ロベルト・マンチーニの怒りのコメントも含め、一大騒動となったテヴェスの出場拒否事件。メディアは高給を受け取りながらあの振る舞いをしたテヴェスを責める論調だが、TV局「Channel 4」のインタビューに応えたサイモン・クーパーは「それがどうした」というスタンスで一石を投じている。
++(以下、要訳)++
0-2とバイエルン・ミュンヘンにリードを許した後半10分過ぎ、カルロス・テヴェスは交代出場を拒んで(ような仕草)ロベルト・マンチーニに歯ぎしりさせていた。マンチーニは後にこの振る舞いを「受け入れ難いもの」と評し、過去2度の移籍市場で退団を声高に求めてきたことも踏まえ、テヴェスは二度とシティでプレーしない、と語った。
20万ポンドを超える週給を受け取るテヴェスは、他の説明を補うことなく「プレーを拒否してはいない」と主張し、「クラブでの義務に従う」準備があるとも述べている。しかし、そんなテヴェスの主張は誰の耳にも届きはせず、彼には激しい非難の声が上がっている。
グレアム・スーネスは「私は不信感でいっぱいだ。なぜ選手がチームメイトを助けたいと思わないのか?どれだけ自分勝手なんだ?先発じゃなければもう不機嫌なのか?すぐにでもマンチェスターからできるだけ遠ざけるべき。彼は腐ったリンゴで、チームに蔓延しかねない。彼はフットボールの恥辱で、普通の人間であれば誰もが今のフットボール界の人間の振る舞いとして誤りだと考えることを全て具現化している」と声を荒げ、他の識者もテヴェスをリザーブに送るか契約の解消を図るべきと主張した。
しかし、『フットボールの敵』の著者で「ファイナンシャル・タイムス」紙でコラムニストを務めるサイモン・クーパーはこの騒動と辛辣な言葉に驚いたと述べている。
「これが何故ここまでのショックを人々に与えたのか、そして何故これがそこまで酷いことなのか、理解に苦しむ。ボスマン・ルール以降、選手たちの力はとっくに監督の力を超えている。平均的な選手でなく、ベストな選手たちの話だ。皆プライドや情熱、忠誠心について語るが、そんなものがこの世界の一部であるという意見には賛同しかねる」
「クラブは雇用主。仕事を楽しむことはあるだろうが、自分が勤める銀行を愛するだろうか?恐らく違うだろう。良いオファーをくれる銀行があったとして、それでも忠誠心を理由にその銀行に残るだろうか?これも恐らくノーだろう」
「人々はトム・フィニーやボビー・ムーアを忠実な選手の代表格に挙げる。しかし、彼らがクラブに留まったのはその必要があったから。彼らが今のフットボール界にいたなら、忠実にはならなかったはずだ」
その通りだろう。トッテナム・ホットスパーの監督であるハリー・レドナップはテヴェスの行動を「信じられない」と評し、以下のように語っている。「シティのレジェンドであるマルコム・アリソンやマイク・サマビーが、選手がチャンピオンズリーグで出場を拒むことがあると想像しただろうか、と考えてしまうね。本当に信じられない」
選手が途中出場を拒んだのは初めてだったかもしれないが、チームに従わないのは初めてのケースではない。選手がトレーニングを拒否するのは移籍の前兆だ。実際、レドナップ自身のストライカーであるエマニュエル・アデバヨルも、マンチェスター・シティからの移籍を求めてチームとのトレーニングを拒んだ。
クーパーによれば、こうしたストライキはフットボールの世界においては何もテヴェスやアデバヨルに限ったことではなく、この種の論争を呼んだ選手のリストは非常に長いものになる。世界最高の選手でさえ、浅薄な反乱と隣り合わせなのだという。
「昨シーズンのリーガの終盤、リオネル・メッシは監督が彼を休ませたいと考えたためにベンチに座っていた。すると翌日彼はトレーニングを拒否した。ただ練習場に現れないのだ。これは純然たる不服従だが、一体何ができる?トップクラスの選手は今や好きなようにできるのだ」
PFA(フットボール選手協会)のゴードン・テイラーは今後はこの傾向に益々拍車がかかると見ている。「トップクラスの選手が感情を露にするケースは増えてくるだろう。自分は下げられるべき存在ではない、もしくは現状を受け入れるよう求められるのは我慢ならない、そう考えるようになる。しかし、これはチームが肥大化していく中で避けられないことであって、プロフェッショナルに振る舞うべきなのだ」
クーパーは、レアル・マドリーでGMを務め、選手の力の強大化を嘆いていたホルヘ・バルダーノに言及してこう述べている。「彼は選手に話すだけでもいかに難しいかを教えてくれた。監督が選手を叱ろうと思っても、しまいには選手でなく代理人か弁護士、父親に言うハメになる」
まさに、マンチーニが休暇中のテヴェスに連絡を取ろうと電話をかけた際も、テヴェスは電源を切ってしまった。クーパーが言うには、時代錯誤のレンズでフットボールを見るのは止める時期に来ていて、もはや忠誠心や服従、奉仕といった考えは存在しない、という。かつてはあったとしても。
「選手たちは自分のためにプレーをする。誰にでも追い求めたい自分のキャリアがあり、できれば然るべきクラブに然るべき時期にいたいと考えるだろう。それは必ずしもエゴではなく、個人のキャリアだ。誰一人としてシティのためにはプレーしていないし、それはマンチェスター・ユナイテッドだろうが他のどのクラブでも同じだ。ゲームのルールは変わってしまっていて、それは随分前に変わってしまっているのだ」
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さもありなん。しかしシニカル。
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