Saturday, July 30, 2011

ブラジル・サッカーへのパワーシフト

イングランド中心に記事を選んでるつもりだけど、サイモン・クーパー氏のものは別枠。ということで、本日のお題はブラジル・サッカー。ちなみに「AskMen」という媒体は男性向けポータルなんだが、クーパー氏はサイトのカラーを知っててこの連載を受けてるんだろうか。まぁいいや。


++(以下、要訳)++

「ブラジルでワールドカップが開催された後には、ブラジルには世界最強のリーグがあるだろう。政治と経済のパワーバランスが北から南へとシフトするのと同じことがサッカーにも起きるのだ」


1999年のある夜に、リオ・デ・ジャネエイロのマラカナン・スタジアムに試合を観に行った。マラカナンは1950年にワールドカップが行われたスタジアムで、収容人数は20万人、世界最大のスタジアムだ。私が観たのはブラジルで最も人気があるフラメンゴの試合だったが、観衆は1万人にも満たなかった。そして観客の多くは、ボールを追ってトラックを行ったり来たりして時を過ごしていた。臆面もなくレフェリーがフラメンゴの勝利を告げる笛を吹いたが、夜中に家路に就くのはどうにも怖かった。これがブラジル、世界最高のサッカー選手たちを生みだし、最もリーグが機能していない国だった。すべての素晴らしいブラジル人選手と、多くの大したことないブラジル人選手たちは、適したクラブを見つけるために地球上のさまざまな場所に散った。

ブラジルの復権

数十年にわたってそのような流れだったが、それが今年は変わってきている。ワールドカップの開催を控え、サントスはネイマールに対するレアル・マドリーやチェルシーからのオファーを受け流し続け、サンパウロのコリンチャンスはマンチェスター・シティのカルロス・テヴェスを6,300万ポンドで獲得しようと試み、昨年のワールドカップでセンターフォワードを務めたルイス・ファビアーノはサンパウロに戻ってきた。もはやブラジルは選手の輸出国とは言いきれないのだ。ブラジルでワールドカップが開催された後には、ブラジルには世界最強のリーグがあるだろう。政治と経済のパワーバランスが北から南へとシフトするのと同じことがサッカーにも起きるのだ。

選手たちはどこへ行ったのか


1999年に私がブラジルを訪れた時、フラメンゴの監督であったカリーニョは皆いなくなってしまった、と嘆いていた。「このリーグのチームはみんな平均レベルだ。代表チームだけが以前のレベルを維持してる」

選手たちが平均レベルだとしたら、運営側はより酷かった。入ってくる金はほとんど搾取してしまう。バスコ・ダ・ガマを長きに渡って取り仕切っていた会長のエウリコ・ミランダは、ある時警察に対して自宅前で待ち伏せに遭い、試合で得た4万5,000ドルを奪われたと言ってきた。もちろん金は戻らなかった。

選手、運営と並んで酷いのはそのファンたちだ。最近のドキュメンタリー『Loucos de futebol』はフォルタレッツァの街のファンについて取り上げていたが、1983年のイングランド最悪の時期を思い起こさせるものだった。試合のいくつかでは暴徒と化していて、酔っ払いがピッチに侵入する場面もあった。1999年にリヴァウドに話を聞いた際、バルセロナでのプレーがどのくらいストレスのたまるのものか聞いてみた。彼は、「いや、一番のプレッシャーはブラジル、コリンチャンスやパルメイラスにいた時だ。家族を脅し、車を破壊し…、ブラジルでのプレッシャーは複雑なんだ。最近のバルセロナでのような結果をパルメイラスで出せば、もう通りなんて歩けたもんじゃないよ」と語った。

それがブラジルのリーグの状況だったが、ブラジルの経済成長と共にそれは変わってきている。中国やインドからの需要が、ブラジルの農作物や輸出品の価格を引き上げているのだ。ヨーロッパ経済が縮小傾向なのを尻目に、ブラジル経済は急成長を遂げており、「未来の国」に本当に未来がやってきている。

ブラジルは新たな機会の国か?

年々、多くのブラジル人たちが貧困から抜け出し、最近の調査では2003年以来4,900万人が中流・上流階級に加わっているという。サッカーに熱狂する国において、彼らがチケットやシャツにお金を使いたくなるのは自然なことだ。

使う基準にもよるが、ブラジル経済はすでにイギリス、フランス、イタリアなどの経済規模を上回っている。これは、仮に国の収入の同じ割合がサッカーに費やされるとしたら、ブラジルのリーグはそれらの国よりも豊かだということになる。ただ、イングランドのプレミアリーグに追い付くのはほぼ不可能だろう。世界各国でTV放映権を通じて莫大な収入を上げているからだ。

ブラジルでは、ここのところ急速に新たな資金がサッカーに流れ込んでいる。ブラジルのトップ12クラブの収入は、2003年から2010年の間におよそ3倍になった。こうしたクラブは、TV放映権についても来年以降有利な条件を引き出せるだろう。フラメンゴとコリンチャンスは、それぞれTVだけで年間6,500万ドルの収入を上げている。そしてブラジルの政治家たちと同様にクラブの幹部たちも、より効率的になり、また汚職から距離を置くようになった。つまり、ブラジル・サッカーはいよいよ離陸の時を迎えているのだ。

現在では、ブラジルのトップクラブはヨーロッパのビッグクラブに移籍金やサラリーで対抗できるようになった。昨年の移籍金の総額は、前年から63%増え7,900万ドルに達した。ヨーロッパでは、金額の規模こそ違え、29%下がっている。ブラジルのクラブたちは、選手たちを再輸入しており、昨年は135人が帰国した。ロナウジーニョはフラメンゴ、アドリアーノはコリンチャンス、ジョーはマンチェスター・シティを出てインテルナシオナルに加わり、デニウソンはアーセナルからサンパウロに貸し出されている。サントスは、ネイマールへのレアル・マドリーからの6,500万ドルのオファーを断り、彼に65万ドルの月給を支払っている。事実、ブラジルは一番の選手輸出国ではなくなった。2009-10シーズンに、ブラジルが1,440人の選手を送り出したのに対し、アルゼンチンからは1,800人が海外の扉を叩いているのだ。

ワールドカップへの備えとその先

それでも、これはまだ始まりに過ぎない。2013年から2016年にかけて、ブラジルは3つの大きなスポーツイベントを開催する。コンフェデレーションズ・カップ、ワールドカップ、そしてオリンピックである。ワールドカップの開催が決まった時には、基準を満たすスタジアムはひとつもなかったが、現在7つのスタジアムを建設中で、マラカナンを含む5つが改修中だ。

新しいブラジルにはより多くの快適なスタジアムが必要だ。より中流階級が増えれば、スポンサーも増え、快適にスタジアムでサッカーを観たい層も増えるだろう。賢明なブラジル人納税者の資金でよりスマートなスタジアムができれば、より多くのブラジル人たちがスタジアムでサッカーを観る、ということだ。2014年以降のブラジルでは、1990年代のイングランドで見られたスタジアムの改革が起こるだろう。スタンドには女性や中流階級以上の人々が増え、より大きなサッカー共和国ができあがる。2014年以降の観衆たちがクラブを豊かにし、才能ある選手たちをもう1年か2年長く、もしくは永遠にキープできるようにするはずだ。最近話したチェルシーの関係者は、「2014年以降のブラジルは、いまここに招き入れている才能の確保という意味では脅威の市場になる」と見ている。ヨーロッパの代表選手がブラジルのクラブと契約することだって起こりうるのだ。北から南へのパワーシフトというのはそういうことだ。

ブラジルは常に素晴らしい代表チームと酷い国内リーグを抱えてきた。2014年以降はこれが逆になる。リーグが強くなって代表選手を国内に抱えておくことができるようになると、すでに不安定になり始めている代表チームは一層脆くなるだろう。ブラジルには最高の選手がいるが、1970年以降、西ヨーロッパは最高の戦術を見出してきた。ブラジルよりスピーディーでダイレクト、そしてチームプレー重視だ。ロナウドやロベルト・カルロスはヨーロッパに渡ってきてそのノウハウを吸収した。ネイマールの世代にはまだこれが無い。それでも、サッカーで最高の国がようやくそこそこ良いリーグを持てるようになるとすれば、それはスポーツ界全体を豊かにすることになるはずだ。

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最後の、代表チームと国内リーグのねじれの部分は、なるほどな、と唸った。選手が国内にとどまると代表は強くならない、なんとも皮肉。

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