++(以下、要約)++
フットボール・ファンであれば、「ファーギー・タイム」 -サー・アレックス・ファーガソンのチーム、マンチェスター・ユナイテッドがリードされている時に追加されるロスタイム- なるアイディアがあることはご存じだろう。
しかし、それは実在するのだろうか?
フットボールの試合の終盤というのは、非常に緊迫するものだ。試合が同点であれば、両チームとも勝利を求めて必死だし、一方が1点リードされているなら、何とか引き分けに持ち込もうとしているだろう。とにかく必死になる時間なのだ。
中には(大半がマン・ユナイテッドのファンではないと考えるのがフェアだろう)、サー・アレックスファーガソンのチーム他よりも長いロスタイムを得ていて、それが重要な終盤のゴールにつながっていると責める者もいて、それがいつしか「ファーギー・タイム」と呼ばれるようになった。
仮にそれが存在するなら、それはレフェリーが自分の仕事を適切にしていない、ということになる。標準の90分が終わった後にどれだけの時間を追加すべきかの判断は、彼らの責任だからだ。
一般的には、レフェリーたちはゴールと選手交代ごとに30秒、そして選手の負傷時に一定時間を足していくと言われている。
(左がリード時、右がビハインド時の試合時間)
しかし実際は、世界のフットボールを管轄するFIFAでも時間をどのように足していくべきかについて明確に規定してはいない。レフェリーたちが自分自身で解決することになっているのだ。
かつてプレミアリーグでレフェリーを務めていたグラハム・ポール氏は、実際に試合を裁いている時は、ファーギー・タイムのことなど考えないという。
「そんなものは、マンチェスター・ユナイテッドの成功を羨ましく考えるチームたちの迷信だとしか思わない」
しかし、一歩引いて考えてみると、そこに何かがあるかもしれないと思う、とも彼は言う。
「くだらない話と一蹴してしまうのは簡単だ。しかし、心理的にどんなことが起こり得るかを考えてみれば、オールド・トラフォードやエミレーツ、スタンフォード・ブリッジに自分がいれば、無意識のうちであれ、かかってくる重圧が何らかの形で影響するはずだ」
ファーギー・タイムのコンセプトの始まりは、プレミアリーグ初年度の1992-93シーズンにさかのぼる、とオプタ(Opta)・スポーツでデータ収集を行うダンカン・アレクサンダー氏は言う。
それはマン・ユナイテッドとシェフィールド・ウェンズデイの試合で、90分を過ぎてスコアは依然1-1だった。7分のロスタイムが与えられ、スティーブ・ブルースが得点、26年ぶりのリーグタイトルへと突き進んでいくこととなった。
「その時以来、ユナイテッドの試合で少々長いロスタイムが与えられると人々の頭には 『またユナイテッドにファーギー・タイムだ』という考えが浮かぶようになっていった」
何らかの因果があるかを検証するために、彼は毎試合の後半のロスタイムの平均値(勝っている時と負けている時のロスタイムの差)を計測してみることにした。結局のところ、問題にされるのは後半のロスタイムだからだ。
「今シーズンで言えば、ユナイテッドが一番長いね」彼は言う。
したがって。ファーギー・タイムは実在するのだ。しかし、それは今季に限ったことだ。昨季はマン・ユナイテッドは後半のロスタイムが最も短かった。
「プレミアリーグ20年の歴史で見てみれば、そこに一貫性は無い。ユナイテッドが毎シーズン一番長い、というわけではないんだ」
(全ゴール数に占めるロスタイムのゴールの比率)
しかし、最も重要な数値は、マン・ユナイテッドが同点、もしくはリードされている時にどれだけのロスタイムをもらっているかということだ。Optaが過去3シーズンのデータを参照し、他の上位5チーム(マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、トッテナム・ホットスパー、リバプール)との比較を行った。
マン・ユナイテッドがリードを許している時には、彼らは平均して4分37秒のロスタイムを得ており、これがリードしている展開だと3分18秒になる、とアレクサンダー氏は語る。
「したがって、リードされているとより長いロスタイムをもらっている言えるね。ただ、他のチームについても、チェルシーを除くといわゆる上位クラブは皆リードされている時には、平均してより長いロスタイムをもらっている。守っている側のチームが上位相手の大きな勝利のために時間の浪費をしているのであれ、レフェリーがマン・ユナイテッドが負けているという事実に影響されているのであれ、その理由はデータからは分からないがね」
もうひとつのデータ分析企業であるディシジョン・テクノロジーのガブリエラ・レブレヒト氏は、過去3シーズンについて、ロスタイムが加算された理由についてより深い分析を行った。
選手交代やイエローカード、レッドカードの提示、ゴール等によってロスタイムが加算された後にも、「レフェリーのよって影響された時間」がいくらかまだある、と彼女は言う。
彼女の計算によると、ホームのチームが勝っているとその時間は46秒。そして、「より強いチームがホームでリードされていると、そのチームがアウェーでリードされている時よりも多くの時間を得る」と言うのだ。
レブレヒト氏は、チームが「強い」かどうかをチームの攻撃および守備のパフォーマンスから算出している。今シーズンで言えば、マン・シティが最も強く、僅差でマン・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー、そしてエヴァートンが追っている。
つまりファーギー・タイムは、特にこうした「強い」チームのひとつがホームでプレーしている時には確かに存在する、ということになり、これはチェルシーにも当てはまる。
「そうしたチームもアウェーでプレーしている時にはあまりそうした傾向はみられない。フットボール統計学の世界では、これをホームアドバンテージという考えがある。誰もその原因がどこにあるのかは理解してはいない。我々は統計上それが重要だとは認識しているが、理由については明確ではないのだ。ホームアドバンテージの要素のひとつかもしれない、ということだ」
一点彼女が言及したのは、選手交代がロスタイム中に行われると、通常の時間内に比べて多くのロスタイムが加算されている、ということだ。「レフェリーたちは、十分な時間を加算しなければ、(ホームの)ファンの怒りを買うと感じるのだろう」と語る。
グラハム・ホールは、それは自分の経験からも裏付けできるという。
「プレッシャーを感じるときには、それが反撃しようとしているチームなのであれば明確に分かる。レフェリーとしてピッチに立っていればね。そこで試合を見ていて、『選手交代がいくつかあったな。ゴールも決まったし、時間つぶしもあった。ケガもあった・・・、3分か4分くらいかな』と考えて、『5分』と言っている自分に気が付くのさ」
「そのことには、こうしてじっくり分析してみた時に、『あれ、この余分な時間はどっから来たんだ?』と考えるわけだが、それこそさっき言った無意識が働いている場面だ。しっかりとしたレフェリーであればそれを実際に認識できて、自分でその罠に陥らないようにすることができる」
ファーギー・タイムがマン・ユナイテッドにだけ適用されている、とする統計的な裏付けは無い。しかし、同時に統計はよりビッグなクラブたちへのバイアスがあることも示している。
もしかすると、我々はこれを「マンチーニ・タイム」だとか「ヴェンゲル・タイム」呼ぶべきなのかもしれない。それとも「ベニテス・タイム」(もしくは、あなたがこれを読んでいる時のチェルシーの監督の名前)?
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・・・といういかにもイギリスらしい記事。もっと細かいデータが知りたい方は、こちらからどうぞ。このBBCの記事にはExcelシートまであったり。
この記事にある「ホームかどうか」の条件には当てはまらないけど、ユナイテッドがバイエルンに勝ったCL決勝は、ビハインドで突入したロスタイムに2点入れて(シェリンガムとソルシャール)逆転しちゃったよね。