Friday, October 19, 2012

古巣チェルシーとの対戦で試練に直面するアンドレ・ヴィラス・ボアスとスパーズ

この週末の土曜日に昨年解任された古巣チェルシーとの対戦を控えるアンドレ・ヴィラス・ボアスは、どのような気持ちでスパーズの監督としてこの試合に臨むだろうか。「テレグラフ」紙のジェイソン・バート記者によるコラム。



ちなみに、前回AVBの記事を取り上げた時も「テレグラフ」だったのだけど、結局メディアの予想を遥かに上回るタイミングでクビが飛んでいたのだな・・・。

++(以下、要訳)++

怒りも苛立ちも遥かに超えていた。3月にチェルシーに解任を通告された時、アンドレ・ヴィラス・ボアスに覆いかぶさった感情は、当惑だった。

彼はまるでプレミアリーグでの容赦の無い8カ月が、彼の名声を傷つけたと感じただろう。そもそもチェルシーなどに行ったのが誤りで、彼は過ちを犯しただけでなく、失望もさせられた、と。

彼にとっての最大の過ちは、人心掌握ではなく、単に結果が出なかったことでも、強大な力が渦巻くロッカールームをまとめられなかったことでもない。それは、彼がロマン・アブラモビッチ -より規律があり、内容の濃いフットボールを望んでいた- から得ていた信頼を信じきれなかったことだ。

ヴィラス・ボアスは、 トッテナム・ホットスパーの監督就任時には、チェルシー監督の座を解任されて反撃する初めての監督になることを我慢できはしなかった。彼が言うには、アブラモビッチの方が彼に愛想を尽かしたのだ。

重圧は非常に大きなものになっていて、彼の解任は避けられないものだったし、その解任でチェルシーが解放されたことは、チャンピオンズリーグ制覇という並外れた栄光によって証明されてしまった。チェルシーは判断の正しさを証明した気分だっただろう。

ヴィラス・ボアスがイングランドのフットボールから距離を置きたいと感じていた後にも、多くのオファーがやってきたが、ヴァレンシアやサンパウロの話を断ってトッテナムに加わることに合意したことには、何かが暗示されている。

リベンジというわけではないだろうが、今週で35歳ながら、長くとも10年以上も監督生活を続ける気がない男には、名声の回復という側面はいくらかは含まれているだろう。ひとたび就任が決まり、ひとたび日程が決まって公開されれば、スパーズとヨーロッパ・チャンピオンであるチェルシーとの最初に試合にはまず目が行ったはずだ。そして、それはこの土曜のランチタイムにホワイト・ハート・レーンで実現するのだ。

今週ヴィラス・ボラスがチェルシー、彼の元アシスタントにして後継者のロベルト・ディ・マテオ、そして選手たちについて発する一語一句が注目され、分析され、見出しとなるだろう。そして、全ての質問に率直に答える男には、それはあまり心地の良い経験ではないだろう。彼は落ち着いている必要がある。

エゴについての批判はあるにせよ、ヴィラス・ボアスは原理原則の男であり、チームと組織力、そして手柄を得るだけでなく、注目の的となることにも耐えうる選手たちを信じる監督だ。例えば、チェルシー時代に彼が持っていた考えには、監督ばかりが会見するのでなく、選手がメディアに話をする「ミックスゾーン」を試合前の金曜日にやる、ということも含まれていた。注目が監督ばかりに集まることを嫌い、ピッチでクラブを代表している選手たちにより多くの責任を担って欲しいと考えていたのだ。もっとも、これが実現することは無かった。

ヴィラス・ボアスは目的を持ってスパーズにやってきた。そしてその目的は、願わくばスパーズを安定させるということだけでなく、トップ4入りを実現してチャンピオンズリーグの舞台に再び立つことだ。彼はトロフィーを勝ち取りたいと思っている。そして、それを今実現したいのだ。競争力を高めて帳尻を合わせるだけでは彼には不十分で、必要なのはタイトルであり、勝利なのだ。

スパーズの選手たちもそれをトレーニングの初日から告げられ、ヴィラス・ボラスは念押した。 単に効果を狙って言っているわけではない。2シーズン前のポルト時代に制したヨーロッパリーグにあれだけ強力なメンバーで臨んでいるのも偶然ではない。選手たちもヴィラス・ボアスのフットボール哲学の何たるかを伝えられている。

彼は恐れずに常に攻撃を仕掛け、常にボールを支配するチームで成功したいと考えている。ポゼッションを高めるということは、攻撃のカギであると同時に、守備の負担も軽減できるのだ。アウェーで3-2でマンチェスター・ユナイテッド相手に挙げた勝利でのペース、目的意識、意図は、このシーズンの青写真となった。そして、チェルシー時代に初黒星をオールド・トラフォーで喫した監督にとっては、素晴らしい挽回劇だった。

ヴィラス・ボアス本人も、その攻撃なスタイルをこのイングランドで適用するのは難しいと理解しているのは明白だ。他の多くの国と違って、ここは勝利第一の文化だけでなく、勝つにも内容のあるフットボールを求められるのだ。

大胆?勇敢?ナイーブ?時折この前2つがヴィラス・ボアスに当てはまるのは確かだろうが、特に敗れる時には3つ目そのものであり、それを評論家にも指摘されている。しかし、スパーズは開幕戦以降は敗れておらず、リーグ戦は4連勝中だ。

チェルシー戦は大きな試練となるし、ヴィラス・ボアスも我を忘れてはいないだろう。結局、昨季の現時点でチェルシーは16ポイント -今のスパーズが14ポイント- で、フランク・ランパードは「CHELSEA TV」で新監督のアプローチと戦術、オープンさを褒め称えていた。しかし、それは今のスパーズでは異なった印象で、それは誰にとってもの心地良さになっているかもしれない。ヴィラス・ボアスはチームを安定させ、彼への賞賛で上向きの風が吹くようになったのも最近になってからだ。

試合の流れを変えるルカ・モドリッチとラファエル・ファン・デル・ファールトは売却され、レドリー・キングは引退、スコット・パーカーとユネス・カブール、そしてベノワ・アス・エコトはケガで欠場し、エマニュエル・アデバヨルもまだフィットしてはいない。 昨季であれば大半の試合に先発していた7人だ。

5,000万ポンドの豪華な投資 -そして6,000万ポンドを回収した-が行われたが、6人の補強のうち4人はシーズンも始まった後の移籍締切日近くに獲得が決まっている。そして、中でもヴィラス・ボアスが最も獲得を望んだポルトのプレーメーカー、ジョアン・モウチーニョは、スパーズは11時までの締切に話をまとめることができず、獲得に至らなかったことは言うまでもない。

その不満はいったん棚上げされ、スパーズの選手たちはヴィラス・ボアスの綿密で実力を重視するスタイル、彼の詳細にこだわる目、そして彼の先進的なトレーニングに適応して行っている。どの監督も「ドアは開いている」と主張するが、ヴィラス・ボアスの場合は、いかに選手のモチベーションを上げるか、いかに自分たちが重要だと感じさせるか、と考える際にそれが発揮されている。

スパーズに来て以来、チームの強化について語るのに四苦八苦してきているが、数人の選手には明瞭な成長の兆しが見えている。サンドロはレベルを一段上げたし、カイル・ウォーカーはディフェンス面で向上している。アーロン・レノンは中への切り込みで成長を見せ、サイドをえぐるだけの選手ではなくなっている。スティーブン・コールカーもいよいよ台頭し始め、ジェイク・リバモアも改善してきている。

ヴィラス・ボアスにその価値を認めさせ、新たな契約も手にしたジャメイン・デフォーは、まるで息を吹き返したかのようだ。ギャレス・ベイルは過去最高の破壊力を見せつけている。マイケル・ドーソンの処遇には多くの疑問符も付いたが、QPRからの900万ポンドのオファーは、ウィリアム・ギャラス、カブール、ヤン・フェルトンゲン、さらにはコールカーも揃う中では良いビジネスだ。

ヴィラス・ボアスがスパーズでの生活をエンジョイしていることに疑いは無い。新練習場や会長のダニエル・リヴィによる新スタジアム計画、そして彼が熱心に進めるフットボール・ディレクターの採用  -元イングランド代表のGM、フランコ・バルディーニが依然第一候補-等に感銘を受けて来ているのだ。

まだまだ始まったばかりではある。尊大なフットボールを目指す欲望の裏には、この青年監督への注意も常に付いて回る。この土曜日は試練だ。彼が率いるスパーズだけでなく、彼自身にとっても。

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AVBの自己実現の場にスパーズが重なっていることを強く言いたそうな主旨ではあるけど、どんな監督もそれは同じだと思う。むしろ、この年齢で昨季チェルシーを率い、8カ月で解任の憂き目にあったAVB本人が、この先の自分のキャリアをどう判断して同じロンドンのスパーズに来たのか、という方が個人的には興味があるけど。

でも、去年のユナイテッド戦でのスタンスについて、アラン・ハンセンにBBCで「あんなオープンに撃ち合いに持ち込むなんてナイーブ過ぎる」って言われてたことを考えれば、スパーズ監督として乗り込んだこの間のオールド・トラフォードは既に成長の一端を見せたってことにはなると思う。古巣のチェルシー戦はホントに楽しみ。

Sunday, October 14, 2012

さらばアンブロ:イングランド代表との一時代の終焉

イングランド代表と言えばアンブロ、という印象を持っている人も多いだろう。それも当然で、実際の所、過去60年間に渡って代表のユニフォームのサプライヤーはアンブロだった。それでも、それももうあと数カ月の話。今回の契約が切れると、イングランド代表はナイキのユニフォームを身にまとうことになる。この歴史と背景について、「インディペンデント」紙のサム・ウォレス氏がコラムにしている。


++(以下、要訳)++

アンブロは過去60年間に渡って、イングランド代表の大半の象徴的なシーンにそのシャツを提供してきた - しかし、それももう終わりだ。ナイキはどのようにこの斜陽の国産ブランドを追い込んで行ったのだろうか。

新たにオープンしたセント・ジョージ・パークのフットボール・センターの照明に満たされたアトリウムには、150体のマネキンがあり、皆アンブロがデザインしたジャージを身にまとって来年に迫ったFAの創設150周年を祝う準備をしている。いくつかはクラシックなアンブロで、他もイングランド代表の歴史から、良く知られたシーンや選手を描き出している。

ものの数週間のうちに、これらは皆はがされてしまうだろう。まるで企業の一揆かのようにナイキが代表チームのキット・サプライヤーになることが決まり、88年前にチェシャーのウィルムスロウにあるパブの奥の小部屋で産声を上げた古き英国ブランドは、今は実権を握るアメリカの親会社に道をあけるために、横に下がるよう礼儀正しく求められている。

英国のスポーツ用品ブランドのアンブロは、生き残りのために戦っている。ナイキは5月にアンブロを売却する方針を発表しており、一番あり得る未来は、ライセンスモデルでブランドとしてのみ生き残る形だ。英国本社の経験やノウハウがあるにも関わらず、そのクリエイティブな頭脳は活かされずに、製造業者がアンブロに費用を払って製品を販売する。ここまで多くの資産を失ってきた企業の最後の価値を絞り出す、というわけだ。

ハロルドとウォレスのハンフリーズ兄弟によって1924年に設立されたアンブロには輝かしい歴史がある。これまでにも1962年のブラジルのワールドカップ制覇、1967年のセルティック、1977年のリバプール、1999年のマンチェスター・ユナイテッド、そして何より1966年のイングランドの栄冠と共にあった。ブランドが最も近い関係にあったのが1954年に着用を始めたイングランド代表であり、1974年から84年を除いて(訳注:アドミラルがサプライヤー)、それは続いてきた。

ダンカン・エドワーズはアンブロのシャツで代表デビューをした。ボビー・ムーアがジュールス・リメ杯(訳注:ワールドカップの初代のトロフィー)を掲げ、テリー・ブッチャーが血まみれになり(上写真)、ポール・ガスコインが涙したのもアンブロのシャツだ。デイビッド・ベッカムもこれで退場して行った。それが、これからはそこで愛情を注がれるのは、ナイキのスウーシュのロゴであり、ナイキの最初のメッセージはおそらく火曜日にウィリアム王子がセント・ジョージ・パークのオープン時に大胆に宣言した「イングランドのフットボール、未来」だろう。

しかし、その過去というのはどんなものだっただろうか?アンブロの衰退には、複雑な要素が絡み合っている。2008年の3.77億ポンドでのナイキによる買収は上手く行かなかった。社内事情に近い関係者によると、ナイキはこの小さくニッチな会社に、自社の製造・販売網を押しつけようとしたようだ。伝統的に、アンブロは小さな単位でのオーダーの工場との交渉も販売店との親密な関係の構築ももっと戦術的に行ってきた。

販売店にどの程度その商品が必要なのか、などと聞くことのないナイキのような巨大企業には、アンブロは違った種類の生き物に思えた。ナイキによるより小さなブランドの買収の結果はまちまちだ。アイスホッケー関連ブランドのバウアーは買収したものの、やがて売却された。逆にコンバースとはここまで上手く行っているようだ。しかし、アンブロに影響を及ぼしたのはナイキによる買収だけではない。

2004年から06年の間、アンブロはホーム、アウェー合わせて約300万着のイングランド代表のレプリカを販売した。 2009年にFAと9年契約の交渉に臨んだが、その頃には2008年のユーロ予選敗退による本大会吹出場もあり、イングランド代表のシャツの人気は急落していた。販売店のスポーツ・ダイレクトとJJBスポーツとの間の競争も、レプリカ・シャツの値下げを容易なものへとしていった。状況悪化の一途をたどる経済状況も一部は影響しているだろう。

年間2,000万ポンドと言われるFAとの契約は元が取れるとは考えられず、アンブロには重荷になっていった。ナイキが引き継いだのはこの契約であり、FA側からも何の抵抗もないまま、来年からイングランド代表のシャツのナイキへの移行は始まる。

ナイキやアディダスのようなグローバルなメガブランドは、代表のシャツでの赤字などマーケティング費用として処理できてしまう。ナイキは元々「パフォーマンス」と呼ばれる商品ラインに注力しており、アンブロの買収は「フットボール・ライフスタイル」や「ファンのファッション」といった市場に切り込むためだった。これらのビジネスは必ずしも交わるわけではないが、やがてナイキはアンブロの偉大な資産を切り裂いていった。

アンブロの抱えるもう一つの宝石は、マンチェスター・シティとのシャツの契約だが、これも来季にはナイキに引き継がれることになるだろう。こうした要素に敏感な者であれば、エティハド・スタジアムのピッチ脇の看板は、もうナイキに入れ替わっている、と言うだろう。現在もアンブロのスパイクを着用する数少ないスター選手のジョー・ハートも、ほどなくナイキになっているだろう。ダレン・ベント、アンディ・キャロル、マイケル・オーウェンも依然アンブロと契約している。ジョン・テリーの契約は6月に 切れたが、彼も依然としてアンブロのスパイクを着用している。

数々のビッグクラブや代表チームのユニフォームを提供してきたブランド、そして言うまでも無く最初の子供用レプリカシャツを出したブランドは、来年にはイングランドではノッティンガム・フォレスト、ハダースフィールド・タウン、そしてブラックバーン・ローヴァーズにしか契約が無い状態になる。

ハンフリーズ兄弟の実家から数マイル、南マンチェスターのチードルにあるアンブロの本社では、約200人の社員が働き、ナイキによる買収時にはオフィスの拡大もしたが、最近ではアンブロの社員がブランドの将来について知らされるのを待っている様子は、廃墟の街のようだ、と語られていた。

グローバル化した世界にあって、イングランド代表が少なくともイングランドにルーツがある会社のシャツを着なくなったとして問題だろうか?フランスだってル・コックでなく、結局はナイキを着用している。スペイン、ブラジル、アルゼンチン、オランダといった代表の強豪は、いずれもアディダスかナイキと契約している。それでも、ドイツ代表がドイツのブランドであるアディダスかプーマ以外のシャツを着用しているのは想像しがたい。

1994年のワールドカップ優勝時のブラジルのユニフォームや、1997年のフランス戦で見せたロベルト・カルロスの有名なフリーキックの時のスパイクなど、アンブロにはフットボールの遺産の中に一定の存在感があることは誰にも否定できない。文化の中にも浸透していったのも確かだ。リアム・ギャラガーは1995年の「トップ・オブ・ザ・ポップス」出演時には、シティ色のアンブロのコートを身にまとっていた。

1966年ワールドカップの決勝トーナメントでは、 16チーム中15チームがアンブロ製のシャツを着ていた。近年では、それはナイキとアディダスによる世界の覇権を戦いの場となってしまった。アンブロは今後もフットボールの市場での居場所があると望んでいるが、イングランド代表という大きな勲章を失ってしまい、歴史はそれを2度と取り戻すことはできないと示唆している。


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何年か前のナイキによる買収の話の時は驚きつつも時の流れと感じてたけど(実際、その前にアディダス傘下にリーボックが入ったりって流れもあったし)、イングランド代表のユニフォームがアンブロからナイキになってしまう違和感はかなりのもの。

個人的に、現行のアウェー・モデルは結構好きだから、買っとこうかな、と。
(↓は、そのアウェー・モデルがデビューした去年のブルガリア戦)



日本代表の今のサプライヤーはアディダスになって長いけど、昔は結構ローテーションしてたよね。

Thursday, October 11, 2012

冷静なレイトン・ベインズの謙虚な振舞いと好調エヴァートン

エヴァートンの左サイドバック、レイトン・ベインズは、この夏のマンチェスター・ユナイテッドへの移籍が噂されるなど、イングランドでの評価は非常に高い。それでも、代表のこのポジションには、間もなく代表100キャップのアシュリー・コールがおり、必然的にその「影」を歩むことがこれまでも長かった。テリーの裁判沙汰に関するツイッター上でのFA批判(既にコールは謝罪し、代表に合流)で今回のワールドカップ予選でのコールの出場が微妙な中、BBCのフットボール主幹であるフィル・マクナルティ記者がベインズにスポットライトを当てたコラムをアップ。


++(以下、要訳)++

アシュリー・コールがFAからの処罰を待つ中、エヴァートンのレイトン・ベインズは自分がその代役をこなせるのだと証明するのに忙しかった。

マージーサイド出身の27歳は、イングランド代表98キャップが示す通りの衰えぬクオリティを持つ、誰もが認めるワールドクラスであるチェルシーのコールの陰で、彼のサブとして代表のキャリアを送ってきた。

そして、代表がサンマリノとポーランドとのワールドカップ予選に臨む 準備期間の間にも、コールは、チームメイトのジョン・テリーがQPRのアントン・ファーディナンドに発した人種差別発言で有罪とされた審問で自分の証言に疑問符を付けられたことでFAに軽はずみに罵言をツイッターで飛ばしたことで、再度見出しを飾ることになるだろう。

ベインズがツイッターで発言をするとは到底考えられないし、FAを批判するための道具にするとなれば尚更だ。彼は思慮深い性格で、ピッチを去れば注目を浴びるよりも人混みに消えて行くことを好み、意図的に控え目でいるタイプなのだ。

彼はむしろロイ・ホジソンと1950年代の音楽について話している可能性の方が高く -実際彼らはその話題で議論をしていたのだが- 、ツイッターでの暴言について説明を求められる電話を受けたりはしていないはずだ。

それはホジソン、そしておそらくFAにとっても好ましいことで、彼が最高レベルのディフェンダーとして成熟して行っていることは、2-2のドローで終わったウィガン戦を見ていた者であれば、より確信を持てただろう。

仮にホジソンがイングランド代表の左サイドバックのポジションがアシュリー・コールの後も安泰だと分かっていなかったとしても、DWスタジアムに送り込んだスパイがホジソンにしっかりと報告するはずだ。私の考えでは、コールには依然としてより優れた左サイドバックだと言える点が残っているが、その差はこれまでにないほど縮まってきているし、ベインズには土曜日のプレー以上にまだ成長するための時間もある。

ピッチを離れれば、ベインズを知る者はその地味ながらも知性溢れるキャラクター -国を代表する欲望と情熱には事欠かない- を褒め称える。自信の欠如が彼をクラブでもで意表でも表舞台から遠ざけたことはあっただろうが、今の彼は才能が花開き、デイビッド・モイーズも何度となく賞賛している。

エヴァートンが終盤のPK、彼の3度目となる古巣相手のゴールで1ポイントをもぎ取ったウィガン戦の後、モイーズはベインズがチームにもたらした影響を賞賛することを躊躇わなかった。かつて彼を賞賛していたウィガンのファンも温かい声援を送ったが、ロベルト・マルティネスにとってはより大きな傷となったことは間違いない。

「レイトン・ベインズはファンタスティックだった。彼のプレーもPKもね」とモイーズは語った。「彼のパフォーマンスは見ての通り、ピカイチだった。彼がウチを波に乗せたんだ。圧倒的なプレーだった」

アリ・アル・ハブシに向かって強く高く蹴り上げたPKが決まったのは、ウィガンのアルナ・コネとフランコ・ディ・サントのゴール、その間のニキツァ・イェラビッチゴールで環境を夢中にさせた試合の中で彼とエヴァートンには相応しい報いであった。

守備をこなし、前半にはポストを叩くシュートを放ち、貴重なPKを決める前にはエヴァートンの後半の猛攻を引き出すなど、ベインズはこの試合では圧倒的な存在感だった。

要するにそれはほぼノーミスのプレーであり、可能性の低かったエヴァートンの勝利を引き寄せるために、気まぐれだったパスを活かそうと、無駄だと分かっていても96分間走り続けたことが彼のキャラクターを示している。試合後に彼について訊かれたモイーズは直ちに賞賛の言葉を並べた。

今季素晴らしい開幕ダッシュを見せるエヴァートンのチャンスメイカーとしても得点者としてもベインズはチームに欠かせない存在で、彼がスパーズから復帰したスティーブン・ピーナールと再び見せる左サイドでの連携はプレミア屈指だ。

この日は、マージーサイドの面々にはタフな午後で、エンジン全開のウィガンが精彩を欠いたエヴァートンに付け込んで攻め込み、自分たちの持つと信じる力の証明に躍起になっていた。

エヴァートンのように大きな変化を見せないチームでは珍しいことだったが、モイーズは必要と思われた調整をハーフタイムに行った。コネに対峙してスピード不足を露呈していたジョン・ハイティンガは、哀れなことにそのままロッカールームに残ることになり、活躍を嘱望される若きベルギー人のケヴィン・ミララスは、右サイドからイェラヴィッチのパートナーへとポジションを上げた。

これが最終的にはエヴァートンに勢いをもたらし、アウェーに駆け付けた彼らの5,000人のファンの目の前へと押し込んで行った。モイーズが後半開始後のプレーで主審のケヴィン・フレンドがPKを認めなかったことは不満だったろうし、疑問の余地のあるコネの先制ゴールにも一言あるだろう。

しかしながら、この試合、ウィガンは勝ち点1には値したし、それは開幕以来の好調で信念が吹き込まれたシステムで、次第にウィガンにプレッシャーをかけて行ったエヴァートンも同様だ。エヴァートンが現在の順位を維持できるかどうかはまだ分からないし、現在ケガで欠場するダロン・ギブソンを欠くと、中盤は安定感を欠いてしまう。

それでも、今季のエヴァートンが昨季と違うことに疑いは無い。イェラヴィッチは脅威であり続け、ベインズとピーナールの最高のコンビは、ほぼテレパシーだ。そのスタイルはより拡張性に富み、守備の綻びが若干広がったとしても、相手にとっての脅威も明らかだ。

チームの各ピースは、エヴァートンが敗戦によってモラルを失うことのないよう再びひとつになり、土曜にその中で最も重要なピースだったのはベインズだ。

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コールの後塵を拝する期間が長いままもう27歳になってしまったのは惜しいけど、今回の代表ウィークは彼に追い風になっているのは間違いなく、本人もまだ限られている出番で結果を出したいところなんじゃないかな、と。