Saturday, July 7, 2012

マンチェスター・ユナイテッド、ニューヨーク上場の狙い

留学中のファイナンスのクラスで、「トピックは好きに選んで良い」言われたレポートがあって、その時は大マジメにイングランドのフットボールにおけるおカネの流れについて勉強した。元々関心はあったのだけど、あらためて色んな指標をクラブごとに比べてみたり、日本のクラブと比較すると結構面白い。負債の定義の仕方や種類にもよるけど、アーセナルとかはキャッシュの流れとか見ても基本的にクラブは健全経営、ただし、スタジアム建設に関わる負債は身動きを取りづらくしてるし、マンチェスター・ユナイテッドは利率の高い負債が大きく、その利子の返済が財政を圧迫、シティやチェルシーは人件費総額が入場料収入を遥かに上回っていて、そもそも経営のモデルとしては成り立っていない。

そんな中、最初は香港やシンガポール等、アジアでの上場を目指すと言われていたマンチェスター・ユナイテッドが、ここに来て上場先はニューヨークになりそう、という記事が出始めている。上場の目的自体は、負債に利子の無い株式を当てこむことでのバランスシートの改善と考えられるが、自分の勉強も兼ねて、ロイターの記事を選択。




++(以下、要訳)++

マンチェスター・シティに頂点を奪われた昨シーズンを受け、マンチェスター・ユナイテッドがニューヨーク市場への上場によって負債を軽減させ、トップクラスの選手への投資資金を得る計画を立てている。

NFLのタンパベイ・バッカニアーズのオーナーでもあるアメリカ人のグレイザー一家は、議決権付き株式を活用した米国への上場によって、19度のチャンピオンに輝いているこのグラブを掌握し続ける。

クラブは今回の上場で1億ドルを調達し、4.23億ポンド(6.63億ドル)に及ぶ負債を軽減するための申請書を提出した。これは現時点での見通しであり、株式の発行数は増える可能性も残されている。

ユナイテッドは6.59億人に上る世界のファンのうちの多くがいるアジアの市場で上場して10億ドルを調達する計画だったが、これを取り下げてイングランドのフットボール・ファンの少ない北アメリカへと上場場所を移したニュースは驚きをもって受け止められた。

しかしながら、最近のアジア市場の不安定さは、フォーミュラ・ワンを含む、他の多くの上場を遅らせている。また、アメリカの投資家たちは、今回ユナイテッドが計画している議決権を分けた形の上場にも慣れている。今回発行されるクラスAの株式は、2005年に7.9億ドルでクラブを買収したグレイザー一家の10分の1の議決権しか持たないことになっている。

ユナイテッドは火曜日にアメリカ証券取引委員会(SEC)に提出した申請書の中で、「プレミアリーグでは、潤沢な資金を持つオーナーからの投資を受けたチームが、トップクラスの選手やコーチング・スタッフを揃え、国内、そしてヨーロッパでより良いパフォーマンスを見せている」と述べている。

1878年に設立され、ジョージ・ベストやボビー・チャールトン、デイビッド・ベッカムを輩出しているマンチェスター・ユナイテッドは、 重厚な目論見書を提出してはいるが、実際の上場のタイミングや株式発行数の規模については明らかにしていない。

クラブの昨年3.31億ポンドの収入を上げているが、グレイザー一家が背負った負債の影響で、5,100万ポンドの財務コストがかかっている。


テレビ放映権の影響

ユナイテッドは最近「Forbes」誌に世界で最も価値のあるスポーツ・チームにランクされた。イングランドのタイトル獲得数がトップであるだけでなく、ヨーロッパ王者にも3度輝いている。

この成功は、クラブに世界中でそのブランドを売り込むことを可能にした。商業パートナーを世界72カ国に持ち、アメリカのスポーツウェア・メーカーのナイキ、ユニフォーム・スポンサーとなったエーオン、トルコ航空、シンハービール等と提携している。

申請書の中では株主への配当は計画していない、と記しており、それを期待する人々は株式の購入に二の足を踏むだろう。

ルイス・シルキン社の弁護士で、スポーツ産業に詳しいカリシュ・アンドリュース氏は 「一部の投資家は単にマンチェスター・ユナイテッドの一部を保有したくて株式を買うだろうが、多くの投資家はクラブの価値が上がって行くかどうかを推測するだろう。最近のプレミアリーグの放映権入札や、それに関連する追い風を見れば、グレイザー一家が投資家たちに株価が上がっていくと思わせるには良いタイミングだったのだろう」と語った。

20チームからなるプレミアリーグは、テレビ放映権料の更改交渉で70%の増額を勝ち取り、3年間で30億ポンド以上を得ることになる。

ユナイテッドは5月に国内のタイトル争いで、アブ・ダビを率いるシェイク・マンスーとう資金を得たシティに敗れた。ヨーロッパのチャンピオンズリーグでも早期に敗退し、2005年以来の無冠で収入は大きく減少した。

ファンは、今回の上場でクラブがかつての支配力を取り戻すことを期待している。ロビーイング・グループであるマンチェスター・ユナイテッド・サポーターズ・トラスト(MUST)のトップであるダンカン・ドラスド氏は「仮に調達額の多くが負債の解消に充てられるのであれば、我々としても歓迎であるし、負債がクラブにダメージを与えているという我々の考えの正しさを証明することになる」と語っている。


ファーガソン・ファクター

ユナイテッドは1990年代にロンドン株式市場(LSE)に上場していた数多くのクラブのひとつだった。しかし、結果に左右されがちな産業に、投資家たちの関心はすぐに薄れて行った。

クラブの直近の成功は、1986年からチームを率い、現在70歳になるタフなスコットランド人、アレックス・ファーガソンによってもたらされたものだ。

申請書にも「現在の監督のいかなる後継者も、現在の監督よりも成功することはないだろう」と書かれており、やがて来るファーガソンの引退が抱える困難を警告している。フォーミュラ・ワンにおいても後継問題は深刻で、商業面での成功をもたらした81歳になるバーニー・エクレストンを引き継ぐのは困難と見られている。

上場後もクラブのメインの株主は84歳のマルコム・グレイザーと6人の子供たちだ。新たに設立された持株会社がケイマン諸島に登記されており、敵対的買収も困難になっている。申請書にも、「あらゆる合併、買収もしくは融合は、役員会の積極的な同意が必要となる」と書かれている。

マルコムの息子であるジョエルとアヴラムがクラブの共同会長で、イギリス人のデイビッド・ギルが2003年以来CEOだが、ギルがかつてはユナイテッドの財務部長だった。

申請書からは、4月に返済されているものの、グレイザー一家が2008年の12月にクラブから1,000万ポンドを借り出したことも明らかになった。

「融資の条件は、我々が第3者から融資を受けていた場合に適用されたであろう条件よりも、我々にとって好ましいものであったと考えている」

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という感じで、詳細が明らかにならない中での現状のまとめ記事、という印象。それでも、単に上場の話だけ出されるよりは、放映権料や監督後継問題のリスクとつなげてくれた方が理解はしやすいってもの。通信社らしく味気ないのが通例のロイターにしては珍しくそれなりに編集された記事。

オマケ:アメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」 もしっかりこの辺は取り上げてる。

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