Saturday, June 30, 2012

柔軟性を欠いたイングランドの「遅れ」

ユーロ2012でのイングランド代表は、直前でのファビオ・カペッロ辞任もあり、今までにない期待値の低さで大会入りした。決勝ラウンドには勝ち上がったものの、イタリア相手に防戦一方でPK戦となり、ベスト8で散って行った。

まとめ記事も大量に出回っていて、イングランドにもピルロがいれば上に行ける、というようなものから、4-4-2の限界、さらには根本的な技術の不足を指摘して育成段階からの改革を唱えるものまで、議論好きのイギリス人はとことん語っている。

ここで選んだのは、プレミア最終節でのスタジオでの絶叫も記憶に新しい、元アーセナルのポール・マーソンによるもの。普段のリーグ戦の勝敗予想とか、このオッサン、テキトーだな、と思わせるものも多いんだけど、このコラムは割と納得のいくもの。

 
++(以下、要訳)++

人生の中のどんな仕事であれ、柔軟でなければならない

あなたが装飾をするペンキ屋で、家のペイントを違う方法でやってくれ、と言われればそうしなきゃいけない。あなたが建築家の場合も同様で、違うタイプの家が良い、と言われれば、そうすべきだ。

ロイ・ホジソンは優秀な監督で人間的にも素晴らしいが、イタリア戦ではただ柔軟性に欠けていた。彼は厳格な4-4-2に臨み、イタリアが襲いかかってきても、それを変えることはなかった。

試合を動かしているのがアンドレア・ピルロだ、ということは試合が始まってすぐに明らかになった。世界を旅した経験ある監督として、そのシステムが誤りであると気付いて、変えねばならないことにも気付いたはずだろう。

誰かをピルロにつけねばならない。彼がどこにいても自由に動き回ってパスを出せるような状況は好ましくない。私は44歳だが、それでも誰も寄せて来ないなら、今でもトップレベルでフットボールをすることができるし、この試合のピルロほどのスペースを与えられれば、どこにでもボールを出すことができる。

我々は何かを変えねばならないのだ。中盤には3枚必要で、ジェームス・ミルナー を真ん中に置いてピルロに付けるべきだった。ミルナーのキャリアを振り返ってみれば、彼が一番良かった時期はアストン・ヴィラ時代であり、その頃の彼は中盤の真ん中でプレーしていた。右ウィングではない。

ミルナーはハードワークができるが、国際レベルのウィンガーではない。それでも、彼に「ピルロにつけ」と指示するのは難しいことではなかった。ピルロは33歳、もう走れないんだ! 実際、去年ACミランからはタダで放出されてる選手だ。

イタリアが決勝でスペインとやることになれば、ピルロは10回とボールに触れることはできないだろうし、試合終了前に交代させられるはずだ。 しかし、彼は我々に彼のショーを見せつけ、PKは彼がいかに自信を持っているかを証明しただけだった。

私がプレーした監督の中で、一番の戦術家はジョージ・グラハムとハリー・レドナップだった。彼らはアーセン・ヴェンゲルのような監督たちよりも頭一つ抜きんでていた。

ハリーだったら、このことにはすぐに気付いていただろう。彼だったらピルロを自由にさせ続けるようなことはなかった。心配なのは、ホジソンがそれに気付いているようには見えなかったことだ。


後方遥か彼方

ただそこに座って「イングランドは不運だった」などということはできない。私は、我々は100万マイル遅れをとっていると感じている。

私はあのイタリア戦からポジティブな気持ちにはなれなかった。相手は、今年に入ってからアイルランドに勝つまで勝てなかったチームだったが、グループリーグの3試合で見せた良いプレーは姿を消してしまっていた。

フェアに言っても、私やこのコラムを読んでいる皆さんも、グループリーグの試合からはそれを感じ取っていたはずだ。フランスは悪くないチームだったが、スウェーデン(ズラタン・イブラヒモビッチ以外に、イングランド代表に割って入れるメンバーがいただろうか?)やウクライナは、ワールドクラスには程遠い。

イタリア代表の面々のうち、半数はイングランド代表にも入れるだろう。 多くてもだ。それでも彼らは31本のシュートを我々に浴びせた。来週バーネット(訳注:4部相当のロンドンのクラブ)がオールド・トラフォードを訪れても、それだけのシュートは打たれないだろう。

いずれにしても、我々にはワールドクラスのセンター・フォワードがおらず、どうやったって大会を勝ち抜くことはできない。(私はルーニーをセンター・フォワードだとは思っていない。彼は10番の選手だ)

最前線にワールドクラスが必要なのであり、それはアンディ・キャロルでもダニー・ウェルベックでもない。ジャメイン・デフォーは今でも我々の最高のセンター・フォワードであり、彼がなぜ出番を得られないのかは、私の理解を超えている。

それともうひとつ。彼であれば、確実にPKキッカーに名乗りを上げていただろう。

キャロルがそうしていなかったとしたら、デフォーは困惑しただろう。3,500万ポンドの男がPKを蹴りに行かないなんてことがあり得るだろうか?10歳でニューカッスルの日曜早朝フットボールでプレーしている頃から、彼の仕事はゴールを決めることだったはずだ。それでも彼はPKキッカーにならなかった。

ミスをしたのは残念に思うが、アシュリー・コールが蹴ったことに異論はない。しかし、問題はそこではなく、彼は世界最高の左サイドバックではあるが 、彼の仕事は相手を止めることであって、ゴールを決めることは彼の自然の所作ではないということだ。

キャロルは3,500万ポンドでゴールを決めるために連れて来られた選手であり、PKの1番手には最高の選手を持ってくるものだ(リオネル・メッシを順番が回ってくるかも分からない5番手にはしないだろう)。

そして、この点で誰に自信があったのか、という議論を私に吹っ掛けることはできないはずだ。キッカーとなったアシュリー・ヤングは悪夢のような3試合を送っていたからだ。


才能

我々がこの先どこに向かうのかは分からない。

アカデミーについて語る者も多い。ここには何百万ポンドもの資金がつぎ込まれているが、そうしたアカデミーに目を向けてみれば、経験のない18歳が子供たちを指導している、という場面に度々遭遇する。

そして、才能は教えられる類のものでもない。私は、ウェストハムにいた若きジョー・コールと対戦した時のことを今でも覚えているが、息をつく暇も無かった。彼は私に色々仕掛けてきたが笑うしかないくらい素晴らしかった。

今の彼を見てみろ。彼がボールを持てば、 ホールは完全に彼のものだ。FAのコーチング・マニュアルを見てみれば、我々が次のジョー・コールを作れはしないことはすぐに分かるだろう。若い選手が出てきているのか、私には良く分からないが、いたとしても、それは決して指導の賜物ではないだろう。

そろそろ自分たちの強みを発揮することを考えるべきだろう。毎週土曜日、プレミアリーグでは早いテンポでプレーし、シュートやクロスがそこかしこから飛んでくる。しかし、代表レベルになると、途端にパスを40本つながねばならないと考えてしまう。イタリア戦、我々はパスを3本つないではボールを失っていたじゃないか!

自分たちの強みを使ってプレーすべきだ。私はテレビの解説者であり、誰も私に脳の手術ができるとは思わないだろう。フットボールだって同じことだ。

今の我々は落第だ。ワールドカップに出られるとすれば、進歩はしているだろう。シンプルなことだ。しかし、ワールドカップで優勝できるとはとても思えない。ブラジルで大会を制することがあれば、それは過去最大の奇跡だ。


マーソンの意見

泣きごとを言うような状況ではないが、それでも今の我々が十分だとはとても言えない。それは明白なことだ。そして、ワールドカップの予選を控え、我々はもっと柔軟になる必要があるのだ。


++++

確かに時間は無かったのだけど、大会が始まる前からチャンピオンズリーグでのチェルシーにあやかるかのように、「気持ちのこもった鉄壁守備」がメディアでも前面に出てきて、その期待値の低さも相まって、試合を支配できないことが前提のようになってはいた。

守備の約束事をまず決めて、そこから先は前線任せ、ってのが今回の基本だったと思うし、4人の2ラインはホジソンがウェストブロムでも散々見せていた形だった。それを高く保てなかったのは勿論習熟度の違いも影響したと思う。アシュリー・ヤングを重用しながら、フォワード扱いで起用したのも、ウォルコットが先発しないのも、2ラインでのブロック作りを優先したからだろう。

確かにフレキシブルには程遠かったけど、選択肢も無かったのだろうな、ホジソンには。

Tuesday, June 19, 2012

トッテナム会長ダニエル・リヴィがハリー・レドナップ解任で広げた「大胆不敵さ」

個人的には起きて欲しくは無かった、トッテナムのハリー・レドナップ解任劇。会長のダニエル・リヴィとの関係がギクシャクするのは今に始まったことではなく、一度はイングランド代表監督就任が既定路線になり、契約が残り1年という状況も相まって、「いま投資をしないのは次期監督のために資金を留保してるんだな」と理解し、ギクシャク感が露わになることも無いだろうと思っていた。
※この辺のギクシャク感は、昨年8月の「ダニエル・リヴィ会長の瀬戸際戦略がスパーズにもたらすリスク」を参照。

ところが後半戦の失速に加え、ロイ・ホジソンが代表監督に就任、リヴィが「この監督を残すか考えものだな」と熟慮を始めたのも分からなくもない。それでも大ナタを振ったな、というのが今回の印象なんだけど、そのリヴィの人物像的な所に焦点を当てた「テレグラフ」紙のマシュー・ノーマン記者のコラムが今回のネタ。ちなみにこの記者、普段は食品関係が専門で、今回この記事を書いているのはスパーズのファンだから。




++(以下、要訳)++

スポーツの世界では恐れを知らないことは、他の公の分野と同様にさしたる武器とはならない。それが必要な時に発揮されれば、その称賛は、義務であり権利でもある。

 ということで、トッテナム・ホットスパーの虜になっている皆さんに代わって言うならば、ハリー・レドナップを解任した会長のダニエル・リヴィを祝福しよう、といったところだろうか。

この信じ難いほどに勇敢な決断を下す要因が何だったのか、正確な所は不明のままだ。ハリーの脱税疑惑が無罪放免となって代表監督の筆頭候補となった後の失速 -チェルシーのチャンピオンズリーグの優勝で、スパーズが来季その場に立てなくなったことも- が理由ではないか、と推測することはできよう。

もしくは、個人的な敵意について考える者もいるだろう。リヴィは見せるうわべの無表情の下には、コックニーの魔術師が称賛されることに対する彼のエゴの傷があるのかもしれない。

私は、モー・モウラムが労働党集会でスタンディング・オベーションを受けた時に、ブラックプール・ホールにいた。その時のトニー・ブレアの冷淡にひきつった口からは、彼女の内閣での日々はそう長くないであろうことが明らかだった。

この例えは、皆の中でも、リヴィのスパーズ内部での強力な仕事ぶりを好まない方々には困惑すタイプのものだろう。なので、ここで複雑怪奇な彼の思考プロセスを理解するためにスペースを無駄に使うよりも、彼の象徴とも言うべきその大胆さを象徴することで筆を進めたいと思う。

例えば、これだけ失敗が明らかになっても、「フットボール・ディレクター」に監督を括りつける実験をやめようともしない。

あまり勇猛とも言える性格でもなく、まずはグレン・ホドルとデイビッド・プリート、そしてジャック。サンティニとフランク・アネルセン、さらにマルティン・ヨルとダミアン・コモッリで重ねてきた悲劇に怖気づいてもおかしくはない。そして、それはファンデ・ラモスとコモッリでも繰り返された。

そして、ディミタール・ベルバトフの移籍騒動でマンチェスター・ユナイテッドから最大限の移籍金をむしり取る努力をして、気がつけば代わりのストライカーの補強には遅過ぎ、スパーズをリーグの順位表の底に落とした時に、遂に彼はその戦術を諦めた。そしてハリーを雇い、彼に誰にも邪魔をさせずに仕事をさせた。



結果はすぐに出て、レドナップがギャレス・ベイルやルカ・モドリッチの眠っていた才能を呼び起こして開花させたのは特筆に値するものだった。

クラブ唯一のチャンピオンズリーグ出場では準々決勝進出の輝かしい歴史を作り、今季もシーズンの3分の2は好印象の結果を残し、そのクリエイティブなフットボールはマンチェスターの2強による支配よりも印象に残った。

この夏にベイルとモドリッチの退団も予期される中、ハリーがチームの基礎を作ったと言えるのかどうかは分からない。スパーズはスパーズであり、脆さと自滅はDNAとして埋め込まれているようだ。

それでもひと月前にはマンチェスター・シティにも同じことが言えていた可能性もあるし、戦術的な限界はあったとはいえ、ハリーは60年代とは言わないまでも、80年代以降では比較にならないほど独創的なフットボールを作り上げた。そんな監督をかくも曖昧な根拠で解任してしまうには、よほどの先見性が必要で、冷淡、無知、そして明らかな不愉快さや不注意な愚かさと取られてもおかしくはない。

前兆はあまり前向きなものではない(特に、ヨルで同じことをした時は、ラモスは混乱しながら辛うじて1年しかもたなかった)が、今回は違うのだろう。リヴィ氏が誰を選ぶのであれ、後任はハリーが残したトップ4という実績とファンが求める優美で華麗なスタイルに応えるのに苦しむだろう。中位に彷徨うクラブへの逆戻りは、ハリーを対岸の王子に仕立て、リヴィへの恨み節になる、というのは決して言い過ぎではないだろう。

しかし、憂鬱なトーンで終えるのはやめておこう。数多くの監督人事での失敗を経て、これだけ際立った成功さえ追いやってしまうのは予想以上の大胆さだ。我々は、ダニエル・リヴィの勇気が、それに値する結果をもって報われることを祈るのみだ。

++++

オーナー、会長といえば、チェルシーのロマン・アブラモビッチも記事にはなるけど、ダニエル・リヴィもそのキャラクターが記事になるという意味ではかなりのもので、ハリー・レドナップを解任した今回はなおさら。

確かに後任は、トップ4でも解任された監督の後任、ってことでどうしても比較はされてしまうね。良い時代がやってきますように!

Saturday, June 9, 2012

リネカーが見る、ユーロのイングランド代表

普段はBBCの『Match of the Day』で土曜の司会を務めているギャリー・リネカー。このユーロに際してもBBCでスタジオの進行を務めているが、今週「テレグラフ」紙にコラムも書いてた。いよいよ開幕のユーロに臨むイングランド代表について、「代表に深みは無いかもしれないが、希望はある」と題して。



++(以下、要訳)++

ユーロ2012に臨むイングランド代表への期待が低調な中、負け犬のメンタリティがロイ・ホジソンの率いる代表メンバーを、ヨーロッパの舞台での彼らには珍しい平均以上のパフォーマンスを発揮させることになるかもしれない。

新聞の論調であれピッチでの姿であれ、これはメジャー大会に臨む史上最弱のイングランド代表だ、ということはできるだろう。ポーランド、ウクライナでの選手たちには、我々が最悪だった92年のスウェーデンでのユーロ以来、最も希望が無いのではないか。

それでも、ホーム・アドバンテージのあった96年以外、我々はこの大会で躍動したためしがない。過去数年に見せてきたポテンシャルは抜きにしても、我々は、我々自身の期待を上回れるのだ、ということに気付くことができるかもしれない。

国中見渡しても、期待の低さは否めないところだ。ムードは非常に現実的で、ユーロ2012に希望を見出しているのは、筋金入りのコアなサポーターたちだ、といった見立てだ。仮に負け犬として持つべき態度に適応できるなら、そうした考え自体、我々にはプラスに働くかもしれない。 仮に我々がガッチリと守りを固めるようなスタンスで堅い戦いを挑む - オープンに戦って1-4でドイツに敗れたワールドカップとは異なる - なら、チャンスはあるだろう。2004年のギリシャ、20年前のデンマークが証明したように、職人揃いでもなく、数多くのワールドクラスの選手に恵まれなかったとしても、こうした舞台で「うまくやる」ことはできるのだ。

この大会は素早く勢いに乗って、グループリーグの試合に優先順位を付けて行かねばならない。ワールドカップと違って、ウォームアップの時間は少なく、徐々に調子を上げて行く、というわけには行かないのだ。 早速フランスとのタフな試合が控えているし、月曜のその試合で何かを得ることが非常に重要だ。引き分けに持ち込むことができるのならば、それは我々が比較的良い調子なのだと私は信じることができよう。

期待値が低いということは、多くの予想を上回るプレーを見せられるという意味でも追い風になるだろう。 その上で、依然としてスペインのような才能あるチームを倒すのを想像するのは、ウェンブリーでそうできたとしても難しいだろう。その試合のデータに少しでも目をやれば、我々があの日いかに幸運だったかを思い出すはずだ。

いまの状況で考えれば、イングランドが決勝ラウンドに到達できたとしたら、それには敬意が払われるべきだろう。最高の選手たちのうちの何人かは30歳を超え、若手選手の多くはまだこのレベルの舞台に臨む準備が整っているとは言い難い。そのちょうど真ん中にウェイン・ルーニーがいるのだが、グループリーグの最初の2試合には出場できない。少なくともジョー・ハートを見るに、我々にはワールド・クラスのゴールキーパー - ここのところお目にかかることも無かった - がいると考えることができる。

しかし、私はこのチームにもっと深みが欲しい。モダン・フットボールではなかなか2トップでのプレーは難しく、それはホジソンがノルウェー戦で試みたことからも分かる。

予測がしやす過ぎるのだ。オスロでの試合では、アシュリー・ヤングには十分な自由が与えられず、中盤はアンディ・キャロルに向けたロングボールを強いられ続けた。我々はボールキープも十分にできたとは言えず、しばしば相手にボールを奪われた。それでも、ホジソンはここまで第2の手段を試し続けており、先発の11人がもっと良くならないかと、皆も願っているだろう。

私のもう一つの懸念は、4ラインでなく3ラインでのプレーを選択した場合、相手にその間のスペース、特にディフェンスと中盤の間を使われやすいのではないか、という点だ。我々が極めて深く引いてプレー - それはそれで明白な問題を生むが - すれば、大きなギャップができ、前線をサポートすることは極めて困難になる。チャンピオンズリーグでのチェルシーはこのアプローチで成功できたが、バルセロナ相手にもバイエルン・ミュンヘン相手にも信じ難いほどの運に恵まれたのも事実だ。つまり、完全にそれをアテにすることなどできないということだ。ホジソンが彼自身の戦術を広めていくと、ストライカーたちの一人には、中盤深くに下がって必要に応じて中盤を助けることを求めるようになるだろう。

もちろん、イングランドがワールドクラスのフォワードの選択には恵まれていないというのも事実だ。我々が持つ、たった1人のワールドクラスであるルーニーは、大事な最初の2試合を欠場する。とても理想的なシナリオとは言えないのだ。監督はバックアップとしてキャロルやダニー・ウェルベックを呼ぶことはできた。しかし、彼らに大きなポテンシャルがある一方で、どんなに想像を働かせても彼らが完成品だとは言えないだろう。ホジソンは身動きが取れない状態だとも言える。ジャメイン・デフォーは良いストライカーだが、彼はトッテナムでレギュラーを勝ちとってはいないし、キャリア全体を見れば、3試合に1ゴールのペースが良いところだ。それではワールドクラスのゴールスコアラーとは言えないだろう。私はデフォーが好きで彼のクオリティ、特にそのシャープさには敬意を持っているが、ゴールを量産するとも思えないのだ。

この流れで考えれば、我々にはとにかくルーニーが必要だ。彼がベストの状態ならば、違いを見せるだろう。特に後半戦はマンチェスター・ユナイテッドで素晴らしいシーズンを送ってきたし、彼がフランス戦もスウェーデン戦も出られないというのは非常に残念だ。 キレたりせずに落ち着いている、という意味では彼はより成熟するということを学んだ。彼が今季受けたイエローカードは、最終節のサンダーランド戦の1枚だけ、ということは忘れるべきではないだろう。モンテネグロでの愚行でレッドカードを受けたのが同じシーズンだということも。彼の父親は同じ週にサッカー賭博に関わる裁判を受けており、それが彼に影響したのは確かだろう。

ギャレス・バリーの代わりにフィル・ジャギエルカを招集したことだけでなく、ホジソンはいくつか繊細な微調整を行っている。ジャギエルカが中盤の底でもプレーできることを彼は評価していて、だからこそバリーの代わりにそのまま中盤の選手を選ばずにディフェンダーを入れたのだ。加えて、中盤はイングランドの中でもワールドクラスが揃う場所でもある。フランク・ランパードを失いはしたが、スティーブン・ジェラード、スコット・パーカーは非常に効いていて、右ではジェームス・ミルナーが貢献している。中盤でのプレー経験のあるジャギエルカは、エヴァートンではセンターバックとしてプレーすることが多かったとは言え、このメンバーに何の問題も無く入って行くことができるだろう。

そして、期待の低さ以上にイングランドにプラスに働くであろうものは、そのグループ分けだ。 イングランドが入ったグループDは、4つのグループの中では2番目に楽なグループだ。Bにはドイツ、オランダがいて、Cにはスペインとイタリアだ。我々のグループを見てみれば、ウクライナは開催国でなければ出場は叶わなかっただろうし、スウェーデンは - これまでに我々を苦しめてきた歴史を考えたとしても -「それなり」のチームでしかない。昨年のウェンブリーでの親善試合でも印象には残らなかった。フランスにしても、2010年の南アフリカでの崩壊から立ち直ってきている最中だ。

確かにイングランドはクラクフにおいたベースキャンプから、ドネツクへの2試合は長旅になるが、それが大きく不利に働くことは無いだろう。

そして、確かに高齢化が進み始めているという懸念はあるだろう。それでもチェルシーの例を考えてみたらいい。チェルシーには30歳を超えた選手が数多くいたが、蓄積された知性でチャンピオンズリーグを勝ち獲った。最終的には、経験の良さというものは驚くほどプラスに働くこともあるのだ。

++++

リネカーが話しているのを見るのは、大抵『Match of the Day』の進行役だから、彼自身の考えを聞くことはあまり多くないのだけど、こうして見てみると、割とオーソドックスな考えなのだな、と。でもそこはイングランド人、「どうせダメだよ」っていう心の準備をしつつも、期待をかけてるところも垣間見えて面白い。

Tuesday, June 5, 2012

ブレンダン・ロジャース、リバプールでの挑戦に準備万端

先週はリバプールの新監督が、スウォンジーを率いていたブレンダン・ロジャースに決まったニュースが一番の盛り上がりを見せたが、その中で、彼のこれまでの歩みを記したBBCの記事に着目。記事自体は就任発表直前のものだけど、彼の指導者としての歩みが垣間見える良記事。

個人的には、「最初の仕事はスティーブ・クラークの解雇」と伝えられる中、かつてチェルシーにロジャースを推薦したのは、当時ジョゼ・モウリーニョのアシスタントしていたクラークというくだりには、不思議で皮肉な縁を感じた。(クラーク本人は、元々他クラブで監督としてのキャリアを積むために辞任の意向だったが、次期監督が決まるまで待て、とクラブが引き留めていた)



++(以下、要訳)++

ブレンダン・ロジャースはかつて、自分でも他のイギリス人の監督と比べると、自分が別の出自を持っているかのように感じる、と語っていた。

39歳の彼は、2004年に彼のメンターでもあるジョゼ・モウリーニョがしたように、自分を「スペシャル・ワン」 と呼ぶには至っていないだろうが、この柔らかな口調のアントリム出身の男が、ちょっと違うという印象は既にある。

ロジャースはこの2年間で 4人目のリバプールの監督となる。この北アイルランド人にとっては、キャリアの非常に大きな前進となる打診だが、彼も自分の手の届かない話だとは考えていないだろう。

過去2シーズンにわたって、彼はリバティー・スタジアムの落ち着いたオフィスを拠点にしていた。自動販売機が何台か置かれた角を曲がると、机ひとつに椅子ふたつ、それにコンピューターと書棚があるだけの部屋だった。

しかし、部屋が小さかろうが、そこを根城にしていたこの監督のポテンシャルだけはそうでなかった。

彼がアンフィールドで直面する任務は非常に重要だ。 しかし、彼が20歳で選手としてのキャリアを終えて以来持ってきた大胆な自信は、これまでになく確固たるものになっている。

北アイルランドで育ったロジャースは、亡き父マラキーが好んだ1970年代のオランダやブラジルのフットボールに魅了された。

彼は早々に印象の強い、コンパクトなディフェンダーとして成長した。1980年代半ばに受けたマンチェスター・ユナイテッドのトライアルでは結果を残せなかったが、16歳にしてロジャースはレディングに加わった。それは、彼が自分にはトップレベルに到達する才能が無いと自覚した時期でもあったが、彼のキャリアはケガによってレディングで1試合も出場しないまま終わってしまった。彼は20歳だったが、既に結婚し、子供も1人生まれるところだった。それでも、彼に危機感は全く無かった。

彼はすぐに指導者のライセンスを取得し、22歳にしてレディングのユース・アカデミーのコーチを任された。夕方は地元の学校で子供たちに教えつつ、あらゆる機会を活用してスペインの事実調査団として知識の拡大に努めていた。

彼はスペインに行くと、バルセロナ、セヴィージャ、ヴァレンシアで、そしてオランダでも過ごし、戦術的、組織的な手法に磨きをかけて行った。彼が自分の戦術のモデルをカタルーニャに求めた、という意味では、バルセロナで監督を務めていたペップ・グァルディオラも彼にインスピレーションを与えた1人だ。

やがてその野心と才能は、チェルシーでスタッフを務めていたスティーブ・クラークに見出された。クラークは彼をモウリーニョに推薦し、ロジャースはチェルシーのユースチームでの指導に招かれると、やがて彼はリザーブ・チームの監督となった。チェルシー時代を振り返り、「モウリーニョには大きな影響を受けた」とロジャースは語っている。

「彼は私に共通点を見出してくれていたこともあって、我々には感情的な親密さがあった。誕生日は同じ1月26日、コミュニケーションとハードワークを重視するところも同じだ。哲学も同じで、フットボールへの情熱と組織力を信じていた。そして、彼は監督になる前にビッグクラブでの経験があった」

モウリーニョも、同様に彼への称賛を隠さない。「彼の全てを気に入っているよ。彼は野心に溢れているし、フットボールの見方も俺と大きくは違わない。オープンだし、学ぶこと、コミュニケートすることが好きなんだ」

何よりもポゼッションに価値を見出すのは、ロジャースとリバプール、双方の基本に共通する点だ。スウォンジーでは、ロジャースは格上のはずの相手でもポゼッションで圧倒して見せた。「相手よりボールを支配することができれば、79%の確率で試合に勝つことができるんだ」、とロジャーズはかつて分析していた。

「私にとっての基本は組織力だ。ボールを持つのならば、動きのパターン、ローテーションの仕組み、チームの流動性やポジショニングについてよく知る必要がある。ボールを持っている時は、全員がプレーヤーだ」

昨シーズンのスウォンジーのパスの数字は、マンチェスター・シティに次ぐ2番目だった。「我々の考えは、相手が動けなくなるまでパスをするということ。そうすれば相手は追いかけて来なくなる」とロジャースは説明した。「最終的に相手は根負けするんだよ」

ロジャースにとって、ことが順調に進んできたわけではなかった。チェルシーでの成功は、ワトフォードへと道を拓き、2009年の夏にはレディングが連絡してきた。

 しかし、1年も経たないうちに彼はクビになり、20年間で初めての無職となった。「そうした不利な状況が、自分のキャラクターを作り上げるのだと思うし、自分にこうした人生を歩む資質があるのかを考える機会になる。厳しい時期だったが、レディングで起きたことが、私に失格の烙印を押すことだけは絶対に避ける決意だった」

スウォンジーで次の職を得られたのは、2010年の7月になってからだった。彼は過去を振り返ることなくこのウェールズのクラブをウェンブリーでのチャンピオンシップのプレーオフへと導き、レディングを4-2で下してプレミアリーグに引き上げた。「ウェンブリーで試合終了の笛が鳴った直後から、ウチはブックメーカーで降格の最有力候補、10ポイントも獲得できないとまで言われた」とロジャースは振り返る。

しかし、スワンズは上昇して行った。ロジャースは、他のどのクラブにも受け入れられなかった選手たちと共に、チームを11位に引き上げた。

リバプールで寄せられる期待は遥かに高いものになるだろう。昨季はカーリングカップを勝ち獲ったとは言え、チャンピオンズリーグ圏内からは17ポイントも離されてシーズンを終えた。

低迷し続けたプレミアリーグでの結果が、前監督でアンフィールドのレジェンドでもあるケニー・ダルグリッシュをその職から追いやった。オーナーのフェンウェイ・スポーツ・グループのチャンピオンズリーグ出場に向けた欲望は、これまで以上に強くなっている。

ロジャースは、しばしば個々の能力の集合未満のパフォーマンスしか発揮できずにいるチームを団結させなければならない。ロジャースもそうするしかないことは分かっている。

「私の大きな夢は、若手・ベテランのフットボーラーたちや指導者たちにイノベーションをもたらすような監督として成功することだ。指導者の道を選んだ理由はひとつだけで、それはフットボーラーとしてだけでなく、人間としても人々に違いを見せるためだ。私は常に教訓を得続けているんだよ」

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この記事が出た後、クラブから就任が正式に発表されて会見が行われたが、そこにはリバプールの伝統や特別さをわきまえた言葉が並んだ。


スウォンジーで起こした奇跡とリバプールの復興はまったく異質な仕事とはいえ、こうしてここまでの経歴を見ると、どこか上手く行って欲しいとも思ってしまうもの。まー、スパーズを超えない程度でお願いしたいところ。