー、スパーズを超えない程度でお願いしたいところ。

Thursday, May 31, 2012

プレミアリーグのタイトルはいかにしてブルーになったか

少し時間が経ってしまったものの、劇的だった最終節の展開は未だに記憶に新しいマンチェスター・シティのプレミア優勝。アメリカの経済紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」には、イギリスの「タイムズ」紙のガブリエレ・マルコッティ記者がコラムを寄稿していて、いつも描写が秀逸で気に入っている。


++(以下、要訳)++

目の前で人が年老いて行くのを見るというのはなかなか無いことだ。しかし、プレミアリーグ最終節となったこの日曜日、マンチェスター・シティの監督であるロベルト・マンチーニはまさにその様相だった。彼は整然と分けられた髪にトレードマークのカシミアのスカーフをキッチリと巻いてピッチに姿を見せたが、ピッチを去る時には過激になり、髪は乱れ、スカーフはイングランドでも最も記憶に残るフィナーレのひとつの祝福の中で消え去ってしまった。

ロスタイム遅く、126秒の間の2つのドラマティックなゴールが、シティ44年間で初のリーグタイトルをもたらした。マンチェスターの青き半分が、赤き宿敵と同じ勝ち点ながら得失点差でかわし切った。この2チームということだけでなく、戦後ではタイトルが得失点差で決まったというのは僅かに3度目だった。

マンチーニは「今や90歳の気分だよ」 と疲弊しつつも高揚した様子で語った。「信じられない。・・・ただ何と言ったらいいか分からない。だが、いや、正直に言えば、終了5分前にはもう勝てないと思っていた」


その理由を探るのは難しくはない。試合は90分を回り、4thオフィシャルがロスタイムは5分だと示した時、シティはホームでクイーンズ・パーク・レンジャーズに1-2とリードを許していた。その一方で、マンチェスター・ユナイテッドはサンダーランドで1-0とリードしていた。シティがユナイテッドと勝ち点で並んで得失点差でタイトルをモノにするには、残り5分で2度ネットを揺らす必要があった。

普通に考えればこの任務は難しい - 極めて難しい - が、不可能ではない。結局、QPRはアウェー6連敗で、ホームを離れれば11月から勝っていなかった。加えて、彼らは10人だった。しかし、シティの最も悲観的なファンには、運命が最も残酷な方法で彼らを弄んでいるのだと感じられただろう。

まず、この日は極度の緊張があった。マンチェスター・ユナイテッドがサンダーランドで早い時間にリードを奪い、それはシティが勝たねばならないことを意味した。そして残留に向けて1ポイントを確保したいQPRは、シティの波状攻撃を前にペナルティボックスを固めてきた。しかし、39分、パブロ・サバレタがこの堅牢をこじ開けた。シティのファンはポズナンでのゴールの祝福を始め、人生順風満帆と言ったところだった。シティ89ポイント、ユナイテッド89ポイントだった。

しかし、後半早々にジブリル・シセがヘディングでのクリアボールを拾ってQPRに同点ゴールをもたらすと、シティのファンは衝撃を受けた。ユナイテッド89ポイント、シティ87ポイント。神経が逆撫でされる中、幸運の女神は新たな生命線を投げ入れた。55分、QPRのキャプテン、ジョーイ・バートンがシティのカルロス・テヴェスと衝突し、頭に肘鉄を食らわせた。レッドカードは避けられず、彼は退場を宣告された後もひとり暴れて悪行を重ねた。セルヒオ・アグエロには背中に膝蹴りを見舞い、シティのキャプテンには頭突きを試みた。元シティのバートンは、警察にエスコートされながらトンネルへと向かわされた。

それでも、10人が相手の場合、相手が攻撃を諦めてゴール前にバリケードを築くことから、11人を相手にするよりもタフになりがちだ。 この時点でのシティのようにナーバスになって自己疑念に苛まれている場合、状況は一層困難になる。そして66分、プレッシャーはさらに重みを増した。交代出場のQPRのアルマン・トラオレがサイドを駆け上がってピンポイントのクロスを送ると、ジェイミー・マッキーがヘディングでジョー・ハートを破り、アウェーチームにほぼあり得なかったリードがもたらされた。ユナイテッド89ポイント、シティ86ポイント。

時計の針が進むごとに緊張の病はスタジアム中で進行し、運命は不条理なほどの残酷さに到達した。

ロスタイムも2分経過した所で、エディン・ジェコのパワフルなヘディングがパディ・ケニーを破ってQPRゴールに突き刺さった。ユナイテッド89ポイント、シティ87ポイント。ほぼ同時に、サンダーランドではレフェリーが試合終了の笛を吹き、ユナイテッドは勝利した。シティがタイトルを獲りに行くには、自力で実現するしかなくなった。

何人かは、一層状況を悲惨に感じていただろう。ジェコのゴールは、幻の希望をもたらした。シティに限らず、ロスタイムに2得点するチームなど勿論無いのだ。

しかし、それは昔の話で、今は違った。

アグエロがやがてエリア内に入ったこぼれ球を拾うと、相手を避けつつ進んで行き、そのままコーナーフラッグまで行く前に、ケニーの横を抜いてQPRゴールにねじ込んだ。これで3対2。シティ89ポイント、ユナイテッド89ポイント。プレミアリーグは赤から青へと移って行った。

隣町のライバルの脇役を数十年演じ、「騒がしい隣人("noizy neighbors")」 のレッテルをユナイテッドの監督、アレックス・ファーガソンに貼られ、順位表で十分なリードをとったにも関わらず全て吐き出し、この大団円をお膳立てするところまで来ても、95分間の心理的な苦痛を味わった。しかし、その報酬は最高のものだった:プレミアリーグ王者だ。

そして、それは前回よりもスウィートな記憶になるだろう。前回王者となった1968年に遡ると、ユナイテッドとの接戦の末にタイトルを勝ち取った数週間後には、シティはユナイテッドの陰に隠れていた。ユナイテッドが、イングランドのクラブとして初めてのヨーロッパのチャンピオンズ・カップを手にしたのだ。今年はそれが起こる可能性はもう無い。シティは少なくともあと1年はマンチェスターで自慢して回る権利をエンジョイすることができるのだ。



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自分はこの時間はスパーズの最終節を観ていたのだけど、その試合の中継が終わった後にシティの試合に移ってみると、ジェコが同点ゴールを決めるところ。まさか、とは思ったけど、その後は本当に凄いものを見たな、と思った。マンチーニも数週間の間、一生懸命神経戦を仕掛けてたけど、この1試合だけでその何倍も気持ちがすり減ったに違いない。

去年は残留争いで最終節にかなりのドラマがあったけど、優勝がこんな形で決まるとはね。

オマケ。
スカイは、ニュースチャンネルでは試合の映像は流さない(追加料金のかかるチャンネルに誘導するため)けど、実況だけはしている。1-2から3-2に至るまでのポール・マーソン(元アーセナル)の興奮ぶりが話題になっていたので、その様子を。