高い高い、といわれるプレミアリーグのチケットであるが、実際の肌感覚ではどのくらいなのかというと、インフレ率の約10倍。ファンの内訳が変わるもの道理だと思う。この点を、「ガーディアン」のデイヴィッド・コン記者が深掘りしてくれている。
++(以下、要訳)++
衛星放送の繁栄を助けるためにトップリーグがフットボールリーグから「プレミアリーグ」として分離して20年目、金はフットボールの構造を変え、そしてそれを観る値段も変えてしまった。毎年のチケット値上げはお約束になりつつあるが、 - アーセナルは6.5%値上げ、ストークは据え置き、ブラックバーン・ローバーズには10ポンドの大人チケットがある - ファンが現在支払ってる金額とプレミアリーグ化以前の金額との大きな差は誰の目にも明らかになってきた。
1989-90シーズンは、ヒルスボロの悲劇を受け、スタジアムを全席指定席とすることを提案したピーター・テイラー判事による「テイラー・レポート」が出された年であるが、アレックス・ファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッドの試合は、最安で3.5ポンドで観ることができた。それ以降現在まで、イングランド銀行の言う合計77.1%のインフレを考慮した場合、当時ストレトフォード・エンドやユナイテッド・ロード側で観ていた人たちのチケット代は現在6.2ポンドであるはずだ。しかし、現在のオールド・トラフォードでもっと安いチケットは28ポンドする。これは他のトップクラブと比べて安い方なのだが、チケット代に関してはインフレが700%だったことになる。オールド・トラフォードの席はもっと高い。28ポンドの席はイースト・スタンドとウェスト・スタンドの下の階の席だけだからだ。
アーセナルの試合のうち、カテゴリーAに分類される、チェルシー、リバプール、トッテナム・ホットスパー、マンチェスター・ユナイテッド、そしてマンチェスター・シティとの試合は、1989-90シーズンのハイバリー、ノース・バンクの席であれば、5ポンドで観ることができた。6万の収容人員を誇るエミレーツ・スタジアムはその高額チケットで知られ、イングランド・フットボールの歴史の中で初となる、100ポンドを超える席もある。現在、そのカテゴリーAの試合で一番安いチケットは51ポンドする。これはテイラー・レポート以来のインフレ率が920%であることを意味する。
ヒルスボロの惨劇以降、フットボール・サポーター協会は、スタジアムの全席指定化に反対してきたが、第一にこれはクラブがチケット値上げの口実に使うだろうと考えたからだ。この議論を却下するために、テイラーはレポートに有名な以下のような記述をした。「各クラブは、座席に対して立見よりも高い料金を課そうと考えるだろうが、現在の立見席と同等の料金を最安の座席の値段とする料金構造を築き上げることができるはずだ」
判事は、グラスゴー・レンジャースのアイブロックス・パークの6ポンドという座席料金をテイラー・レポートにおける提案に用いた。これは現在の料金と比べると古臭いものではあるが、それでもフットボール再生の礎となった。当時、フットボール・サポーター協会の会長で、現在はリバプール大学でフットボール産業部門のディレクターを務めるローガン・テイラーは「テイラーは、テレビ放映権料増大によるフットボールの商業革命が近づいているとは考えていなかったと思う」と語っている。
「もちろんスタジアムは誰の目に見ても明らかなくらい改善が進んだが、チケット料金の値上げは必ずしもそれに見合うものではない - 各クラブは、今や選手のサラリーの値上げ競争に一生懸命だ。私がいまリバプールの試合(1989-90年のカテゴリーAのチケット代は4ポンド、現在は45ポンド)を観に行っても、そこにブルジョワやミドルクラスの人々はいない。普通の人々が背伸びをしてチケット代を払っているんだ。そしてチケット代の値上げによって追い出されたのは、老人たちと若者という2つの区分の人々だ」
1980年代においては、フットボールを観るということは、子供たち(大抵は少年だ)がスタジアムに連れて行ってもらう時期から若者として観に行く段階への通過儀礼であり、チケット代の高さゆえに弾き出される者などいなかった。
1989-90年の統計によれば、アンフィールドの一番安いシーズンチケットはわずか60ポンド、ユナイテッドの場合でも96ポンドだった(インフレを考慮して現在の価格に置きかえるとそれぞれ106ポンド、170ポンド)が、今ではリバプールで725ポンド、ユナイテッドで532ポンドだ(インフレ率は各1,108%、454%)。
当時の各クラブは、自分のクラブのサポーターの属性を分析するほど洗練されても商業的でもなかったが、若者が多かったという記憶は当時のレスター大学のサー・ノーマン・チェスター・センターによる調査よるところが大きい。調査は、当時の一部リーグにいたコヴェントリー・シティのファンを対象に行われ、1983年当時でサポーターの22%は16~20歳だった。1992年のアストン・ヴィラでは25%、アーセナルは17%が16~20歳だ。
毎年のプレミアリーグの調査では、若者世代(16歳からチケットは大人料金)のコンスタントな減少が判明している。2006-07年までに16~24歳の世代は9%にまで減少し、良く2007-08年は11%、そして昨シーズンは19%まで急回復しているが、プレミアリーグ側の見解は調査方法の変更によるものだという。
プレミアリーグの調査では、シーズンチケット・ホルダーの13%が16歳以下で、大人の平均年齢は41歳だという。彼らのほぼすべては、クラブへの忠誠心をまだチケット代が手頃な頃に育んだ世代だ。リーグの広報担当者であるダン・ジョンソンは、「チケット代を払えないがために追い出された、と感じている人がいることは認めざるを得ないが、各クラブは手頃な料金でファンを引き付けるための様々な努力をしているし、観る方法は複数ある」と語る。
「20年前は、多くの人々が別々の事情でスタジアムに行けなくなった。雰囲気は険悪で、スタジアムも不適切な状況だった。我々はスタジアムで得られる体験は劇的に向上したと考えているし、それによって観客も大きく増加した。結果的に、より多くの階層の人々がフットボールを観に行くということを快適なものと考えるようになった」
観衆の数は、過去最高のレベルにある。オールド・トラフォードの昨シーズンの平均観客数は74,864人で、キャパシティの75,769人をわずかに下回っただけであった。同じように、エミレーツ・スタジアムも60,361人のキャパシティに対し、平均で59,930人を集めた。2005-06年の94%をわずかに下回るものの、プレミアリーグのスタジアムはキャパシティの92%観客を集めている。
比較的恵まれない北部のクラブ、ボルトンやブラックバーン、ウィガンなどは観衆を維持するために惜しみない努力をし、格安の料金設定をしている。しかしながら、この景気後退の時期にあって、トップクラブは観客たちが収入の多くを高額チケットに割り当て続けることはできないと考えている。試合の1週間前になっても、来週月曜にオールド・トラフォードで行われるスパーズとの一戦のチケットは4,000枚以上売れ残っている。アメリカ人オーナーのグレイザー一家がチケット代の値上げをして以降も何年にも渡ってソールド・アウトが続いていたが、今回は満員になるかは分からない。
現在フットボール・サポーター協会の会長を務めるマルコム・クラークは、「いくつかのクラブは魅力的なオファーをしている」と言う。「しかし、トップクラブ、特にロンドンのクラブの料金は目玉が飛び出るほどだ。かつてスタジアムに通っていたような若者世代には到底払えるものではないし、そうした世代は今興味があればパブで観ているよ」
「伝統的にフットボールというのは誰の手にも届くものであったが、仕事や生活レベルが危機にさらされている現在の経済状況では、さらに多くのコミュニティの人々がスタジアムに行けなくなる可能性がある」
プレミアリーグ開始以降のフットボールの輝かしい成功は、矛盾を多く持つ物語だ。各クラブのコミュニティ・プログラムは、近隣の若者の「社会的関与」を目指したものであるが、その一方でそうした若者を、高額なチケットでスタジアムから遠ざけているのだ。
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ホワイト・ハート・レーンに通ってた頃、僕はシェルフ・サイドと呼ばれる東スタンド下の階にいたのだけど、チケット代は37ポンドから56ポンドだった。5試合も観れば今の浦和のシーズン・チケットが買えちゃう値段で、ちょっと日本の感覚とは違うんだよな、既に。少し前のレートなら1万円超えちゃうから。
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