Saturday, January 26, 2013

リーズ帰還を果たすアーロン・レノンとその才能

今週末はプレミアリーグがお休みで、代わりにFAカップの4回戦が土曜と日曜に分けて開催されるが、このFAカップで久々に古巣に姿を見せる男がいる。アーロン・レノンは、7年半前に当時18歳でリーズからスパーズ入りしたが、この4回戦でリーズとの対戦が決まり、移籍以来初めてエランド・ロードでの試合に臨むことになった。

今回紹介するのは、かつてリーズの育成部門の指導者として、その若き日のレノンを指導したグレッグ・アボットなど、彼に関わってきた数名のコメントを織り交ぜつつ、彼がいかに才能あふれる選手であるかを紹介する、ロンドンの無料夕刊紙「イーブニング・スタンダード」紙の記事。

++(以下、要訳)++

移籍マーケットでこんな話があったらどうだろうか。やがてイングランドで最高のウィンガーの1人になり、26歳前にクラブで300試合以上に出場、2度のワールドカップにも出場することになる選手を、僅かに50万ポンドで獲得する。

そんな話が真実とは信じられないだろうが、日曜のエランド・ロードでのFAカップ4回戦の場にいる者には、それが分かるだろう。リーズを去って7年半、アーロン・レノンはトッテナムに50万ポンドで移籍して以来初めて地元のチームとの対戦に臨む。契約切れであったにも関わらず金銭の支払いが発生したのは、彼が当時18歳だったからだ。

レノンはハリー・レドナップがフル・シーズンを最初に率いた2009年にも素晴らしいシーズンを送ったが、ホワイト・ハート・レーンでの8年目を迎える今季はもっとも印象に残るものになりつつある。

危険な香りを発散し、機敏で破壊力あるそのプレーは、彼が25歳にして今までで最も才能に自信を持っているようにさえ見える。3ゴールと彼が作り上げた多くのチャンスは物語の一部でしかない。守備面での働きと戦術理解は称賛に値する。

複数の関係者も監督のアンドレ・ヴィラス・ボアスとの良好な関係を強調している。レノンはヴィラス・ボアスの明快な指示、実直さ、そして常に会話にオープンな姿勢を称賛しているようだ。同様にレノン本人も「自分の殻を破って」、ドレッシングルームでも、トッテナムでの在籍最澄選手として、より大きな責任を果たすようになっているようだ。彼は5か月前に、クラブとの新たな4年契約にサインしている。

それは今まで常にそうだったわけではない。リーズでユース世代の指導にあたっていたグレッグ・アボットは、2001年にU-14の試合でレノンの才能に気が付くのには「3秒で十分だった」が、ロンドンへの移籍は壁が高いうえに時期尚早なのではないかと感じていた。

現在リーグ・ワンのカーライルを率いるアボットは、スタンダード・スポーツの取材に対して、このように語っている。

「ロンドンに彼を送り込むのは恐らく1年早かった。マンチェスター・ユナイテッドやリバプールも彼を欲しがっていて、その方がリーズの家族の下にも近かったしね。家族を愛するアーロンだけに、ロンドンでの暮らしはタフに感じただろうが、彼は乗り切ったね。リーズでは、彼や彼の家族に問題があれば、私はいつでもそばにいると約束していたよ」

「試合の時には私は彼を家まで迎えに行って、他クラブからの関心にとらわれないように気を付けていたんだ。彼とリーズでのプロ契約にこぎつけて、彼はそこから43試合プレーして移籍した。去年9月にカーリングカップで対戦(訳注:カーライルがスパーズと対戦)した時に、試合前に話をしたけど、今でもしっかり地に足がついていたよ。彼は自分の成功やライフスタイルについて話すのではなく、家族やリーズでの日々について話してくれた。ユニフォームにサインを入れて僕にくれたけど、誇らしい宝物だね」

今季が始まるまでは、レノンは好不調の波が大きかった。今でもそうなのだが、彼の数少ない安定した傾向と言えば、メディアに自分のプレーを語ることを躊躇いがちなことだった。彼を知らないものには、寡黙で不愛想でさえあると見えるだろう。彼をよく知るものでも、レノンはシャイであり、控えめな性格で知られるマンチェスター・ユナイテッドのポール・スコールズのように、注目の的になることに前向きではないのだ。

それでも、レノンのプレーは、周囲から際立ったものであることを証明している。パスと苦手だった左足の向上を見たアボットは、レノンがやがては中央の攻撃的な選手として活躍できると確信している。

レノンをスパーズに連れてきたフランク・アルネセンは、彼との契約を完了させる前にチェルシーへと旅立っていったが、それでも彼の獲得を決めたことを誇りに思っている。現在はハンブルクのスポーツ・ディレクターを務めるアルネセンは、「アーロンの獲得には50万ポンドしかかからなかったし、彼とトム・ハドルストンで当初のコストはたったの110万ポンドだった」と語る。「そんな値段で彼を獲れるなら即決だ。2006年の1月にアーセナルはセオ・ウォルコットを1,200万ポンドで獲得していたが、我々はアーロンを遥かに安い金額で得ていたんだ。リーズ時代にワトフォード相手にプレーする彼を見た時にはベストの調子ではなかったが、スピード、ドリブル、クロスにその素質は十分に見て取れたよ

「私はPSVアイントホーフェンにいた頃には、ロナウド、アリエン・ロッベン、ヤープ・スタム、ルート・ファン・ニステルローイの契約にも関わったが、その中でもアーロンがベストだ。特にかけた費用と得チームにもたらしたものを考えればね」

アルネセンは首都ロンドンでの生活に適応する上でレノンが直面するであろう課題を認識していたが、週末に自身が育ったリーズへの帰還を控えるレノンの次なる挑戦は、彼の才能のすべてを発揮することだ。

ハリー・レドナップ時代のトッテナムでアシスタントを務めていたジョー・ジョーダンも、「未だに本人は、自分のスピードとプレーの質が相手にもたらしている脅威を認識していないと思っている」と語る。

それが実現する時には、レノンは相手にとって大きな脅威となっていて、50万ポンド -最終的に100万ポンドに上がったが- は、スパーズがこれまでに投資した金額の中でも最高の使い道であったように見える。

【レノンについてのコメント】※カッコ内はレノンとの接点


グレッグ・アボット(元リーズ・アカデミー監督)「彼はいつもサイドで選手をかわしていくけど、4-2-3-1のセンターフォワードの後ろで中央でもプレーできると思う。彼が思われているよりも、視野は広いんだよ」

ジョー・ジョーダン(元スパーズ・アシスタント)「彼は今でも成長しているよ。人々は彼がまだ25歳であることを忘れがちだ。ウィンガーだと試合に関わっていくのは難しいことが多いが、様々な方法を見出しているよ」

アンドレ・ヴィラス・ボアス(現スパーズ監督)「凄い選手だよ。陽の当たらないこともあるが、自分のパフォーマンスのレベルがもう一段上げられることも理解している」



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ということで、チームの色があるものとしては自分の好きなスパーズのものが続いてしまったけど、こういうトーンの記事を追ってしまうもんで、また選んでしまった。FAカップの試合もどんどん中継してくれると良いんだけどなー。

Saturday, January 12, 2013

アウェー・チケットにもファイナンシャル・フェア・プレーを

プレミアリーグのチケット代に関する考察は、以前「プレミアリーグの高額チケットが追いやるもの」で紹介した。おとといあたりから話題になっているのは、日曜にエミレーツで行われる試合のアウェー・チケットが売れず、シティが割り当て分の余りをアーセナルに突っ返した、という件。アーセナルのファンもチケット代高騰に反発して行進をするなどしており、メディアはこぞって高騰するチケット代についての問題を記事にしている。ここで選んだのは、「ガーディアン」紙のポール・ウィルソン氏のコラム。(※最近の為替のレートは、1ポンド140円前後)


++(以下、要訳)++

既に、日曜のアーセナル戦でアウェー用に割り当てられたチケットのうち900枚を、62ポンドという料金が高すぎると考えたマンチェスター・シティがアーセナルに返した、という話はご存じだろう。この件は、イングランドでのチケット代の狂ったような高騰が分水嶺もしくは転換点になっておかしくない、と思わせるには十分だった。

同様に2,000人弱のシティのファンが喜んで -いや、おそらく喜んでではないだろうが。いずれにしても彼らはチケットを買った- 62ポンドのチケット代を払い、シティのファンが買わなかった分はアーセナルのファンが喜んで買うだろうから、アーセナルは困ることもないだろう。62ポンドというのは、エミレーツでのカテゴリーAの試合のチケット料金だ。特にビッグクラブ同士の対戦の場合には、ホームのクラブはアウェー側で不要となったチケットについては簡単に買い手を見つけることができてしまう。ということは、これはチケット代高騰に対する抵抗の流れなのか、それともアウェーのサポーターにはより少ない枚数のチケットを割り当てる、という流れの始まりなのだろうか?

ひとつ確かなのは、クラブはチケットを得ることしか考えていない、ということだ。彼らは、スチュワードに追加コストがかかることやサポーター同士を隔離する必要があることことから、実際のところ誰がチケットを買おうがさほど気にしてはいないし、アウェーのファンの数を可能な限り少なくするためにアウェー席のチケット代を高く留めておこうとしても、それはさほど大きな驚きではない。そうしてるクラブは既にある、と主張する者もいるだろう。交通費をはじめとするその他の必要コストも値上がりする中、アウェーのサポーターが支払わねばならない追加料金がアンフェアな重荷となるのは当然だ。

例えばニューカッスルがアウェー席をどこに割り当てるかを見てみれば、数多くのホームのファンを抱える彼らが、アウェーに駆け付ける相手クラブのファンを居心地悪くしようとしている、と思うのはたやすいことだ。逆にウィガンのようなクラブは、入場料を払ってくれる全員に感謝し、アウェーのファンであろうが、喜んでゴール裏全体を開放している。

ここで言いたいことは、アウェーのファンがしばしば酷い仕打ちを受けるということではなく、各クラブは彼らを好きなように扱えるということだ。存在しているべき規定は無いのだろう。アーセナルの求める62ポンドという料金の支払いの拒否についてコメントしたマンチェスター・シティの広報の1人は、「多くのファンは支払うこともできたが、ロンドンのクラブがおちょくってきていると感じて、多額の金を払うことを拒否したのだろう」と語った。文句は無い。アーセナルのファンは、エミレーツでのチケット代がシーズン平均で言えば37ポンド程度だ、と指摘するだろうが、彼らにしたってカテゴリーAに区分される強敵との試合では60ポンドを支払うのだから。


ロンドンの上位クラブたちのチケット代の高さは悪評高いが、これはマンチェスター・シティのようなクラブに選手が流出しないように巨額のサラリーを支払わざるを得なくなった結果として、年俸総額が非常に高くなっているからであり、最も必死になっているのがアーセナルだ。シティはロビーニョやアデバヨルにバカげた金の使い方をしてサラリーのインフレを生む前に、キチンと自分たちのファンベースを認識していなかった。したがって、高いチケット代への責をシティのサポーターに浴びせるのは誤りなのだろうが、昨季タイトルを獲ったことで、自分たちは区分上の最高レベル、カテゴリーAであり、それに合わせた料金設定となってしまうのだ。

一般的に言えば、大部分のアーセナル・ファンが日曜日の試合に60ポンド程度を払っているのであれば、シティが異論を唱える余地はなくなる。彼らとて、身も凍る北部からやってきた恵まれない従兄弟たち、というわけではないのだ。より興味深い質問は、試合を観るためにこれだけ高い金額を支払っているアーセナルのファンたちはどう感じているのか、ということだ。リーグで最も高価なスタジアムから値段に見合う価値を得ているとは思っていないというのは明らかな中、TV放映権からの追加収入は来季からクラブの更なる収入源になる。アーセナルのファンは、スタジアムに通うサポーターに正当なチケット料金を設定して欲しい、と各クラブに嘆願する活動では先頭に立っている。

彼らの主張はこうだ。プレミアリーグのクラブはすべての席を20ポンド(高くない席であれば3分の1)を値下げしても、追加のテレビ放映権収入で利益を生めるはずだ。そうすることで、観客たちもスタジアムに帰ってきて、皆にメリットがある。そして、ヒルスボロの悲劇の後の報告書でテイラー判事が「全席指定のスタジアムであっても観客にそのコスト増を転嫁する必要はない」とした精神を引き継ぐことができる、というものだ。もちろん、そんなことは起こりやしない。各クラブは追加の収入があるのであれば、それは将来を考えてサポートの継続のためにいくらか投資をするよりも、選手や代理人に資金をつぎ込んでいくのだ。

少し脱線する。アウェー・チケットの料金は、アーセナルが62ポンドに設定し始める前から議論の中心だった。今シーズンはまだ半分が経過したところではあるが、私は不道徳なチケット代に不満を持つアウェーのファンの声を数え切れなくなっている。「ウチはあいつらを20ポンドで入れてやったのに、ウチには35ポンドも払わせやがる」、「自分たちのチケットを値上げしないで、俺たちの分だけあげやがった」といった具合だ。高過ぎると言ってシティがアーセナルに返した900枚のチケットは、自分たちでさばけてしまうのであればアーセナルには問題にならないだろう。証明されてしまってるようなものだが、需要と供給の関係は狂った形で成り立っていて、その意味でチケット代は高過ぎないのだ。62ポンドで900枚ということは5万6000ポンドくらいの収入にあたる。アーセナルやシティにとってははした金だろうが、大半のフットボールクラブには5万6000ポンドと言えば多くの使い道がある。全部で7,500ポンドの移籍金でできているブラッドフォード・シティ(現在4部ながら、リーグカップでアーセナルやアストン・ヴィラを破って話題になっている)がその7倍の金額を手にしたら、どれだけ良いチームになるだろうか?


トップクラブは、アウェーのファンが貢献する利益に無関心なだけでなく、彼らが試合当日にもたらす雰囲気も軽んじているようだ。両チームのサポーターがいないのであれば適切なフットボールの試合とは言えないし、飾りだけのようになりつつあるプレミアリーグでのアウェーのファンの存在感は、より多くの人数が駆け付けてより良い雰囲気を醸し出すカップ戦のそれとは比べるべくもなくなった。

ウェストハムは、オールド・トラフォードでのFAカップ再試合の彼らの割り当て分を既に完売した。1枚45ポンドだ。これは反対方向に旅をすることになるシティがチケット代を払いたがらないことと矛盾するようにも思えるだろうが、アイアンズ(訳注「ハマーズ」と同様のウェストハムの愛称)のファンは、歴史的な「俺はあそこにいた」という瞬間の可能性を逃したくないのだ。おそらく将来にわたって自慢できることであり、そのために自分たちは喜んで努力をするのだ。

これこそ現在のプレミアリーグが欠いてしまっているアウェー・サポーターの質だ。いまや観客はすっかり大人しくなり、彼らは呆れるような扱いで高い料金を課されている。フットボールにおいてユニークな存在であり続けてきた存在を守るという意味では、アウェーのファン向けの「ファイナンシャル・フェア・プレー」を導入すべきなのではないだろうか。プレミアリーグの試合のアウェーチケットは、ホームのファン向けの最安のチケットよりも高くなるべきではない。いつも同じであるべきなのだ。一番観にくい場所ではあるだろうが、アウェーのファンは最も安い席を割り当てられれば良い。しかし、今はそこにいるために、必要以上の金を支払わされているのだ。アウェーのファンは必要だし、価値があり、最近は暴れることもない。プレミアリーグには彼らをもっと尊重する財力があるはずだ。

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雰囲気を作り出す、という意味でのアウェー・サポーターのことにはいろいろと思うことがある。ホワイト・ハート・レーン通いしていた時には、相手がニューカッスル(ボロ負けしててもずっと歌ってる)とフラム(そもそも来ない)じゃ全然違ったし、チャンピオンズリーグでブレーメンのファンが来た時は、そりゃいつもと違う雰囲気だった。

お前らの応援なんて大したことないな、と少人数のアウェーのファンとしてホーム側に言える時なんて気分が良いものだし、そう言われるホームのファンが一層盛り上げる、なんてこともあって、イングランドの「あの」雰囲気は作られてもいる。それができにくいレベルにまでチケット代が上がってきているのも事実なんだろうけど。62ポンドって、今のレートで8,500円超えだし。

オマケ。いずれもホワイト・ハート・レーンでのスパーズvsアーセナル。



最初のはアーセナル・ファンが「(お前らの声が聞こえないから)代わりに歌ってやろうか?」ってチャントで、次はスパーズ・ファンが「お前らのサポートはクソだな」とふっかけているもの。前者は2010年のカーリングカップの試合で、アーセナルのファンがゴール裏まで来てるけど、プレミアの試合の時にはこんなに割り当ては無くて、後者のように角に追いやられてる。

どのチーム同士の試合でも、こんなやり合いは常にあって、楽しい雰囲気作りにも一役買ってるんだよね。

Wednesday, January 9, 2013

ムサ・デンベレはいかにルカ・モドリッチの穴を埋めたのか

「FourFourTwo」は、ほんの一時期日本語版も出ていたイギリスのフットボール雑誌。そのウェブ版に、データに特化したコラムが掲載される『Stats Zone』なるコーナーがあるのだけど、そこによく寄稿しているのがフリーライターのマイケル・コックス氏。先日は「ガーディアン」紙に書いていたマンチェスター・ダービーのプレビューを紹介したが、彼がここでピックアップしたのは、トッテナムのムサ・デンベレ。

彼がいかにしてルカ・モドリッチの穴を埋めているのか、というのを、Optaのデータを活用してこの「FourFourTwo」誌がiTunesで提供するアプリ、「Stats Zone」を使って解説している。


++(以下、要訳)++

年末の「デイリー・メール」の素晴らしいインタビューでは、ムサ・デンベレはトッテナム加入後に彼がすんなりと役割を引き継いでみせたルカ・モドリッチとの比較を避けていた。「自分がルカの後を継いでいると考えたことは無いよ。自分では全然違う選手だと思っている。彼のプレーには凄く感銘を受けたけど、彼のスタイルはまた違うよね」

ある意味、デンベレはモドリッチの直接的な代役ではない。アンドレ・ヴィラス・ボアスがハリー・レドナップからチームを引き継いでいる、ということはトッテナムのプレースタイルが大きく変わっていることを意味していて、中盤の構成も違ってきているのだ。

レドナップの下で、スパーズは若干古いイングランドのスタイルを取り入れ、中盤はワイドに開いてスピード溢れる攻撃を見せるウィングたちにボールを散らすことが役割だった。少なくとも就任直後の早い段階では、ヴィラス・ボアスは中盤の3人がコンスタントに入れ替わることによる、選手たちのタテ方向への展開を求めていた。

たまたま最近のスパーズは、ハリー・レドナップがトッテナム時代に好んでいた形に近い4-4-2のシステムに戻してきている。中盤の三角形の頂点で使われるクリント・デンプシーやギルフィ・シグルズソンの調子の波が、ヴィラス・ボアスにジャメイン・デフォーとエマニュエル・アデバヨル -結果的に2-5で敗れたアーセナル戦での退場はあったにせよ- との2トップへとスタイルを変えさせた。

それがデンベレの役割も若干変えることになった。ヴィラス・ボラス就任からから間もない頃、特にリーグ初勝利となったアウェーのレディング戦では、デンベレは中盤のローテーションの触媒となっていた。サンドロよりも低い位置まで引くこともあれば、シグルズソンを追い越しもした。現在は、彼の横にサンドロがいるだけで、トッテナムの中盤はより固定された形になっている。サンドロが後ろに残って相手を止め、デンベレが前に攻撃に出る、という形だ。その意味で、現在のデンベレの役割はモドリッチのそれに近くなっている。フィジカル面では全く異なるが、少なくともピッチ上の役割で言えば、彼らは同様だ。

それでももちろんひとつの重要な例外がある。デンベレは依然として非常にダイレクトな選手で、突然ペースを上げてピッチ中央をドリブルし、相手をスピードで置き去りにすることもできる。モドリッチも相手に勝つことはできるだろうが、デンベレほどの頻度ではない。


それにしてもデンベレのパス能力は素晴らしい。元々ウィングやフォワードとしてプレーし、ボールを一人で前に運ぶことに慣れている選手であることから、パスは気まぐれなものになると思うだろう。しかし、彼はプレーをワイドに広げようというときには、極めて信頼性の高い選手である、ということが、最近の2つの試合でのデータからも分かる。



デンベレのパス展開はモドリッチを思い起こさせるものだ。今季と昨季の同じ、ホームでのストーク戦でデンベレとモドリッチを比較してみよう。デンベレが考えているよりも、多くの共通点が見いだせる。中央左に位置し、パスは大抵横向きだ。


明確な違いはその正確性だ。モドリッチは常に信頼の置けるパサーだと考えられているが、昨季のパス成功率は87.4%だった。今季のデンベレは、91.2%だ。

モドリッチはより野心的なパスを出すことを狙っていて、1試合平均で2.7回の決定機をチームメイトにもたらしていたが、デンベレはそれが2.0回となり、これがモドリッチのパスに失敗が多いことの理由になるだろう。そしてもう一点驚きなのは、デンベレが1試合平均で1.1本しかシュートを打たないというのは、彼が務めてきたポジションの変遷から言っても驚きに値する。モドリッチは平均2.3本だ。デンベレ本人が先に紹介した記事でも説明しているように、彼は幼少時にストリート・サッカーに没頭していた。そこではシュートによるゴールは無く、ドリブルで相手をかわし、街頭にボールを当てることが目的だった。シュートを打つことをためらい、タイトなエリアでもディフェンダーにチャレンジしていく、という彼の好みも理解できるだろう。

それでも、スパーズがモドリッチのレベルと同等のパス能力を持つ選手を何とか後継者として迎え入れることができた、という事実は印象的だ。デンベレは依然選手として成長できるし、ファイナル・サードでの貢献度を高めることができるだろう。それでも純粋に中盤エリアに限って言えば、スパーズはモドリッチの移籍による質の低下には困っていないのだ。

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個人的には、デンベレとサンドロにパーカーが加わった3枚の中盤、って形で機能したら凄いだろうな、と考えてるから2枚でも3枚でもフレキシブルに使えるようになってて欲しいけど、デンベレの適応は早かったね。ちょっと猫背でボール持って上がって、あのネットリしたドリブルしてくれると心躍るし。モドリッチの「いちいち正しい」プレーの選択にもいつも唸らされてたけど、デンベレにも趣があって、見ていて飽きない。