Friday, May 31, 2013

低調なシーズン、偉大なる記憶 - プレミア 2012-13

多くの別れがあった2012/13シーズンのプレミアだが、最終節に優勝にも降格にもドラマがあった昨季と異なり、今季は早々にマンチェスター・ユナイテッドの優勝が決まると、降格クラブも最終節を待たずに決まり、見所はアーセナルとスパーズのトップ4争いの行方しか残らなかった。

そんなシーズンに散りばめられていた見所を拾って振り返るコラムをアップしたのが、「テレグラフ」紙の看板的存在のヘンリー・ウィンター記者。



++(以下、要訳)++

今シーズンのプレミアリーグは忘れ去られてもおかしくないが、ロビン・ファン・ペルシやミチュのボレー、豚耳の守備、そしてロッカーの豚の頭で忘れ得ぬシーズンになったと広く揶揄されている。

今季は狂ったかのような、7-3、0-6、そして5-5といったスコアラインでの刺激があり、多くのスターも「サウンド・オブ・ミュージック」のような退場ではなく、さよならの別れの挨拶をしていった。

悪党の代表格となったルイス・スアレスでさえも、ブラニスラフ・イヴァノビッチに噛み付いて出場停止となる前に、10ゴール目と20ゴール目をリーグで最初に決める活躍ぶりだった。ありふれていて、少々害もあり、攻撃的で、しばしば素晴らしい混乱のシーズンは、部分的には悪いものではなかった。

タイトル争いという視点で言えば、 ヴィンテージよりもハウスワインの赤だった。マンチェスター・ユナイテッドも、過去の優勝チームの高みに到達したわけではないし、そうする必要もなかった。ユナイテッドにはファン・ペルシのゴールの数々があり、シティのタイトル防衛は、エティハドでの一戦で壁から消えたサミ・サスリのように無気力だった。

重圧のかかるチャンピオンズリーグでのプレミアリーグ勢の苦労は、プレミアのレベルの低下を露呈した。ブンデスリーガがその強さを見せつけ、ウェンブリーを乗っ取ることになった。ユナイテッド、シティ、チェルシー、アーセナル、スパーズの面々も、ブンデスリーガとプレミアのオールスター・チームを組んだなら、ほとんどメンバー入りできないだろう。せいぜいギャレス・ベイル、場合によってはファン・ペルシ、もしかするとフアン・マタくらいか。

降格クラブのうち2つは、早々に候補になり、QPRはまるでサーカスの様相だった。気の狂ったようなシーズンを送ったレディングでは、ブライアン・マクダーモットが1月に月間最優秀監督賞に選ばれ、3月に解任された。

ソープオペラ的観点で言えば、ドラマチックさのレベルは高かった。50億ポンドの放映権料は気まぐれではない。プレミアは、そのファンの情熱、3-0でも見せる選手の懸命さ、先の読めない筋書、そしてミスの数々が魅力で世界が観たいと思うリーグなのであり、スリルは満載だ。ケガ人にも苛まれたウィガンのディフェンスにはコミカルさと自滅の要素が同居し、それはスウォンジー戦、アーセナル戦でも体現されていた。その攻撃の鋭さを思えば、ウィガンが降格して寂しく感じることだろう。

今季は興味深いテーマが盛り沢山だった。ラファエル・ベニテスのチェルシー・ファンとの冷戦と微かな雪解け、スティーブ・クラークによる見事なウェスト・ブロミッジ・アルビオンの牽引、ミカエル・ラウドルップがスウォンジーにもたらした更なる鋭さ。ロベルト・マンチーニはゴールデングローブのジョー・ハートを酷く叱りつけた。ブレンダン・ロジャースの下で静かに復活をはじめたリバプールでは、決定力を見せたダニエル・スタルリッジと機敏なパサーであるコウチーニョの獲得がチームを特に勢い付かせた。

記憶に残る試合が生まれたシーズンでもあった。 一番のインパクトは、マンチェスター・ユナイテッドがエティハドでマンチェスター・シティを3-2で破った試合だろう。この試合の決着はファン・ペルシのフリーキックでついたが、アシストは直前まで壁にいながら、最後に姿を消したナスリのいつもの動きだった。これに対抗するのが、スパーズがオールド・トラフォードでユナイテッドを下した試合で、ブラッド・フリーデルが見せた決意溢れるセーブだろう。スウォンジーは観る者を楽しませたが、彼らを敵に回して喜んだのは、リバティに乗り込んでスワンズを4-3で下したノリッジだった。そして、テオ・ウォルコットのハットトリックは、アーセナルのニューカッスル戦の7-3での勝利に花を添えた。


ゴミ箱行きが相応しい光景もプレミアにお目見えした。 レディングがQPRと引き分けた試合は実に不毛で、後半にはボールまでもが階段の吹き抜けを通って脱出を試みたほどだった。いくつかのことは予想もできた。ポール・スコールズが自身の最後の試合でイエローカードを貰ったように。何人かの選手は、自身の行動で信頼を失いかけた。スパーズのためにゴールを決めたエマニュエル・アデバヨルは、サンティ・カソルラを宙に舞わせて退場していた。これは高くつくというものだ。

イエローカードやレッドカードと同様、パオロ・ディ・カーニオの跳躍から、アップトンパークで2度ボールを失ったウェイン・ルーニーを見た時のサー・アレックス・ファーガソンの表情まで、カラフルな側面も多数あった。そして、ニキツァ・イェラビッチがシティ戦でゴールを決めて2-0とした時には、グラディス・ストリートには信じ難い歓声が響き渡り、アストン・ヴィラがディ・カーニオのサンダーランドを八つ裂きにすると、ホルト・エンドには「7点決めろ(“we want seven”)」のチャントが飛び交った。

スウォンジーのサポーターは、ファーガソンのオールド・トラフォードでの最後の指揮となった試合でミチュが同点ゴールを決めると、「明日の朝にゃクビ!(“you’re getting sacked in the morning”)」のチャントを面白おかしく贈った。 また、彼らはファーガソンが「アシュリー・ウィリアムスのクリアでファン・ペルシは死んでもおかしくなかった」と以前コメントしていたことにかけ、ファン・ペルシが姿を現したことに驚きの意を示すべく、「ファン・ペルシ、死んだんじゃなかったのか(“Robin van Persie – we thought you were dead,’’)」ともチャントした。フットボール・サポーター連盟がアウェー・ファンのチケット代の値下げのために展開した「20ポンドで十分」のキャンペーンを、クラブは受け入れるべきだろう。莫大な放映権料で金庫は潤っているのだから尚更だ。

偉大なシーズンには程遠いが、それでも偉大なゴールが数多く生まれた。簡単に出るレッドカードと正直でないアタッカーたちのせいで積極的に行けない守備陣には受難の時代で、逆にゴールスコアラーたちは輝きやすくなった。スアレスが器用にボールをコントロールし、ファブリシオ・コロッチーニ、続いてティム・クルルを大歓声のコップの前でかわして決めたゴールは、月桂樹ものだ。アップトン・パークで冴えわたっていたユッシ・ヤースケライネンを破ったベイル一撃も同様だ。







フランク・ランパードがボビー・タンブリングのチェルシーでのゴール数記録を塗り替えたように、幾つかのゴールには、歴史的な意味があった。非常に大きな重要性を持つゴールは、終盤数か月のアーセナルで際立っていた、センターバックのロラン・コシェルニーから生まれた。高い運動能力が発揮されたセント・ジェームズ・パークでのゴールが、アーセナルのトップ4の座を確保した。しかし、より純粋にタイミング、テクニック、美しさという観点で言えば、ヴィラ戦のファン・ペルシのボレーが今シーズン最も甘美な一撃だった。


影を落とす場面には苛立たせられた。人種差別者扱いをしてマーク・クラッテンバーグを脅そうとしたチェルシーの振る舞いは恥ずべきものであった。そして、クレイグ・ガードナーのチャーリー・アダムへの、そしてカラム・マクマナマンのマサディオ・アイダラへのタックルは目にしたくない類のものだった。

エモーショナルな響きはシーズンを通じて鳴り渡っていた。スティリャン・ペトロフを支えたヴィラ・ファン、ファブリス・ムアンバのホワイト・ハート・レーンへの帰還、そしてそれが最も力強く意義深かったのは、警察の虚偽が遂に明らかになり、ヒルスボロの悲劇の遺族たちが真実にひとつ近づいた時だった。



シーズンが終わり、多くの引退があった。レフェリーのマーク・ハルシー、ジェイミー・キャラガー、マイケル・オーウェン、スコールズ、スティーブ・ハーパー、そしてファーガソン。しかし、今は前を向く時だ。プレミアが後退しているとみくびっている者は、このオフにはその対処に大金がつぎこまれることを知らないのだ。次のシーズンは悪くない優勝争いがあるだろう。

8月よ、早く来い。

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正にその通り、8月が早く来てほしいもの。

Thursday, May 2, 2013

降格するしかなかったQPR

先週末にQPRとレディングが対戦し、スコアレスドローに終わったことで両チームの来季のチャンピオンシップへの降格が決まった。中でも開幕から全く勝てず、シーズン途中に監督をマーク・ヒューズからハリー・レドナップに代えたQPRは、大型補強が残留に全く結びつかなかった。そんなQPRを、「インディペンデント」紙のスティーブ・タン記者が、かつて出版された本に準えつつ取り上げている。


++(以下、要訳)++

元北アイルランド代表で、プロ選手協会(PFA)の会長も務めたデレク・ドーガンは、かつて『How Not To Run Football(訳注:"run"は「経営」の意味で、「誤ったフットボール経営」的なニュアンス)』という本を書いた。彼は2007年に亡くなっているが、生きていればアップデート版の出版にはクイーンズ・パーク・レンジャーズが興味深いケースとなっただろう。リーズ・ユナイテッド、ポーツマスといったクラブと並び、分不相応の野望を抱いてそれが悪夢だと気付く新たなクラブとなった。

QPRとレディングは降格するが、来季はプレミアリーグ史上最も高額な放映権契約が開始されるシーズンだが、逆にフットボールリーグはより厳しい財務ルールを導入し、年間400万ポンド以上の損失を計上することができなくなる。したがって、良い財務状況で降格することが非常に重要なのだ。

ミニ・アブラモビッチを目論むロシア人のアントン・ジンガレビッチに経営権が移るまで、サー・ジョン・マディスキによって手堅く経営されてきたレディングは大丈夫だろう。給与総額をコントロールし、スター選手の獲得は行わずに、契約には降格時の解除条項をしっかり含めている。レディングは財務的には比較的健全であろう。マディスキが「我々はレンガをひとつずつ積み上げてきたし、荒療治を考えたことはない。QPRが選んできているのは荒療治の数々、もしくはそう思われるものだ」と語る通りだ。

レンジャーズはリーズとポーツマスの全ての最悪の過ちを繰り返してきたようにも見え、ファンは同様の状況に陥る恐怖を抱いている。単に降格するだけでなく、管財人の管理下に置かれ、やがて忘れ去られてしまうという恐れだ。

フットボール財務に詳しいリバプール大学教授のトム・キャノンは、降格(最近9クラブで、1年でプレミアに戻れたのはウェストハムのみ)はプレミアとチャンピオンシップの両方の苦しみを味わうことになる、と語る。「フットボールリーグの(財務面での)規制は一層厳しくなり、QPRはプレミアに留まるためにかなりの資金を使っている。降格クラブに提供されるパラシュート・マネーで補えるバランスではない」

「チャンピオンシップではプレミアリーグでのようなチケット料金は設定できず入場料や試合当日の収入が減るし、多くのCM契約にも降格時の解除条項があると思われる。そして長期契約を結んでしまった選手がいるわけで、QPRは彼らを売るのにも苦労するだろう」

資金が豊富なオーナーのクラブに来る新監督は、新たな選手を欲しがるものだ。ニール・ウォーノック、マーク・ヒューズ、ハリー・レドナップのいずれも例外ではなかったし、2011年8月にトニー・フェルナンデスがオーナーとなってから4つの移籍ウィンドウで24人が新たに契約、代理人たちのビジネスは大繁盛だった。 最新のデータでは、QPRよりも多くの代理人費用を支払ったのは、マンチェスター・シティとリバプールだけだった。

2012年の移籍金で比べても、レンジャーズは3番目に高い。この数字に今年の初めのクリストファー・サンバとロイク・レミーに費やした2,000万ポンドは含まれていない。また、他の有名選手たちにしても、フリー・トランスファーで来た選手であれば、より高額なサラリーを求めることができたはずだし、違約金を受け取らなければ出て行くことにも同意しないだろう。

注目度が上がると、昇格クラブは難しいバランスに直面する。昨季共に昇格してきたノリッジ・シティとスウォンジー・シティは、それが実現可能であることを示したし、以下に示す通り、クラブ運営でもQPRと比べればあらゆる面で健全だ。さらに重要なのは、共に監督交代を経ても生き残っているという点だ。

クラブの財務的な健全性を示す指標のひとつに、サラリーと収入の比率がある。ノリッジの数値は50%を下回っており、プレミアでも最も低い水準だ。これは他クラブに比べて高いケータリング・スタッフの給与を含んでいるため、純粋に選手だけであればもっと低くなる。53%のスウォンジーにしても、トロフィーを勝ち取れる選手たちを連れてくることができるのだ。

チャンピオンシップで優勝したシーズン、QPRは3,000万ポンド近くをサラリーに費やした。 収入はその半分程度であり、比率にするとサラリーは収入の183%だった。昨シーズン、それは「たったの」91%まで抑えられたが、収入がプレミアで17番目であるにも関わらず、サラリーの総額は12番目となっていた。

フェルナンデスが、僅か19,000の収容人員であるロフタス・ロードが問題だ、とすぐに気が付いたが、既に新練習場の建設にも取り組んでいることから、スタジアムの問題は更なる投資でしかない。最近バークレーズ銀行から1,500万ポンドの資金を調達したが、クラブの負債総額は1億ポンド近くに達している。

フェルナンデスが経営権を掌握し、資金のあるミッタル一家を再び迎え入れた時には安堵が広がった。プレミアリーグ創設時のメンバーで、当初は順調だったクラブも、2001年までには3部相当に落ちぶれ、管財人の管理下に置かれていた。フラヴィオ・ブリアトーレとバーニー・エクレストンの混乱の時代は、「The Four Year Plan/4年計画」というドキュメンタリーにすらなった - その4年間を計6人の監督が率いた。

収益性と長期的なクラブの持続性について、フェルナンデスは正論を繰り返しているし、格安航空会社のエアー・アジアやF1チームのロータス(現在のケータハム)など、比較的小さなビジネスについては理想的な経歴の持ち主だ。それでも、彼もCEOのフィル・ベアードにしても、フットボールや契約関係での経験が無い。

前出のキャノン教授は、「成功している起業家は、たいていフットボールなど簡単だと考えがちだ。自分たちならよりよくできると考えるし、それはニューカッスルで起きていることにもあてはまる。トニー・フェルナンデスのプランは、QPRをメジャークラブにすることだが、ロンドンには国内の5つのビッグクラブのうち3つが存在している」 と指摘する。

一点ポジティブな要素があるとすれば、それは幹部が既に長期的にコミットすることを明らかにしていて、新練習場の計画についても先日認可が下りていることだ。キャノン教授はこう付け加えている。「彼らには、新たに厳しくなった財務条件に従っている限り、クラブの面倒を見続けられるだけの資金力はある。ポケットから資金を出し続けていれば、QPRが新たなポーツマスになることは無いが、それが短期的な解決策になることはないだろう」


【参考】:昨季同時に昇格してきた3クラブの財務比較

(全項目共通で、順に):QPR/ノリッジ/スウォンジー
スタジアム収容人員数:18,680/26,840/20,650
総収入(ポンド):6,400万/7,460万/6,520万
サラリー総額(ポンド):5,840万/3,680万/3,460万
収入/サラリー比率:91.2%/49.3%/53.1%
総利益(ポンド):▲2,300万/1,600万/1,700万
負債(ポンド):8,900万/ 無し / 無し


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ということで、これから先、QPRのチーム編成がどうなって行くのかには注目。サラリーの高い選手や契約解除条項の無い選手が「残って昇格に貢献したい」とか言ってると、クラブとしては苦々しいのかもしれないし。