Wednesday, October 26, 2011

オールド・トラフォードの午後から分かったこと

衝撃的な結果となったオールド・トラフォードでのマンチェスター・ダービー。「この試合から分かった5つのこと」をさっそくコラムとして「テレグラフ」紙にアップしたのはアーセナルのOBでスカイの実況解説者としても知られるアラン・スミス氏。しかしこの記事の写真のマンチーニの表情…。


++(以下、要訳)++

1. マンチーニは良いメンバーを選択した

このダービーに向けて、ロベルト・マンチーニはいくつかのアプローチを取ることができた。トップにエディン・ジェコを置き、ジェームス・ミルナーの代わりにサミ・ナスリを使うこともできた。そして、マイカ・リチャーズでなく、パブロ・サバレタで守備を厚くすることもできただろう。しかしそうはしなかった。マンチーニは自分の本能を信じ、それが正しいことが証明された。ミルナーとリチャーズは出色の出来だった。そして、無鉄砲なマリオ・バロテッリについて言えば、指揮官の信頼に応えるのにこれ以上はできないほどだった。


2. サー・アレックス・ファーガソンも人間だ

ここで言っているのはメンバーの選択のことだ。中盤が強力な相手に対して備えをしないのは珍しいことだったからだ。シティは、ダヴィド・シルバが中に流れてくると、ミルナーも同様にギャレス・バリーとヤヤ・トゥーレに加わる。結果的にアンデルソンとダレン・フレッチャーは対処できなくなるだけだ。ユナイテッドはエヴァンスが退場になる前から数的にも完全にシティに裏をかかれていた。


3. ユナイテッドのディフェンスには安定感が必要だ

彼らにはネマヤ・ヴィディッチと固定されたパートナーが必要だ。ユナイテッドがケガで台所事情が苦しいことは理解しているが、ジョニー・エヴァンスはそのレベルにはまだ少々足りていないことを露呈した。バロテッリを止めるには、ああしてファウルをせずにもっと気を利かせる必要があった。あれではレフェリーは退場させざるを得ない。あれは起こしてはいけないミスだったし、強力なセンターバックがいる守備陣なら犯さない類のものだ。


4. 選手層の厚さ

シティにはユナイテッドを上回る選手層がある。大げさな言い方はすべきではなく、今日の試合はひとつの結果に過ぎない。シティはまず、覇権の移行が正しい焦点を当てられる前に、彼らが一体どこまで行けるのかを証明する必要があるだろう。それでもなお、シティが手にしている戦力に注目すれば、ジョー・ハート、ヴァンサン・コンパニ、ヤヤ・トゥーレ、シルバ、ナスリにセルヒオ・アグエロ、誰がユナイテッドに行ってもポジションを奪えるはずだ。同意するしないに関わらず、選手層というのはそうした側面から議論されるべきだ。


5. ついにやってきたシティ

彼らは本物のタイトル挑戦者だ。これまで我々は散々疑問の目を向けてきたが、この勝利はそれを打ち砕いて見せた。もはや誰もマンチーニのチームに十分なメンバーが揃い、ユナイテッドやチェルシーを押しのけるのに十分なレベルにあることに疑いは持てない。重要なことは、自信がその屋根を突き破って舞い上がったことだ。最初の15分間、シティは自分たちに確信を持てないプレーをしていたが、もはやそれさえ歴史とみなされるべきだ。

++++

…というコラムをアップしてすぐに、このスミス氏はユナイテッドが抱える懸念を3つに分けて解説している。「中盤」「センターバック」「サイドバック」の3ヶ所が議論のポイント。


++(以下、要訳)++

マンチェスター・ユナイテッドの破綻の原因は、中盤とディフェンスにある。


中盤

ファーガソンが選んだスタメンには非常に驚いた。相手が中盤を厚くしてくる場合には、通常自分たちの形を変えて数的不利に陥らないようにするからだ。過去のアーセナルやチェルシーとの対戦を思い出せば、両チームとも3人を中盤に置いていた。

ユナイテッドは4-4-2にこだわるケースというのはあまり多くなく、ヨーロッパの舞台でそうすることが多いように、4-3-3を採用してパク・チソンを入れ、彼の運動量と規律で中盤を堅く締めてくるのだ。

それが毎回必ずしも機能するわけではないにしろ、少なくともこの日のようにダレン・フレッチャーとアンデルソンが救いようなく人数で圧倒され、シティに出し抜かれ続けることは無かったはずだ。ダヴィド・シルバとジェームス・ミルナーは中に入り続けてギャレス・バリーとヤヤ・トゥーレに加勢し、フレッチャーとアンデルソンの裏のスペースを突き続けた。

シティの4人の中盤は遥かに綿密なゲームを挑んでいた。序盤こそ不安定であったが、やがて試合を支配すべきポジションを見つけた。シンプルに聞こえるかもしれないが、これを実現するには自分が前に出る脅威を持ちつつ、ウィングを動かせるような強力なサイドバックが必要だ。

この日、マイカ・リチャーズとガエル・クリシーはそれを最高の形でやってのけた。アシュリー・ヤングとナニはサイドに張り続けていたが、開始後しばらくの良い時間以降はシティを押し込めなくなってしまった。

無論中盤の質も問題となる。ユナイテッドの中盤にはシティのシルバのようなレベルの創造性が必要だ。


センターバック

ケガが主たる原因ではあるが、ファーガソンのディフェンスラインには継続性が欠けている。開幕のウェストブロム戦でリオ・ファーディナンドとネマヤ・ヴィディッチの両方が負傷して以降、6種類の異なるペアがセンターバックに起用されている。右サイドバックにしても4人だ。

こんなディフェンスの回し方はできない。本人が悪いわけではないが、フォーディナンドが一番の問題だ。衰えが出始める年齢に到達し、この燃費の良かった32歳も毎試合はプレーできない。結果的にファーガソンは数週間ごとに他をあたらなければいけなくなっている。

ファーガソン本人は、ファーディナンドの経験を捨て去るのは惜しいが、同時にセンターバックのポジションを入れ替え続けることもしたくない、という微妙な気持ちを抱いている。週末の試合にヴィディッチは間に合うだろう。もしかすると、フィル・ジョーンズかクリス・スモーリングにキャプテンの横でプレーする機会を与える時なのかもしれない。

なぜならば、長期的にはジョーンズもスモーリングも、シティ戦で基準に達していないところ見せたジョニー・エヴァンスよりは確かな選択になるはずだからだ。退場の場面、エヴァンスのポジショニングが悪かったわけではないが、セルヒオ・アグエロのスルーパスへの反応は遅過ぎ、マリオ・バロテッリを追うのにも誤った方向に反転していた。

このミスは避けられるものであったことが、代償の手痛さを倍増させる結果となった。


両サイドバック

残り10分でスコアは1-3。エヴラと代役で右サイドバックに入ったダレン・フレッチャーは前へ出続け、ファーガソンを当惑させていた。敗れるとしても戦い続ける、と言ってもそこには限界がある。

時には守備に専念し、脅威を取りはらう必要があるのだ。特にエヴラについては、今季その面では素晴らしい出来とは言い難い。ポジショニングで勝負するタイプではないが、普段はスピードと技術で十分凌いできた。

しかしながら、最近のエヴラは脆さを露呈し始め、この日も3ゴールは彼のサイドを破られて生まれている。これをユナイテッド他の問題と重ね合わせれば、今季のプレミアリーグでユナイテッドが他のどのチームよりも被シュート数が多いという事実にはさほど驚かないだろう。

++++

2本のコラムを並べたから若干の重複はあるけど、他の評論家も含めて、ユナイテッドのスタメンの中盤の並びに疑問を呈する意見は多い気がする。ま、後からは何とでも言えるんだけど、実際シティの2トップを予想するメディアは少なかったし、ユナイテッドが対処できなかったのも事実なんだろうな。でも、後半早々ひとり少なくなった試合で色々結論付けるのは難しいと思う。

Thursday, October 20, 2011

フットボールへの誠実さを貫くハリー・レドナップ

「テレグラフ」紙のオリヴァー・ブラウン記者による、スパーズの監督ハリー・レドナップへのインタビュー記事。フットボール好きのオッサン、という側面を上手く浮き上がらせている。


++(以下、要訳)++

バークシャーのデ・ヴィア・ウォークフィールド・パーク・ホテルで、彼はスタッフに気軽に冗談を言い、妻のサンドラが彼に坐骨神経痛の治療を兼ねていかにヨガを始めさせたかを説明していた。しかし、並外れた賢明さと献身で偉業を成し遂げてきたこの男のキャリアの中で初めて疲労の色が見え始めている。この64歳には滅多に見られなかった兆候だが、イングランドの歴史の中でも最も屈強で長寿の部類に入るハリー・レドナップも疲れを感じ初めているのだ。

素晴らしい1時間の会話の話題は、デイビッド・ベッカムからキャニング・タウンの学校でのコーチ業の記憶にまで多岐に及んだが、忍び寄る疲労についても告白した。ドーセット海岸近くのサンドバンクスの牧場からトッテナムのチグウェルの練習場までの明け方のドライブにいよいよくじけそうになってきた。「情熱が衰えてるわけじゃないんだが、疲れを感じるようになっていないと言えば嘘になるだろう。単純に年齢の問題だ。だんだん効いてきているよ」

「そりゃキツいさ。朝の3時に家を出て、5時にはトレーニング場に着くが、そこが開くのは7時から。そこに座ってラジオを聞いて待つんだ。健康に影響は出るさ。結局ロンドンに泊まることが増えたよ。昔は毎日車で通ったものだけどね。1日に6時間運転する計算だ。それでも私は今でも変わらぬ情熱を持っている。良い選手たちと一緒に仕事をするのは大好きだし、彼らのボールさばきをトレーニングで見るもの好きだ。その分、下手くそな選手と仕事をするのはキビしくなったな。ウチの選手たちは見ていて本当に素晴らしいと思うよ」

レドナップの宿命的な視点は、代理人たちの強欲やプレミア各クラブと地元コミュニティの断絶ぶりではなく、彼をフットボールの単純な喜びにぞっこん惚れ込んだままにし続けている。

だからこそ、ニューカッスルへの遠征の前日でもブラックバーンを迎えるQPRの試合を観に行き、ロフタス・ロードの雰囲気に酔いしれるのだ。トラック付きのピッチにはひと言ある。ウェストハムによるストラトフォードのオリンピック・スタジアムへの入札が差し戻される週には、この老いた伝統主義者は、執念深く自分の古巣の移転に反対していた。

「陸上用トラックのあるスタジアムはフットボールを殺してしまう。私は我々がホワイト・ハート・レーンで作りだしているような雰囲気、もしくはかつてウェストハムがアップトン・パークで持っていた雰囲気に身を置くのが大好きなんだ。トラックがあって遠くに座っていたら、そんな雰囲気は作れやしないよ。そういう時代じゃないんだ。ウェストハムのサポーターがそれを喜ぶとはとても思えないね」

レドナップはファンの視点に敏感に思慮を働かせていて、昨シーズンのチャンピオンズリーグ出場でトッテナムに生まれた楽観を維持する方法を模索している。

2月にデイビッド・ベッカムがトレーニングに参加したことは、彼が練習のみにしか参加できなくとも、トッテナムに明らかなアドレナリンをもたらした。レドナップは36歳になるベッカムのギャラクシーとの契約が来月切れた際に、再びトッテナムにやってくる可能性も完全には否定しない。

「人間、そして選手としてのデイビッドに本当に感銘を受けたよ。クラブにいてくれたのは素晴らしいことだし、彼は一級品だ。彼を目にする若手たちには最高のロールモデルだ」

「問題があるとすれば、デイビッドが定期的にプレーしたいと考える一方で、私が彼に出番を保証できないことだ。難しいよ。アーロン・レノンは戻ってくるし、ラファエル・ファン・デル・ファールトも右ができる。私には既に多くのオプションがある。両サイドをギャレス・ベイルとルカ・モドリッチにすることもできる。サンドロがトップクラスの選手になろうとしていて、そしてスコット・パーカーもやってきた。デイビッドを連れてきたのにプレーさせられないのは問題だろう」

メンバー選びの贅沢な悩みは、トッテナムの忌まわしい開幕には考えられなかったことだ。オールド・トラフォードでは0-3で屈辱を味わい、ホームではマンチェスター・シティに1-5で粉砕された。アーセナル相手の勝利を含むその後の4連勝はまったく約束などされていなかった。

当初の中盤ではニコ・クラニチャルとジェイク・リバモアがペアを組み、危険なほどの未熟さがそこにあったが、トム・ハドルストンの足首の手術からの回復も含めれば、今はチャンピオンズリーグへの正当な挑戦者としての自信が感じられるようになった。

彼を錬金術師ハリーと呼んでも良いかもしれない。たとえ、彼が自分の道程を振り返って、今の業界が向かっている方向を嘆いているとしてもだ。レドナップは代理人たちの台頭に冷笑して「彼らは監督よりも会長に電話をするし、自分の抱える選手たちには皆スーパースターだと吹き込んでいる」と語るが、むしろ今の選手たちの住む世界がこれまでとは随分違うことに懸念を抱いている。

「今まで自分も一員だと思っていたが、その時代はもう終わってしまった。そういう時代が帰ってくるかも分からない。選手たちはもはやボートの漕ぎ手ではなく、給料を払っている雇い主に対しても十分な時間を与えてはくれない」

「私がウェストハムにいた頃は、みな午後は学校に行って子供たちのコーチをしていた。最高の時間だったよ。キャニング・タウンの学校で週に5日、私とフランク・ランパード・シニアとね。トレヴァー・ブルッキングはよくサン・ボナヴェントゥラで教えていた。3時間教えて皆2.5ポンド貰っていた。最高だったよ。今の選手たちは、自分たちの輪に閉じこもってしまう。ちょっと政治家みたいな感じだ。道行く人々とは交わらないんだ」

レドナップ自身は、自分が愛されていたと感じている。「我々は良い仕事をしてきていると思うよ。昨日の夜は航空救急隊とディナーに行ったが、みなトッテナムのファンで、今のスパーズに起きていることを本当に喜んでくれていた。もはやアーセナルとの差が無くなったという事実が嬉しいんだ」

この相思相愛の関係に潜む危険は、レドナップが依然としてユーロ2012後にファビオ・カペッロが退任した後のイングランド代表の有力候補であることだ。レドナップのスパーズでの地位は安泰だが、本人は基本的にはこの見方を喜んでいて、実際のところこの状況を楽観視している。

「この話は断るのは難しいタイプのものだ。特にイングランド人ならね。ただ、私はプレミアリーグをエンジョイしていて、毎週毎週の監督業も楽しんでいるよ。私は毎日関わりを持っていたいし、それが私を駆り立てているんだ」

++++

珍しいハリー単独特集の記事。しかし、マイカー往復6時間の通勤をしてトッテナムまで通ってたとは凄い。

Tuesday, October 18, 2011

チャンピオンズリーグとバルセロナに挑戦する面々

今週はチャンピオンズリーグの試合が入るってことで、この間出ていたサイモン・クーパーのコラム。以前ブラジルサッカーについて書かれたコラムが出ていた謎のポータルサイト「AskMen」に出ていたもの。バルセロナに挑戦するのは誰か?という主旨で、モウリーニョ率いるレアル・マドリー、マンチェスター・シティ、バイエルン・ミュンヘンなどの可能性に触れつつ、結局のところバルサ?という展開。


++(以下、要訳)++

灼熱のマドリードの夏、レアル・マドリーの練習に訪れた人々は同じトレーニングを目にしていた。今やほぼクラブの全権を勝ち取ったジョゼ・モウリーニョは、ディフェンスから相手陣内へできるだけ早く運ぶ動きを何度も何度も選手たちに叩きこんでいた。9月27日のチャンピオンズリーグアヤックス戦のゴールは、正にこの手法を発揮することで生まれていた。

3秒ルール

モダンサッカーにおいて得点の可能性が最も高いのはボールを奪った3秒後だ。それは相手が依然として当惑にあって、ディフェンスのポジションに戻っていない時間だ。しかし、この3秒ルールが問題になるのはバルセロナが相手の時くらいで、モウリーニョの向こう数カ月の目的は、8月にアシスタントのティト・ヴィラノバに食らわした(本当の意味での)目潰しを、バルセロナに食らわせることにある。このレアルのスピード重視の練習は、今季のヨーロッパについて回る「人はどうしたらバルサを打ち負かせるか」という問いへのベストアンサーとなるかもしれない。

新しいバルセロナを目にすれば、相手はただ諦めたいと思うに違いない。バルセロナのプレーメーカーであるシャビは、「チームは一段と良くなった。より多くをもたらせる選手たちを迎えたからね」と語る。その通りで、チリ人のアレクシス・サンチェスはバルサに伝統的なウィンガーとしてプレーするオプションをもたらし、今季最初の6試合で6ゴールを決めているセスク・ファブレガスの存在は、シャビとアンドレス・イニエスタがアンタッチャブルではないことを意味する。

1つの値段で2つ

恐ろしいことに、バルセロナは2つの素晴らしいフォーメーションでプレーすることができる。長年にわたってチームは4-3-3でプレーしてきたが、9月に3-4-3を使ってオサスナを8-0で粉砕した。もはや彼らは、ボールを奪っては必ずボールを戻してポジションを確認し、相手に「行くぞ!」と言って、まるで小人たちクロスワードパズルを埋めるようにパスを縦横無尽に回すという、フットボール界で最も予測可能なチームではない。監督のペップ・グアルディオラは、過去最高と言われたチームの更なる改善に情熱を燃やしている。

もちろん、それでも多くはバルセロナで替えの利かないリオネル・メッシに依存している。世界王者のスペインというのは、バルセロナからメッシを引いたものだ。そして、昨年のワールドカップで、10人で守ったスイスやパラグアイ、オランダは、スペインが必ずしも完全無欠ではないことを示して見せた。もしメッシがケガをすれば-2006年にモウリーニョ率いるチェルシーは彼を潰しにかかった-、ヨーロッパのタイトルは他クラブにも獲得可能なものになる。ただ、メッシほどレフェリーたちに守られている選手は他にはいない。

天才モウリーニョ

それでもメッシがいるバルセロナにもスキはある。過去3シーズンでそれを突いた唯一の監督がモウリーニョだ。2010年、当時インテルを率いていたモウリーニョはチャンピオンズリーグの準決勝を前に終わりなきDVD分析からカタルーニャの弱点を見出した。チームメイトがいつもシャビにボールを預けられるのは、彼が必ずしも常にディフェンスをケアしなくとも良いからだった。これはモダンサッカーでは非常に稀少な特権だ。更に、バルセロナの両サイドバックは非常に高い位置で守備をし、背後に広大なスペースがあった。インテルは自陣ペナルティエリアのすぐ外側まで引いて辛抱強く守り、モウリーニョが見出したスペースを狙ったカウンターでバルセロナを仕留めた。

奇妙なことに、モウリーニョはレアルの監督を引き継ぐとこの勝利の法則を捨て去った。昨年の11月のカンプ・ノウでの試合では、ハーフウェー・ライン近くで守備をしていた。おそらく彼は、バルセロナを破る1つでなく2つの方法を見せることで自分の天才ぶりを知らしめたかったのだろう。レアルは0-5で敗れた。それ以降、モウリーニョはカウンターに戻した。昨季の国宝杯決勝でバルセロナを破り、ゴンサロ・イグアインのカウンターからのゴールが不当に取り消されなければ、チャンピオンズリーグの準決勝でもそれを成し遂げかけた。

スタンドからこのレアルの計算しつくされたディフェンスに目をやり、85歳になるレアルのレジェンドであるアルフレド・ディ・ステファノは、「バルセロナがライオンでマドリーはネズミ」と不満をこぼした。レアル伝統のスタイルは攻撃だ。モウリーニョは気にかけないだろう。会長のフロレンティーノ・ペレスが、モウリーニョと対立していた攻撃サッカーの信奉者であるテクニカル・ディレクターのホルヘ・バルダーノを解任し、このポルトガル人監督は自分の好きなようにできる。

イングランド流

バルセロナを倒すのは、イングランドのクラブよりもモウリーニョのチームの方が可能性が高そうだ。分厚い守備にカウンターというのは単純にイングランドのスタイルではないのだ。イングランドのファンはそんなものに我慢できない。5月にウェンブリーで行われたチャンピオンズリーグの決勝で、マンチェスター・ユナイテッドはバルセロナのディフェンスにプレッシャーをかけようと試みた。それが持続したのは僅かに10分、早々に疲弊してしまった。ユナイテッドの守備陣が押し上げに一生懸命では無かったことも一因ではあるが。いずれにしても、ここ最近は平均23歳程度の布陣で試合に臨んでいるユナイテッドは、成熟を語るには程遠い。逆にチェルシーは成熟し切ってしまった。

ここのところ、フランク・ランパード、ニコラ・アネルカ、そしてディディエ・ドログバといったここ数年間のクラブの繁栄を気付いてきた選手たちが話題に上るが、チーム写真に映る新顔のひとりが33歳の青年監督、アンドレ・ヴィラス・ボアスであるならば、問題があることには気づくだろう。

過去の過ちの克服

新聞上ではマンチェスター・シティがイングランド史上最強の挑戦者ということになっているようだ。このクラブは全てのポジションに実力を証明した選手たちを揃え、しかもほぼ全員が全盛期にある。

バイエルン・ミュンヘン相手の敗戦から明瞭に分かるシティのチーム・スピリットの問題 -カルロス・テヴェスの出場拒否、交代時のエディン・ジェコの怒り、ロベルト・マンチーニとパブロ・サバレタの口論- は、大事には至らないだろう。トップクラスの選手は互いに仲良しである必要は無いし、ましてやクラブを愛する必要などまったくない。彼らは非常に任務中心の人間で、自分の役割をこなすのだ。いかにも、テヴェスは90分間自分の全てを捧げるという自分の任務をマンチーニに邪魔された時、大きな怒りを抱いたのだろう。これは昨年ウェイン・ルーニーが突然マンチェスター・ユナイテッドを出てマンチェスター・シティに行きたい、と言った時のように、早々に忘れられる騒動のひとつに過ぎない。それでも、ナポリとバイエルンと対戦し、2試合で1ポイントというチャンピオンズリーグでの戦いぶりはあまり縁起の良いものではない。

この夏にマンチェスター・シティからバイエルン・ミュンヘンに加わったジェローム・ボアテングは、ミュンヘンでの勝利の後に「シティが決勝に進めるとは思えない。他に良いチームがある。例えばウチがそうさ」と語った。その通り、この素晴らしいバイエルンは来る5月のミュンヘンでのファイナルの気品高いホストになることだけを望んでいるわけではない。バイエルンは、既に昨年のドイツのチャンピオンであるボルシア・ドルトムントを遥か後方へと押しやった。バイエルンの前監督であるルイス・ファン・ハールはディフェンスをあまり気に掛けなかった。10月3日現在で、後任であるユップ・ハインケスのチームは11試合無失点だ。

警戒すべきバイエルン

歴史的にはバイエルンはドイツ・サッカーが強い時に繁栄する。クラブが1974年から76年に3つのヨーロッパカップを勝ち取ったのを覚えているだろうか?そして現在のチームは、ここ20年でベストの世代が中心になっている。マヌエル・ノイアー(彼が何もしなくて良いというわけではないが)、フィリップ・ラーム、ホルガー・バトシュトゥバー、バスティアン・シュバインシュタイガー、トニ・クロース、そしてマリオ・ゴメス。バイエルンに住むフランス人、フランク・リベリーはケガとセックス・スキャンダル、出て行ったファン・ハールとの対立で乗り遅れてしまった。他の外国人、オランダ人の「ガラスの男」アリエン・ロッベンは再び負傷したが、バイエルンがすぐに彼を必要としているようにも見えない。個のチームは彼無しでもブンデスリーガを制する力がある。ロッベンが必要となるのはゲームを決める顔見せか、次の春のチャンピオンズリーグだ。バイヤー・レヴァークーゼンでスポーツ・ディレクターを務めるルディ・フェラーは、「バイエルンはバルセロナやレアル・マドリーのレベルにある」と警告する。

もしバイエルンがファイナルに到達すれば、ホーム・アドバンテージがプラスに働くはずだ。それでもなお、来年5月19日にシャビやイニエスタ、ファブレガスよりも背の高い大男たちがビッグイヤーを掲げるとは、理性ある人なら誰も予想しないだろう。

++++

インテル時代のモウリーニョが取ったあの戦術じゃないとバルサは倒せない、とモウリーニョ自身がレアルで再確認しちまった感じだなー。

Saturday, October 15, 2011

リバプールを数字から変えるダミアン・コモッリ

大型補強で話題を呼んだリバプールを裏から取り仕切るのがフットボール・ディレクターのダミアン・コモッリ。データを重視するポリシーやこれまでの経緯、ケニー・ダルグリッシュとの関係などに触れるコラム。これが出たのはイギリスではなくアメリカのスポーツ雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』。


++(以下、要訳)++

イギリスのフットボール雑誌である『Four Four Two』が毎年恒例のフットボール長者番付を発表したが、そこでリバプールを所有するフェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)のオーナー、ジョン・W・ヘンリーは20位にランクされた。そして記事は、これまでに獲得した勝ち点と費やした金額から、勝ち点1あたりの金額を750万ポンドと算出した。

この計算がいい加減なのもので、ちょっとした遊びであることは『Four Four Two』も認めているが、『マネーボール』もしくは『サッカーノミクス』の具体的な適用例としては興味深いだろう。『マネーボール』はブラッド・ピット主演で映画化されたマイケル・ルイスの本で、オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンが統計を駆使して評価を軽んじられてきた選手たちを発掘し、チームがチャンピオンになるのを助けた、という話だ。サイモン・クーパーらが著した『サッカーノミクス』は、フットボール版のそれとも言えるもので、データの分析がチームに競争力と違いをもたらすという話で、これは選手のスカウトだけでなく、契約管理からPK、ケガの予防まで着眼点は多岐にわたっている。

『Four Four Two』がデータが示すもの全てが役に立つわけではないと言っている、この点にはリバプールでディレクターを務めるダミアン・コモッリが反論するはずだ。

彼はフットボールにおけるデータの活用の福音的存在で、クラブにおける重要な決断が数字を見ずに行われることはもはや無い、と語っている。これが上手く機能する時には、大きな成功につながる。アンフィールドの新たな英雄となったルイス・スアレスの移籍金2,300万ポンドは、今ではバーゲン価格として広く認知されている。

今年初め、コモッリは『フランス・フットボール』誌に以下のように語っていた。「ルイスについては、過去3年間の数字に着目した。特に何試合プレーしたかという点が重要だった。怪我をしない選手を獲得したいからだ。それに、アシスト数やビッグクラブ相手のパフォーマンス、小さなクラブ相手のパフォーマンス、ヨーロッパでの戦いぶり、ホームとアウェーでのゴール数の違いなども考慮する」

左サイドバックのホセ・エンリケもデータで獲得を決めた例のひとつだ。リバプールはガエル・クリシー(カンヌで何試合か経験したのみの17歳当時の彼を発掘し、アーセナルに推薦したのは他ならぬコモッリだ)の獲得に失敗した後、コモッリがリストの選手をチェックしていた時にホセ・エンリケの数字がレポートの内容以上に印象的であることに気付いた。そして移籍金や給与の面でもクリシーより安かった。今季ここまで、ホセ・エンリケがリバプールで際立ったパフォーマンスを見せているひとりであることは、コモッリの手法が機能している更なる証左だろう。

話がそんなに簡単であれば良いのだが、そうでないケースもある。少なくとも現在のところは、1月に3,500万ポンドを費やしたアンディ・キャロルの例がそうだと言わざるを得ないだろう。加入以来17試合で4ゴールという数字で、全てが批判にさらされる。元々はキャロルでなくフェルナンド・トーレスをスアレスと並べてプレーさせることを想定していたコモッリは、この文脈からキャロルについて言及されることには大分苛立っているようだ。問題は、ある選手で上手く行くことが、他の選手ではそうとは限らない、ということだ。

さる5月に行われたインタビューでのコモッリの言葉を拾ってみよう。「これまで我々が着目してきたのは才能で、それ以上のものではなかった。しかし、我々が欲しいのは才能に正しい態度と知性が伴っている選手だ。彼はチームプレーができるか?チームに献身するための知性を兼ね備えているか?我々は、心理的な側面、つまり態度やメンタリティについても、これまで以上に着目する必要がある」。これがスアレスを獲得した理由を説明するとすれば、他クラブのスカウトが獲得を見送った理由として「態度とメンタリティ」を挙げているキャロルの獲得は若干の驚きだ。

オーナーのヘンリーは、キャロルの価値についてトーレス(5,000万ポンド)マイナス1,500万ポンドと見積もっており、コモッリを支持する面々も、スアレスとキャロルを獲得するのにかかったコストは、トーレスとライアン・バベルの放出で得た資金と同じだ、と尤もらしい擁護をする。しかし、これは一貫性に欠けかねない話だ。チェルシーが2,500万ポンドでトーレスを獲得したとしても、ニューカッスルは1,000万ポンドではキャロルを放出しなかっただろう。

ここでの魔法の言葉は「価値(value)」だ。「全ての原理原則は、価値を創り出すことであり、統計と比較して価値が軽んじられている選手たちを見つけ続けることだ」とコモッリはフランスの「ル・スペシャリテ」紙に話していたが、「テレグラフ」紙のポール・ケスコ主幹は「1月の移籍市場締切日にセンターフォワードを買おうとしている時には、そんな価値を明確に見出せるわけではない」と指摘する。

しかし、『マネーボール』の理論においても、巨額の投資を除外してはいない点にも着目すべきだろう(同じくヘンリーが所有するボストン・レッドソックスは、過去10年MLBの中で2番目に多くの資金を費やしている)。コモッリがキャロルとの契約にゴーサインを出したのは、22歳という年齢、イングランド籍、滅多にないフィジカルの強さから、既に重要なターゲットとして狙いを定めていたからだ。

コモッリ本人は、プロの選手としては実績を残せなかった。モナコのユースチームに在籍していたが、その将来はリリアン・テュラムやエマニュエル・プティらによって阻まれた。19歳にしてモナコのU-16のチームを指導し始め、その後当時名古屋グランパスエイトで指揮をとっていたアーセン・ヴェンゲルに説得され、名古屋のU-18でゴールキーパーの指導にあたった。1年後、コモッリはアーセナルでヴェンゲルに仕えることになり、ヨーロッパをカバーするスカウトとなった。

コモッリの統計への情熱に火をつけたのは、他ならぬヴェンゲルだった。ヴェンゲルがマンチェスター・ユナイテッドが相手陣内で一番のパス成功率を誇り、ロイ・キーンがプレミアで一番の1対1で勝てる選手であることに気付くと、コモッリに「それがどうしてか、お前なら分かるだろう」と伝えた。

「答えは『マネーボール』にあった。まさに全てはそこにつながっていた」と『フランス・フットボール』誌に語った。「知人のお陰で、その本のヒーローであるビリー・ビーンとも友人になり、2005年以降はまさにこの仕事にどっぷりだ」ビーンとの友情が深まる中、2005年9月にコモッリはスパーズのフットボール・ディレクターに就任した。ホワイト・ハート・レーンでの3年間でコモッリは26人の選手を獲得し、そのうち8人は現在もスパーズにいる。この成功例には、ギャレス・ベイル、ルカ・モドリッチ、ベノワ・アス・エコトが含まれ、失敗と言えそうなのは、デイビッド・ベントリー、ジルベルト、そしてホッサム・ガリーなどだ。

『Pay as You Play』の著者であるポール・トムキンスは、著書の中でスパーズでのコモッリの選手獲得を分析し、30%が大きな利益を生み、25%は大損、残りはその中間と結論付け、「全体として2,650万ポンドの純利益を生んだ」と見ている。このコモッリのホワイト・ハート・レーンでの実績と、ビーン本人からの推薦で、ヘンリーは彼を雇うことに確信を得た。

『サッカーノミクス』の著者であるサイモン・クーパーは、監督のケニー・ダルグリッシュとの間に軋轢があると指摘するが、これをコモッリは否定している。クーパーは先週『The Score』誌に「コモッリはビーンに非常に近く、マネーボールをフットボールの世界に持ち込んでいるが、ダルグリッシュは直感に優れた監督だ」と述べている。

当然ながら、コモッリは2人の関係が悪ければこの夏の選手獲得はほとんど実現しなかったハズだ、と主張している。選手たちを獲得した上で、リバプールは14人を売却し、9人をローンに出した。クリスティアン・ポウルセンやミラン・ヨバノビッチのように保有権を手放したケースも、ジョー・コールのように依然として給与を支払っている場合もある。

コモッリをよく知るフランスの記者は、この夏の契約は高価な妥協だと見ている。コモッリは価値の向上が見込める若い選手が欲しかった一方で、ダルグリッシュは英国籍の選手を望んだ。結果はおよそ5,000万ポンドをジョーダン・ヘンダーソン、チャーリー・アダム、スチュワート・ダウニングに費やすことになった。

いずれにしても、コモッリは権力的な苦しみは理解している。以前のサンテティエンヌでの仕事でも、コモッリは共同オーナーたちの間に挟まって身動きが取れなくなった。ベルナール・カイアッゾは有名選手を呼ぶことで集まる注目を喜ぶビジネスマン、ローラン・ロメイエは努力を惜しまない選手が好みで、サポーターのような口ぶりで裏方に徹するタイプだった。2人は口論を続け、危うく降格するところまで落ちてしまった。コモッリが去った後にクラブは体制を改め、結果も改善していった。

トッテナム・ホットスパーの監督だったマルティン・ヨルも彼のスパーズでの失敗はコモッリのせいだと糾弾している。「責任はコモッリにあり、フットボールに関する大半の権限は彼が握っていた」フラムの監督に就任する際の会見でヨルはこう述べていた。ヨルの意思に反してコモッリがダレン・ベントやディエィエ・ゾコラを買ったのは事実だが、クラブはそれでも2シーズン続けて5位で終えた。2007年の10月にヨルが解任されたのは、ディミタール・ベルバトフと騒動になり、開幕10試合で1勝という過去19年で最低のスタートの後だ。コモッリが後任に選んだのはファンデ・ラモス(ヨル時代のスパーズで苦しんでいたフレデリック・カヌーテをセビージャに呼んだ過去がある)で、カーリングカップのタイトルを獲りはしたものの、13ヶ月後にラモスもコモッリもクラブを去った。

もうひとつの教訓はヴェンゲル時代のもので、同じく「サッカーノミクス」に関わるものだ。それは、ベストな選手は、その選手がいる間に代わりを連れてくる、というものだ(実際、ヴェンゲルはティエリ・アンリが去る前にエマニュエル・アデバヨル、デニス・ベルカンプが去る前にロビン・ファン・ペルシ、パトリック・ヴィエラが去る前にマシュー・フラミニを獲得した。同様にセスク・ファブレガスが出て行く前に、ジャック・ウィルシャーを起用し始めた)。トーレスの放出はその意味で早過ぎたが、ヘンダーソンがスティーブン・ジェラードの、セバスチャン・コアテスがジェイミー・キャラガーの後釜になれるかは、これから次第だろう。

仮にスチュワート・ダウニングを成功例としてスアレスやホセ・エンリケに加えるなら、失敗例としてキャロルの話を持ち出される毎のコモッリの反応には同情を覚えるだろう。しかし、彼が好む好まざるに関わらず、失敗で記憶に残ってしまうのがスポーツ・ディレクターの運命であることはコモッリ自身も分かっている。

そしてたとえキャロルが実力を証明するのに苦しんでいるとしても、コモッリはピッチの内外でリバプールに利益をもたらしている。FSGがクラブを買収して1年となるこの土曜日、リバプールはアンフィールドにマンチェスター・ユナイテッドを迎える。1年が過ぎ、クラブのムードは改善し、メンバーは整備され、将来は明るい。コモッリは彼の役割を果たしているのだ。

++++

前にサイモン・クーパーの似たような記事をピックアップしてたんだけど、コモッリに焦点が当たってるのも面白いと思って、ユナイテッド戦前にガガっとまとめ。彼がヴェンゲルに呼ばれて日本にいたのは知らなかった。

Monday, October 10, 2011

プレッシャーに苛まれる5人の監督たち

どのリーグでも起きる序盤戦の不振からの監督交代。ここまでプレミアリーグでは無風が続くが、インターナショナル・ウィークを挟むことから動きのあるクラブも出てくる可能性も指摘されている。それを具体的に5人の候補に絞って焦点を当てたのが「ガーディアン」紙のルイーズ・テイラー記者。


++(以下、要訳)++

代表の試合が組まれるインターナショナル・ウィークは、苦戦している監督たちにとっては危険な時期だ。国内の日程が小休止となり、クラブの会長たちは今の監督を更迭しても後任の救世主的な監督にスムーズに引き継げるからだ。その脅威は、クラブが特に名の通った有益な監督を求めているなら、尚更であろう。もしマーク・ヒューズやマーティン・オニールがどのクラブでも話題に上がっていないとしたら驚きだ。

プレミアリーグが第7節まで終了したものの、まだシーズンの先が長い現在であれば、この中断期間は何らかの変更を加えるにはちょうど良い時期だ。そしてクラブによってはファンが既に変化を求めているところもある。自分の首が飛ぶ可能性すらある流れでは、監督たちは彼らの関与を無視するわけにはいかない。かつてケヴィン・キーガンはこう語っていた。「監督になればいつだって銃口を頭に突き付けられている。問題はそこに弾丸が装填されているかどうかだ」


スティーブ・キーン(ブラックバーン・ローバーズ)

解任のシナリオ:絶え間なく前向きな発言を繰り返す姿は、彼をフットボールの監督版のデイビッド・ブレント(TVドラマ『The Office』)にし、もはや実際にブラックバーンの面々のモチベーションを成功裏に高めているとは思えない。プレミアリーグ21試合でわずかに3勝、イーウッド・パークの観衆たちは敵対心をもつようになり、次第に毒気を帯びてきた雰囲気が良い結果につながることは無い。キーンのこれまでの監督経験の無さは、そもそも彼がアラーダイスの後任に指名されるべきではなかったことを示唆している。

続投のシナリオ:キーンが今週のインドへのミニ・ツアーを率いていることから、彼が即座に解任されることは考えにくい。ブラックバーンのオーナーであるヴェンキーズは彼の監督能力に信頼を寄せていて、彼をサポートするフットボール・ディレクターを呼ぶことで、最大限の結果を得ようとするだろう。ロナウジーニョを獲得する、というような派手な素振りをしてきたが、実際はキーンはフィル・ジョーンズのような主力を失い、移籍市場のバーゲン品での補強を強いられている。

最初の解任劇となるオッズ:4-9(1.44倍)


スティーブ・ブルース(サンダーランド)

解任のシナリオ:元旦から数えてここまでホームで2勝。ローンも含めて2年間で30人の選手を獲得してきた監督としては切れ味に欠ける結果と言える。疑問符が付けられている点は、彼の戦術面での知性と選手交代策、頻繁に起こる選手との衝突、怪我の選手の復帰を急ぐ傾向、21世紀型の監督方法への適応力、そして論争を呼びがちなイングランド北東部に対する偏見とプレッシャーなど、多岐にわたる。

続投のシナリオ:ブルースは条件の良い延長契約を2月に結んだばかりであり、彼を解任するのは非常に費用がかさむ。この夏には10人の選手を補強したが、彼らが馴染むには時間も必要だ。サンダーランドのオーナーであるエリス・ショートは、ブルースがチームのミッシング・リンクと考えていた左ウィングにチャールズ・エンゾグビアを買うことを許さなかった。ダレン・ベント、ジョーダン・ヘンダーソン、ケンウィン・ジョーンズと失ってきたブルースは、移籍市場でも難しい時期を過ごしている。

最初の解任劇となるオッズ:7-2(4.5倍)


アーセン・ヴェンゲル(アーセナル)

解任のシナリオ:プレミア第7節まで終えて、2勝4敗1分け。アーセナルのようなクラブではこの数字は危機以外の何物でもなく、この15シーズンで初めてチャンピオンズリーグに出場できない恐れがでてきた。誰ひとりとして、ベンゲルであっても、代えの利かない人間などおらず、6シーズン続いた無冠にセスク・ファブレガスとサミ・ナスリの代役を見つけられなかった失態で、ヴェンゲルは長居をしているように映る。明白になったディフェンス面でのコーチング不足は若手とベテランのバランスの悪さで一層際立っている。

続投のシナリオ:チーム全体が悪い日に遭遇してしまったとみなすなら、特に、チームの倹約的なやりくりが上手く行っていることが分かった後であるだけに、ヴェンゲルにはもうひとシーズンチャンスがあるだろう。加えて言うならば、一体誰がヴェンゲルの後を継ぐのか?アーセナルは自分たちが何を望んでいるかについて、注意深くなる必要がある。

最初の解任劇となるオッズ:12-1(13倍)


オーウェン・コイル(ボルトン・ワンダラーズ)

解任のシナリオ:現在順位表の一番底。その脆い守備でイースター以来リーグ戦はここ12試合で11敗。ホーム6連敗はここ109年で最悪となる開幕での躓きを加速させ、ファンの中にはあのギャリー・メグソン時代にノスタルジアを感じ始める者もいる。昨シーズンの攻撃面での素晴らしさが守備の脆さを覆い隠していただけだったのだ、と。

続投のシナリオ:以上のことを考慮しても、コイルのここ10年のキャリアは上向きのものであった。ボルトンの幹部は、依然として人気のある元クラブの元ストライカーでもあるコイルに時間の猶予を与える余裕を持つべきだろう。ヨアン・エルマンデルやダニエル・スタルリッジのようなストライカーの代役を連れてこられなかったのはコイルの責任ではない。重要な中盤の駒であるスチュワート・ホウルデンが膝のケガで3月まで使えないことについても同様だ。

最初の解任劇となるオッズ:16-1(17倍)


ロベルト・マルチネス(ウィガン・アスレチック)

解任のシナリオ:リーグとカップ合わせて5連敗は、マルティネスが言っているほど良いフットボールが展開されていないことの証明だ。ディフェンスはしばしばナイーブであり、精神的にも脆い。明らかなのは二部のチャンピオンシップに向かって滑り落ちていっているということだ。マルティネスが非常に良い監督であったとしても、やはりウィガンにはマッチしていない。

続投のシナリオ:かつてウィガンのミッドフィルダーとしてプレーしたマルティネスの気高い忠誠心がオフのアストン・ヴィラからのオファーを断った、という話は相応に報いられるべきだろう。アストン・ヴィラに移籍したチャールズ・エンゾグビアやマンチェスター・ユナイテッドに復帰したトム・クレバリの代役はまだ十分ではない。マルティネスが追い求める哲学は魅力溢れるフットボールを生んでいるが、会長のデイブ・ウィーランはマルティネスの総合力と知性に比肩する後継者を見つけるのには苦労するだろう。

最初の解任劇となるオッズ:33-1(34倍)

++++

このインターバルの間に出てきたのは「マーティン・オニールがブルースの後任に、との打診を受けた」という記事。それに合わせて、ブルースのオッズが下がるといういかにもな展開。現実的にはもう少し様子を見ると思うけど…。

Friday, October 7, 2011

テヴェスの出場拒否 - それがどうした?

ロベルト・マンチーニの怒りのコメントも含め、一大騒動となったテヴェスの出場拒否事件。メディアは高給を受け取りながらあの振る舞いをしたテヴェスを責める論調だが、TV局「Channel 4」のインタビューに応えたサイモン・クーパーは「それがどうした」というスタンスで一石を投じている。


++(以下、要訳)++

0-2とバイエルン・ミュンヘンにリードを許した後半10分過ぎ、カルロス・テヴェスは交代出場を拒んで(ような仕草)ロベルト・マンチーニに歯ぎしりさせていた。マンチーニは後にこの振る舞いを「受け入れ難いもの」と評し、過去2度の移籍市場で退団を声高に求めてきたことも踏まえ、テヴェスは二度とシティでプレーしない、と語った。


20万ポンドを超える週給を受け取るテヴェスは、他の説明を補うことなく「プレーを拒否してはいない」と主張し、「クラブでの義務に従う」準備があるとも述べている。しかし、そんなテヴェスの主張は誰の耳にも届きはせず、彼には激しい非難の声が上がっている。

グレアム・スーネスは「私は不信感でいっぱいだ。なぜ選手がチームメイトを助けたいと思わないのか?どれだけ自分勝手なんだ?先発じゃなければもう不機嫌なのか?すぐにでもマンチェスターからできるだけ遠ざけるべき。彼は腐ったリンゴで、チームに蔓延しかねない。彼はフットボールの恥辱で、普通の人間であれば誰もが今のフットボール界の人間の振る舞いとして誤りだと考えることを全て具現化している」と声を荒げ、他の識者もテヴェスをリザーブに送るか契約の解消を図るべきと主張した。

しかし、『フットボールの敵』の著者で「ファイナンシャル・タイムス」紙でコラムニストを務めるサイモン・クーパーはこの騒動と辛辣な言葉に驚いたと述べている。

「これが何故ここまでのショックを人々に与えたのか、そして何故これがそこまで酷いことなのか、理解に苦しむ。ボスマン・ルール以降、選手たちの力はとっくに監督の力を超えている。平均的な選手でなく、ベストな選手たちの話だ。皆プライドや情熱、忠誠心について語るが、そんなものがこの世界の一部であるという意見には賛同しかねる」

「クラブは雇用主。仕事を楽しむことはあるだろうが、自分が勤める銀行を愛するだろうか?恐らく違うだろう。良いオファーをくれる銀行があったとして、それでも忠誠心を理由にその銀行に残るだろうか?これも恐らくノーだろう」

「人々はトム・フィニーやボビー・ムーアを忠実な選手の代表格に挙げる。しかし、彼らがクラブに留まったのはその必要があったから。彼らが今のフットボール界にいたなら、忠実にはならなかったはずだ」

その通りだろう。トッテナム・ホットスパーの監督であるハリー・レドナップはテヴェスの行動を「信じられない」と評し、以下のように語っている。「シティのレジェンドであるマルコム・アリソンやマイク・サマビーが、選手がチャンピオンズリーグで出場を拒むことがあると想像しただろうか、と考えてしまうね。本当に信じられない」

選手が途中出場を拒んだのは初めてだったかもしれないが、チームに従わないのは初めてのケースではない。選手がトレーニングを拒否するのは移籍の前兆だ。実際、レドナップ自身のストライカーであるエマニュエル・アデバヨルも、マンチェスター・シティからの移籍を求めてチームとのトレーニングを拒んだ。

クーパーによれば、こうしたストライキはフットボールの世界においては何もテヴェスやアデバヨルに限ったことではなく、この種の論争を呼んだ選手のリストは非常に長いものになる。世界最高の選手でさえ、浅薄な反乱と隣り合わせなのだという。

「昨シーズンのリーガの終盤、リオネル・メッシは監督が彼を休ませたいと考えたためにベンチに座っていた。すると翌日彼はトレーニングを拒否した。ただ練習場に現れないのだ。これは純然たる不服従だが、一体何ができる?トップクラスの選手は今や好きなようにできるのだ」

PFA(フットボール選手協会)のゴードン・テイラーは今後はこの傾向に益々拍車がかかると見ている。「トップクラスの選手が感情を露にするケースは増えてくるだろう。自分は下げられるべき存在ではない、もしくは現状を受け入れるよう求められるのは我慢ならない、そう考えるようになる。しかし、これはチームが肥大化していく中で避けられないことであって、プロフェッショナルに振る舞うべきなのだ」

クーパーは、レアル・マドリーでGMを務め、選手の力の強大化を嘆いていたホルヘ・バルダーノに言及してこう述べている。「彼は選手に話すだけでもいかに難しいかを教えてくれた。監督が選手を叱ろうと思っても、しまいには選手でなく代理人か弁護士、父親に言うハメになる」

まさに、マンチーニが休暇中のテヴェスに連絡を取ろうと電話をかけた際も、テヴェスは電源を切ってしまった。クーパーが言うには、時代錯誤のレンズでフットボールを見るのは止める時期に来ていて、もはや忠誠心や服従、奉仕といった考えは存在しない、という。かつてはあったとしても。

「選手たちは自分のためにプレーをする。誰にでも追い求めたい自分のキャリアがあり、できれば然るべきクラブに然るべき時期にいたいと考えるだろう。それは必ずしもエゴではなく、個人のキャリアだ。誰一人としてシティのためにはプレーしていないし、それはマンチェスター・ユナイテッドだろうが他のどのクラブでも同じだ。ゲームのルールは変わってしまっていて、それは随分前に変わってしまっているのだ」

++++

さもありなん。しかしシニカル。