トッテナム・ホットスパーの左サイドバック、カメルーン代表のベノワ・アス・エコトは、その飄々とした立ち振る舞いとしなやかな守備、正確なフィード、休まない鉄人ぶりと適度なポカで、スパーズファンの間では隠れた人気だ。そんなエコトが、ロンドンでの暴動の後にした意外な提案とは。「テレグラフ」紙のオリヴァー・ブラウン記者のエッセイ。
++(以下、要訳)++
ハリー・レドナップは、気取って気ままに振る舞うこのカメルーン人に苛立つこともあるが、そんなレドナップでさえ、暴動の時にはアス・エコトの神経も張り詰めていたんじゃないか、と認める。
緊急事態は過ぎ去ったものの、臆面もない気取り屋の彼も現実に目を向けている。先週、トッテナム・ハイロード近辺を破壊して回った暴徒たちの温床とも言われるブロードウォーター・ファーム一帯を訪れたアス・エコトは、クラブと地元に向けられる同情を良い意味で裏切って見せた。そして、プレミアリーグの選手たちは、収入の1%か2%くらいを地元のコミュニティに還元してはどうか、とジェスチャー混じりに彼が強調するとは、誰も予測できなかっただろう。
彼の無私無欲ぶりを称賛する前に、彼は矛盾しがちなキャラクターの持ち主だと強調しておいた方が良いだろう。トッテナム・ホットスパーに加入して間もない頃、彼はチームメイトの偽善ぶりを一刀両断にして、自分の唯一のモチベーションは金だ、と説明し、「世界にひとりでもクラブのために契約して、『このシャツを愛してる』なんて言う奴がいるのかよ」と雄弁に問うていた。「人が第一に話すこと言えば金のことだ。だから俺が金のためにプレーするんだ、って言った時にみんなが『奴は金目当ての傭兵だ』ってショックを受けてたのが信じられなかった。どの選手も同じさ」
彼の欲が、クラブのバッジにキスする他の選手と同じだとして、我々は彼を称賛する人々が、並外れて彼のことを支持することを記しておかなければならないだろう。
彼は喜んでN17(トッテナム近辺)のレストランで食事をするし、オイスター・カード(日本のSuica等と同じICカード)すら持っている。これらは、うつろな目でヘッドフォンをかけているアンドロイドのような選手たちの振る舞いとはまったく異なる。アス・エコトにとって、フットボール選手というのはどこかに密閉されているような存在ではないし、彼はフットボール選手という偏屈な種族を解放する存在になるかもしれない。
それでも、彼や彼のチームメイトが収入の一部を寄付すべきという主張は、彼の最も特筆すべき発言だ。デロイトのフットボール財務に関する年刊レポートによれば、プレミアリーグの選手は合計で140億ポンドを稼いでいる。アス・エコトに主張を最大化して、2%をここから取ると、2,800万ポンドになる。破壊されたセブン・シスターズ・ロードのいくつかの建物を修復するには十分な金額だ。
収入の一部をチャリティに、というのは盛んに論じられるコンセプトだ。2007年には看護婦たちによる似たような取組があり、トップクラスの選手たちの一日分のサラリーを求めた。これに同意したのがギャリー・ネヴィルとライアン・ギッグスの二人だけだった時にはもっともな怒りの声が上がった。
批評家たちは、ケチな奴らだと糾弾した。擁護するする側は、何がおかしいのかと言い返した。結局のところ、そこには資本主義の稼いだものは取っておくべき、という教えがある。私がハイゲートの地下鉄の駅を降りてからすべての募金箱に金を入れることはできないのと同じことで、フランク・ランパードや他の選手たちは、こうしたすべての要求に黙って応え続けるようなことはしないのだ。この話とは別に、ランパードはガン研究への寄付で称賛を受けている。
しかし、トッテナムがこの25年で最悪の暴動によって荒らされた現在、アス・エコトの言うように「多くを稼ぐ地域の代表としてもっとできないか」と疑問を持つことがおかしなことだろうか?
私が論理の飛躍で矛盾をきたす前に、フットボールも理解しがたい根深き社会の病によって荒らされているスポーツなのだ、ということを認めておきたい。
ゴルフの世界でもケン・グリーンやタイガー・ウッズのように、この議論で論争を呼んできた例があるが、最後に私は日本の石川遼という逆の例を引き合いに出したい。石川は、2011シーズンに稼ぎ出す賞金のすべてを3月の津波の被害者に差し出すことを申し出た。荒廃した仙台の様子に影響を受けたこの19歳は「これが一番のお金の使い方だ、と信じている」と語っている。
ひとシーズンで彼は100万ポンド以上を稼ぎ出す。これだけ若い青年による謙虚な取り組みと比べてみれば、プレミアリーグの選手たちの莫大な収入の2%を集めるコンセプトは、さして大げさな利他主義ではないし、最低限彼らができるレベルのことであるように思える。
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最後に石川遼まで出てきたけど、元々伝えたかったのはエコトの不思議だけど愛されるキャラクターなんだよな。『Footballista』で山中忍さんが、ワースト11の左サイドバックに選んでたけど、それは無いだろ、と微妙に憤ってしまった。あの飄々とした立ち振る舞いの中には、実は熱いものが…、とか思わせてやっぱ飄々、ナイスなキャラ。
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