Saturday, June 9, 2012

リネカーが見る、ユーロのイングランド代表

普段はBBCの『Match of the Day』で土曜の司会を務めているギャリー・リネカー。このユーロに際してもBBCでスタジオの進行を務めているが、今週「テレグラフ」紙にコラムも書いてた。いよいよ開幕のユーロに臨むイングランド代表について、「代表に深みは無いかもしれないが、希望はある」と題して。



++(以下、要訳)++

ユーロ2012に臨むイングランド代表への期待が低調な中、負け犬のメンタリティがロイ・ホジソンの率いる代表メンバーを、ヨーロッパの舞台での彼らには珍しい平均以上のパフォーマンスを発揮させることになるかもしれない。

新聞の論調であれピッチでの姿であれ、これはメジャー大会に臨む史上最弱のイングランド代表だ、ということはできるだろう。ポーランド、ウクライナでの選手たちには、我々が最悪だった92年のスウェーデンでのユーロ以来、最も希望が無いのではないか。

それでも、ホーム・アドバンテージのあった96年以外、我々はこの大会で躍動したためしがない。過去数年に見せてきたポテンシャルは抜きにしても、我々は、我々自身の期待を上回れるのだ、ということに気付くことができるかもしれない。

国中見渡しても、期待の低さは否めないところだ。ムードは非常に現実的で、ユーロ2012に希望を見出しているのは、筋金入りのコアなサポーターたちだ、といった見立てだ。仮に負け犬として持つべき態度に適応できるなら、そうした考え自体、我々にはプラスに働くかもしれない。 仮に我々がガッチリと守りを固めるようなスタンスで堅い戦いを挑む - オープンに戦って1-4でドイツに敗れたワールドカップとは異なる - なら、チャンスはあるだろう。2004年のギリシャ、20年前のデンマークが証明したように、職人揃いでもなく、数多くのワールドクラスの選手に恵まれなかったとしても、こうした舞台で「うまくやる」ことはできるのだ。

この大会は素早く勢いに乗って、グループリーグの試合に優先順位を付けて行かねばならない。ワールドカップと違って、ウォームアップの時間は少なく、徐々に調子を上げて行く、というわけには行かないのだ。 早速フランスとのタフな試合が控えているし、月曜のその試合で何かを得ることが非常に重要だ。引き分けに持ち込むことができるのならば、それは我々が比較的良い調子なのだと私は信じることができよう。

期待値が低いということは、多くの予想を上回るプレーを見せられるという意味でも追い風になるだろう。 その上で、依然としてスペインのような才能あるチームを倒すのを想像するのは、ウェンブリーでそうできたとしても難しいだろう。その試合のデータに少しでも目をやれば、我々があの日いかに幸運だったかを思い出すはずだ。

いまの状況で考えれば、イングランドが決勝ラウンドに到達できたとしたら、それには敬意が払われるべきだろう。最高の選手たちのうちの何人かは30歳を超え、若手選手の多くはまだこのレベルの舞台に臨む準備が整っているとは言い難い。そのちょうど真ん中にウェイン・ルーニーがいるのだが、グループリーグの最初の2試合には出場できない。少なくともジョー・ハートを見るに、我々にはワールド・クラスのゴールキーパー - ここのところお目にかかることも無かった - がいると考えることができる。

しかし、私はこのチームにもっと深みが欲しい。モダン・フットボールではなかなか2トップでのプレーは難しく、それはホジソンがノルウェー戦で試みたことからも分かる。

予測がしやす過ぎるのだ。オスロでの試合では、アシュリー・ヤングには十分な自由が与えられず、中盤はアンディ・キャロルに向けたロングボールを強いられ続けた。我々はボールキープも十分にできたとは言えず、しばしば相手にボールを奪われた。それでも、ホジソンはここまで第2の手段を試し続けており、先発の11人がもっと良くならないかと、皆も願っているだろう。

私のもう一つの懸念は、4ラインでなく3ラインでのプレーを選択した場合、相手にその間のスペース、特にディフェンスと中盤の間を使われやすいのではないか、という点だ。我々が極めて深く引いてプレー - それはそれで明白な問題を生むが - すれば、大きなギャップができ、前線をサポートすることは極めて困難になる。チャンピオンズリーグでのチェルシーはこのアプローチで成功できたが、バルセロナ相手にもバイエルン・ミュンヘン相手にも信じ難いほどの運に恵まれたのも事実だ。つまり、完全にそれをアテにすることなどできないということだ。ホジソンが彼自身の戦術を広めていくと、ストライカーたちの一人には、中盤深くに下がって必要に応じて中盤を助けることを求めるようになるだろう。

もちろん、イングランドがワールドクラスのフォワードの選択には恵まれていないというのも事実だ。我々が持つ、たった1人のワールドクラスであるルーニーは、大事な最初の2試合を欠場する。とても理想的なシナリオとは言えないのだ。監督はバックアップとしてキャロルやダニー・ウェルベックを呼ぶことはできた。しかし、彼らに大きなポテンシャルがある一方で、どんなに想像を働かせても彼らが完成品だとは言えないだろう。ホジソンは身動きが取れない状態だとも言える。ジャメイン・デフォーは良いストライカーだが、彼はトッテナムでレギュラーを勝ちとってはいないし、キャリア全体を見れば、3試合に1ゴールのペースが良いところだ。それではワールドクラスのゴールスコアラーとは言えないだろう。私はデフォーが好きで彼のクオリティ、特にそのシャープさには敬意を持っているが、ゴールを量産するとも思えないのだ。

この流れで考えれば、我々にはとにかくルーニーが必要だ。彼がベストの状態ならば、違いを見せるだろう。特に後半戦はマンチェスター・ユナイテッドで素晴らしいシーズンを送ってきたし、彼がフランス戦もスウェーデン戦も出られないというのは非常に残念だ。 キレたりせずに落ち着いている、という意味では彼はより成熟するということを学んだ。彼が今季受けたイエローカードは、最終節のサンダーランド戦の1枚だけ、ということは忘れるべきではないだろう。モンテネグロでの愚行でレッドカードを受けたのが同じシーズンだということも。彼の父親は同じ週にサッカー賭博に関わる裁判を受けており、それが彼に影響したのは確かだろう。

ギャレス・バリーの代わりにフィル・ジャギエルカを招集したことだけでなく、ホジソンはいくつか繊細な微調整を行っている。ジャギエルカが中盤の底でもプレーできることを彼は評価していて、だからこそバリーの代わりにそのまま中盤の選手を選ばずにディフェンダーを入れたのだ。加えて、中盤はイングランドの中でもワールドクラスが揃う場所でもある。フランク・ランパードを失いはしたが、スティーブン・ジェラード、スコット・パーカーは非常に効いていて、右ではジェームス・ミルナーが貢献している。中盤でのプレー経験のあるジャギエルカは、エヴァートンではセンターバックとしてプレーすることが多かったとは言え、このメンバーに何の問題も無く入って行くことができるだろう。

そして、期待の低さ以上にイングランドにプラスに働くであろうものは、そのグループ分けだ。 イングランドが入ったグループDは、4つのグループの中では2番目に楽なグループだ。Bにはドイツ、オランダがいて、Cにはスペインとイタリアだ。我々のグループを見てみれば、ウクライナは開催国でなければ出場は叶わなかっただろうし、スウェーデンは - これまでに我々を苦しめてきた歴史を考えたとしても -「それなり」のチームでしかない。昨年のウェンブリーでの親善試合でも印象には残らなかった。フランスにしても、2010年の南アフリカでの崩壊から立ち直ってきている最中だ。

確かにイングランドはクラクフにおいたベースキャンプから、ドネツクへの2試合は長旅になるが、それが大きく不利に働くことは無いだろう。

そして、確かに高齢化が進み始めているという懸念はあるだろう。それでもチェルシーの例を考えてみたらいい。チェルシーには30歳を超えた選手が数多くいたが、蓄積された知性でチャンピオンズリーグを勝ち獲った。最終的には、経験の良さというものは驚くほどプラスに働くこともあるのだ。

++++

リネカーが話しているのを見るのは、大抵『Match of the Day』の進行役だから、彼自身の考えを聞くことはあまり多くないのだけど、こうして見てみると、割とオーソドックスな考えなのだな、と。でもそこはイングランド人、「どうせダメだよ」っていう心の準備をしつつも、期待をかけてるところも垣間見えて面白い。

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