Saturday, August 20, 2011

ジョナサン・ウッドゲイトの終わりなき上昇気流

相次ぐケガに悩まされ続け、契約満了に伴い昨シーズン限りでスパーズからリリースとなったジョナサン・ウッドゲイトは、今季からトニー・ピューリス率いるストーク・シティに籍を置くこととなった。才能に恵まれながら、ケガとの戦いで何度も躓いてきた彼の挑戦が、アメリカは「ニューヨーク・タイムス」のコラムに描かれている。


++(以下、要訳)++

「もし」というのは、誰にとっても大きな質問だ。

ストーク・シティのジョナサン・ウッドゲイトにとって、彼のサッカー人生の中で唯一と言ってもいい質問だろう。選手として必要な要素をほぼすべて持ちながら、それが彼に何ももたらさないというのはある意味残酷なことでもある(それはウッドゲイトに限ったことではない。現在QPRに所属するキーロン・ダイアーも同様の例だ)。ただし、ダイアーの才能には限りがある一方で、ウッドゲイトはケガさえなければボビー・ムーア以来最高のセンターバックになっていたはずだった。

これは大胆な言い方で、誰も断言などできないのだが、もし完璧な守備陣を構築しようとしているのであれば、31歳のウッドゲイトが4人のバックラインにもたらす要素は、まず第一に考えるべき素晴らしいものだ。フィジカル面では彼は大型で屈強だし、スピードと敏捷性を兼ね備え、ゲームを読む力を持っている。それに、ボール捌きも優れたもので、シンプルな配給で見事に仲間を動かして見せる。ウッドゲイトはすべてを持っているのだ。

不運なことに彼には最もタフな敵がいて、この敵にだけは彼も手を焼き続けた。リーズ・ユナイテッドに所属していた頃、彼は6シーズンで104試合に出場したにとどまったが、彼の才能をもってすれば本来到達できるであろうレベルに達するには、フィットしていた時間が短すぎた。デイヴィッド・オレアリーの若いチームが、30年前のドン・リヴィの偉大なリーズに近づき始めると、彼もようやく一人前になり始めた。

役員たちは新監督のテリー・ベナブルズに対して、彼の「王冠の宝石」であるウッドゲイトは売らないと約束していたにも関わらず、その後の財政危機によって、ウッドゲイトも緊急に現金が必要だったクラブのために売られる要員のひとりとなった。クラブのためになることが、選手のためにもなると判断されたのだ。ニューカッスルは1,470万ドルを支払う代わりに将来のスターを手に入れた。

やがてウッドゲイトはリーズで見せていた才能を開花させ、タインサイドでもファンのお気に入りの選手となった。2004年4月にニューカッスルがUEFAカップ・マルセイユ戦で0-0と引き分けた時の彼のパフォーマンスは、ヨーロッパのプレスの間では語り草だ。若き日のディディエ・ドログバを誰も見たこともないような流儀で完璧に抑えた。それは、そのシーズンのあらゆる選手の中でも際立つデフィエンスのプレーであり、相手のマルセイユの監督だったジョセ・アニゴもこの若きデフィンダーが目立っていたことを認めている。「ウッドゲイトの印象は強烈だった。彼は本物のクオリティを持ったディフェンダーだ」。同様に、アーセナルやPSVアイントホーフェンを向こうに回しても同じレベルのパフォーマンスを見せつけ、イングランド代表のセンターバックとなるのは時間の問題だった。彼は24歳にしてその座をつかんだ。

そして、冒頭の2語「もし(What if?)」が出てくるのだ。もし彼が出場28試合に終わったニューカッスルでケガと戦わずに済んでいたら?もしレアル・マドリーに売られた時によりフィットすることができて、2シーズンで9試合以上プレーできていたら?そしてミドルスブラに戻り、3年以上ぶりに代表に呼ばれた時に、ケガでこれを断念せずに済んでいたら?

ウッドゲイトは、2008年の1月にトッテナムに加入し、チェルシーとのカーリングカップのファイナルでは決勝ゴールを決めたが、またすぐに彼のキャリアはケガによって荒廃させられ、その後2シーズンで4ゲームしかプレーすることができなかった。彼のキャリアはいま再び危機に瀕しているのだ。


彼のピッチ外での行いに目をやれば、同情をするのは難しいかもしれない -14歳にして彼の行った暴行に対する警察からの警告を受けると、その後も複数の事件に関与して顎の骨を折ることすらあった。そして、2000年の3月には当時リーズでチームメイトだったリー・ボウヤーと共にリーズのナイトクラブの外で学生を襲撃した罪で起訴された。彼の罪は軽めのものであったが、クラブからはサラリー8週間分の罰金を科され、加えて100時間のボランティア活動と代表チームでのプレー禁止 - 代表監督であったスヴェン・ゴラン・エリクソンの希望には反していたが - が言い渡され、2002年の日本と韓国でのワールドカップ出場を逃すことになった。これらすべてをもってしても、ウッドゲイトの並外れた才能を考えると、どこか不当な扱いを受けてしまったと感じざるを得ない。

ピッチ外で大人の振る舞いができるようになり、ケガの苦しみから脱しつつあるように見える中、ウッドゲイトはシーズンの終わりにスパーズからリリースされると、ストーク・シティの監督、トニー・ピューリスに新たなチャンスを貰った。彼の契約は試合に出場するごとに支払われる仕組み(pay as you play)で、シーズンの終わりに1年間の契約延長オプションが付いているが、これはこのオフで最も抜け目のない契約となる可能性がある。彼は、ライアン・ショークロス、ロベルト・フート、最近加入が決まったマシュー・アップソンからなる鉄壁のストーク・ディフェンスに加わった。スコアレス・ドローに終わった日曜日のブリタニア・スタジアムでのチェルシー戦では、シャープな動きを見せていたフェルナンド・トーレスを巧妙に封じ込め、その圧倒的な才能を垣間見せた。

当然ピューリスはウッドゲイトの出場時間とフィットネスを注意深く管理するだろうし、この先の道はまだ長い。それでも、もしシーズンで合計30試合出場することができ、1年間の延長契約にサインすることができたとしたら、彼は十分にやったと言えるだろうし、プレミアリーグは再びジョナサン・ウッドゲイトの類稀なる才能を堪能する幸運にめぐりあえるだろう。

まさに、「もし」なのだ。

++++

記者はイギリスの人なのかもしれないけど、こんなコラムがアメリカのメディアにしか出ないんだったら勿体ない。スパーズでのキャリアの終わりは本当に惜しいもので、チャンピオンズリーグのミラン戦での途中出場が最後、(少なくともスパーズでのキャリアって意味では)線香花火みたいになっちまった。この途中出場も本当に久しぶりで、スカイの実況が起用への驚きと共に「ジョナサン・ウッドゲイト、フットボールの世界におかえり」と興奮気味に伝えてたのが印象的だった。まだ31、やれるはず。

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