個人的には起きて欲しくは無かった、トッテナムのハリー・レドナップ解任劇。会長のダニエル・リヴィとの関係がギクシャクするのは今に始まったことではなく、一度はイングランド代表監督就任が既定路線になり、契約が残り1年という状況も相まって、「いま投資をしないのは次期監督のために資金を留保してるんだな」と理解し、ギクシャク感が露わになることも無いだろうと思っていた。
※この辺のギクシャク感は、昨年8月の「ダニエル・リヴィ会長の瀬戸際戦略がスパーズにもたらすリスク」を参照。
ところが後半戦の失速に加え、ロイ・ホジソンが代表監督に就任、リヴィが「この監督を残すか考えものだな」と熟慮を始めたのも分からなくもない。それでも大ナタを振ったな、というのが今回の印象なんだけど、そのリヴィの人物像的な所に焦点を当てた「テレグラフ」紙のマシュー・ノーマン記者のコラムが今回のネタ。ちなみにこの記者、普段は食品関係が専門で、今回この記事を書いているのはスパーズのファンだから。
++(以下、要訳)++
スポーツの世界では恐れを知らないことは、他の公の分野と同様にさしたる武器とはならない。それが必要な時に発揮されれば、その称賛は、義務であり権利でもある。
ということで、トッテナム・ホットスパーの虜になっている皆さんに代わって言うならば、ハリー・レドナップを解任した会長のダニエル・リヴィを祝福しよう、といったところだろうか。
この信じ難いほどに勇敢な決断を下す要因が何だったのか、正確な所は不明のままだ。ハリーの脱税疑惑が無罪放免となって代表監督の筆頭候補となった後の失速 -チェルシーのチャンピオンズリーグの優勝で、スパーズが来季その場に立てなくなったことも- が理由ではないか、と推測することはできよう。
もしくは、個人的な敵意について考える者もいるだろう。リヴィは見せるうわべの無表情の下には、コックニーの魔術師が称賛されることに対する彼のエゴの傷があるのかもしれない。
私は、モー・モウラムが労働党集会でスタンディング・オベーションを受けた時に、ブラックプール・ホールにいた。その時のトニー・ブレアの冷淡にひきつった口からは、彼女の内閣での日々はそう長くないであろうことが明らかだった。
この例えは、皆の中でも、リヴィのスパーズ内部での強力な仕事ぶりを好まない方々には困惑すタイプのものだろう。なので、ここで複雑怪奇な彼の思考プロセスを理解するためにスペースを無駄に使うよりも、彼の象徴とも言うべきその大胆さを象徴することで筆を進めたいと思う。
例えば、これだけ失敗が明らかになっても、「フットボール・ディレクター」に監督を括りつける実験をやめようともしない。
あまり勇猛とも言える性格でもなく、まずはグレン・ホドルとデイビッド・プリート、そしてジャック。サンティニとフランク・アネルセン、さらにマルティン・ヨルとダミアン・コモッリで重ねてきた悲劇に怖気づいてもおかしくはない。そして、それはファンデ・ラモスとコモッリでも繰り返された。
そして、ディミタール・ベルバトフの移籍騒動でマンチェスター・ユナイテッドから最大限の移籍金をむしり取る努力をして、気がつけば代わりのストライカーの補強には遅過ぎ、スパーズをリーグの順位表の底に落とした時に、遂に彼はその戦術を諦めた。そしてハリーを雇い、彼に誰にも邪魔をさせずに仕事をさせた。
結果はすぐに出て、レドナップがギャレス・ベイルやルカ・モドリッチの眠っていた才能を呼び起こして開花させたのは特筆に値するものだった。
クラブ唯一のチャンピオンズリーグ出場では準々決勝進出の輝かしい歴史を作り、今季もシーズンの3分の2は好印象の結果を残し、そのクリエイティブなフットボールはマンチェスターの2強による支配よりも印象に残った。
この夏にベイルとモドリッチの退団も予期される中、ハリーがチームの基礎を作ったと言えるのかどうかは分からない。スパーズはスパーズであり、脆さと自滅はDNAとして埋め込まれているようだ。
それでもひと月前にはマンチェスター・シティにも同じことが言えていた可能性もあるし、戦術的な限界はあったとはいえ、ハリーは60年代とは言わないまでも、80年代以降では比較にならないほど独創的なフットボールを作り上げた。そんな監督をかくも曖昧な根拠で解任してしまうには、よほどの先見性が必要で、冷淡、無知、そして明らかな不愉快さや不注意な愚かさと取られてもおかしくはない。
前兆はあまり前向きなものではない(特に、ヨルで同じことをした時は、ラモスは混乱しながら辛うじて1年しかもたなかった)が、今回は違うのだろう。リヴィ氏が誰を選ぶのであれ、後任はハリーが残したトップ4という実績とファンが求める優美で華麗なスタイルに応えるのに苦しむだろう。中位に彷徨うクラブへの逆戻りは、ハリーを対岸の王子に仕立て、リヴィへの恨み節になる、というのは決して言い過ぎではないだろう。
しかし、憂鬱なトーンで終えるのはやめておこう。数多くの監督人事での失敗を経て、これだけ際立った成功さえ追いやってしまうのは予想以上の大胆さだ。我々は、ダニエル・リヴィの勇気が、それに値する結果をもって報われることを祈るのみだ。
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オーナー、会長といえば、チェルシーのロマン・アブラモビッチも記事にはなるけど、ダニエル・リヴィもそのキャラクターが記事になるという意味ではかなりのもので、ハリー・レドナップを解任した今回はなおさら。
確かに後任は、トップ4でも解任された監督の後任、ってことでどうしても比較はされてしまうね。良い時代がやってきますように!
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