Thursday, May 31, 2012

プレミアリーグのタイトルはいかにしてブルーになったか

少し時間が経ってしまったものの、劇的だった最終節の展開は未だに記憶に新しいマンチェスター・シティのプレミア優勝。アメリカの経済紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」には、イギリスの「タイムズ」紙のガブリエレ・マルコッティ記者がコラムを寄稿していて、いつも描写が秀逸で気に入っている。


++(以下、要訳)++

目の前で人が年老いて行くのを見るというのはなかなか無いことだ。しかし、プレミアリーグ最終節となったこの日曜日、マンチェスター・シティの監督であるロベルト・マンチーニはまさにその様相だった。彼は整然と分けられた髪にトレードマークのカシミアのスカーフをキッチリと巻いてピッチに姿を見せたが、ピッチを去る時には過激になり、髪は乱れ、スカーフはイングランドでも最も記憶に残るフィナーレのひとつの祝福の中で消え去ってしまった。

ロスタイム遅く、126秒の間の2つのドラマティックなゴールが、シティ44年間で初のリーグタイトルをもたらした。マンチェスターの青き半分が、赤き宿敵と同じ勝ち点ながら得失点差でかわし切った。この2チームということだけでなく、戦後ではタイトルが得失点差で決まったというのは僅かに3度目だった。

マンチーニは「今や90歳の気分だよ」 と疲弊しつつも高揚した様子で語った。「信じられない。・・・ただ何と言ったらいいか分からない。だが、いや、正直に言えば、終了5分前にはもう勝てないと思っていた」


その理由を探るのは難しくはない。試合は90分を回り、4thオフィシャルがロスタイムは5分だと示した時、シティはホームでクイーンズ・パーク・レンジャーズに1-2とリードを許していた。その一方で、マンチェスター・ユナイテッドはサンダーランドで1-0とリードしていた。シティがユナイテッドと勝ち点で並んで得失点差でタイトルをモノにするには、残り5分で2度ネットを揺らす必要があった。

普通に考えればこの任務は難しい - 極めて難しい - が、不可能ではない。結局、QPRはアウェー6連敗で、ホームを離れれば11月から勝っていなかった。加えて、彼らは10人だった。しかし、シティの最も悲観的なファンには、運命が最も残酷な方法で彼らを弄んでいるのだと感じられただろう。

まず、この日は極度の緊張があった。マンチェスター・ユナイテッドがサンダーランドで早い時間にリードを奪い、それはシティが勝たねばならないことを意味した。そして残留に向けて1ポイントを確保したいQPRは、シティの波状攻撃を前にペナルティボックスを固めてきた。しかし、39分、パブロ・サバレタがこの堅牢をこじ開けた。シティのファンはポズナンでのゴールの祝福を始め、人生順風満帆と言ったところだった。シティ89ポイント、ユナイテッド89ポイントだった。

しかし、後半早々にジブリル・シセがヘディングでのクリアボールを拾ってQPRに同点ゴールをもたらすと、シティのファンは衝撃を受けた。ユナイテッド89ポイント、シティ87ポイント。神経が逆撫でされる中、幸運の女神は新たな生命線を投げ入れた。55分、QPRのキャプテン、ジョーイ・バートンがシティのカルロス・テヴェスと衝突し、頭に肘鉄を食らわせた。レッドカードは避けられず、彼は退場を宣告された後もひとり暴れて悪行を重ねた。セルヒオ・アグエロには背中に膝蹴りを見舞い、シティのキャプテンには頭突きを試みた。元シティのバートンは、警察にエスコートされながらトンネルへと向かわされた。

それでも、10人が相手の場合、相手が攻撃を諦めてゴール前にバリケードを築くことから、11人を相手にするよりもタフになりがちだ。 この時点でのシティのようにナーバスになって自己疑念に苛まれている場合、状況は一層困難になる。そして66分、プレッシャーはさらに重みを増した。交代出場のQPRのアルマン・トラオレがサイドを駆け上がってピンポイントのクロスを送ると、ジェイミー・マッキーがヘディングでジョー・ハートを破り、アウェーチームにほぼあり得なかったリードがもたらされた。ユナイテッド89ポイント、シティ86ポイント。

時計の針が進むごとに緊張の病はスタジアム中で進行し、運命は不条理なほどの残酷さに到達した。

ロスタイムも2分経過した所で、エディン・ジェコのパワフルなヘディングがパディ・ケニーを破ってQPRゴールに突き刺さった。ユナイテッド89ポイント、シティ87ポイント。ほぼ同時に、サンダーランドではレフェリーが試合終了の笛を吹き、ユナイテッドは勝利した。シティがタイトルを獲りに行くには、自力で実現するしかなくなった。

何人かは、一層状況を悲惨に感じていただろう。ジェコのゴールは、幻の希望をもたらした。シティに限らず、ロスタイムに2得点するチームなど勿論無いのだ。

しかし、それは昔の話で、今は違った。

アグエロがやがてエリア内に入ったこぼれ球を拾うと、相手を避けつつ進んで行き、そのままコーナーフラッグまで行く前に、ケニーの横を抜いてQPRゴールにねじ込んだ。これで3対2。シティ89ポイント、ユナイテッド89ポイント。プレミアリーグは赤から青へと移って行った。

隣町のライバルの脇役を数十年演じ、「騒がしい隣人("noizy neighbors")」 のレッテルをユナイテッドの監督、アレックス・ファーガソンに貼られ、順位表で十分なリードをとったにも関わらず全て吐き出し、この大団円をお膳立てするところまで来ても、95分間の心理的な苦痛を味わった。しかし、その報酬は最高のものだった:プレミアリーグ王者だ。

そして、それは前回よりもスウィートな記憶になるだろう。前回王者となった1968年に遡ると、ユナイテッドとの接戦の末にタイトルを勝ち取った数週間後には、シティはユナイテッドの陰に隠れていた。ユナイテッドが、イングランドのクラブとして初めてのヨーロッパのチャンピオンズ・カップを手にしたのだ。今年はそれが起こる可能性はもう無い。シティは少なくともあと1年はマンチェスターで自慢して回る権利をエンジョイすることができるのだ。



++++

自分はこの時間はスパーズの最終節を観ていたのだけど、その試合の中継が終わった後にシティの試合に移ってみると、ジェコが同点ゴールを決めるところ。まさか、とは思ったけど、その後は本当に凄いものを見たな、と思った。マンチーニも数週間の間、一生懸命神経戦を仕掛けてたけど、この1試合だけでその何倍も気持ちがすり減ったに違いない。

去年は残留争いで最終節にかなりのドラマがあったけど、優勝がこんな形で決まるとはね。

オマケ。
スカイは、ニュースチャンネルでは試合の映像は流さない(追加料金のかかるチャンネルに誘導するため)けど、実況だけはしている。1-2から3-2に至るまでのポール・マーソン(元アーセナル)の興奮ぶりが話題になっていたので、その様子を。

Saturday, May 12, 2012

最終節を迎えるプレミアリーグ、10の見所

いよいよ最終節を迎えるプレミアリーグ。
今季は、優勝クラブもチャンピオンズリーグ出場クラブも降格クラブもまだ確定し切っていない状態で最終節を迎えていて、全試合同時刻キックオフとなるこの日は様々なドラマが垣間見えそう。

メディアにも見所を紹介する記事が数多く出ていたので、今回は「ガーディアン」紙のものを選択。
(※写真は1995年、最終節のアンフィールドで優勝を決めた、当時ブラックバーンのアラン・シアラー)



++(以下、要訳)++

プレミアリーグ最終節となる日曜日、10試合が行われ、10の話題がある。タイトル、得点王、別れ…。多くのことが起きる日曜日となりそうだ。


1. タイトル争い

日曜に大半の注目を集めるのは、スタジアム・オブ・ライトとエティハド・スタジアムでの出来事であることは間違いない。マンチェスター・シティがQPRに勝てば1968年以来初のリーグ優勝だが、たとえどんな小さな躓きでも、それはユナイテッドに土壇場で隣人を逆転させてしまうかもしれない。ユナイテッドは、期待よりもむしろ希望を抱いてサンダーランドへ遠征するだろう。


2. 3位争い

確実に来季のチャンピオンズリーグに出場できる3位の座へのポールポジションはアーセナルだ。ウェスト・ブロミッジ・アルビオンに勝てば、3位は彼らのものだ。フラムとホームで対戦するトッテナム・ホットスパーとエヴァートンとアウェーで対戦するニューカッスル・ユナイテッドは必ず勝つ必要があり(※得失点差如何では、アーセナル敗戦、スパーズ引き分けでもスパーズが3位の可能性はある)、その上でアーセナルがホーソンズで誤射することを祈らなければならない。現在のところ、3チームとも3位、4位、5位全ての可能性があり、4位でもチェルシーが今季のチャンピオンズリーグで優勝しなければ、来季の出場権は得られる。


3. マージーサイドの盟主

エヴァートンは、2004-05シーズン以来スタンリー・パークの向こうにいる隣人より 上の順位でシーズンを終えていないが、今季は最終節でリバプールと同じ、もしくはそれ以上の結果が出せれば実現できる。デイビッド・モイーズのチームは、チャンピオンズリーグ圏内入りを狙うニューカッスルを迎え、レッズは困難なスウォンジー・シティへの旅となる。


4. 残留を巡る戦い

あと1つとなった降格枠を埋めるのは、ボルトン・ワンダラーズかQPR(数字の上ではアストン・ヴィラがノリッジ・シティに大惨敗を喫すれば可能性はある)。ワンダラーズにとっての任務はシンプルだ。ストーク・シティ相手に勝たねばならない。レンジャーズはマンチェスター・シティの祝宴を台無しにしたいところだが、現実的にはポッターズの助けに依存するだろう。


5. 昇格組の最高位

昇格3クラブのうち、2クラブにとっては素晴らしいシーズンになった。昨シーズンチャンピオンシップで良い結果を残したスウォンジーとノリッジはともに44ポイントを獲得して中位で肩を並べ、残留争いとは無縁の状態だ。スワンズが得失点差で上回っているため、リバプールに勝てば新入り組トップの座を確実なものにできるだろう。


6. 別れ その1

イングランド代表監督に就任することになり、クラブでの最後の試合を率いるロイ・ホジソンは、アルビオンを良い思い出と共に去る。彼のウェスト・ミッドランドでの在任期間は紛れもない成功であり、後任には難しいレベルのスタンダードにクラブを押し上げた。


7. 別れ その2

日曜日には他にも多くのカーテンが下りるのを目にすることになるだろう。ディディエ・ドログバは、ブラックバーン戦で最後のチェルシーのユニフォーム姿となる可能性があり、ロベルト・ディ・マテオがリーグ戦の指揮でベンチにいる姿も最後かもしれない。まったく愛されなかったローヴァーズのスティーブ・キーンもお別れの可能性がある。


8. 果たしてコナーは勝てるのか

ミック・マッカーシーからチームを引き継いで以来、テリー・コナーはウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズの監督として惨めな時期を送ってきた。12試合で8敗4分け、勝利無し、1降格。コナーには多くの友人がいるだろうが、残留安泰となったウィガン相手に3ポイントを得たとしても、彼を妬むような者は誰もいないだろう。


9. ゴールデンブーツ

ウェイン・ルーニーがサンダーランド相手に4ゴールを決めない限りロビン・ファン・ペルシのリーグ得点王は確実だが、このアーセナルのストライカーはウェストブロムで歴史を作ることができる。ここまでの得点数は30、試合数が38となってからのプレミアリーグの記録を持つのは、31得点で並ぶクリスティアーノ・ロナウド(2007-08)とアラン・シアラー(1995-96)の2人だ。


10. プレミアリーグのゴール数


最終節に臨む20チーム全てが、最後の1つの記録に貢献することができる。この10試合で30ゴール以上が生まれれば、最も得点が生まれたシーズンとなる。昨シーズン更新された記録は1,063で、今季ここまでの総得点数は1,034。


++++

昨シーズンの最終節はスパーズ対バーミンガムを観ていて、残留が懸かってたバーミンガムは必死だった。実際ゴールも決められたけど、試合中も分単位で順位が変わって、ウォルヴズのドローでワリを食った状態になってたのが彼らだった。最後はパヴリュチェンコが決めて、降格は確定な感じになったけど、やっぱ切ないわな、降格は。

今季はスパーズも3位入りの可能性があって、それが実現できればアーセナルよりも上に行けるし、他所の試合も何となく気になりながら、スパーズの勝ちを祈るんだろうな、と。