Friday, July 20, 2012

トッテナム・サポーターの心に残り続けるレドリー・キング

引退を表明したスパーズのレドリー・キング。スパーズのファンにとっては、いつか来てしまう、しかも最近のケガの状況を考えれば近いもしれない、とここ数年感じていたことではあったが、今季は欠場もしつつ、一定のサイクルでコンスタントに出場していつも通りの素晴らしい守備を見せていただけに、少し先に延びるのではないかと、個人的に期待したりもしていた。

潮目が変わってしまったのを感じたのはアウェーのシティ戦。バロテッリに決勝点となるPKを献上した試合だったけど、これ以降、出場できた試合でもパフォーマンスが落ちて行って、ホームで敗れたQPR戦を最後に姿を見ることはできなくなってしまった。

今回ピックアップしたのは、キングの引退に寄せた「インディペンデント」紙のジェームス・マリナー記者のエッセイ。普段はデータに強いマリナー記者は、ホワイト・ハート・レーンのシーズンチケット・ホルダーでもある。



++(以下、要訳)++

"Ledley's gone"(もうレドリーは戻ってこない)。我々が決して聞きたくはなかった言葉だ。ホワイト・ハート・レーンの外側の人間の多くはレドリー・ブレントン・キングの終焉を予感してはいたが、その3語をサウス・スタンドの下フロア(訳注:ホワイト・ハート・レーンで一番「熱い」エリア)で肩を並べ、自分たちがキングを最も良く知っていると感じている仲間内から聞くと、トッテナム・ホットスパーで最も偉大な選手の1人の終わりがすぐそこまで来てしまったことが、痛いほど明らかになった。我々は、いつかは受け入れねばならないとしても、決して起きて欲しくはないと願っていた現実に直面させられた。いつか遠くのある日が、突然やってきてしまったのだ。

イースターの月曜日、トッテナムのチャンピオンズリーグへの野心がポール・ランバートのカナリーズに手痛い一撃を食らった試合で、キングがアンソニー・ピルキントンやグラント・ホルトに走りまわらされている姿は、我々のリリーホワイトの信念を打ち砕くには十分だった。その後、31歳のキングは、ともに敗れたチェルシー戦、QPR戦に出場したが、そこまでだった。我々は終わりにしなければならない、と目を見開かされた。元はと言えばデビューから5ヶ月後の退屈なダービー戦まで遡ることになる膝の負傷が、遂に偉大な男に幕を下ろさせることになった。

ホワイト・ハート ・レーンでの13年間を通じて、キングは単なるトッテナムの「キープレーヤー」の域を超える存在となるに至った。レドリーは落ち着きを呼んだ。レドリーは安心をもたらした。レドリーは栄光を勝ち取る機会を高めた。レドリーはディフェンス・ラインを仲間と共に率いて、マイケル・ドーソンに代表される若い選手が自信をつけるのを助けた。彼は323試合に出場した - もっと出られたはず、片手で数えられてしまう。アンフィールドでリバプールに2-3で敗れた1999年5月の試合でデビューしたが、その真価を見せつけたのは、ジョージ・グラハムに中盤で起用された翌シーズンのリバプール戦だ。当時20歳の彼が11月の昼下がりに見せた落ち着きとバランス感覚は多くの人々の注目を集め、誰もが彼は偉大な選手になるとすぐに考えた。数週間後、彼はブラッドフォード戦で開始10秒でゴールを決めた。これは現在も破られていないプレミアリーグ記録だ。すぐにイングランド代表にもデビューし、3試合目、ヨーロッパ選手権でホスト国のポルトガルと1-1で引き分けた試合ではゴールも決めた。リオ・ファーディナンドがメンバーから外れざるを得なかったことが、キングにこの大会で輝く機会をもたらした。グループリーグ初戦のフランス戦では、シネディーヌ・ジダンに決められるまでは、イングランド好スタートの立役者となるようなプレーぶりだった。結局キングは代表では僅かに21試合の出場にとどまった。しかし、ファビオ・カペッロは、多くのスパーズ・ファンの希望に反して彼のメンバー入りに熱心で、2010年のワールドカップのチームにもキングを加えた - 開幕戦の45分しかもたなかった。

そのプレーぶりと疑いのない才能は、ファンにとって苦痛だった2001年7月のソル・キャンベルの退団劇を受け入れるのも容易にした。キングはキャプテンに任命され、相手にも一目置かれるようになった - ティエリ・アンリは、キングを「ファウルをしなくて、それでいて僕の足下から簡単にボールを奪える唯一の選手」評していた。彼がクラブ勝ち獲った唯一のトロフィーは2008年のリーグカップだ。彼がチェルシーを倒すのを率い、新しいウェンブリーの階段を上って行く姿は、彼の全ての貢献に報いるものだ。また、2010年にクラブが半世紀ぶりにチャンピオンズリーグの舞台に返り咲くのにも大きく貢献した。フラム戦でハムストリングを痛めてからは3試合しか出場することができなかった - 日常的にトレーニングができない結果だ。酔った時の行動で逮捕されても、ファンは「楽しんでんだな」と笑って受け入れた。スパーズは長期的な代役を探し始めていて、ユネス・カブールの堂々たるプレーぶりやヤン・フェルトンゲンの獲得は、我々がこうしてキング引退の報を耳にする根拠でもあった。今シーズンの終わりには彼の引退記念試合も開催されるし、サポーターの記憶から簡単に消え去ることはないだろう。この男を、このレジェンドを、キングを。



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昨シーズン序盤のプレーぶりには励まされたし、実際キングが出ると失点しないし、負けない、っていう結果も出てたけど、良いことばかりは続かないんだな、やっぱ。ウッディに続いてキングも去るとなると、ひと時代に区切りがつく気がするな、やっぱ。

Saturday, July 7, 2012

マンチェスター・ユナイテッド、ニューヨーク上場の狙い

留学中のファイナンスのクラスで、「トピックは好きに選んで良い」言われたレポートがあって、その時は大マジメにイングランドのフットボールにおけるおカネの流れについて勉強した。元々関心はあったのだけど、あらためて色んな指標をクラブごとに比べてみたり、日本のクラブと比較すると結構面白い。負債の定義の仕方や種類にもよるけど、アーセナルとかはキャッシュの流れとか見ても基本的にクラブは健全経営、ただし、スタジアム建設に関わる負債は身動きを取りづらくしてるし、マンチェスター・ユナイテッドは利率の高い負債が大きく、その利子の返済が財政を圧迫、シティやチェルシーは人件費総額が入場料収入を遥かに上回っていて、そもそも経営のモデルとしては成り立っていない。

そんな中、最初は香港やシンガポール等、アジアでの上場を目指すと言われていたマンチェスター・ユナイテッドが、ここに来て上場先はニューヨークになりそう、という記事が出始めている。上場の目的自体は、負債に利子の無い株式を当てこむことでのバランスシートの改善と考えられるが、自分の勉強も兼ねて、ロイターの記事を選択。




++(以下、要訳)++

マンチェスター・シティに頂点を奪われた昨シーズンを受け、マンチェスター・ユナイテッドがニューヨーク市場への上場によって負債を軽減させ、トップクラスの選手への投資資金を得る計画を立てている。

NFLのタンパベイ・バッカニアーズのオーナーでもあるアメリカ人のグレイザー一家は、議決権付き株式を活用した米国への上場によって、19度のチャンピオンに輝いているこのグラブを掌握し続ける。

クラブは今回の上場で1億ドルを調達し、4.23億ポンド(6.63億ドル)に及ぶ負債を軽減するための申請書を提出した。これは現時点での見通しであり、株式の発行数は増える可能性も残されている。

ユナイテッドは6.59億人に上る世界のファンのうちの多くがいるアジアの市場で上場して10億ドルを調達する計画だったが、これを取り下げてイングランドのフットボール・ファンの少ない北アメリカへと上場場所を移したニュースは驚きをもって受け止められた。

しかしながら、最近のアジア市場の不安定さは、フォーミュラ・ワンを含む、他の多くの上場を遅らせている。また、アメリカの投資家たちは、今回ユナイテッドが計画している議決権を分けた形の上場にも慣れている。今回発行されるクラスAの株式は、2005年に7.9億ドルでクラブを買収したグレイザー一家の10分の1の議決権しか持たないことになっている。

ユナイテッドは火曜日にアメリカ証券取引委員会(SEC)に提出した申請書の中で、「プレミアリーグでは、潤沢な資金を持つオーナーからの投資を受けたチームが、トップクラスの選手やコーチング・スタッフを揃え、国内、そしてヨーロッパでより良いパフォーマンスを見せている」と述べている。

1878年に設立され、ジョージ・ベストやボビー・チャールトン、デイビッド・ベッカムを輩出しているマンチェスター・ユナイテッドは、 重厚な目論見書を提出してはいるが、実際の上場のタイミングや株式発行数の規模については明らかにしていない。

クラブの昨年3.31億ポンドの収入を上げているが、グレイザー一家が背負った負債の影響で、5,100万ポンドの財務コストがかかっている。


テレビ放映権の影響

ユナイテッドは最近「Forbes」誌に世界で最も価値のあるスポーツ・チームにランクされた。イングランドのタイトル獲得数がトップであるだけでなく、ヨーロッパ王者にも3度輝いている。

この成功は、クラブに世界中でそのブランドを売り込むことを可能にした。商業パートナーを世界72カ国に持ち、アメリカのスポーツウェア・メーカーのナイキ、ユニフォーム・スポンサーとなったエーオン、トルコ航空、シンハービール等と提携している。

申請書の中では株主への配当は計画していない、と記しており、それを期待する人々は株式の購入に二の足を踏むだろう。

ルイス・シルキン社の弁護士で、スポーツ産業に詳しいカリシュ・アンドリュース氏は 「一部の投資家は単にマンチェスター・ユナイテッドの一部を保有したくて株式を買うだろうが、多くの投資家はクラブの価値が上がって行くかどうかを推測するだろう。最近のプレミアリーグの放映権入札や、それに関連する追い風を見れば、グレイザー一家が投資家たちに株価が上がっていくと思わせるには良いタイミングだったのだろう」と語った。

20チームからなるプレミアリーグは、テレビ放映権料の更改交渉で70%の増額を勝ち取り、3年間で30億ポンド以上を得ることになる。

ユナイテッドは5月に国内のタイトル争いで、アブ・ダビを率いるシェイク・マンスーとう資金を得たシティに敗れた。ヨーロッパのチャンピオンズリーグでも早期に敗退し、2005年以来の無冠で収入は大きく減少した。

ファンは、今回の上場でクラブがかつての支配力を取り戻すことを期待している。ロビーイング・グループであるマンチェスター・ユナイテッド・サポーターズ・トラスト(MUST)のトップであるダンカン・ドラスド氏は「仮に調達額の多くが負債の解消に充てられるのであれば、我々としても歓迎であるし、負債がクラブにダメージを与えているという我々の考えの正しさを証明することになる」と語っている。


ファーガソン・ファクター

ユナイテッドは1990年代にロンドン株式市場(LSE)に上場していた数多くのクラブのひとつだった。しかし、結果に左右されがちな産業に、投資家たちの関心はすぐに薄れて行った。

クラブの直近の成功は、1986年からチームを率い、現在70歳になるタフなスコットランド人、アレックス・ファーガソンによってもたらされたものだ。

申請書にも「現在の監督のいかなる後継者も、現在の監督よりも成功することはないだろう」と書かれており、やがて来るファーガソンの引退が抱える困難を警告している。フォーミュラ・ワンにおいても後継問題は深刻で、商業面での成功をもたらした81歳になるバーニー・エクレストンを引き継ぐのは困難と見られている。

上場後もクラブのメインの株主は84歳のマルコム・グレイザーと6人の子供たちだ。新たに設立された持株会社がケイマン諸島に登記されており、敵対的買収も困難になっている。申請書にも、「あらゆる合併、買収もしくは融合は、役員会の積極的な同意が必要となる」と書かれている。

マルコムの息子であるジョエルとアヴラムがクラブの共同会長で、イギリス人のデイビッド・ギルが2003年以来CEOだが、ギルがかつてはユナイテッドの財務部長だった。

申請書からは、4月に返済されているものの、グレイザー一家が2008年の12月にクラブから1,000万ポンドを借り出したことも明らかになった。

「融資の条件は、我々が第3者から融資を受けていた場合に適用されたであろう条件よりも、我々にとって好ましいものであったと考えている」

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という感じで、詳細が明らかにならない中での現状のまとめ記事、という印象。それでも、単に上場の話だけ出されるよりは、放映権料や監督後継問題のリスクとつなげてくれた方が理解はしやすいってもの。通信社らしく味気ないのが通例のロイターにしては珍しくそれなりに編集された記事。

オマケ:アメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」 もしっかりこの辺は取り上げてる。