自分はロンドン暮らしながら授業でスタジアムには行けなかったのだけど、そもそもスパーズ側への割り当ては2,900枚で、累積ロイヤリティ・ポイントが少ない自分がチケットを取るのは厳しい情勢だった。授業中にもスコア速報を自分のPCに表示させてる教授が「いま2-1だよ」とかお茶目に教えてくれ、隣の席のナイジェリア人同級生はiPhoneでしっかり観ていて(スカイを契約していればプラス数ポンドでモバイルでも視聴可)、休み時間にカブールの3点目が入った時には意気消沈してたのは良き思い出。
順位の面で拮抗していたからこその緊迫感もあったのだけど、今シーズンは若干トーンが違う。順位差は1つながらポイントで10も離れ、ヴェンゲル周辺にも過渡期の落ち着かない雰囲気が流れている。そこでピックアップしたのが、BBCの「ヴェンゲル政権史上で最も重要なダービー」と題した特集記事。
++(以下、要訳)++
一見しただけでは、なぜ今回トッテナムがアーセナルに乗り込む日曜のダービーが、今までのノース・ロンドン・ダービー以上の重要性を持つのか分からないだろう。
激しい対抗意識を持つ地元のライバルが、プレミアリーグの3ポイントを競い合い、ひとつしかない自慢の権利を互いに渇望している。ここまでは見慣れた光景だろう。しかし、その表面をかき分けてみると、これまでとは全く異なる絵が見えてくるのだ。
元ガナーズの右サイドバックだったリー・ディクソンは「このダービーは、アーセン・ヴェンゲルのアーセナルの監督としての16年間の中で、最も重要なダービーだ。クラブの歴史の中でも、非常に苦しい時期のダービーとなってしまった」と語る。
国内のカップ戦からは全て敗れ去り、チャンピオンズリーグも敗退同然。アーセナルは無冠のシーズンを7年にのばそうとしている。
ヴェンゲルが就任して以降、一度もアーセナルより上の順位でフィニッシュしていないトッテナムに敗れれば、3位のスパーズからは残り12試合で13ポイント離されることになる。アーセナルは、チェルシー、ニューカッスル、リバプールとの4つ巴の争いを勝ち抜かない限り、15年続いたチャンピオンズリーグ出場も止まってしまうことになる。
元アーセナルのミッドフィルダーだったエマニュエル・プティは「チャンピオンズリーグに出られなかったら悪夢だよ。今までいたポジションに戻るには、アーセナルは夏にビッグネームを連れてくる必要があるが、チャンピオンズリーグに出られなければそれも叶わないだろう」
サンダーランド、ACミランに惨敗し、アーセナルはスパーズとの一戦で今シーズンの勢いを取り戻したいと考えているだろう。
この対戦は、ヴェンゲルが最初の14年間で1度しか負けていないカードだったが、全ての証拠は流れが変わっていることを示している。リーグ戦でのここ7度の対戦を見れば、アーセナルは1勝しかしておらずトッテナムより下の順位で臨むのは32度のダービーでたった4度目だ。
「スパーズはアーセナルよりも良いチームだ」とプティが認めると、ディクソンも「ここ数シーズンで決定的にパワーバランスが変わった」と付け加えた。
2000年に『The Great Divide』と題した本でトッテナムを圧倒し続けるアーセナルについて著した、作家でフットボールアナリストでもあるアレックス・フィンは、「あの時記した大きな差などもう無い。あるとすれば立場が逆だ」と語っている。ただこの考え方は、不満の声を上げることが多くなっているエミレーツの観衆には受けが良くない。
アーセナル・サポーターズ基金(AST)のスポークスマンを務めるティム・パイソンは「これは、今まで"St. Totteringham's Day"を楽しむことに慣れてきたファンたちにはカルチャー・ショックであり、警鐘だ」と言う。この"St. Totteringham's Day"というのは、アーセナルのファンが、毎年トッテナムがアーセナルよりも上の順位でフィニッシュすることができないと確定する日のことを冗談めかして名付けた日のことだ。
残念ながら、2012年にはその祝日は訪れそうになく、多くのファンは一体どうしてこんなことになってしまったのか、首を傾げるだろう。ヴェンゲルはアーセナルでの最初の9年間で7つのトロフィーを掲げたが、今やクラブ史上最も長く無冠でいる監督になりそうだ。
フィンはこう主張する。「ヴェンゲルには、彼に詰め寄るスタッフや役員が必要だった。これは彼が対処に失敗した最も重大な問題だ。他のビッグクラブはより優秀なスタッフを揃え、様々な機会に入替えを行なっている。マンチェスター・ユナイテッドを見てみればいい。ヴェンゲルは一度もそれをせずに来ていて、他のクラブは進化する中、アーセナルはそのまま、もしくは退化してしまった。何故より質の高い人材で周りを固めようとしないのか?パトリック・ヴィエラはマンチェスター・シティで何をブラブラしてるんだ?」
加えて、フィンは2007年に当時社長のデイビッド・ディーン -今でもヴェンゲルの友人だ- が退団したことが、移籍市場で他クラブに遅れをとることになった原因だ、と責めている。これは、トッテナムの会長であるダニエル・リヴィが2008年にハリー・レドナップを監督に任命して以来、スパーズがアーセナルを上回ることになった数多くの分野のひとつだ。
プティは「スパーズと言えば、10年以上に渡って野心の無いクラブの代名詞だった。しかしこの2年で多くの良い選手たちを獲得してチームに特長がもたらされ、アーセナルよりも遥かに競争力を持つチームになった」と語る。
「突然やり方が変わって、多くの金を投資するようになった。高いサラリー、経験ある代表選手たちの加入、強烈なキャラクター - 元々いたギャレス・ベイルやアーロン・レノン、ジャメイン・デフォーらに、ラファエル・ファン・デル・ファールト、エマニュエル・アデバヨルといった面々が加わった」
「今やクオリティはピカイチ、そこにメンタリティも備わってきた。アーセナルが、特にホームで彼らにどう対抗するのか興味深いね。先週起きたことを考えれば、これは重大な試練だよ」
ディクソンも続ける。「ノース・ロンドン・ダービーを控えれば、ファンだって色々な記事を目にするだろう。しかし、選手たちはそんなことは関係ない。試合当日に起きることが全てだからだ」
「より目を引くのは最近の結果であり、その意味でアーセナルは見劣りする。そのこと自体、非常に士気に影響するが、俺が現役の頃は悪い結果が続けば、次の試合は強敵とやりたいと思ったものさ。その方が、自分たちに失望し続けるより次の試合に集中できるからね」
「その意味で、これだけ多くのものが懸かった、シーズンのこのタイミングでのノース・ロンドン・ダービー以上のものは無いだろう。腕まくりをして、気合いを入れて臨むべきなんだ」
ASTは、チャンピオンズリーグ出場を逃せば4,500万ポンドを失うと見立てており、それがペイトンが「単なるノース・ロンドン・ダービー以上の意味」を感じている理由だ。勝つことができればフレッシュな希望がもたらされるが、アーセナルもヴェンゲルも、敗戦を考えることができる状況ではないだろう。
フィンもこのように語っている。「負ければボディーブローの3連発目だ。それでノックアウトだろうな」
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スパーズを応援する身としては、ダービー前はスパーズ側で書いた記事で盛り上がりたいところだけど、今回はちょうど良いのも見つからず、逆にアーセナル側でしっかり書かれたものがあったのでコレにした。前回もベルカンプのインタビューだったから、ちとアーセナルが続いちゃったな。ま、あとはこのクリップで気分を上げておきたいところ。