Friday, April 5, 2013

ブレンダン・ロジャースはリバプールを改善したのか?

昨年の6月に「ブレンダン・ロジャース、リバプールでの挑戦に準備万端 」というBBCの記事を紹介した。リバプール監督就任を目前に控え、彼の指導者としてバックグラウンドや特長を描いた興味深いものだったが、それを発揮して、チームをどこまで導いてきたのだろうか。シーズンも終盤に差し掛かり、当初躓きも多かったチームは次第に質の高いプレーも時折見せるようになってきた。その6月の記事を書いたベン・スミス記者が、ここまでを振り返る特集記事を良いタイミングで書いていたのでピックアップ。


++(以下、要訳)++

プレシーズンの時点で、ブレンダン・ロジャースはオーナーのジョン・W・ヘンリーに180ページに及ぶマニフェストを手渡していた。その文書は、「魅力的な攻撃フットボール」をプレーするための意欲が事細かく記され、この40歳の監督が抱くリバプールのビジョンが描かれていた。

彼のフットボールのイデオロギー、トロフィーを勝ち取るための詳細なコミットメント、そしてクラブが正しい方向に進んでいくために、スタートとなる新シーズンから「可能な限り多くの若手選手を引き上げる」意欲について説明していた。

8か月が経ったが、リバプールの謎は今も街を覆っている。絶好調だったトッテナムに競り勝ったかと思えば、次にはサウサンプトンに敗れているのだ。ロジャースの下でのリバプールが未だに議論になる理由は、この一貫した不安定さが全てを説明している。

彼を中傷する者は、 重圧に打ち勝つチームを作るための血統書や能力を疑っている。彼を賞賛する者は、敗戦の時でも良いプレーをしている、と良い時も悪い時も変わらないビジョンと哲学について語る。

67歳のビル・ジェイミソンは、生涯追いかけてきたクラブで今までに何度も起きてきたことだ、と語る。彼は、ボールド・ストリートにあるセント・ルーク教会の階段に座り、脇の下に「リバプール・エコー」紙を抱えつつ、紅茶を飲んでいた。「そうした希望を持つと大変なんだ。上がって行けばやがて落ちるし、下降しても上向きになる。ブレンダン・ロジャースがやってることは好きだよ。でも、今季が教えてくれたことは、それには時間がかかる、ということだ」

スウォンジー、ノリッジ、ウィガンに勝った後のスパーズとの接戦をモノにした時には、ヨーロッパの舞台に滑り込むためのラストスパートを思わせ、多くの人々にリバプールは良い方向に変わって行ってると確信させている。勝利を重ねることによって各々が発揮するパフォーマンスにも粘りが出てきて、元来持っていたポテンシャルが戻ってきた。

しかし、サウサンプトン戦の成す術も無い敗北は、その楽観を消し去ってしまった。それはクラブの不安定な進歩の典型であり、スタイリッシュであるが本質を欠き、美しいが逞しさを欠き、威勢は良くとも深くはえぐれない。

ウィリアム・ストリートにあるクラブ・ショップの外で、トニー・ウィリアムソンは、リバプールのスカーフを首に巻いた7歳の息子のスティーブンと共にいた。トニーは「今シーズンは、自分たちで難しくしてしまったようなものだ。メンタル面での脆さでバラバラだった時もあったしね。アウェーのサウサンプトン戦、ホームのヴィラ戦、FAカップでのオールダム戦、リーグカップでのスウォンジー戦・・・、ダメだった時はあるさ。それでもロジャースはウチを前進させてると思うけどね」

数字の上では興味深い点もある。監督に就任したその日に、ロジャースは早速「ゴール数」という重大な欠陥を把握していた。

それが今季のゴール数は、過去20年間ほど無かったレベルに達している。リーグ戦8試合を残して、1995-96シーズン以来最高のゴール数なのだ。プレミアリーグでのゴール数は2位、30試合で57ゴールというのは、昨季38試合の合計よりも既に多いし、マンチェスター・ユナイテッドに次ぐ2位でフィニッシュした2008-09シーズンの同時期と比べても8ゴール上だ。

このゴール数増加については、ルイス・スアレスによる貢献が大きい。決定率が9%上がり、ゴール数は12から22にまで増加している。それだけでなく、他にも13人もの選手がゴールを決めているのだ。しかも、話はこれだけで終わらない。

昨シーズン、ファイナルサードでのプレー率がリバプールより高かったのは、バルセロナくらいだった。それでもレッズは、ノリッジ・シティにも降格したブラックバーン・ローヴァーズにも敗れた。

ロジャースのリバプールは同様にボールを前に運んではいるが、その手法はより入念だ。彼のやり方がリバプールのやり方であり、その逆もまた然りなのは、ケニー・ダルグリッシュ時代と同じだ。しかし、この新監督は、最悪とも言える夏の移籍マーケットを経ながらも、徐々にチームを改善していった。

リバプールについてのブログ、「Anfield Road」を書くジム・ボードマンは、「最悪の夏のマーケットは大きなダメージだったが、それは金銭の問題だけでなく、監督に対するクラブ上層部からの信頼が欠けているという点でもだった」

8月にクリント・デンプシーの獲得失敗という誤りがあったことから、1月のリバプールでは皆がより慎重だった。8月にも獲得できたはずだったダニエル・スタルリッジを冬に移籍マーケット開始直後に獲得し、これに、長きに渡ってターゲットだったフィリップ・コウチーニョが続いた。

ボードマンはこう続ける。「冬の移籍マーケットは、ロジャースの考えを理解し、彼が喜んで使う選手を獲ることに主眼があった。それがどれだけの違いをもたらしたことか」

再びフィットしたルーカス・レイバの存在もカギだった。12月に彼がケガから復帰して以来、得点率は倍増しており、彼の存在は、例えばこの14試合で7ゴールを決めているスティーブン・ジェラードのような選手が自由にプレーするのを助けている。

それでも、この先の困難を予期して、このブラジル人は以下のように語っている。「ここまではキツいシーズンだよね。2つのカップ戦もヨーロッパリーグも敗退して、プレミアでの順位だって良いとは言えない。ウチはようやく安定感を見せ始めている時期で、終盤にかけてそれを確実なものにして来シーズンに繋げたいんだよ」

2度目のダルグリッシュ時代は志半ばに終わってしまったかもしれないが、オーナーたちは2つのカップで決勝に進出、そのうち1つで優勝しようが、リーグでの8位フィニッシュを容認はしなかった。シーズン残り8試合で、現在のリバプールは両カップ戦で敗退し、リーグの順位も昨季よりひとつ下だが、多くはそれは短絡的な見方だと考えている。

ボードマンはこの点については「現在のリーグ戦での順位を去年の最終的な順位と比べて進歩がないと断ずるのは簡単だが、それは誤った見方だ。進歩は確かにしているが、よくやったと言うにはまだまだすべきことがある。そして、ロジャースにはそれをやり切る能力があると思う」と語っている。

街には、ロジャースは自分のビジョンを植え付けるための時間を与えるべきだという感覚がある。結局のところ、これは長期計画の1年目なのだ。約束通りロジャースは若手選手を登用しているし、クラブが夏に売却しようとさえしていたジョーダン・ヘンダーソンやスチュワート・ダウニングからも持っている力を全て引き出している。

ロジャースはこのように語っている。「私はマジシャンではない。しかし、私は選手を改善することはできる。今までとは違うプレーの仕方をしようとしていたわけで、シーズン当初は難しさがあった。それでも私は常に成功できるという信念を持ってきたし、それはやがて大きくなっていくものなのだ」

年明け以来、ロジャースはクラブの新たに拡大しているスカウト網と緊密に仕事をしている。ターゲットを明らかにしてチェックし、彼らが如何にチームにフィットするかを議論するのだ。来シーズンのリバプールには、さらに「ロジャース的な」選手が増えるだろう。リバプールが何位でフィニッシュしようが、次の夏はロジャースにとっても、オーナーたちの彼への信頼の面からも、重要な試練となるのだ。

ターゲットには、スウォンジーのディフェンダーであるアシュリー・ウィリアムスや、ニューカッスルのハテム・ベナルファなどが含まれ、パルチザン・ベオグラードの19歳のフォワードのラザール・マルコヴィッチ、アヤックスのクリスティアン・エリクセン、フェイエノールトのブルーノ・マルティンスらもチェックしている。しかし、4シーズン続けてチャンピオンズリーグを逃すことになる中で、ロジャースが基盤を固めるにも資金の使い方には注意が必要だろう。

マルティン・シュクルテルにロジャースが全幅の信頼は置けず、ジェイミー・キャラガーが引退する中で、守備の優先順は高い。新チームの基礎を固めるには、リバプールには新たな守備の要が必要なのだ。

ロジャースは、「役員たちは素晴らしいよ。彼らは結果が必ずしも伴ってはいないのに、進歩を認識してくれている。私にとっては大きな励みだ。今シーズンは常に移り変わりのシーズンで、何人かの選手を加えもしたが、同様のことを夏にもしたいと思っている。可能であれば、今のチームにいる選手に近い選手をもっと加えていくことになるだろうが、既に我々が必要とする資質は明らかになっている。コントロール、支配力、そして若干の強さだ」と語っている。

他の弱点についても議論はされている。ロジャースは、リバプールにはボール・ポゼッションでより効果的で、コントロールにも長け、クリエイティブであって欲しいと考えている。しかし同様に、技術面、戦術面での精度を、今季選手たちが欠いているメンタル面での強さ、信念の向上と一体化させようとしている。

これは、イギリスの自転車競技に革命をもたらした1人として知られるスティーブ・ピータース博士の貢献が活きる分野だろう。リバプールの面々は、イースト・ランクス・ロードから見下ろせば、決して敗れることなど無い、と信じる監督の下で、こうした側面がフットボールの世界で如何に重要になったかを理解できるはずだ。

リバプールで調子に乗っている者など誰もいない。安定感の欠如に苛立たされる部分はあるにせよ、ロジャースには信頼と信念が根付き始めている。本人はといえば、シャンクリー、ペイズリー、ファガン、ダルグリッシュといった過去の亡霊の模倣を求められる責任の重さを重々承知しており、「このクラブは、成功すれば長く留まることができるクラブなんだ」と語っている。

年数の話で言うなら、何十年だとか時代を語るにはまだ時間が必要だろうが、街のムードは極めて楽観的なのだ - それが長く続こうが続くまいが。

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実際、安定感はさておき、やっているフットボールについては面白いものがあるし、対戦相手としては、そこに段々「怖さ」が出てきてるところではあると思うんだよな。オーナー陣の「我慢」のレベルと、ロジャースの考える「長期」の認識がどこまで合っていられるのか、興味深いところ。