昨季限りで勇退した、前マンチェスター・ユナイテッド監督のアレックス・ファーガソンが、プレミアリーグ開幕を控え、彼が感じているイングランドのフットボールへの愛情を語る公開書簡を綴った。記事にしているのは、ファーガソンに関するエッセイも数多い、「テレグラフ」紙のヘンリー・ウィンター記者。
++(以下、要訳)++
サー・アレックス・ファーガソンが、イングランドのフットボールへの示唆に富んだ惜別のラブレターを書き上げ、プレミアリーグによって公開された。
ファーガソンは、27年の任期で13のプレミアリーグタイトルを獲得した後に引退し、その発表は1時間の間に140万ものツイッターでの書き込みを呼び込んだ。
ソーシャル・メディアからスタジアム、そしてマーケティングからグッズ販売、そしてコスモポリタンなドレッシング・ルームから膨らみ続ける放映権収入・・・、フットボールの世界は、1986年11月6日のファーガソンの就任以来、その認知を大きく変えてきている。
92年以降、プレミアリーグの見出しが他を圧倒するようになるのを助けた。91/92シーズンのオールド・トラフォードの平均観客数は42,061人だったが、これが昨季には当時比80%増の75,530まで増えている。
トップリーグの平均観客数は91/92シーズンよりも66%も増えているが(21,622人⇒35,606人)、これは同時に現代フットボールが多国籍になっていることも反映している。ファーガソンは、33か国、211人の選手と契約を結び、うち100人がイングランド人だった。
ファーガソンがプレミアリーグに注ぎ込んできた情熱を考えれば、昨季のタイトル争いは最もつまらないもののひとつであったと言わざるを得ないし、1986年にはまだバルセロナ移籍前のギャリー・リネカーやクライヴ・アレンといった才能がいたことにも触れておくべきだろう。その年、マット・ル・ティシエがデビューし、ウォルヴズがスティーブ・ブルの獲得のためにウェストブロムに払った移籍金は3万5,000ポンドだった。
そこでは多くの才能溢れるイギリス人がプレーしていたが、フーリガンの恐怖は否定できなかったし、ヘーゼルの悲劇後にヨーロッパの舞台から締め出され、イングランドは国際的には孤立していた。
「イングランドのフットボールは、27年前と比べれば見違える素晴らしさだ」 とファーガソンはプレミアリーグの2012/13シーズンの64ページのレビューに掲載された手記で述べている。
「リーグ全体を見渡しても、スタジアムはどこも本来あるべき姿にはなかったし、選手の育成も今とは比べるべくもなく、TVの放映権も行き渡らず、ファンも適切な扱いを受けてはいなかったし、何より、政府が持っているフットボールへの印象がネガティブなものだった」
ファーガソンは古きロマンを否定する。
「中にはかつてのフットボールは良かったと楽観する者もいるが、それはノスタルジーがそうさせてるだけだ。当時のイングランドにおけるフットボールの役割は下降の一途を辿っていた。残念なことだよ」
ファーガソンによれば、ユナイテッドは「プレミアリーグの時代のイングランドのフットボールの変革を象徴していた」彼らの言う夢の劇場は、眩いばかりのトロフィーと収入源の舞台となった。
「クラブはあらゆるレベルに必死に投資した。トップクラスの選手は補強からも育成からも出てきたし、選手やファンのためのオールド・トラフォードやカーリントンといった素晴らしい設備、そして各種のコミュニティ・プログラムは地元からさらに遠くへと広がっていった。クラブは、他のクラブが改善のために見習うプレミアリーグのスタンダードを確立したのだよ」
「時にライバルたちだって、食らい付いてきた。毎シーズンやってくるそうした挑戦が、我々を改善のためにベストの状態へと駆り立てていった」
そうしてユナイテッドに挑戦していったのは、リーズ・ユナイテッド、ブラックバーン・ローヴァーズ、ニューカッスル・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー、リバプール、そしてマンチェスター・シティだった。
「競争は非常に健全なもので、それこそプレミアをヨーロッパの他のリーグとは違ったものにしている要因だ」
「プレミアリーグが織り成すフットボールのエンターテインメントとしての質は、年々上がっていくばかりだ。タイトルを獲るのも、良い選手層、若手、経験やアティテュードを維持するのも毎年難しくなっていった」
「国内、そしてヨーロッパでの数々のトロフィーに次いで誇りに思う業績は、マット・バズビーが描いたクラブのビジョンの伝統に則って作り上げたユース世代の育成だ」
「ライアン・ギッグス、ポール・スコールズ、ギャリー・ネヴィルといった素晴らしい選手たちが規範となったが、この先にもそうした選手はこれまで以上に出てくるはずだ。私のどのチームにもアカデミー上がりの選手がいたものだ」
ユナイテッドは昨季のU-21プレミアリーグをオールド・トラフォードから21マイル以内の出身の選手8人を擁して制した。マンチェスターから2人、ベリー、ロッチデイル、オールダム、ストックポート、マクルスフィールド、ワリントンから各1人ずつだ。
「こうした懸命な取り組みこそ、(プレミアリーグが標榜する)エリート選手パフォーマンス計画が生み出そうとしているホームグロウン選手の輩出につながるものだ」
「才能溢れる少年たちがイングランド中にいるし、彼らが適切なトレーニングと環境、チャンスを得られるなら、クラブの真摯な取り組みと投資によってイングランドのフットボールが恩恵を得られない理由など無い」
ロイ・ホジソンは勿論そう願うだろうが、ファーガソンの言葉のポイントは「チャンス」だ。重圧にさらされる監督たちが、1ポイントでも多く積み重ねなければならないトップチームでアカデミーからの才能に賭けることができるだろうか?
手紙の中でファーガソンは、ユナイテッドにもメッセージを送っている。選手たちの「決して諦めない」姿勢に拍手を贈り、シーズン最終戦のホーソンズ、そして特に、その前のオールド・トラフォードでのホーム最終戦でのエモーショナルな惜別に感謝を述べた。「私も私の家族も決して忘れることはないだろう」
そしてファーガソンはライバルを称えた。
「プレミアリーグが世界に知れ渡っているのは、その情熱とファンの知見、そしてスタジアムの雰囲気からだ。オールド・トラフォードに限ったことでなく、特にグッディソン・パーク、セント・ジェームズ・パーク、アンフィールド、そしてホワイト・ハート・レーンなどではファンタスティックな雰囲気が作られる」
「それはイングランドの歴史と伝統の一部であり、それが今日の成功につながっている。私はその全てを懐かしく思うだろう」
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